『』内は外国語です。
少し休んだ後、早速海水浴へと向かうことになった。
滞在するのは短い時間なので、少しでも多くの遊びをしたいという子供達の意見を尊重してのことだ。
別荘からは既に浜辺が見える。
プライベートビーチではないが、それでも芋を洗うようなどこぞの有名な海水浴場と比べると全然違う雰囲気だ。日差しはとても暑
いのでとにかく帽子と上に羽織るものは用意しておけと言い放ち、高校生達は先にぞろぞろと浜辺へと向かった。
学園でも水泳の授業があるが、もちろんこういった場所でスクール水着を着る者はいないだろう。
上杉はピッタリと身体にフィットした、ブラックのショートボクサートランクス。
海藤はミリタリーグリーンのサーフパンツのボードショーツ
江坂は上杉と同じ、ワインレッドのショートボクサートランクス。
アレッシオはバイオレットのローライズビキニ。
倉橋はネイビー、伊崎はオレンジのサーフパンツ
そして、この中で保護者的な役割を持っている宗岡は、ダークグリーンの競泳用のビキニタイプ。
長身で、それぞれ適度な筋肉を持つ、容姿も良い男達が集団で砂浜に現れた時、女達の視線が、いや、同性の羨望に満ち
た視線も同時に向けられた。
「おせーな」
上杉は空を見上げた。
(日射病にならないか?)
なぜか、綾辻と小田切から先に行っているようにと言われた。子供達は自分達が連れていくからということなのだが、もちろん最
初は上杉以下他の者もなぜ別々に行かなければならないのだと文句を言った。
「だって、この子達の可愛い水着姿、楽しみに待っていた方が良いでしょう?」
などと、分からないことを言われたが、別にそれぞれが部屋でその姿を先に見たとしても構わないのではないかと思うのだが。
(あいつらに口では勝てないよな)
文句を言うのは早々に諦めた。
上杉は足が鈍る男達の先頭に立って歩く。
水着の上に薄手の上着をはおり、ビーチサンダル姿で歩くのはもちろん自分達だけではない。
(なんだ、案外いるじぇねえか)
浜辺に出ると、結構海水浴客が来ている。
平日でも夏休みだからか、若い女達や子供連れの母親など、どちらかといえば男の姿は少ないような気がした。
「・・・・・」
その女達の視線が、いっせいにこちらに向けられたのはけして自意識過剰ではないはずだ。
上杉はふっと口元を緩めて、たまたま視線の合った女に向かいウインクをして見せた。
女達の歓声が聞こえる。
(全く、また何をしたんだ・・・・・)
海藤は自分の前を歩く上杉を呆れた眼差しで見た。
少し前まで、女関係にだらしないと言われていた上杉だが、今は子守り(?)が忙しいせいかそういった方面の噂は最近聞いて
いない。しかし、今目の前にいる水着姿の女達の誘惑の視線を余裕で受け止めている横顔を見れば、未だに彼がそういった方
面に関してやり手なのだということが感じ取れた。
「会長」
「んー?」
「くれぐれも自重して下さいよ」
「はは、お前固いなあ。夏で、海って言ったら、女目当ての男もいるっていうのに」
「俺達は違うでしょう?」
今回は特に、子供も一緒なのだ。変な行動を取って騒がれたら、宥めるのも一苦労というものだ。
それに、わざわざあの子供達と一緒にいる時に女を相手にしなくてもいいだろうという思いで見れば、上杉はその視線に降参した
というように両手を上げて見せた。
「分かったって」
「・・・・・」
(その言葉が、素直に信じられないんだがな)
「なあ、海藤、アレッシオの奴の水着、相当自信が無いと着れないよなあ」
そして、既に海藤と何を話していたのかすっかり忘れたような上杉は、アレッシオの水着を見てにやにやと笑みを浮かべている。
「向こうではビキニが多いくらいじゃないんですか」
誰がどんな水着を着ようとも、海藤は全く気にならなかった。
アレッシオは別荘を振り返った。
綾辻達が一緒に来るとは言っていたものの、あんなに可愛らしい友春の水着姿を、出来れば他の人間などに見せたくは無い。
「あのっ」
「・・・・・」
そんなアレッシオに、唐突に見知らぬ女が2人話し掛けてきた。
白いビキニを着た、少し年上の女のようだ。
「ねえ、男の子ばかりで来たんでしょ?一緒に泳がない?」
「・・・・・」
「ねえってば、ハーフ?その目、すっごく綺麗よね」
1人の女がアレッシオの腕にしがみつきながら言う。柔らかな胸が腕に押し当てられたが、アレッシオはその感触が不快で思わ
ず眉を顰めてしまった。
「誰が触れていいと言った?」
「え?」
何を言われたのか、女は最初分からなかったらしい。
容姿に自信がありそうな女は自分が拒絶されるとは思っていなかったようだが、アレッシオは既に飽きるほど容姿の良い相手と遊
んできた。
いや、それだけではない。アレッシオが今まで相手をしてきたのは容姿もそうだが家柄も飛び抜けて良い者達なので、今目の前に
いる女など相手にするのも馬鹿らしい。
それよりも、こんな姿を万が一友春に見られてしまったらと思うと、悲しむ友春の気持ちの方が気になってしまう。
そう思ったアレッシオは、強引に女の腕を振り払った。
「セックスがしたいのなら、その辺の涎を垂らした男を漁ればいいだろう」
「・・・・・」
アレッシオの言葉は辛辣だったが、江坂も同じようなことを思っていたのでフォローする気は無かった。
こういう場所で、セクシャルな関係を望む者はいないとは言わないが、それを自分達に向けられても迷惑なだけだ。
「江坂」
「・・・・・」
「あの子に秘密にしといてやるぜ」
上杉の挑発するような言葉にも、軽く視線を向けるだけにしておいた。大体、女達が無遠慮にこちらに寄って来たのは上杉の態
度からだと思うのだが。
「お前こそ、あの煩い子供に知られたらどうする気だ?」
「俺は飢えて無いし、この場でナンパするなんてアホなことしないぜ」
「では、私にも馬鹿な話をするな」
「優等生は女に興味が無いのか?」
「こんな場所で誘いを掛けてくる相手には興味が無い」
江坂は髪をかき上げながら突き放すように言った。
海に行くというので眼鏡は取ってきたが、それほど酷い近眼ではないので十分周りは見ることが出来る。
(静はまだか?)
後から共に来ると言った2人が2人なだけに心配はつきなかった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・目立ち過ぎるな、この人達」
「ああ」
倉橋の言葉に伊崎は苦笑した。
(そう言うお前も十分目立っているけど)
上杉達のように男の魅力を際立たせる雰囲気ではないが、細身でしなやかな白い身体と繊細な容貌の倉橋は彼らとは別の意
味で目立っている。
「なあ、伊崎、私達も先に来て良かったんだろうか」
「でも、先に行ってくれって言われたしな。逆らったら後が怖いし」
「・・・・・そうだな」
何か企んでいそうな笑みを浮かべていた綾辻と小田切。何を考えているのかと何度も聞きそうになったものの、結局伊崎も言わ
れた通り先に浜辺に来てしまった。そんな自分が情けないが、これが今までのことを考えればそうせざるをえない。
「・・・・・まあ、あの子達にとって悪いことはしないと思うけど」
「そうならいいんだけど・・・・・」
「後でたっぷり遊びましょうね」
そう言った小田切の言葉を素直に信じたわけではなかったが、宗岡は子供達を待つという言葉を簡単に却下されて、他の高校
生達と先に浜辺にやってきてしまった。
(そ、それにしても目立つな、こいつら・・・・・)
元々、私立の学校のせいか、家柄が良い者が多く、特に羽生学園は容姿の選別もあるのかと思うほどに優れた者が多い。
それは、こんな風に一般人の中に紛れた時に良く分かって、学生服を着ていない彼らは既に男として完成されているといっても良
かった。
(あ、逆ナンか)
何人かの女達が、それぞれ好みの男に向かっているが、モテル男はガツガツしていないのか、その対応は恐ろししいほどにクー
ルだ。
実際に声を掛けてこなくても、女同士や、家族連れ、そして彼氏持ちの女からも、まんべん無い視線を集めている。
(・・・・・俺、場違いじゃないか?)
一緒にいると自分まで目立ってしまう。それが嫌で、宗岡はジリジリと青年達の集団から離れていった。
「どうです?」
小田切の言葉に、子供達の眼差しはまだ動かない。
先程から海岸近くの防風林の陰から浜辺を見つめているのだが、目立つ男達の集団は直ぐに視界に入ってきたはずだ。それなの
にまだ黙っているままなのは・・・・・。
「・・・・・あ、かいどーさん、はなしかけられてる・・・・・」
呆然とした真琴の声。
「りょーじおにいちゃんもだ」
静も驚いている。
「ケイ、うでさわられてた・・・・・」
友春は泣きそうな声で。
「きょーすけのやつ、はなのばしてる!」
楓はもうカンカンになっているようだ。
「じろーなんかっ、ずーっとへらへらわらってるぞ!」
思わず立ち上がってそう叫んだ太朗に向かって、小田切はしいっと人差し指を唇にあてた。
「あまり大きな声を出すと気付かれてしまいますよ」
(そうすると、私の楽しむ時間が減ってしまう)
確かに、まだ浜辺に出て5分と経っていないというのに、もう女達を引き寄せてしまうのはなかなか優秀だ。
(水着だから、か)
元々容貌は文句のつけようのない男達だ。普段は学生服に包まれた裸身を見せれば、もう大人の男にしか見えないだろう。
特に、下半身などはそれぞれの水着で主張されていて、セックスを連想してしまう者が出てきてもおかしくは無い。
下半身を全く隠さないということが男達にとっては無意識だというのがおかしかった。
隠す必要のない立派なものを持っているのだと見せ付けるようなものなのになと思いながら、小田切の視線は宗岡に向けられた。
(まさかビキニとは、ね)
悪戯を仕掛けたら、あの部分はどんなふうに変化をするだろうか。
(・・・・・ふふ、いけない、いけない)
子供達がいる前で考えることではないかもしれない。
(ま〜た、変なこと考えてる)
従弟だからか、それとも似たような性格からか、綾辻は小田切が今何を考えているのか良く分かった。
どうやら小田切はあの保育士を気に入り、からかって遊びたいようだが、今はそれよりもこの場にいる様々な反応を示していた子供
達の方が最優先だ。
「でも、あれで少しは分かったでしょう?誰がモテるか」
「でも〜」
「まこたちがいないほーがいいっていうの、なんだかさびしいよね」
真琴は、海藤の目が女達に向けられていないことに気付いていないのだろうか。
「うん。せっかく、りょーじおにいちゃんとあそぶやくそくしたのに」
江坂は、先程からずっと仏頂面で。
「あのまま、ケイ、だれかとあそんじゃわないかな」
アレッシオは、あんなにもきっぱりと拒否している。
「きょーすけ、ついていったらおしおき!」
あの場にいる誰よりも美人な楓を置いて伊崎が女を選ぶなど考えられないし。
「うー」
上杉のあのパフォーマンスは、単に江坂を挑発しているだけだ。
綾辻の目で見ればそれぞれが誰も本気で女達を見ていないのが分かるが、子供達にしてみれば大胆な水着で大好きなお兄
ちゃん達にくっ付く女のことが気になって仕方が無いのだろう。
「どうする?まだ見ている?」
誰が一番モテるか。
それぞれがタイプが違うのではっきりということは出来ないし、それにはもう少しこのまま見ていなければならない。
それをこの子供達は耐えることが出来るのか?
(私も、早くあっちに行きたいんだけど)
1人、あの集団の中でいかにも線の細い倉橋を見る視線を、片っぱしから潰してやりたい気持ちに襲われる。
綾辻は何とかその感情を押し殺して子供達に訊ねた。
「どうする?」
顔を合わせると、もう皆の答えは決まっていたようだ。
「・・・・・ねえ」
「うん」
「もうやだ」
「とつげきするぞ!」
「「「「おー!!」」」」
太朗が叫び、他の子供達もそれに同意して、皆でいっせいに浜辺へと走り出した。
「あんまり走るとこけるわよ!」
「もう終わりか。子供は辛抱が足らないな、今からが面白いのに」
「・・・・・幼稚園児に言う言葉じゃないでしょう」
小田切の言葉に苦笑を返しながら言った綾辻は、自分も飢えた狼の群れの中に頼りなく立っている最愛の者を助けに、浜辺
へと無意識のうちに早足で向かった。
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高校生達の水着を考えるのに一苦労(苦笑)。
次はお子様達です。