時間飛行









                                                          
『』は異国語です




 「何を作るんですか?」
 「あんまりこみいったのは止めておいた方がいいと思うんだよ。ねえ、タマ、あいつ好き嫌いある?」
 「・・・・・さあ、甘い物はあんまり食べないみたいだけど」
 「それはデザート。じゃあ、大丈夫なのかな」
 キッチンに立った蒼、有希、珠生の3人。
普段は有希が一番しっかりして仕切っているような感じたが、こと料理に関しては蒼がボスだ。
材料も、何を作るのかも蒼に一任しているので、手伝いの有希と珠生は蒼の指令を待つようにじっと立っていた。
 「よし!」
 しばらく考えていた蒼は、ようやく何を作るかを決めたのか2人を振り返った。
 「やっぱり、男が揃ってんだから肉だよな。本当は簡単に焼肉なんか出来ればいいんだけど、鉄板が無いから仕方ない
しな。アルがバンバン金使えって言ったからいい肉買ったし♪」

 『ユキの口にするものに、金の糸目をつけるな』

 スーパーの肉売り場で、特売品とブランド肉を交互に見ていた蒼。
その違いを有希に聞いたらしいアルティウスは、躊躇いも無く高級ブランド肉を手に取った。字が読めないはずのアルティ
ウスだが、肉の良し悪しは見て分かるものらしい。
フライパンや鍋、皿など、最小限のものは準備出来ているので、ある程度のものは作れると思う。
 「それで、今日はおからのコロッケと、餃子と、ステーキに決定しましたあ〜!!」
 「・・・・・見事に油っぽい」
あっさりしたものが好きな珠生は顔を顰める。
 「他にはないのかよ」
 「炊飯器は無いからご飯は買ってきたものだけどあるだろ?後は味噌汁に、あ、もずくの酢の物も作ろっか」
 「・・・・・栄養になんない」
 「文句は一切な〜し!料理長の指示に従うよ〜に!」



 お揃いで買ったエプロンをつけて(もちろんフリフリレース付きではなく、シンプルなものだ)キッチンに立つ3人を後ろから眺
め、ラディスラスはポツリと言った。
 『ユキやソウは可愛がられてるな』
 『何?』
何の為に有希の名を出したのかと睨むアルティウスに、ラディスラスは事も無げに続けた。
 『腰付きが違う』
 『腰?』
 『男でも女でも、抱かれているものは身体が艶かしく柔らかいだろう?こうして3人が並んでいる姿を見てると、タマだけま
だまだ青いというか・・・・・硬い』
 『下劣なことを申すな』
 『ん?王様は自分のお妃が褒められても面白くないのか?』
 『お前のような男がユキの姿を見るのさえ我慢ならぬ』
 『・・・・・嫉妬深いねえ、王様は』
 ラディスラスは笑ったが、アルティウスの気持ちが分からないわけではない。いや、どちらかというと同類だなと思うくらいだ。
表面上は笑っているはずの自分の心の中は、珠生への独占欲でドロドロに熱い。アルティウスのように素直に表に出さな
いだけ、もしかしたらラディスラスの方が性質が悪いかもしれないくらいだ。
(仕方ない、俺はこういう性格だしな)
 自嘲するように口元を歪めたラディスラスだったが・・・・・、

  
ドンッ、ガチャッ

いきなり、目の前に大きな器が差し出されて、テブールの上に置かれた。
 『な、なんだ?』
 『ラディ、てつだい』
 『てつだい?』
ニンマリと笑った珠生の言葉を、ラディスラスはただ繰り返して言った。



(どうせ出来ないだろうけどなー)
 向こうの世界では何かと子供扱いされた珠生だが、日本に戻ってきたからには自分の方がかなり常識的だし有利だと
思う。
たとえ、今まで珠生自身餃子の皮を包んだことが無いにしても、だ。
食べた事がある自分の方が完全に有利だと、珠生はラディスラスの隣にちょこんと座った。
 「蒼、1個見本!」
 「はいはいっと」
 キッチンで有希とコロッケを丸めていた蒼は、珠生に呼ばれてトコトコと居間にやってくると、わけが分からない感じに視
線を向けてくる3人の男達と、妙に自信満々な珠生に向かって言った。
 『今からこれ、つつんでもらう』
 『包む?私達が?』
 『ソウ、私に食事の支度をせよと申すのか?私は・・・・・』
 『アルティウス、自分達が食べる物は自分達で作るのがこの世界では普通なんだよ?』
そこへ、通訳がいた方がいいだろうとやってきた有希が、案の定今にも文句を言いそうなアルティウスに笑いながら言った。
その途端、アルティウスの尖った雰囲気はたちまちに消え失せてしまう。
(凄いな、有希。猛獣使いみたい)
 妙な関心をしている珠生にこっちを見てと言った蒼は、その場でゆっくりと餃子を包み始めた。
 『ほれ、これをまん中、たね、ちょいで、まわり濡らして、くにゅくにゅっと・・・・・はい!』
 「説明分かんないって・・・・・」
 「だから、皮を片方の手の平に置くだろ?そして真ん中に程々にタネを置いて、皮の縁は濡らしてくにゅくにゅっと折って、
ほら」
珠生にすれば謎の言葉ばかりだが、出来た餃子の形はまるで売り物のように綺麗だ。
(蒼は説明下手だよな・・・・・有希は・・・・・)
有希もアルティウスの目の前で、ゆっくりと手を動かして見せている。
 『一口で食べれるぐらいの中身を置いて、ほらこうして片方の端を折りたたむようにしてくっ付けていくと中身が出ないで
しょ?・・・・・ほら、形はちょっと変だけど』
蒼よりもかなり分かりやすく説明する有希だが、出来上がったものは少しだけ皮が破れてしまっていた。
それでも、家庭で作るものならば十分だ。
それを見ると、珠生もなぜか自信が湧き上がってくる。
 『とにかく、働かないものは食わせない!!』
蒼の言葉に、一同は従うしかなかった。



 『・・・・・結構難しいものですね』
 シエンは指先だけではなく手の平全体を使わなければならないらしいと、何度か試していて・・・・・数個目にはかなりそ
れらしい見掛けになった。
 『シエン上手!』
 『そうですか』
シエンは笑って蒼を見る。
 既にコロッケは揚げる段階まで準備が出来て、酢の物は作ったし、肉は焼くだけだ。
ついでにサラダも作って居間に顔を出した蒼と有希は、思いがけず真剣な表情で餃子作りをする静まり返った様子を見
て足を止めてしまった。
 「す、すごい」
 「みんな真剣ですね」
 蒼は直ぐにシエンを見る。
その手元には多少餃子特有の皺が均等ではないものの、それでも誰が見ても餃子だといえるくらいの代物が並べられて
いた。
 『シエン凄い!』
 『ソウの教え方が上手だったんですよ』
 『へへ』
 蒼は器用なシエンを自慢したくなって、次はアルティウスに顔を向けた。
 「・・・・・」
(・・・・・煎餅?)
2、3個、皮がグチャグチャになっている物体の後、二枚の皮にアンを挟んだ煎餅のようなものが並んでいた。
していくうちに分からなくなったのだろう。
 『アル、自分で食べろよ』
 『煩いっ、もうせぬ!』
 意地になったアルティウスを宥める有希を呆れたように見て、蒼は続いてラディスラスを見た。
 「あ、案外うまい」
ラディスラスの前に並べられている餃子はシエンよりは少なく、皺も最初の何回は作ろうとした形跡はあるが、直ぐに諦め
たのか後はただ挟んで口を閉めただけの形だ。
それでも中身は見えないし、皮も破れてはいない。豪快な見掛けを裏切って、案外と器用な男のようだ。
 『うまいね』
 思わず蒼が褒めると、ラディスラスは珍しく照れたような笑みを浮かべる。
 『そうか?』
 『タマの教えかた、よかった?』
自分と有希はさっきまでキッチンにいたが、珠生はこの3人とずっとここで餃子包みをしていたのだ。
やはり自分の彼氏(珠生は頑強に否定しているが)には贔屓をして手を出してしまうんだろうかと、からかおうと思って顔を
向けた蒼だったが・・・・・。
 「・・・・・シュウマイ?」
 「・・・・・」
 「タマ、これ、シュウマイ?」
 「何度も言わなくていい」
ブスッと口を尖らせた珠生はそっぽを向いた。
(でも、これってどう見ても・・・・・)
クシャッとした筒状になってしまった皮の中に、まんぱんに詰められたアン。中身が見えるこの形は、どう見ても餃子には見
えない。
ギュッと握り締めた手の中に皮を入れ、ギュウギュウにアンを詰めたそれ・・・・・明らかに包んではいないそれは、形はどうで
あれ包もうとしたアルティウスより酷いかもしれない。
 「タマ〜」
 「皮がちっちゃ過ぎるんだよっ」
 「これ以上大きかったら春巻きの皮だって」
 「・・・・・」
 『どうした、タマ、気にするな』
 「う〜・・・・・」
ラディスラスに慰められるのが悔しくて、珠生はラディスラスの餃子をグチュッと潰してしまった。
 「うわ〜、タマ!俺達が食べるのに〜!!」



 テーブルに並べられた揚げたてのコロッケに、湯気が出ている肉。
そして真ん中にはフライパンで焼いた餃子がそのままデンと置かれていて、周りには酢の物やサラダ、そしてご飯と味噌汁
が並べられた。
 「「「いただきます!!」」」
 途中色々あったが、やはり出来立ての料理は美味しい。しかも、味がいい。
 「蒼さん、この餃子のタレ、美味しい!」
 「酢の物もそんなに酸っぱくなくて・・・・・あ、ミョウガ入れた?」
 「風味だけ」
おいしそうに食べてもらうと自分も嬉しくて、蒼は隣のシエンに聞いた。
 『シエン、どう?』
 『とても美味しいですよ。向こうで作ってくれるものも何時も美味しいですが、味付けが変わったこちらも美味しいです』
 『ホント?』
 『料理上手な妃を持って、私は鼻が高い』

 『う・・・・・っ、毒かこれはっ!』
 野菜を小さく切って何かにつけたような物を口にしたアルティウスは、その今まで食べたことも無い苦い・・・・・いや、ツンと
した感じにこれは毒かと色めきたった。
しかし。
 『アルティウス、これはスノモノっていって、身体にいいんですよ?こういう味の調味料だから毒じゃないです』
 『・・・・・まことか?』
 『慣れたら美味しいと思うけど・・・・・ほら、あ〜ん』
有希が可愛らしく言いながら自分の口元にサジを向ける。
アルティウスは崩れそうになる頬を隠そうともせず、そのまま有希手ずからの物を口を開けて迎えた。

 『お、これ、タマが作ったものか・・・・・ん、味はいいな』
 『なか、つくったの、ソウ』
 『作ったタマの愛情を感じるな。うまい、タマも食べろ』
 「・・・・・」
 本当に美味しそうに、蒼が作った綺麗な餃子ではなく、珠生作のシュウマイのような餃子を次々と口に放り込むラディ
スラス。
その顔を見ていると怒っている方が馬鹿らしくなり、珠生はラディスラスが作った自分よりも形のいい餃子を食べる。
 「おいし・・・・・」
(愛情が詰まってるのかな・・・・・?)

 そこからは男6人。
旺盛な食欲を見せて、少し作り過ぎたかもと思っていた蒼の杞憂が無駄だったように、少しも残ることも無く皿の中は綺
麗に無くなっていた。





                                      






現代への時間旅行、第7話です。

餃子作りは子供も(うちの姪も)作っていると思うので、異世界の面々にも挑戦してもらいました。

それにしても蒼の説明は下手(笑)。