KIDS TYPHOON
8
「お前ら、何が欲しいのかちゃんと言えよ?」
「おれ、とうもっころし!」
「トウモロコシ。太朗はそれだな、じゃあ、次は?」
「おれはシシャモ!」
「ぼくは、そーせーじ!」
「カボチャすきー」
「いちご!」
「・・・・・まあ、出来るだけ希望には沿ってやろう。それよりもここは人が多いからな?迷子にならねえようにちゃんと手え繋いどくん
だぞ?ほら、タロも」
「まいごになんかならないのにさあ〜」
「お前が一番危ないんだよ」
昼過ぎ、高校生達と幼稚園児達はそろって町に降りていた。
二泊三日の最後の夜は、外でバーベキューだと決定した上杉が足りない食材を買出しにやってきたのだ。
本来なら買い物係を決めても良かったのだが、少しは下界の空気を感じてリハビリをしといた方がいいかと思った。
(ここんとこ、ガキに振り回されてばっかだからな)
・・・・・それが、案外に心地いいから始末が悪い。
そんな真面目で純情でもないのになと思いながら、上杉は太朗の手をしっかりと握って、ゴールデンウィークだからか妙に人が多い
街中を縫うように歩いた。
(て、つなぐなんて、みんなにあかちゃんておもわれちゃうっ)
太朗は何とか上杉の手を振りほどこうとしたが、太朗の力ではとても無理だった。
もうっと口を尖らせた太朗だったが、ふと視線を感じて周りを見てみると・・・・・。
(・・・・・ジロー、みてる?)
女達が・・・・・いや、男までも上杉を見ているのが分かる。
(ジロー、へんなかっこしてないのに・・・・・?)
歩くたびその視線は増えていくような気がして、太朗は意味も分からないまま胸の中がモヤモヤとし始めた。
(・・・・・オーラ垂れ流し。全く・・・・・)
一行の中で一番最後尾を歩いていた小田切は、前を歩く男達を見つめながら頬に笑みを浮かべた。
上杉が・・・・・いや、上杉以下生徒会のメンバーやアレッシオや江坂が、校内外でかなりの人気を持っていることは知っている。
外見からはその性格までは見えないので、男っぽい色気のある・・・・・しかしまだどこか青くて荒削りな容貌が、強烈に人を惹きつ
けるのだろう。
手を繋いでいる幼稚園児達さえいなければ、きっともう逆ナンの嵐に違いない。
(まあ、会長が気にしていないっていうのが珍しいけど)
普段の上杉ならば、何の役にも立たない園児はそのまま放っておいて、女達の誘いに簡単に乗りそうな雰囲気を持っているの
だが、今回は手を繋いだ太朗相手に楽しそうに話をしている(会話は成立しているのかは分からないが)。
「・・・・・なかなか興味深いな」
小田切は不意に悪さを思いついて、そのまま上杉に駆け寄った。
「会長、子供達に何か買ってやったらどうです?」
「ん?」
「まあ割合に大人しくしていた方ですし、ソフトクリームなんか・・・・・」
「おれ、たべたい!」
「まこも!」
「おれも」
「ぼくも」
「ぼ、ぼくも」
「・・・・・ね?」
たちまちに目を輝かせた子供達が、買って買ってと目を輝かせて上杉を見上げてきた。
決定権はこの男にあるらしいと、子供ながらに分かっているのだろう。
「・・・・・しかたねえねあ。そこで大人しく食ってろ。あ、言いだしっぺのお前は子守だぞ?俺達買出しするから」
「ええ」
店の前に置かれた椅子に大人しく座り、真琴達は自分の顔ほどもありそうな大きなソフトクリームを頬張っている。
今日は少し暑いくらいなので、この甘くて冷たいデザートはとても美味しかった。
「おいしいね〜」
「「「「うん」」」」
それ以上の返事はないと、皆齧り付くように食べ続ける。
すると、それまで缶コーヒーを飲んでいた綺麗なお兄さん・・・・・小田切が面白そうに言った。
「いいのかなあ、ここでのんびりしてて」
「へ?」
「君達の大事なお兄さん達、連れて行かれちゃうかも」
「・・・・・?」
小田切の意味深な口調に急に不安になった真琴は、そのまま視線を追い掛けて前方を見た。
「・・・・・あ」
そこには、数人の女達に囲まれた海藤達がいた。
真琴達と離れてから直ぐに自分達を取り巻いた女達に海藤はうんざりしていた。
(全く、この人がフェロモン垂れ流しにするから・・・・・)
「悪いが連れがいるんだよ。ホントはあんた達と遊びたいくらいなんだけどな」
目を細めてしっとりとした声で言う上杉は、とても高校生には見えないだろう。現に自分達よりも年上らしい女達は、顔を赤く染め
て上杉を見つめている。
「でも、せっかく知り合えたのにぃ〜。連れって一緒にいた知り合いか誰かの子供でしょ?誰か他の人に見てもらえないの?」
「私達3人で来たの。ねえ、そっちの彼も一緒に・・・・・」
話が自分にまで及びそうで、海藤はますますうんざりする。
女に全く興味がなく清廉潔白だなどとはいわないが、こんな避暑地でいかにもそれ目的なナンパをしてくる女達の相手をしようと
は思わない。
上杉はどうかは知らないが、海藤の相手は何時も大人の上手に遊びが出来る女ばかりで、こんな風に煩いのはあまりというか全
く気持ちが動かないばかりか引いてしまうのだ。
ふと視線を向けると、他も同じ様な目に合っている。
アレッシオと江坂は纏っている空気が近寄りがたいのか、遠くから熱い視線を浴びているという状態だが、綾辻と倉橋、そして伊
崎の方には、かなりの女が言い寄っていた。
「ごめんなさ〜い、連れがいるのよ」
「そんなの、一緒でもいいよ」
「でも、子供で・・・・・」
「どっか預けたらいいじゃん」
人当たりのいい綾辻は苦笑しながらも断わっているが、真面目な倉橋と伊崎は当惑したように視線を交わしている。
「ね、遊ぼ?」
不意に腕を取られて海藤は振り向いた。
身長が高い自分よりは頭1つ分くらい下の女が、綺麗に化粧をした目で上目遣いに海藤を見つめている。
(・・・・・大きい)
当たり前だが、幼稚園児の真琴と無意識に比べてしまって、海藤はその自分の考えに苦笑を零してしまった(その顔に更に女が
ポウッとなるのだが)。
「会長」
そろそろ戻った方がいいのではと上杉を見ると、その手は中でも一番美人の腰に回っている。
「話すだけだって」
「しかし・・・・・」
あまり待たせるのも可哀想だと言い掛けた海藤は、いきなり響いてきた子供の泣き声にパッと振り向いた。
「うわ〜〜〜!」
「真琴っ?」
大好きな優しいお兄さんが、自分を放って女の人とイチャイチャしている。
真琴はじっとそれを見ているうちに悲しくなった。
(も、もうぼくが、きら、いに・・・・・っつ・・・・・)
面倒な子供なんか見ていられないとその背中が言っているような気がして、真琴は思わず持っていたソフトクリームを落とすと、そ
のまま海藤の傍に走っていってその身体に(身長差から海藤の腿辺りになってしまったが)抱きついた。
「やだあ〜、まこ、きらいになっちゃや〜〜!」
「真琴?」
「やだやだ〜!」
海藤の手が自分の身体を抱き上げてくれて、はるか上だった海藤の顔が目の前に来た。
「俺はお前を嫌いになってないぞ?」
「ほ、ほんと?」
「ああ」
優しく笑んでくれる海藤に、真琴はホッとしてその首に抱きついた。
「な、何なの?」
驚いたような、不満そうな女の声が聞こえたが、真琴はもう全然怖いとは思わなかった。
(お〜お〜、ガキにメロメロじゃん)
そんな海藤を横目で見ながら、上杉はプッとふき出していた。
少し離れた先では、
「きょーすけ!にやにやするな!!」
そう、楓が怒りながら伊崎に突進している。
本来ならそんな子供より楽しいことを一緒に出来る目の前の女に目が行くのが普通なはずだが・・・・・しかし、そう思う上杉も本
気で女と遊ぼうとは思っていなかった。
あからさまな誘いや強い香りが妙に鼻に付くのだ。
(避暑地のナンパは最終目的が決まってるからな)
遊ぶ=セックスだと、上杉も分からないわけではなかったが、わざわざここでそんな女を相手にするほど飢えてはいないし、何より今
は太朗と一緒の方が面白い。
(そういやあいつ、これ見てもなんとも思わないのか?)
あれだけ可愛がってやってるのに、真琴のような独占欲を見せてくれないのかと思ったその瞬間、
ドンッ
軽い衝撃が背中にあった。
ただ、その威力と当たった場所からそれが何かを思い当たった上杉は、口元に笑みを浮かべて楽しそうに笑う。
「なんだ、タロ、寂し・・・・・」
「とおちゃん!!」
「と?」
「とおちゃん?」
その言葉に、上杉だけではなくその周りにいた女達も驚いて、無意識なのか数歩後ずさった。
「おい、タロ」
上杉が背後を向き、自分の足元にしがみ付いている太朗を見下ろす。
しかし、太朗の目は上杉の向かいにいる女達に向けられたままで、甲高い子供の声は想像以上に周りに響いた。
「とおちゃん、おんなのひとにてだしちゃだめだよ!かあちゃんにしかられるよ!」
「おい」
「とうちゃんはおれたちのおもりできてるんだから!」
普通に考えれば、男子高校生が子持ちに見えるはずは到底なかった。
しかし、夜の街では武器に使える大人びた色気が、上杉を実際の歳よりはかなり上に見せている。20代半ばで幼稚園児の子
供がいてもおかしくないなと思われるほどに・・・・・。
「ちょっと、どうする?」
いきなり現われた太朗の存在に、さすがに女達も無視して話を進めることは出来ないようだ。
「・・・・・タロ」
「なんだ、ジロー」
名前を呼べば、大きな目がきっと上杉を見上げてくる。
しかし、その反抗的な視線とは裏腹に太朗の手はしっかりと上杉の足に抱きついていて・・・・・上杉は怒るというよりも可愛くて仕
方がなくなってしまった。
「・・・・・っし」
「うわあ?」
上杉はそのまま太朗を抱き上げて肩車をしてやると、目の前の女達にウインクしながら言った。
「悪いな、大事なガキがそう言うからさ」
歩き出した上杉の頭を、太朗は上からポカポカと殴る。
「痛いだろ、タロ」
「ジローがわるい!おれほうって、あそぼうとしてた・・・・・!」
「悪かったって。ほら、みんな待ってるだろ?買い物の続きするぞ」
「・・・・・ジロー・・・・・」
「ん〜?」
「いっしょに・・・・・いるよな?」
「当たり前だろーが」
笑って言うと、小さな手がそっと髪を撫でている。
幼いその愛情表現が可愛くて可愛くて、上杉は緩む頬を戻すことが出来なかった。
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高校生達×幼稚園児達、第8話です。
もう8話ですね。あと2話・・・・・終わるのか?
次回はバーベキュー。13人で過ごす最後の夜です。