眷恋の闇










                                                                     『』は中国語です。






 海藤の長い指が器用にボタンを外す様を見て、真琴はそういえば開成会の幹部の倉橋や綾辻も指が綺麗だなと思った。
知り合った当時、ヤクザという非現実的な世界にいる海藤に怯えてばかりだったが、そんな時も自分の髪や頬に触れる海藤の指
先の優しさは感じていた。
 お互いの想いが通じ合い、一緒に暮らし始めて数年、その気持ちは変わらないどころか日々高まっていて、真琴は自分の胸元
を擽る海藤の手に自分の手を重ねた。
 「・・・・・真琴?」
 「・・・・・好き」
 「・・・・・」
 「大好き・・・・・貴士さん」
 少しだけ恥ずかしかったが、真琴は海藤を名前で呼んだ。
もう何年も一緒にいて名前を呼ばないのは変だと自覚しているが、真琴にとって《海藤貴士》という名前そのものが愛しくて、海藤
でも、貴士でも、真琴にとっては共通の意味を持っていた。
 もちろん、海藤が名前で呼べばきっと喜んでくれるだろうというのは分かっているのだが・・・・・彼の立場を考えれば、外でもし不
用意に名前を呼んでしまって立場を悪くしてしまったら。
 色んなことを考えてしまい、今だなかなか名前で呼ぶことが出来ないが、それでも今のような時、その場に2人しかいない時間を
過ごす時は、真琴は海藤の名前を呼ぶ。
 「貴士さん」
 愛おしいという想いを込めて。
 「貴士さん、好き」
自分にとって、大切な名前を噛み締めるように・・・・・すると、
 「・・・・・」
海藤は真琴の顔を見て深い笑みを浮かべてくれる。言葉数の少ない彼の、言葉以上に雄弁な眼差しを向けられ、真琴は甘え
るように自分から海藤に抱きついた。




 少しだけ冷えた肩を温めるように抱き寄せると、真琴は少しの抵抗も無く身体を預けてきた。
もう数え切れないほどに抱いてきたが、それでも、男である真琴はそのたびに複雑な思いに捕らわれているはずだろうに、そのプライ
ドをねじ伏せてまで身体を開いてくれる。
 最初が強引に身体を奪っただけに、真琴のその態度は怯えから来るものかとしばらくは思ったものだが、今では自分のことを心か
ら信頼し、想ってくれているからだということは海藤も分かっていた。
 「真琴」

 チュ

 唇を合わせると、そのまま小さく唇が開かれる。
海藤はするっと舌をしのび込ませ、真琴のそれを絡め取ると、むき出しになった胸元に手を触れた。
 「・・・・・っ」
 しなやかな身体に沿って手を滑らせると、それだけで感じたのか小さく震えるのが分かる。
真琴の感度の良さに、少しだけ唇の端に笑みを浮かべた海藤は、そのまま頬から首筋、そして胸元から腹へと、ゆっくりと唇を触
れさせ、舌で舐めた。
 「んっ」
 「・・・・・」
 「く、くすぐ、った・・・・・っ」
 感じているというのは恥ずかしくて言えないのか、真琴はそう言って身を捩ろうとするが、海藤が自分の身体で抑えるようにしてい
るので逃げることもままならないようだ。
 蓄積していく欲情を煽るように、海藤は手を真琴のペニスへと伸ばした。
 「ひゃあ!」
既に全裸にした真琴のそこは、快感を示すように勃ち上がっている。自身はパジャマの下だけを身に着けた格好の海藤も、薄い生
地をペニスが突き上げているのが分かった。
 「・・・・・真琴」
 「ぇ・・・・・」
 海藤は快感をやり過ごそうとしている真琴の手を掴むと、服越しに自身のペニスの上へと持ってくる。その意図を正確に悟ったの
か、真琴は一瞬で頬を赤く染めたが、それでも逡巡したのは一瞬で、ゆっくりと身を起こして海藤の胸元にピッタリと身体を重ねて
きた。




(・・・・・お、っき・・・・・)
 何度も見ているし、手で触れ、唇で、身体の奥で、それを感じたが、改めて見るとやはり一瞬躊躇ってしまうほどのものだった。
同じ男としてのプライドなどとっくに捨てているものの、それでもこれからこれを身体の中に入れるのかと思うと覚悟がいる。
 「・・・・・」
(ぬ、濡らさなきゃ、な)
 ベッドの上に仰向けになった格好の海藤の腹の上に反対側を向いて乗り上げた真琴は、目の前にきた海藤のペニスに恐る恐る
手を伸ばした。
 「・・・・・あ」
(ピクッて、した)
 男にとって最大の弱点であるそこを、無防備に曝け出してくれているのは、海藤が真琴に全幅の信頼を向けてくれているからだ。
こうして自分が手を触れるだけでそのペニスが震えるのを見ると、その姿形とは関係なく、何だか可愛いとさえ思える。
自分がこうして触れるだけで感じてくれているんだと思うと嬉しくて、真琴はふうっと一度大きく深呼吸をしてから・・・・・愛しい海藤
のペニスを口に含んだ。

 「・・・・・っ」
 口の中で、ピクピク反応する海藤のペニスは、たちまち大きさや質量を増してくる。
始めから全てを口中に含むことは出来なかったので、真琴は竿の部分に片手を絡め、舌で愛撫するのと同時に一心に手を動か
した。

 チュク クチュ

 唾液を絡め、滑りを良くして、何度も竿を擦る。
海藤のペニスは既に先端部分しか口に入らないほどに大きくなって、真琴はもう舌でペロペロと舐めるのが精一杯だった。
(気持ち、いいかな)
 何時も海藤が自分にしてくれる時、真琴は直ぐに上りつめ、我慢が効かずに海藤の口の中へと射精することが多い。
精液の味を知っている真琴は、毎回自分のものを飲んでくれる海藤に申し訳ない思いで一杯で、自分も何とかそれを飲み込も
うとするが、毎回とはいかなかった。
 好きな人のものならば全てが愛しいと思うのに、どうしてそれが出来ないのだろうかと悔しい。
真琴は今日はと思いながら、何度も唇でペニスを扱きながら、口の中からは出さないように頑張った。
 「ふぅ、んっ、うむっ」

 ピチャ チュル

 「・・・・・っ」
 口の中で跳ねるペニス。海藤が感じている証拠だと思うと嬉しい。
(早く、出してっ)
 「あむっ、ふくっ」

 グチュ

どんどん口の中には苦い味が広がり、何時射精してもおかしくないほどに育っている。
早く、早くと思っていた真琴は、自分の下半身に伸びてきた手に気付くことが出来なかった。




 「あむっ、ふくっ」
 「・・・・・っ」
 真琴の温かく滑る口腔内で育っていく自分のペニスは、何時爆発してもおかしくない状態になったが、海藤は目の前で揺れる
真琴の細い腰と、細身のペニスに目を奪われていた。
 自分のペニスに愛撫することに夢中になっているのか、真琴は己のペニスの状態がよく分かっていないようだ。
 「・・・・・」
海藤は自分の胸元に垂れてきペニスの先走りの液を指先で拭い・・・・・そのまま手を真琴のそれへと絡めた。
 「あぅっ!」
 無防備だった真琴は高い声をあげ、慌ててこちらを振り返る。
 「か・・・・・った、貴士さんっ?」
 「お前も、もう限界だろう?」
 「お、俺よりも、貴士さんの方が先だから!」
 「俺は、お前を可愛がりたい」
真琴に愛撫を施されるのは気持ちがいい。自分のペニスを口に含むということまでしてくれる真琴に、愛情を感じて欲情も高まる
ばかりだ。
 しかし、その一方で、海藤は真琴を蕩かすほどに甘やかし、愛したいとも思っていた。
元々、性欲処理のセックスでは受身が多かったが、愛する者相手ではこちらが捕食者になる。その骨までしゃぶりつくすほどに愛し
たい相手に、手を触れずにいられるわけがなかった。
 揺れる真琴の眼差しを見返しながら、海藤はペニスを刺激してやる。自分と同じように既に高まっていたらしい真琴は、肌を震
わせてその射精感を耐えているように見えた。

 クチュ

 「ふぁっ!」
 真琴の腰を引き寄せ、濡れたペニスを口の中におさめる。
そのまま慣れた愛撫を続けると、真琴の腰が揺れ始め、もう海藤のペニスを口に銜えることも出来なくなってしまった。
(先に、イカせてやる)
 「んっ、はっ、やっ」
 「・・・・・」
 「は、離し、離してっ」

 ジュク グチュ チュク

 女相手には一生使うことが無い・・・・・使わせることも許さない真琴のペニスを、こうして可愛がってやれるのは自分だけだ。
海藤はそう思いながら何度も頭を上下し、
 「あぁっ!」
やがて、手に触れる真琴の腰が硬直したかと思うと、自分の口腔内に甘い液が広がった。




 「あ・・・・・は・・・・・・」
 射精した直後の快感に身を委ねた真琴は、そのままぺたりと海藤の太股に頬を当ててしまった。
(先に・・・・・イッちゃった・・・・・)
今日は、絶対に海藤を先にイかせようと思っていたのに、自分の身体を良く知っている海藤に何時ものように先手を取られてしまっ
た。好きな人に愛撫されて嫌だと思うはずが無いが、少しだけ・・・・・悔しい。
 「・・・・・」
 海藤は直ぐにペニスを口から出すことはせず、精液を嚥下しながらさらに愛撫を続ける。
いや、ペニスだけではない、そのもっと奥、海藤を受け入れる場所にそっと触れてくる手に、ゾワッと肌が粟立った。
(こ、この体勢って・・・・・!)
 改めて、今の自分の格好が、海藤から見れば恥ずかしい場所全てが丸見えになっていることを自覚し、真琴は焦って海藤の腹
から下りようとしたが、そんな真琴の動きを予め予期していたのか、海藤はしっかりとその腰を抱きしめていた。
 「た、貴士さんっ」
 「腰、もっと下ろせ」
 ようやくペニスを解放してくれたかと思えば、そんな恥ずかしいことを言ってくる。
 「そ、そんなのっ、出来な・・・・・っ」
そんなことをしてしまえば、あそこがそれこそ海藤の面前に・・・・・。
(は、恥ずかしくって、駄目〜っ!)
 「ダッ、ダメッ、ダメ!」
 「真琴」
初めてではなくとも、恥ずかしいものは恥ずかしい。真琴は泣きそうな気分のまま、恥ずかしいからと海藤に訴えた。