KIDS  TYPHOON












 昼食は車内で用意された弁当を食べていたが、夕食からは自分達で作らねばならない。
その担当は料理上手な海藤と、手先の器用な綾辻に任せられた。
 「まこもおてつだいする〜」
真琴は海藤を気に入っているらしく(一番偉いなんてすごいと思っているので)一緒に広いキッチンに入っていく。
海藤は困ったように身を屈めた。
 「手伝いはいいから皆と遊んでいなさい」
 「え〜?でも、ママがおてつだいしなさいっていってたよ?」
 「しかし・・・・・」
 「おにいちゃん、おれがてつだうのいや?」
 可愛らしく首を傾げながら言う真琴に、海藤はどうしたものかと途惑ってしまう。
すると、傍でそんな2人の様子を面白そうに見つめていた綾辻が笑いながら真琴の味方をした。
 「いいじゃないですか、副会長。自分から手伝いたいなんて、今時の子供は言いませんよ?簡単な野菜洗いとかさせたら怪我
もしないだろうし」
 「・・・・・そうだな」
じゃあと、真琴が出来そうな仕事を探し始めた海藤の横をすり抜け、真琴は綾辻に対してペコッと頭を下げた。
 「おにいちゃん、ありがとう」
 「どういたしまして。でも、これでさっき見たことは内緒にしてね?」
 「さっき?」
 「部屋の割り当てをした時に、マコちゃんが見たこと」
 「・・・・・あ、おにいちゃんがちゅーしてたこと?」
 「そ。それはマコちゃんと私の秘密ね?」
 「ひみつ・・・・・うん、ひみつ!」
綾辻がしゃがみ込んで真琴と何を話しているのか海藤には聞き取れなかったが、苦手な子供の相手をしてもらってホッとしている
と同時に、あの小さな手が触れる相手が自分ではないことに少しの寂しさも感じる。
(どうかしているな、俺は・・・・・)



(良かった、見られたのがマコちゃんで。素直な子は可愛いわね)
 綾辻は真琴の小さな小指と指きりげんまんをしながらホッとしていた。
元はペンションだったらしいこの別荘は少し小さいながらも部屋数はあった。しかし、もちろん幼稚園児を1人で寝かすことは出来
ないと、とりあえず2人一組でくじを引いたのだ。
その結果、自由な1人部屋には小田切が決まって(何か作為をしたと上杉は煩かったが)。
上杉と太朗、海藤と真琴、伊崎と楓、江坂と静、アレッシオと友春、そして唯一高校生同士で綾辻と倉橋が同室になった。
 真琴と楓、そして静は異論がなかったが、太朗は「どうしてこのでっけーやつと!」と騒ぎ、友春は「こわいよ〜」と泣いていた。
見かねた倉橋が、アレッシオと交代を申し出たが、綾辻とアレッシオは素早く目線を交わして首を振ったのだ。
(せっかく、裕に協力して決まった部屋割りだもの)
 そう・・・・・上杉が疑ったように、小田切と綾辻は共謀して巧妙にこの部屋割りを決めていた。
元々煩いことが嫌いな小田切は1人でのんびりしていたかったし、綾辻は倉橋と同室になりたかった。
それは、綾辻が1ヶ月ほど前から倉橋と付き合うようになったからだ、もちろん恋人として。
 1年前の倉橋が入学してきた時、世話係として式に出席していた綾辻はその端正な顔に一目惚れをしてしまった。
男同士という事に躊躇していた倉橋を1年掛かりでやっと口説き落とし、ようやく付き合うことになったのだ。
(少しでも一緒にいたいっていうのが男心よね〜)
生真面目で初な倉橋とは、まだキスまでしかしていない。子供がいる場所で考えることではないかもしれないが、こういう時にもう
一歩先に進みたいと思っても・・・・・可笑しくはないだろう。
 割り当てられた部屋の中で、嫌がる倉橋にキスをした。丁度その場面を少しだけ開いていたドアの隙間から真琴が見ていたの
だ。
まだ、男同士でという違和感を感じないこの年頃の子供だからこそ誤魔化せるかもしれないが、とにかく綾辻は素直に頷いた真
琴に満足していた。



 「タロくんはこわくないの?あのおっきいおにいちゃん」
 「え〜、こわいはずないじゃん!いまはおれのほーがちっさいからまけるけど、おれがおっきかったらぜったいかてるはずだもん。だか
らぜんぜんこわくないぞ?」
 「・・・・・い〜な。ぼく、おっきくなってもかてそうにないもん・・・・・」
 友春はリビングの大きなソファに蹲るように座って呟いた。

 「お前の相手は私のようだな」

玄関先で会った大きな大きな大人の男の人。
バスで一緒に来たお兄さん達も大きかったが、目の前のこの人はもっとずっと大人に見えた。
昔、迷子になったことがある森林公園の中で見たような深い森と同じような目の色で見つめられると、まるでそのまま食べられてし
まいそうな気分になってしまうのだ。
 「・・・・・」
 その人は、今友春の向かいの1人掛けのソファに足を組んで座り、肘掛に頬杖を付いてこちらを見ている。
 「タ、タロくん」
 「ともくんはいじめられるとおもうの?」
 「だって・・・・・」
 「ちょっとまって」
太朗はいきなり目の前の男に駆け寄って言った。
 「ねえ、おにいちゃんはがいじんだよね?おれのことばわかる?」
 「・・・・・ああ」
 「おにいちゃんはこどもいじめるひと?ともくんいじめる?だいじょうぶ?」



(あいつ・・・・・チャレンジャーだな)
 上杉は感心したように呟いた。
(じゃんけんに負けて)風呂の用意をしていた間席を離れていたが、その間どうやらリビングは面白いことになっているらしい。
その様子は自分だけではなく、リビングにいる小田切や江坂。
キッチンにいる海藤や綾辻、そしてその手伝いをしている倉橋までも注視していた。
 「・・・・・力の無い者を蔑む趣味は無い」
 「?」
 「・・・・・」
(そんな言葉子供に分かるはずないだろー。イタリア人のくせに難しい言い回ししやがって)
 「おにいちゃん、なにいってるかわかんない」
そんな上杉の心の内を代弁するように、太朗はアレッシオに向かって堂々と言い放っている。
面白い・・・・・上杉は口元を緩めた。
 「・・・・・苛めないという事だ」
 「ほんと?やくそくできる?」
 「お前と?」
 「おれじゃないよ、ともくんとだよ!ともくん!こっちおいでってば!」
 「タ、タロくん・・・・・」
 太朗ほどに度胸が無いらしい友春は、泣きそうな声でその名を呼んだままソファの上で固まっている。
 「しかたないな〜。おにいちゃん、ちょっときて!」
友春よりもアレッシオを動かす方が簡単だと思ったのか、太朗はアレッシオの腕を引っ張りながら言う。
そして意外にも、アレッシオはそんな太朗の行動に素直に従って立ち上がったのだ。
(おいおい)
 「ほら、ともくんて!」
 「・・・・・」
 「おにいちゃんも、そっちのて」
 何をさせるのだろうと興味深く見れば、太朗はアレッシオの右手と友春の右手を取って指切りをさせたのだ。
 「ゆびきりげんまん♪うそついたらはりせんぼんの〜ます〜う〜♪」
 「・・・・・っ」
(すっげえ、こいつ!おもしれえ!)



 元気のいいこの子供が自分に何をさせているのかと怪訝に思ったが、アレッシオは子供相手に大人気無いことはするまいと大
人しく従っていた。
それに。
 「ね?もう、こわくないだろ?」
 ニコニコと笑いながら自分に言う友人に何も言えないのか、友春は眉を下げた情けない顔をしながらも小さく頷いている。
(まあ・・・・・いいか)
玄関先でこの手を拒まれた時、子供相手とはいえアレッシオはショックだった。
イタリアでも、この日本でも、カッサーノ家という家柄を抜きにしてアレッシオ自身の魅力で周りに人は群がった。
その目当てが自分の顔や身体だとしても、それも自分の武器のひとつだと自負していたアレッシオだが、容姿も家柄も関係ない
子供には存在自体を拒まれてしまうのかと思い知ったからだ。
 だからこそ、この友春には自分に向けて笑顔を見せて欲しいと思った。打算が無い子供の心で自分を受け止めて欲しかった。
 「トモ、わたしと仲良くしてくれないか?」
 「・・・・・」
 「お前が怖がることは絶対に何もしないと約束する」
 「・・・・・ほんと?」
大きな目が、真っ直ぐに自分に向けられ、アレッシオは力強く頷いた。
 「約束しよう。ああ、今のように指を絡めて言えばいいのか?」
 「・・・・・うん。あれは、ぜったいにやぶっちゃいけないやくそくだから」
 「分かった」
頷いたアレッシオは躊躇い無く小指を差し出す。
少し・・・・・時間をおいた後、小さな指がそれに絡まった。



 「1人で散歩は淋しくないんですか?」
 「ひとりじゃないぞ、きょーすけがいるじゃん」
 「私相手じゃ退屈じゃないですか?」
 「ぜ〜んぜん。きょーすけのそばはきもちいいもん」
 振り返った楓は無邪気に笑い掛けてきた。
(・・・・・この笑顔に負けたんだな・・・・・)
夕食まではまだ間があると、少し離れた売店にまで買出しの菓子を買いに行くことになった。
もちろんバスの中にはそれなりの食材やお菓子、ジュース類が入っていたが、上杉が酒がないとだだをこねたのだ。
 当たり前だが未成年の自分達は買えるはずが無いと言ったが、老け顔のお前なら大丈夫と思い切り使いっぱしりに使われてし
まった。
車の運転が出来ず、自転車もバイクも無いので当然徒歩で、所要時間は片道30分以上は掛かるだろう。
溜め息をつきながらも玄関を出た伊崎の後を、楓が慌てて追いかけてきて・・・・・結局2人で手を繋いで道を歩いていた。
 「みんなには内緒でアイス買いましょうか?」
 「ほんとっ?」
 一瞬顔を綻ばせた楓だったが、直ぐに首をブンブン横に振った。
 「だめ!おれだけなんて、ひきょーだ!」
 「でも、お駄賃みたいなものでしょう?」
 「みんないっしょ!それじゃなきゃいらない!」
 「・・・・・仲良しなんですね、楓さん達は」
 「きょーすけたちもなかまだろ?」
 「まあ・・・・・そうですかね」
 「みんな、でっかくていいよな〜。おれもおおきくなったらでっかくなって、ばんちょーになるんだ!」
強さというものに憧れているらしい楓は楽しそうにそう言うが、多分、楓は・・・・・。
(きっと美人になるだろうな)
実質的な力は無くとも強烈に人を惹きつけるだろうと、その幼い面影に未来を重ねて伊崎は楽しそうに笑った。



 「・・・・・ええ、今のところは順調ですよ、ご心配なく。では、また夜に」
 廊下で佐緒里への定期連絡を入れていた江坂は、電話を切りながら後ろを振り向いた。
 「どうしました?」
視線を感じるとは思ったが、そこにいたのは生徒会のメンバーではなく小さな子供だった。
 「確か・・・・・小早川静君、でしたか」
 「うん」
 「どうしてここに?」
 「おにいちゃん、さっきおへやからでていったから・・・・・かえっちゃうのかとおもった。そしたらぼく、ひとりでおとまりしないといけないで
しょう?だから、おにいちゃんにいかないでっていいにきたの」
 「・・・・・そうですか」
まるで恋しい相手に言うようなセリフだが、この子供は全く意識はしていないのだろう。
(まあ、たまにはいいか)
利害関係の全く無い関係も(相手は幼稚園児だが)悪くは無いと思いながら、江坂は静に手差し出した。
 「一緒に中に戻りましょうか」





                                      






高校生達×幼稚園児達、第3話です。

登場人物が多いと、場面の振り分けが大変で・・・・・。

次は夕食の風景ですね、お風呂までは無理かも。