海上の絶対君主




第二章 既往の罪と罰


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※ここでの『』の言葉は日本語です






 「うわっ、気持ちいー!!」
 「冷てーー!」
 次々と上半身裸になった乗組員達が泉に飛び込むのを見て、珠生は自分の肩を抱いてブルッと震えた。
(寒いじゃん・・・・・何考えてるんだよ、こいつらは〜)



夕食を食べている時、ラディスラスはルドー達が見付けたという泉の話をした。
飲み水として汲みに行くのはもちろん、水浴びをしたい者は付いて来いという話に、十数人が手を上げた。
珠生も、身体や髪を洗いたいのは山々だったが、足が痛いので動きたくなかったし、風呂ならばまだしも冷たい泉に身体をつける
というのもなんだか怖い気がした。
(プールとは違うだろうし・・・・・)
 「タマ、どうする?」
食後のデザートにと特別に出してもらった果物を食べていた珠生は、頭上から降りてきた声に顔を上げた。
 「ラディ、行く?」
 「ああ、偵察も兼ねてな。きっと気持ちいいぞ」
 「・・・・・」
(それは、そうだろうけど・・・・・)
特に今日は山歩きをしたので土で汚れているし、汗もかいている。石鹸やシャンプーがなくても、流すだけでも気持ちがいいだろう
と思った。
 それならば・・・・・珠生はチラッと上目遣いにラディスラスを見つめる。
 「足、痛いよ」
 「おぶってやろうか?」
 「・・・・・疲れてない?」
 「まあ、謝礼はまた別に請求するしな」
 「シャレイ・・・・・?」
 「見返り、礼だな」
(な、何言う気だろ・・・・・)
少し、嫌な予感がした。だが、珠生がお金が無いのは知っているだろうし、体力だって無い。大好きな果物やお菓子を譲ってくれ
と言われたら少しは躊躇するが、我慢出来ないことはない・・・・・と、思う。
(それぐらいならいっか。寝る前に肩でも揉んであげてもいいし)
 「行く」
 実際にこうだと言われたわけではないが、珠生の頭の中ではすっかり食事を分けるものだと思い込んで、それぐらいならいいかと
軽い気持ちで頷いてしまった。



 『・・・・・子供みたいにはしゃいじゃって』
 浜辺から森に入ってそれ程歩かない所にその泉はあった。
木々の間から海は見えないがまだ潮の匂いが届くような場所なので、もしかしたらこの泉も塩っぽい味がするのかとも思ったが、山
水が流れ込んでいるそれはちゃんと飲める水のようだった。
 『凄いなあ』
 珠生の頭の中でイメージした泉というものは、直径がせいぜい3、4メートルくらいの丸い小さな水溜りというような感じなのだが、
実際には10メートルはありそうな結構大きなものだ。
乗組員達は直ぐに飛び込み、身体を洗うというよりは水浴びをして遊んでいるという感じではしゃぎだした。
取り残された形の珠生は、その騒ぎに中に飛び込むのも躊躇いがあってどうしようかと立っていいたが、ポンと肩を叩かれて振り向
くと、そこには既に上半身裸になったラディスラスが笑いながら立っていた。
 「どうした、タマ、入らないのか?」
 「えっと・・・・・」
 「煩い奴らは帰らせるから、少しゆっくりつかって帰ろう」
 「みんな、いない?」
 「ああ。2人だけだ」
 「・・・・・」
(な、何か、変な言い方に聞こえるんだけど・・・・・)
その口調が妙に引っ掛かり、珠生は思わず止めようとしたが、
 「おい!お前ら一浴びしたら先に戻ってろよ!」
号令のように響くラディスラスの声に、一同は心得ているかのようにいっせいに泉から出て行った。



 濡れた身体のまま(これぐらいで風邪をひく者はいない)来た道を戻っていく乗組員達を見送ったラディスラスは、どうしようかと服
に手を掛けたまま立っている珠生を振り返った。
(逃げなかったか)
そのまま乗組員達と帰ることも出来たのに、律儀に残っていた珠生。足が痛いから動けなかったのかもしれないが、それでも今こ
こにいるという事がラディスラスにとっては重要だった。
丁度今、珠生の保護者役のアズハルはここにはいない。
ここには・・・・・2人だけだ。
 「・・・・・タマ」
 意識して声を落として名前を呼ぶと、珠生の身体がビクッと震えた。
 「入ろうか?」
 「ラ、ラディ、先いーよ。俺、後で、1人、入る」
 「どうして?足が痛いんだろ?俺が支えてやるぞ」
 「で、でもっ」
 「・・・・・」
(ちゃんと覚えてるようだな)
最後まで抱いたのはたった一度だ。
それでも、その強烈な感覚は珠生の身体からは薄れていないらしく、意味深に声を落として視線を向けるとどうしていいのか分か
らないかのように身体を小さくしている。
こんな場所で最後までするつもりは無いが、少しくらいの味見は許されるだろう。
 「タマ」
 「ラ、ラディ、俺・・・・・」
 「身体を洗ってやるから、ほら」
珠生に向かって伸ばした手。
珠生がその手を掴むことを、ラディスラスは疑わなかった。



(お、俺、何してるんだろ・・・・・?)
 胸近くまである深さの泉はやはり冷たかったが、今の珠生はその冷たさに神経がいくことがなかった。
それは、重なったラディスラスのくちづけがあまりに激しいものだからだ。
 「んっ、ん〜っ」
既に上半身の服は脱がされ、むき出しの背中をつっと撫でられると、ゾワゾワとした感覚に襲われてしまう。
(何なんだよ、これ〜っ?)
 「・・・・・んぁっ」
クチュッと艶かしい音がして離れた唇。
 「どうした、タマ」
 「・・・・・」
(な・・・・・に?)
目の前で動いているのは、少し厚めの濡れた唇。なぜ濡れているのか、珠生は考えることが出来なかった。
 「・・・・・可愛いな、お前は」
 「ラ、ディ?」
 「疲れてるんだろう?眠ってもいいから、このまま少し触らせてくれ」
 「さわる・・・・・」
(そんなの、やだ・・・・・)
男に触れられるのなど気持ちが悪いだけなのに、ラディスラスの大きな手で撫でるように触れられると、なぜだか安心してしまう。
寒くて尖っていた乳首を甘噛みされ、そのまま大きな手がズボンの隙間から潜り込んできて・・・・・。
 「ひゃ・・・・・っ」
ペニスを、直に握られた。
さすがに腰を引こうとした珠生の耳に、ラディスラスが誘うように囁く。
 「気持ち良いことしかしないから、タマ、ほら、力を抜け」
 「あ・・・・・んっ」
他人の手に与えられる快感に、珠生はそのまま甘い悲鳴を上げてしまう。
思わず伸ばした手はラディスラスの首に回り、もつれる様に動く2人のせいで鳴るバシャッという水音が月夜に響いた。