KIDS TYPHOON
7
「う・・・・・ん・・・・・」
(お・・・・・しっこ・・・・・)
何だか急に寒くなったような気がして、太朗は眠くて仕方がなかった目を擦って開いた。
「・・・・・ふぇ・・・・・?」
目が覚めると、そこには見慣れぬ天井があった。
(おれの、へやじゃない?)
どこだろうと不安になった太朗はむくっと起き上がる。その瞬間、
「ん・・・・・」
「!!」
自分以外の人の気配を感じた太朗は、ビクッと身体を竦ませて・・・・・恐る恐る視線を向けた。
「・・・・・じ、ろ?」
自分の隣で眠っているのは上杉だった。目を閉じているとあの憎らしい馬鹿にしたような笑みは見えず、どこか子供っぽい表情に
見える。
(そっか)
その上杉の顔を見て、太朗は直ぐに昨夜のことを思い出した。
まだ眠くは無かったので上杉達も巻き込んで始めた枕投げは、結構高校生達もヒートアップしたらしい。
太朗達の目からすればかなり威力のある枕が飛び交っていたが、それでも彼らは太朗達幼稚園児に対しては手加減することを
忘れなかった。
大声で笑って、暴れて・・・・・疲れて何時眠ったのかも分からないが、上杉はちゃんとベットに連れて来てくれたらしい。
「・・・・・」
太朗はじっと上杉を見下ろす。
身長差のせいか、上杉をこんな風に上から見ることなんて今しか出来ないだろう。
(カッコいいのにな・・・・・どうしていじわるなんだろ・・・・・)
子供の遊びにも、理不尽な突っかかりにもあしらうことなく対してくれるが、意地悪なのは他の高校生以上のような気がする。
「・・・・・ん・・・・・タロ?」
あまりにじっと見ていたせいか、上杉はゆっくりと目を覚ました。
寝起きなせいか、昼間以上に優しい眼差しのような気がして、太朗は胸がドキドキする。
しかし、
「お前、寝相悪過ぎ。何回蹴られたかわかんねーぞ」
「・・・・・そ、そんなのっ」
「おねしょは?してないか?それとも誤魔化すのにパンツはきかえようとしてんのか?」
「ば、ばかあ!おねしょなんてするわけないだろお!」
一瞬でもカッコイイと思ってしまった自分が悔しくて、太朗は上杉の顔を枕でバンッと叩いてしまった。
「あ、かいどーさん、おはようございます!」
「おはよう。もっと寝ててもいいんだぞ」
誰もしないだろう朝食の準備を、海藤は苦労性なのか黙々と準備をしていた。
全くの他人や、自分の嫌いな相手に対してはこんなことは当然しないが、今手を動かしているのは生徒会の面々と元気が良過
ぎる子供の為だ。
(全く、上杉さんにの行動は分からない・・・・・)
まさかこの歳で枕投げをするとは思わなかった。いや、まだ十分子供だといってもいい歳なのかもしれないが、既に老成している
と自覚している海藤にとってはかなりのカルチャーショックだったのだ。
しかも、楽しかったと思うのが不思議だ。
「まこもおてつだいする」
「お前は別に何もしなくていい」
「でも、ひとりじゃたいへんだよ?」
「本当にいいから」
(他の連中に聞かせてやりたいセリフだな)
海藤はふっと苦笑を零すと、昨日のデザートの残りであるイチゴを摘んで真琴の口元にもっていってやった。
「・・・・・」
小さな真琴の口いっぱいの大きなイチゴをモゴモゴと食べると、その笑顔は美味しいと言葉以上に海藤に伝えてくれる。
「内緒だぞ?」
何気ない言葉に柔らかい響きが含まれているのを、海藤は自覚していなかった。
「あ、おはよー、ともくん」
「おはよ、しーちゃん」
部屋から出たアレッシオは、丁度隣の部屋から出てきた江坂と鉢合わせした。
「おはようございます」
「ああ」
短く挨拶を交わす2人とは対照的に、足元の小さな子供達は楽しそうに昨夜の話をする。
「きのうはおもしろかったね〜、たろくんつよかったあ」
「しーちゃんもばんばんぶつけてたよ?ぼく、なにもできなくて・・・・・」
「ひろいかかりもだいじなんだよ?ね、おにいちゃん」
静の手が、ごく自然に江坂の服を掴んで引っ張った。
「・・・・・ああ。どんな仕事も裏方は要ですね」
「かなめ?」
「一番大事だって事」
「うんっ、そうでしょ?」
静を見下ろしながら言う江坂の言葉には全く毒は無く、そんな彼を見ることなど今まで無かったアレッシオは少し笑みを浮かべて
いたらしい。
江坂がジロッと視線を向けてきて言った。
「何時もきちんとしているあなたが髪も乱れたままとは珍しい」
「・・・・・しかたない。トモの世話で時間が無くなった」
思いがけず寝過ごしてしまったアレッシオは先に服だけ着替えると、まだ布団の中に潜り込んでいた友春を起こすことにした。
しかし・・・・・普段はじれったいほどにシャイな友春は、かなり寝起きが悪かった。アレッシオが何度身体を揺すっても、頬を撫でて
も、僅かな応えを返すと再び眠ってしまうのだ。
仕方なく、パジャマを脱がし、几帳面に枕元に用意をされていた服に着替えさせたが・・・・・。
(不思議な・・・・・肌だったな)
白く、子供特有の柔らかで瑞々しい肌。小さな胸の飾りは淡い色で、どこもかしこも信じられないほど小さかった。
欲情は、していなかったと思う。子供に対してそんな感情を抱くはずが無かった。
ただ、こんなにも可愛らしくて不思議な存在が世にあったのかと、しばらく見つめていたい気持ちになったのは確かだ。
「世話、ですか」
その為に自分の身支度が最後まで出来なかったが(別に寝癖がついているわけではないが)、ここには子供と気軽な相手しか
いないので気にならない。
「ほら、食事に行くぞ、トモ」
「うん」
手を差し出すと、友春は素直にその手を握り返す。
昨日よりも素直なその反応に、アレッシオは満足したように笑った。
「すみませんっ、遅れて!」
テーブルの上に朝食用のプレートが並べられている時、慌てて階段を駆け下りてくる音がしたかと思うとダイニングに倉橋が飛び
込んで来た。
「あ、後片付けは私がしますからっ」
「気にしなくていいぞ」
2年生という事もあり、倉橋は生徒会の中でも出来るだけ率先して雑用をしようと思っていたが(伊崎は1つ上なので立場が違う
と思っている)、今日はなぜか寝坊をしてしまったのだ。
海藤だけに食事の支度をさせたのかと唇を噛み締めると、足元から声が聞こえてきた。
「おにいちゃん、かいどーさんはまこがおてつだいしたからへいきだよ?ね〜?」
「あ、ありがとう」
自分よりもはるかに幼い真琴に丁寧に頭を下げていると、次にダイニングには伊崎と楓が入ってきた。
「おそくなりました、おはようございます」
「おはよう」
「おはよー、かえでちゃん」
「おはよ」
楓は直ぐに真琴の傍に来たが、その向かいに立っている倉橋をちらっと見上げると眉を顰めた。
「なあ、タロにすぷれーのばしょ、きいたら?」
「スプレー?」
突然に何を言うのかと倉橋は分からなかったようだが、楓は自分の首を指しながら続けて言う。
「ここ、かにさされてる。おれのへやはでなかったけど・・・・・まこちゃんとこは?」
「だいじょぶだよ。・・・・・あ、ほんとだ、おにいちゃん、みっつもさされてるよ?かゆい?おくすりもらう?」
「蚊?」
子供達の言っている意味が分からない倉橋は、中途半端に身を屈めたまま首を傾げてします。
すると、見かねた伊崎が倉橋の耳元で素早く囁いた。
「キスマーク付いてる」
「・・・・・っ」
バッと、反射的に首筋を押さえた倉橋の顔は真っ赤になってしまった。
(キ、キス・・・・・ッ?)
思い当たることが・・・・・ないこともなかった。
「克己、俺のこと嫌いか?・・・・・怖い?」
「少しだけ、お前に触れたいんだ」
昨夜、倉橋の眠るベットに乗り上げてきたかと思うと、その手首を押さえてキスをしてきた綾辻。
他の生徒会のメンバーも、おまけに幼い子供達も一緒にいるこの屋根の下でそれ以上はしないで欲しいと、掠れた声で懇願し
た倉橋に、綾辻は何度も何度もキスの雨を降らせてきた。
それまで、どんなに綾辻が求めてきてもどうしても怖くて拒んでばかりだった倉橋は強く拒絶することが出来ず、かなりの長い間綾
辻とキスを交わしていた。
(そ、その痕が付いてるって・・・・・っ?)
楓や真琴は虫に刺されたのだと思ったようだが、他の者にはそれが何の痕かは一目瞭然なのだろう。
そんな姿で無防備にここに立っていた自分が死ぬほど恥ずかしかった。
「おはよー、あら、克己どうしたの?真っ赤になっちゃって可愛い」
その時、暢気に欠伸をしながら綾辻がやってきた。
「克己?」
暢気なその顔を見ていると、恥ずかしい思いをさせられているのが自分だけだという事に腹が立ってしまい、
「・・・・・っ!」
「うわ!」
思わず綾辻の顔を押しのけるように叩いた倉橋は、足早に洗面所に向かってしまった。
「・・・・・なに?なんなの?」
何がなんだか分かっていないような綾辻に、呆れたような声が掛かる。
「馬鹿だな、お前は」
「裕?」
一連の出来事を見ていた小田切は、楽しそうに笑っている。
この笑みを浮かべる時はなにか意味がある時と分かっている綾辻は眉を顰め、小田切ではなく伊崎の方を向いて言った。
「何があった?」
直ぐに説明しようと口を開きかけた伊崎だったが、小田切の視線に躊躇ったように口を噤んでしまう。
しかし、そんな小田切の威圧に少しも臆することがない者がここにはいた。
「おい、あんたもかまれた?」
「え?かまれたって?」
楓は視線を向ける綾辻に言った。
「あのにいちゃん、かにいっぱいさされてた。きっとかゆいんだ、ねえ、まこちゃん」
「うん、いっぱいさされててかわいそー」
「か・・・・・」
「勇、お前痕残すなんて可哀想だろ」
「・・・・・あっ」
ようやく何のことか思い当たったのだろう、綾辻はバツの悪そうな顔をして倉橋が消えた方へ視線を向けた。
(暗くて気付かなかった・・・・・)
「多分、震えてて可愛いとか思ってんだろうが、あのお堅い倉橋がどんな思いでここを立ち去ったかくらいは想像しろよ」
倉橋は綾辻との関係を秘密だと思っているようだが、生徒会のメンバーは皆2人の関係は知っていた。
あからさまな独占欲を見せる綾辻と、天然ボケなのか時折ポロッと綾辻への思いを見せてしまう倉橋。
小田切にとってはどっちもどっちだが、血縁関係があるという事か、いや、綾辻の性格が気に入っているのか、珍しく倉橋をからか
わないで見守って(それも怖いが)いたつもりだったが、自分達でバラすようなことをしていては何にもならない。
「悪い」
倉橋の後を追い掛けようとする綾辻の背中に海藤が声を掛けた。
「飯までは戻れよ」
「分かった」
楓は走って行った綾辻を見て、伊崎を見上げた。
「くすり、わかるのか?」
「え、ええ、多分」
「たぶんって、たよりないなー、きょーすけは」
「・・・・・っ」
はあっと溜め息を付いた楓に、傍で聞いていた小田切は我慢出来ずにプッとふき出してしまった。
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高校生達×幼稚園児達、第7話です。
残り2日。そして、3話。次回は夜のバーベキューの為の買い物にみんなで町に下ります。そこではいろんな誘惑が?
あ、綾辻&倉橋、アダルト担当ですが・・・・・この綾辻さんは少し青臭くて情けない感じです(笑)。