KIDS  TYPHOON












 最後に楓と伊崎、そして綾辻と倉橋と小田切という、大人に囲まれた中での入浴時間になった。
すると、綾辻がスタスタと風呂場に行く楓に向かって内緒話のように小さく言う。
 「ねえ、子供1人に私達じゃちょっと嫌でしょ?」
 「・・・・・」
何を言うのかと無言のまま見上げる楓に綾辻は続けた。
 「私と克己はもう1つのお風呂に入るから♪」
 「せ、先輩っ?」
その言葉をしっかり聞き取った倉橋は青褪めた。いくら男同士とはいえ、自分と綾辻は付き合っているのだ。そんな2人で一緒に
風呂に入れるはずが無い。
 「ま、待ってくださいっ、私は!」
 「だって、大の男4人が一緒じゃさすがに狭いでしょ?部屋の割り当てで風呂に入ってるんだから、ここは私と克己が・・・・・」
 「だめ」
 「そう、だめ・・・・・え?」
 てっきり楓は頷くものだと思っていた綾辻は、意外にもきっぱりと反対した楓に少し驚いてしまった。
 「どうして?」
 「もったいない」
 「も・・・・・」
楓はくるりと振り返ると、まるで自分に従うように(単に後ろを歩いていただけなのだが)いた4人の男に、腕を腰に当てて堂々と言
い放った。
 「もういっこおふろはいれば、それだけおみずつかうだろ?もったいないよ、そんなの!」
 「・・・・・でも、楓君私達4人に身体見られても平気なの?」
 「先輩!」
子供に何を言うのかと倉橋が諌めるが、楓はそれがどうしたと綾辻を睨み上げる。
 「ぜ〜んぜん!だって、おれ、かわいいもん!」
 「・・・・・」
 「おれんち、びんぼーだから、おっきくなったらいろんなおとなにみつがせるんだ。それでおかねもーけて、みんなでくらすんだから、み
られるのなんかへーき!」



(こんな子供がそう思うほどなのか・・・・・)
 自分の言っている意味をどれ程分かっているのかは怪しいが、楓の心境は伊崎にはよく分かった。
昼間、一緒に買い物に歩いた時、楓の家がヤクザの組だという事、そしてあまり裕福な生活ではないという事。
この付属に通っているのは、楓を溺愛する父親の見栄からだという事が、言葉の端々から分かった。
ヤクザだという事に多少は驚いた伊崎だったが、楓を見ればその家がどんなに温かなものかは分かる。我儘なところはあるが、楓
は素直で正義感の強い子だ。
家と個人というものは全く別物なのだなと、伊崎は改めて思い知らされたくらいだった。
 「だから、みられるのなんてへーき!」
 「・・・・・大人ねえ」
 綾辻が感心したように言った。聡い彼は、きっと楓の言葉の意味を悟ったのだろう。
 「あたりまえ!」
 「・・・・・残念だけど、克己、2人だけのお風呂はまた今度ね」
 「当然です!行きましょう、楓君っ」
居たたまれないのか、倉橋が楓の手を握って引きずるように歩いていくと、残された3人は何となく顔を見合わせてしまった。



 「ヘタだな」
 そう、一刀両断に言い切ったのは小田切だった。
なかなか面白い見世物だと思っていたのに、思った以上に呆気なく幼稚園児に負けた綾辻が情けなくて・・・・・面白かった。
たとえ従兄弟でも易々と助け舟は出してくれない小田切の性格を熟知している綾辻は、もう笑うしかないというように口元を上げ
ながら言った。
 「あんな風に言われちゃしかたないだろ」
 「子供なんか丸め込めるだろう」
 「でも、なんか・・・・・」
 綾辻が言いたいことは小田切にも分かる。
自分達のように家も豊かで、ある程度自由に動ける人間が何を言っても、実際にその場で生活をする人間の生の声には敵わな
いだろう。
 小田切はチラッと伊崎に視線を向けた。
 「馬鹿なこと考えるなよ?」
 「・・・・・え?」
無意識に楓の後ろ姿を見ていたのか、伊崎は小田切に声を掛けられてハッと顔を上げた。
 「お前の家が幾ら金持ちでも、援助なんかしない方がいい」
 「・・・・・小田切さん」
 「ヤクザとは関わらない方がいいだろうし、それ以上に・・・・・あの天よりも高そうなプライドを持つあの子に嫌われるだけ」
 「・・・・・」
 自分の家が貧しいと堂々と言えるという事は、自分自身に相当な自負がないと言えないものだ。
それは歳など関係ないもので、楓はあの歳で立派に自分達に対抗出来るプライドを持っている。
(まあ、まだ子供だけど)
 「小田切さん、俺は・・・・・」
 「ここだけの関係にしたくなかったら、それなりによく考えて行動することだね。ああ、でも今手を出したら完全に犯罪っていうか、
お前のでかいの入らないだろ?」
 「!」
真面目な話から一転しての下ネタに、伊崎は目に見えて動揺している。
 「そ〜よ、せめて・・・・・そうねえ、中学を卒業するまで待たなくちゃ。あんたのことだから禁欲生活しそうよね〜」
楽しそうに付け加える綾辻は、真面目な伊崎をからかうのが楽しそうだ。
しかし。
 「おい、勇、何時までもここにいたら倉橋が風呂から上がるぞ。堂々と身体見れるチャンスじゃないのか?」
 「うわっ!」
慌てて風呂に駆け込む綾辻の後ろ姿を、小田切はほくそ笑んで見送っていた。



 「お〜し、ガキはおねむの時間だぞ!」
 午後9時、リビングでテレビを見たり話したりして遊んでいた5人のお子様に、上杉がパンパンと手を叩いて告げた。
確かに家にいればそろそろ寝る時間には違いは無かったが。
 「まだ、ねむたくない!」
 「うそつけ、瞼が下りかけてるぞ」
 「まだはやいよ!」
せっかくのお泊まり会だ。今日と明日は何時も怒られて寝る時間ではなく、大人が起きている時間まで起きていたかった。
そうだよなと太朗が振り返ると、残りの4人もまだ眠たくないというような顔で上杉を見ている。
 「ねたいならジローさきにねれば?」
 「・・・・・あのなあ、俺はお前達に言ってるんだよ」
 今更夜に街まで下りて遊ぼうとは思わないが、子供が起きていると出来ないことも色々有る。
太朗に聞いた『冷たい隠れ家』がワインセラーと分かって酒は確保出来そうだし、ここはケーブルテレビに入ってるので楽しい大人
の番組も見れるはずだ。
綾辻や小田切にお勧めの店や、最近の女の話を聞こうにしても、とても子供の前では話せないようなことだろ。
 「だ〜め、寝る時間」
 「ジロー!!」
 「ほれ、お前達も解散だぞ」
 上杉の笑みは色々意味がありそうだが、子供が寝る時間だろうというのは確かなので、それぞれの部屋の保護者は自分が面
倒を見る子供達に声を掛けた。
 「真琴君、寝るぞ」
 「う、うん。おやすみなさい」
 「楓君」
 「まだねむたくないんだけどなー」
 「トモ、部屋に戻ろうか」
 「・・・・・」
 「静君、おやすみなさいは?」
 「おやすみなさーい」
 「ほら、タロ、行くぞ」
軽々と上杉に抱えられた太朗は叫んだ。
 「ちょ、ちょっと、おれはにもつじゃなーい!!」



(なんだ、なんだよ!ジローのやつ!おれがせっかくあそんでやってるのに!)
 見た目も態度も、いかにも大人だというような態度の周りよりも、自分の言葉に意地悪だがきちんと反応してくれる上杉を気に
入っている太朗は、このまま眠ってしまうのは勿体無くて出来なかった。
それは部屋に入り、強引に頭の上から布団を被せられても続いた。
(どうしよ・・・・・おこらせたらこわいけど・・・・・)
 やはり太朗から見れば大男の上杉は、怒らせたらきっと怖いだろうと思う。
それでも。
 「・・・・・大人しく寝ろよ」
 そう言って、ポンポンと布団の上から優しく撫でられると、胸がきゅうっとなってしまう。
(お、おれ、びょーきかも・・・・・)
今まで感じたことも無いモヤモヤを吹き飛ばす為にも、思いっきり暴れてみたくなった。
 「うわ〜〜!!」
 「・・・・・っ、タロ?」
太朗はいきなり起き上がって枕をボスッと上杉にぶつけると、もう2つの枕を両手に抱えて部屋を飛び出して叫んだ。
 「ぜーいんしゅーごー!!」
 掛け声に、まだ眠っていない子供達は見事に部屋の外に飛び出してきた。
 「タロッ?」
 「タロくん?」
 「たろくん!」
 「な、なに?」
 「わるものはこのへやにいるぞ!やっつけろ!!」
一瞬、何が起こったのか分からないようだった4人だったが、太朗が手にしている枕を見て楓が直ぐに部屋に引き返して枕を抱え
て出てきた。
 「みんな!いそげ!」
その様子に、真琴と静も楽しそうに頬を綻ばせると、自分達の部屋から枕を取ってきて太朗の部屋に駆け込む。
 「な、なんだ、お前達は」
 中には、太朗に枕をぶつけられて思わずベットに腰を下ろしていた上杉がいて、両脇に枕を持って駆け込んできた子供達を驚い
たように見ている。
 「おい、タロ」
 「やれ!」
 「う、うわっ、お、おい!」
いっせいに、上杉に向かって枕が投げられた。



 テレビの音も無い静かな家の中に、子供達の興奮した甲高い歓声が響く。
 「えい!」
 「きゃあ!」
 「たろくん!こっち!!」
落ちた枕を再び掴んで、何度も上杉にぶつける。
もちろん子供の力なので痛いはずが無い・・・・・と、いうのは間違いだ。手加減を知らない子供達ははしゃぎながら休む間もなく
上杉に枕をぶつけていった。
(な、なんだ?)
始めはただ驚いていた上杉だったが、それが太朗が仕掛けた枕投げという事にすぐ気が付いた。
(こいつ・・・・・っ)
 腹がたつというよりも、楽しくなった。
上杉は笑いながら傍にあった枕を掴むと軽く太朗にぶつける。
 「ははは、全然痛くないぞ、終わりか?」
 「くそっ!」
 「でかいの!やられろ!」
 「かえでちゃん、まくら!」
 「ほら、どうした、やられるぞ」
 「きゃあ!!」
太朗と上杉の部屋で繰り広げられている1対5の枕投げ。
上杉は果敢に挑んでくる太朗や楓に枕をぶつけながら真琴を抱き上げて軽くベットの上に投げたり、入口で枕を拾う係になってい
る友春にも枕をぶつけてやる。
 ふと見ると、ドアの傍には呆れたような表情の生徒会の面々が立っていた。
上杉は人の悪そうな笑みを浮かべ、子供達に対する時とはまるで違う威力のある枕を海藤に投げてきた。
 「か、会長?」
 「かいどーさん、じょーず!」
それを受け止めた海藤を見て真琴は歓声を上げた。
すると、いい助っ人が来たかと思ったらしい太朗が振り返って叫んだ。
 「にいちゃんたちも!はやく!!」
 「そーだぞ」
 片手に枕を持った上杉が笑う。
 「遊びも本気じゃないと面白くないぜ」
その瞬間、上杉の手から枕は放たれ、アレッシオの腹にぶつかった。
眉を顰めたアレッシオだったが、直ぐに足元に落ちた枕を拾う。
 「・・・・・覚悟しろ、ウエスギ」
 「おー、掛かって来い!」
部屋の中だけで行われていた枕投げは傍観者を許さないかのように周りを巻き込んで、かなり長い時間本気の遊びは続くことに
なってしまった。





                                      






高校生達×幼稚園児達、第6話です。

感想で、枕投げというキーワードを頂いたので入れてみました。

この後、大人気ない高校生達の枕投げが続いたのは・・・・・ご想像の通りです(笑)。