重なる縁



15






 軽井沢でのことを教訓とした真琴は、食前の温泉には断固として1人で入ると決め、海藤を浴室から追い出した。
海藤も悪戯をしかけた手を素直に引き、苦笑しながらももう1つの風呂に1人で入ってくれた。
 「あ~、いい湯だったぁ~」
ニコニコ笑いながら座敷に戻った真琴は、既に風呂から上がっていた海藤の姿に足を止めた。
 「・・・・・」
 「どうした?」
 声を掛けてくれた海藤に、真琴は思わず呟いてしまった。
 「カッコいい・・・・・」
 「ん?」
 「海藤さん、和服も似合うんですねぇ」
何時も見慣れたスーツ姿ではなく、ゆったりとした浴衣姿の海藤は、滴るような色気を全身から感じさせていた。少し濡れ
た髪が額にかかり、何時もよりも若い印象だ。
さすがに高級旅館らしく、浴衣もきちんとした上等なもので、その浴衣に負けている自分とはまるで違う。
 「お前もよく似合ってるぞ」
 「え、あ、あの、着方がよく分からなくて・・・・・」
 「・・・・・そうだな」
 じっと真琴の姿を見ていた海藤はゆっくり立ち上がると、入口に立っている真琴の肩を抱き寄せて座敷の中に入れた。
そして、今着たばかりだというのに既に帯が緩んでいる真琴の浴衣をきちんと直してくれる。
 「あ・・・・・」
風呂上りなので下にはシャツも着ておらず、浴衣を直す海藤の手がかすめる様に素肌に触れた。
(ど、どうしよう・・・・・)
海藤は単に着付けを手直してくれているだけなのに、真琴はその手を意識してしまってピクピクと身体を揺らしてしまう。
緊張して尖ってしまった乳首に海藤の手の甲がまるで擦るように触れると、
 「ん・・・・・」
思わず声が漏れてしまい、真琴は恐る恐る海藤を見るが、その表情は何時もと変わらないように見えた。
(俺だけ、こんなの・・・・・)
たったこれだけの刺激でペニスが勃ち上がり掛ける自分が恥ずかしくて、真琴は出来るだけ海藤から離れようと腰を引いた。
 「真琴」
 「・・・・・っ」
(気付かれた・・・・・?)
 海藤は離れようとする真琴の身体を引き戻すと、その耳元に囁いた。
 「これだけで感じるなんて、可愛い身体だな」
 「!・・・・・ワザとっ?」
この接触が偶然ではない事に初めて気付いた真琴は一瞬で首筋まで真っ赤になると、
 「海藤さんのバカァ~!!」
そう叫ぶと、そのままトイレに駆け込んで行った。



 風呂上りの海藤の悪戯にすっかりへそを曲げた真琴だったが、その後の食事の事を考えると何時までも怒り続けているこ
とも出来なかったようだ。
結局、食後のデザートを貰うということで海藤を許すことにした真琴は、そのまま夕食の準備がされている綾辻の泊まる離
れに海藤と2人で向かった。
 もともと真琴の好きなものを前もって知らせてあるはずなので、デザートは初めから真琴のものだ。そんなささいな事で許し
てくれる真琴が、海藤は可愛くて仕方がない。
大体、湯上りの真琴の姿があまりにも綺麗で、少し触れてみたかったのだ。
(あのままよく押し倒さなかったな)
 「倉橋さんのとこのお風呂は檜の露天なんですよ?匂いがすごく良かった」
 「そうか」
 「部屋の造りはあまり違わないけど、飾ってあるものはちょっと雰囲気が変わってて・・・・・」
 綾辻の泊まる離れには一緒に行ったものの、ちょうど急ぎの仕事の話があった海藤は、倉橋の所までは一緒に行かなかっ
た。
海藤よりも先に見ていた部屋の様子を身振り手振りを交えながら話す真琴は、もうすっかり先ほどまでの不機嫌を忘れた
ようで、海藤は思わずクッと笑いを洩らしてしまった。
 「お邪魔しま~す!」
 真琴が引戸を開きながら声を掛けると、中から浴衣姿の弘中が出迎えに来た。
 「ご苦労様です」
弘中は丁寧に頭を下げると、直ぐに土間に下りて自分が後ろに立つ。
ボディーガードのその位置に自然に立つ弘中は、短期間でかなりのことを飲み込んでおり、あの綾辻が『将来有望な男』
と評価をするほどになっている。
真琴に対する態度が気になる海藤も、拾い物をしたと思っていた。
 「倉橋は?」
 「お着きになってます」
 「そうか」
 海藤が真琴を連れ立って中に入ると、座敷の入口に倉橋と綾辻が並んで迎えた。2人も既に浴衣姿だ。
 「遅くなりました」
倉橋が頭を下げるのを軽く頷いて答え、海藤は用意された上座の席に着く。当然真琴はその隣だ。
 「うわ~!すっごい、豪華!」
 テーブルの上に並べられた様々な料理に目を輝かせる真琴に、大人4人は自分達も楽しくなってくる。
 「マコちゃん、アワビも伊勢海老も、マグロもあるわよ」
 「マグロっ?それって・・・・・」
 「大間のマグロよ」
 「うわ!贅沢じゃないですか!」
つい最近、真琴がテレビの特番を見て、『美味しそう』と言っていたものだ。
この、驚き、喜ぶ顔が見たかった海藤は、驚いてばかりでなかなか箸を取らない真琴に苦笑して言った。
 「ほら、せっかくの料理だ。旨い時に食え」
 「あ、そうだった。いただきます!」
 手を合わせた真琴は、早速ツヤツヤしたマグロを口に運ぶ。
 「どうだ?」
 「おいしーーー!!これ、すっごく美味しいですよ!ほら、海藤さんも食べてみてください!」
 「・・・・・ん、旨いな」
 「そうでしょうっ?綾辻さんも、倉橋さんも、弘中さんも、ほら、食べてみてください!」
 「マコちゃんが言うとホントに美味しそうね」
綾辻が早速箸を伸ばし、
 「いただきます」
倉橋が丁寧に、
 「いただきます」
そして最後に弘中が箸を取る。
料理の量も品数も人数以上に揃え、酒も洋酒から日本酒からビールと、所狭しと並べられている。
海藤の特別の許しを貰った弘中を含めた男5人の宴会が始まった。







                                                 







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