KIDS  TYPHOON












 午後5時半、少し早めの夕食は広いダイニングルームのテーブルで取ることになった。
部屋が一緒の組で、幼稚園児と高校生が交互に座ると、海藤と綾辻が手際よく皿を並べていった。
 「わ!はんばーぐ!」
 「お子様が好きなメニューにしたのよ。好き嫌いが分からないしね」
綾辻が笑いながら言った通り、メニューは子供が好きなハンバーグにカボチャのスープ、そしてコーンとツナのサラダだ。
高校生用にはそれに二種類のパスタが用意されていた。
器用な海藤が作ったその料理はどれも美味しそうだ。
 「・・・・・お子様メニューか」
 「いやならたべなきゃいいじゃん!おまえのぶんもおれがたべる!」
 既に美味しそうに湯気をたてているハンバーグを嫌いだという上杉の気持ちが分からないと、太朗はもう上杉の皿に手を伸ばそう
とする。
しかし、上杉はその小さな手を軽くかわした。
 「食べないとは言ってねーだろーが」
 「だって、おこさまっていった!」
 「それはなあ」
 「おにいちゃん、かいどーさんのごはん、おいしーよ?」
 太朗と同次元の言い争いをしている上杉に、向かいの席から真琴が声を掛けてきた。
 「あじみ、したんだよ?すっごくおいしかった!おにいちゃんもすきだとおもうよ?」
 「・・・・・」
キャンキャンと子犬のように言い返してくる太朗には気軽にからかうことが出来たが、見た目大人しそうな真琴には簡単に言葉を
ぶつけるのも躊躇われた。
まさか泣くとは思わないが・・・・・そう思っていると、横顔に視線を感じて上を向く。
(・・・・・お前が睨むなよ)
既に真琴に肩入れをしているような海藤は、上杉に無言の圧力をかけるように視線を向けたままだ。怖いわけではないが、不要
な衝突は避けた方がいいだろう。
 「そうだな・・・・・美味そうだ」
元々、子供が嫌いではない上杉が苦笑しながらも穏やかに言うと、心配そうに答えを待っていた真琴はパッと顔を輝かせた。
 「まこもおてつだいしたんだよ!」
 「そっか」
(なんで俺はこんなとこでガキの機嫌を取ってるんだか・・・・・)



 楓はじっとハンバーグの皿を見つめている。
ハンバーグは嫌いではない。真琴が言っていたように、とても美味しそうな匂いもしている。しかし・・・・・その横にあるオレンジの物
体が気に食わなかった。
(まこのやつ・・・・・おれがにんじんきらいなのしってるくせに・・・・・っ)
 繊細な見掛けに似合わず、楓はほとんど好き嫌いは無い。ピーマンだって、セロリだって、レバーだって食べれる。
ただ、この人参だけは、どうしても駄目なのだ。
 「・・・・・」
 「楓君?」
 昔、動物園に連れて行ってもらった時、動物に触れるという場所があった。
可愛らしい小さな馬に人参をやろうとした楓は、その人参に小さな虫が付いていることに気付いた。慌てて手を引っ込めようとした
が馬はそのまま強引に口を動かし・・・・・小さな虫ごと人参を食べてしまったのだ。
その時のことがどうしても頭から離れず、楓はどうしても人参が食べられない。
 「・・・・・」
 楓の様子で伊崎は何かを悟ったのか、楓の皿から人参を全部取ってくれた。
 「きょーすけ」
やっぱり優しいとほっと安堵した楓の口元に、伊崎はフォークに刺した人参を持ってきた。
 「うわっ」
青褪める楓に、伊崎は優しく言う。
 「美味しいですよ。身体にいいんだから食べなさい」
 「お、おれ、おれ、にんじん・・・・・」
 「楓君はいい子だから、好き嫌いなんて無いでしょう?」
綺麗な顔でにっこりと微笑まれ、楓はどうしようと半泣き状態になってしまった。



(あいつ、結構人が悪いな)
 そんな楓と伊崎の様子を横目で見ていた倉橋は、何時もは穏やかな伊崎の別な顔を見たような気がして内心驚いていた。
倉橋としてもこれぐらいの子供の時から好き嫌いはしない方がいいとは思うが、あのような笑顔の威圧は返って逆効果になるので
はと心配になってしまう。
 「はい、克己」
 「え?」
 そんな倉橋の意識は、不意に掛けられた声で隣の人物に向けられた。
 「綾辻先輩?」
 「それ、苦手なの、食べて?」
 「食べてって・・・・・」
明らかに齧った形跡のある人参を皿にのせられても困る。
 「・・・・・食べられないことないでしょう?」
 「少し硬かったもの〜、あ、じゃあ、克己のと交換♪」
 そう言うと、苦手と言ったはずの人参を倉橋の皿から取ると口に含み、美味しそうに食べている。
(何がしたいんだ、この人は・・・・・)
知り合って1年、そして強引に押し切られた形で付き合い始めて1ヵ月。それでもまだこの先輩はなぞだと、倉橋は仕方なく綾辻
の食べ掛けの人参を口に運んだ。



 見ていると、友春は本当に少しずつしか口に運ばない。
小さな身体に小さな口ならば仕方がないかも知れないが、それできちんと栄養になるのだろうかとアレッシオは思った。
 「・・・・・」
 「・・・・・なに?け、けい」
《おにいちゃん》ではなく、《ケイ》と呼んで欲しいと言った通り、自分よりもずっと年上の人相手に呼び捨てしてもいいのかと躊躇い
ながら言う友春が可愛らしくて、アレッシオは碧色の瞳を細めた。
 「トモは何が好きだ?」
 「すきなもの?」
 「ああ」
 「・・・・・えっと、らうる」
 「ラウル?」
 いきなり友春の口から洩れた名前に、アレッシオの口調が固くなる。
その気配を敏感に感じたのか、友春は怯えたようにイスの上で後ずさった。
 「誰だ、それは」
 「だ、だれって、タロくんからもらった・・・・・もら・・・・・」
緊張がピークなのかどうしても口篭ってしまう友春から視線を移すと、アレッシオは席の離れた太朗の名を呼んだ。
 「タロ!」
 「んぐ?」
 既に口の周りをソースだらけにしてハンバーグを口一杯頬張っていた太朗は、不思議そうな表情でアレッシオを見る。
初対面で泥棒と間違えたことをきちんと謝ってきた太朗には悪い印象は持っていなかったが、こうして見ると友春とは全く違う生物
のようにしか見えない。
静と動。だからこそ仲がいいのかもしれないが。
 「ラウルとは誰だ?」
 「はふぐ?」
 「トモの好きな男だ」
 太朗は水をんぐんぐ飲むと、首を傾げながら言った。
 「ラウルはおとこっていわないよ。おすっていうんだよ?」
 「オス?」
 「まっしろいけのふかふかないぬなんだ!けっとーはないけど、すっごくおりーこーでおとなしいんだよなー」
 「うん」
太朗の言葉に友春もラウル・・・・・飼い犬のことを思い出したのか小さく笑いながら頷く。
 「おれは、まっしろいから《にくまん》ってなまえにしろよっていったんだけど、とものままが《にくまん》じゃおいしそーななまえだからたべ
ちゃいそうっていって、ラウルになったんだよな」
アレッシオは自分の勘違いに直ぐに気付き、友春の手を握って頭を下げた。
 「トモ、怖がらせて悪い」
 「う、ううん」
 「私の家でも犬を飼ってるんだ。ボルゾイだが、賢くて主人に忠実だ」
 「おに・・・・・けいのおうちもわんちゃんいるんだ」
犬好きなのか、先程まで怖がっていた友春は目を輝かせてアレッシオの話を聞いている。
大人気なく問い詰めるような真似をした自分に反省しながら、アレッシオは出来るだけ優しく友春に話し掛けていた。



 そんなアレッシオを珍しいものでも見るような目で見ているのは江坂だ。
アレッシオと知り合って数年、彼の性格もかなり把握していたつもりだった。
生まれながらに王者の風格を持っているアレッシオは、周りが跪くのが当たり前だという生活環境の中で、こんなに幼い子供に対
してこれほど気を遣うことは無いはずだ。
(・・・・・不思議なこともあるな)
 少し皮肉そうに口を歪めた江坂は、ふと自分の隣にいる静に視線を向けた。
元々大人しいのか、江坂の邪魔にならない静は、今も箸を上手に使って食事を進めている。
 「・・・・・」
 「・・・・・あ」
 その器用な箸が滑ったのか、サラダにのっていたプチトマトがコロンと江坂の目の前に転がってしまった。
 「さんびょーるーる」
すると、静は不思議な呪文のような言葉を言って、転がったプチトマトに箸を伸ばして口に頬張る。
いったい何なのか・・・・・江坂は静がトマトを飲み込んだのを見計らって声を掛けた。
 「今の、何です?」
 「今の?」
 「サンビョウルールっていう・・・・・」
 「ああ、それはね、てーぶるのうえにおちたものは、みっつかぞえるあいだにひろったらたべてもいいってやくそくなんだ」
 「・・・・・」
(・・・・・3秒ルールか)
とても静が考えそうなルールーではない気がした。
 「幼稚園で流行ってるんですか?」
 「タロくんがおしえてくれたの。タロくん、いろんなことしってるんだよ?」
 「・・・・・あまり真似しない方がいいんじゃないですか?」
 「どうして?」
 「どうしてって・・・・・」
面と向かってみっともないと言っても分からないだろう。
余計なことを教えたものだと太朗に呆れながら、江坂はじっと自分を見上げてくる静にどう説明しようかと思考を巡らせた。



(面白い)
 そんな一同を、我関せずと客観的に見ながら楽しんでいるのは小田切だった。
子供が好きというわけではなく、かといって嫌いというほどでもなく、生徒会のメンバーに食指が動くわけでもなく、アレッシオと江坂
にもあまり興味がない小田切にとっては、今回のこの二泊三日は退屈で退屈で仕方が無い時間だと思っていた。
 しかし、思いがけず幼い子供達に振り回されている、近隣の女子高生達だけではなく校内でも人気の高い生徒会のメンバー
の新しい一面を見ると楽しかった。
(会長とアレッシオと江坂なんかは、子供は眼中にないと思ってたけど・・・・・)
 女好きのはずの上杉は思いのほか太朗の相手を楽しそうにしているし、アレッシオも江坂も、幼い子供に気を遣っているように
見える。
それがどういった思いからかは分からないが・・・・・。
(勇も先に進むって張り切ってたし・・・・・)
 従兄弟である綾辻は、まだキス止まりの倉橋との関係を進めたいと張り切っている。
子供の教育上いいとは思わないが、自分が止めるのも筋違いだろう。
 「あーーー!!おれのたこさんういんなーとった!!」
 「なんだ、食わないから嫌いなのかと思って食べてやったんだぞ」
 「すきなものはさいごにたべるんだ!!」
 「それは悪かったなあ」
 少しも悪いと思っていないような楽しそうな声で言う上杉に、太朗は半泣きになって文句を言っている。
 「・・・・・」
(なんだか、あの人こそガキだな)
好きな子・・・・・ではないだろうが、気になる子にわざと意地悪をして喜んでいるところなど、まるで小学生と同じだ。
(海藤もタコさんウインナーって、芸が細かい)
 その海藤は、ニコニコと笑いながら自分に話しかけてくる真琴に、ぎこちない笑みを向けながら答えている。
 「・・・・・」
 「あーーー!!おれのいちごー!!」
 「俺は好物は先に食う主義なんだ」
 「じぶんのたべればいいだろ!!」
 「・・・・・」
(・・・・・面白いな)
そこかしこから聞こえてくる幼い声と、既に声変わりをしている男の声に耳をそばだてながら、小田切はこの先どんな面白いことがあ
るのだろうかとほくそ笑んでいた。





                                      






高校生達×幼稚園児達、第4話です。

食事風景です。楽しそうですね(笑)。

次はもっと楽しいお風呂タイムです。