『』内は外国語です。





 ずらりとシートの上に並んだ面々は、傍から見ればかなり壮観な絵柄だっただろう。
歴代の中で一番人気だろうといわれている生徒会の面々に、冷たいところがいいと噂の生徒総代、エキゾチックな留学生、そし
て、今学園の一番人気といってもいい幼稚園児の5人組が揃っているのだ。
彼らのシートの側に席を取った者達は、この場所を選んだ親に感謝していることだろう。
しかし、そんな周りの騒ぎをよそに、彼らの賑やかで豪華な昼食の時間は始まっていた。



 「それは弁当じゃねえだろ」
 上杉は太朗が膝に抱いた袋の中からいそいそと取り出したものを見て呆れたように言った。
いや、その感想は上杉だけのものではなく、その場にいた者達全員が同じような感想を抱いただろう。
 「え〜!すっごくかっこいいじゃん!ねえ?」
 「うん、タロくん、いいな〜」
 「おれもあんなのがい〜な〜」
仲良しの賞賛の声に鼻高々になった太郎は、どうだと言うように上杉を見上げた。それに苦笑を向けながらも、上杉は太朗の手
にある物から目を離せない。それは太朗の頭ほどもある(それは言い過ぎかもしれないが)大きな丸いお握りだったのだ。
どうやら、一つ一つ手に取るのが面倒くさいと言った太朗の要望に母親である佐緒里が応えたらしいのだが・・・・・。
(それにしても、大雑把過ぎだろう、理事長・・・・・)
 中身は太朗が大好きな焼きたらこがぎっちりと詰まっているようだ。
 「・・・・・」
丸い頬にご飯粒をたくさんつけている太郎を見て苦笑を零しながら、上杉はその付いたご飯粒を取ってやって自分の口に入れた。



 アレッシオはビニールシートなどに座る自分というものが許せなかったが、これはそういうものなのだと江坂から説明され、渋々腰
を下ろした。
隣には当然友春を呼んだが、小さな足を生真面目に正座させているのを見て思わす眉を潜めると、アレッシオは他の4人の子供
達を見てみる。
皆足を崩し、太朗などは上杉の真似をしてか胡坐をかいていた。
 「トモ、足を崩しなさい」
 「え?で、でも、ごはんたべるときはちゃんとしないと・・・・・」
 その言葉に、アレッシオは友春の実家が呉服屋だという事を思い出した。日本文化を守る・・・・・そこまではいかないかもしれな
いが、躾には厳しい家なのかもしれない。
しかし、柔らかな絨毯の上というわけでもないこの場で、友春の細い足が、柔らかな肌が、不当に傷付いてしまうのは面白くなく、
アレッシオは不意に友春の両脇を掴むと、そのまま自分の組んだ足の上に座らせた。
 「ケ、ケイ?」
いきなり赤ちゃんのように後ろ抱っこをされた友春は、周りの視線が自分を見ているのに気付いて真っ赤になる。
だが、羞恥を感じている友春とは反対に、アレッシオは当然という様に用意させていたピザを(釜で焼きたてでないのは不満だが)
友春の口元に運んでやった。
 「トモ」
 「じ、じぶんでたべれるよ?」
 「熱いか?少し冷ましてやろう」
 友春の途惑いを別の理由だと思ったアレッシオは、手にしたピザに息を掛けて冷まし始める。
甲斐甲斐しいその姿は、周りで見ている者が呆れても仕方がないようなものだった。



(あれがカッサーノ・・・・・)
 海藤はアレッシオの一連の動きに、呆れとも驚きともいえないような溜め息をついた。
どんなに自分を慕う者が周りに集まっていても、何時も冷然とした態度を取り続けているアレッシオが、食べ物を冷ましてやるとい
う行為までしてやるとは思いもよらなかった。
 「・・・・・」
 「かいどーさん」
 そんな時、自分の隣に座っていた真琴が海藤の名前を呼んだ。
 「どうした?」
直ぐに視線を向けると、真琴の目線はアレッシオと友春の方へ向けられている。
 「真琴?」
 「いいなあ・・・・・ともくん」
 「・・・・・」
どうやら、友春がアレッシオの膝に抱かれているのが羨ましいらしかった。
多分、真琴は無意識にそれを自分に求めているのだろうが、海藤の性格からして膝に乗るかと言い出すことはなかなか出来ず、
かといってこのまま無視も出来ない。
 「・・・・・真琴」
 海藤は少し考えて真琴の名前を呼ぶと、こちらを振り向いた真琴に向かって自分の膝をポンポンと叩いて見せた。
 「・・・・・」
さすがに直ぐにはその意味が分からなかったような真琴も、アレッシオと友春の姿と、海藤の姿を交互に見ていて・・・・・やがてパッ
と顔を輝かせる。
 「おひざ、のっていいの?」
 「柔らかくはないぞ」
 「うん!」
真琴は直ぐに頷くと、いそいそと海藤の膝の上に乗る。
 「まこのせき〜♪」
嬉しそうなその顔を見て、海藤も思わず笑ってしまった。



 誰かの真似をするのは絶対嫌だと思っている楓だが、海藤の膝の上に抱かれた真琴が嬉しそうな様子を見ると(友春はどう見
ても恥ずかしそうだ)羨ましくて仕方がなかった。
(・・・・・もっ、きょーすけはきがきかないんだからなっ)

 「楓さんを抱っこしたいんですけど」

伊崎が一言そう言えば、仕方ないなと言いながら膝の上に乗っかることが出来るのだが・・・・・真面目な顔をして食事を進めてい
る伊崎にその気配は微塵も無い。
(おれがいってやらないとわかんないのかよ)
 楓はこれだから鈍感な奴はと思いながら、
 「楓さん?」
いきなり、伊崎の箸と皿を持っていた手をバッと左右に広げると、楓はそのままドスンと伊崎の膝の上に乗っかった。
 「だっこしたいっていわないとわかんないぞ、きょーすけ」
 「・・・・・はい」
あくまでも伊崎がそうしたいんだろうと言いたい楓の気持ちが分かったのか、伊崎は何も言わずにただ頷いた。
そんな優しいところも大好きなのになかなか素直になれない自分が嫌で、楓は照れ隠しに頬を膨らませたままケチャップたっぷりの
ミニハンバーグを口に頬張った。



 子供達の次々の暴挙に、江坂は内心呆れていたが、その反面、静は何とも思っていないのかとも考えてしまった。
実際に静が膝の上に乗ってもいいかと聞いてきたら、多分・・・・・自分は頷くとも思うが、自分から行動をとるということはとても考
えられなかった。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 じっと見つめていた江坂の視線に気付いたのか、静がふと顔を上げて視線を合わせてきた。
そして、なぜか江坂の顔と自分の手に持っている一口サイズの小さなお握りを交互に見つめて・・・・・やがて、はいっと江坂の口
元にそのお握りを差し出した。
 「・・・・・これは?」
 「え?だって、りょーじおにいちゃん、これたべたいんでしょう?」
 「・・・・・」
 「なかは、うめこんぶなんだよ?おれ、だいすきなの」
 「・・・・・」
 「はい」
箸ではなく手で、それも少し食べ掛けたお握りを差し出された経験など初めての江坂は、何ともいえない複雑な思いだった。
これが他の人間だったら・・・・・もちろん子供も含めて、即座にいらないと言うところだが、静相手にとてもそんな突き放した言葉は
言えない。
ちらっと周りを見てみれば、上杉や小田切、そして綾辻などが興味深げにこちらを見ている。
(面白がらせることなんか・・・・・)
 「おにいちゃん?」
 動かず、何も言わない江坂に向かって、静が再度声を掛ける。
江坂はこちらを見ている者達に向かって声無き声で毒づくと、そのまま静の腕を取り、差し出されていたお握りを口に頬張った。
小さなそれは江坂の口に余るほどで、意図的ではなく掴んでいた静の指先も口に含んでしまう結果になってしまったが、
 「くすぐったい」
楽しそうに笑う静の顔を見ていると、江坂も頬に微苦笑を浮かべて、今度はわざとペロッと静の指先を舐めてやった。



(子供相手にね〜)
 一見すれば、まるで父親が子供を膝抱っこしているような微笑ましいはずの光景なのだが、ここにいるのはだれ1人として血が繋
がった親子ではない。
もちろん、高校生と幼稚園児で恋人同士ということも無く、そんな間柄で頬に付いたご飯粒を食べたり、手掴みでお握りを食べ
させたりなど、普通は・・・・・しないだろう。
 それでも普段は付け入る隙など無い大人びた彼らの思い掛けない様子を見るのは楽しく、綾辻は頻繁に下を向いて笑いを噛
み殺していた。
 「笑っている場合か」
 そんな綾辻に、皮肉気に言ったのは小田切だ。
 「お前、園児に負けてるだろ」
 「・・・・・そう?」
 「モタモタしてたら、さっさと仕事に戻っていくぞ」
 「あ・・・・・」
小田切の言った通り、何時もより早いスピードで食事を進めている倉橋は、きっと午後の競技の準備をするつもりなのだろう。
自分1人でなく、他の人間にも仕事を振り分けろと何度も言っているのに、生真面目な倉橋は全てを自分1人で背負い込もう
としている。その生真面目さは倉橋の美徳でもあるが、綾辻としてはイライラしてしまうところでもあった。
 「克己、それ取って」
 「え?・・・・・エビフライですか?」
 「そ。あ〜ん」
 「・・・・・何をしているんですか、あなたは」
 子供のように口を開いて待っている綾辻に倉橋は呆れたように言うが・・・・・。
 「だって、両手がふさがってるんだもん。ね?」
右手に箸、左手に紙コップと、その場に置けば何でもないことなのに、そう言い張る綾辻は確信犯だろう。
 「・・・・・」
一瞬、怒鳴ろうとした倉橋だが、多分その口ごたえさえ綾辻にとっては楽しいのだろうと思い直したのか、無言のまま2匹のエビフラ
イを器用に箸で掴むと、そのまま綾辻の口に押し込んだ。
 「んごっ」
 「良く噛んで食べてください」
その倉橋の言葉に、一番にふき出したのは小田切だった。



 「みんな、いーなー!ねー、じろー、おれもだっこ!」
 周りに感化されたのか、太朗はそう言いながらもう上杉の膝の上に乗っかってきた。
自分にとって一番いい座り心地の場所を探っているのか、膝の上で小さな尻がゴソゴソ動くのがくすぐったい。いや・・・・・。
 「あんまり動くな」
 「え?どうして?」
 「・・・・・落ち着かない」
 「え〜、だって、おしりがはまるとこみつけないといけないじゃん!」
 「尻?」
 「じろー、ちんちんでかいから、おれのしりにごつごつあたっちゃうんだってば!」
 「・・・・・っ」
いきなりの太朗の爆弾発言にさすがに固まってしまった上杉だが、他の高校生組も思わず動きを止めてしまった。
あまりに無邪気な子供の言葉だが、身体はもうほとんど大人といって遜色の無い高校生組もまだまだシャイな部分も残っている
のだ。
 そんな中、やはり口を開いたのは、唯一客観的な立場の生徒会の参謀であった。
 「それならタロ君、邪魔なほどでかい会長のおちんちんは、股に挟み込んで仕舞ってもらったらどうかな?」
 「小田切っ」
さすがに洒落にならないと、上杉が眉を顰めて叱り付ける。
しかし、やはりお子様というのは突拍子も無いことを言い出すビックリ箱だった。
 「そっか!おれのまたにじろーのちんちんはさんだらじゃまじゃないか!」
 「そうだね〜、まこもそうしよっと」
 「きょーすけもちんちんでかいからな」
 「・・・・・ケイ、ぼくも、そーしていい?」

 「「「「!!!!」」」」

何とも言いがたい顔をして、今度こそ固まってしまった高校生達。さすがに小田切も、自分の意図した以上の反響に目を瞬かせ
る。
そんな中で、江坂だけは内心安堵の溜め息をついていた。
(この子が抱っこしてと言わなくて・・・・・助かった・・・・・)






                                      






特に、ジローさんだけが変な妄想をしているというわけではないんですけどね(苦笑)。

次回は午後一番、応援合戦です。高校生組にはコスプレしてもらいます。