子犬と闘犬2











 幼いと思っていた暁生の顔が官能に染まっている。
苦痛を耐える眉間の皺も、閉じきれない口から覗く赤い舌も、普段の暁生の姿からはとても想像出来ないほどに艶っぽく、楢崎
は自分のペニスが既に支えが要らないほどに勃ち上がっていることに気付いた。
 この歳になり、動物のようにセックスがしたいと思うことはなくなっていたし、現に暁生のことも数年間最後まで抱かなかったくらい
だが、どうやら己の欲情は無意識のうちに押さえ込まれていたようで、それを解放した今、自分でも驚くほどに暁生のことが欲しく
て欲しくてたまらなかった。
 「暁生」
 「な・・・・・ら・・・・・っ」
 身体の中から愛撫をされ、既に意識もとんでいるというのに、名前を呼べば必死に楢崎を捜そうとしている様が愛おしい。
全身で好きだと告白されているようで、臆病な大人の男である楢崎はそんな暁生の言葉に縋ってしまった。
 「も・・・・・っ」
 焦れたように腰を揺らす暁生は、もう入れてもいいと訴えたが、楢崎は暴走しそうな自分の欲情を抑えてまだだと低く呟く。
確かに内壁を抉る指は3本に増えたが、纏わりついてくる中はまだ酷く狭くて、このまま突き入れてしまえばきっと暁生の中を傷付
けてしまうと思った。
 「もう少しだ」
 もっとそこが良く見えるように、暁生の腰の下に枕を置き、さらに身体を折り曲げてしまう。暁生は苦しそうに呻いたが、それでも
止めてとは言わなかった。
 「い・・・・・から」
 「我慢しろ」
 「で・・・・・も・・・・・っ」
 涙で潤んだ瞳を向けられると、楢崎の気持ちもグラグラと揺れ動いてしまうが、初めてのセックスで暁生を傷付けたくはないし、そ
れで恐怖を覚えられてしまっては次に抱くことが出来ない。
 「俺のために、我慢してくれ」
 これからも身体を重ねていく大切な相手だからこそ、最善の方法で抱きたい。自分の我が儘だと分かっていたが、楢崎は宥め
るようにそう言うと、暁生の濡れた頬に唇を寄せた。




 身体の中はもうグズグズに蕩けているというのに、楢崎はなかなかペニスを入れてくれない。
自分のためを思い、始めの慣らしをきちんとしてくれているということは十分分かっているつもりだったが、彼の太い指で身体の内
側を触られると、切なくて、苦しくて、それ以上にもっと奥の方まで楢崎で染めて欲しくて、物欲しげにしていると思われるのを承
知で誘いを掛け続けた。
 「い、れて」
 「・・・・・」
 「もう、い、から・・・・・っ」
 「暁生」
 大好きな声が、濡れた響きを纏っている。何時も、恋人というよりは保護者的な位置にいる楢崎が、自分を欲しがって欲情し
てくれている証だ。
(嬉し・・・・・よ)
 ようやく、今日の日を迎えたのだ。たった1人、この人だけだと決めた相手が自分だけを見てくれる幸せ。この幸福感を抱いてい
る今ならば、少々の痛みなど快感に変えてみせる。
 「・・・・・っ」
 暁生は手を伸ばし、楢崎のペニスに指先を触れた。
 「・・・・・っ」
 「勃・・・・・ってる」
(俺のこと、ちゃんと欲しいって、思ってくれてる・・・・・っ)
厳ついと言われる彼の眉間の皺が深くなるのを見て少しだけ笑った暁生は、
 「入れて・・・・・っ」
そう、もう一度強くねだった。

 グプッ

 その瞬間、蕾の中を自在に動いていた指が引き抜かれ、直ぐにトロトロした液がそこに滴り落ちてきて、続いて滑った、温かいも
のが押し当てられる。
 「力を抜いていろ」
 「う・・・・・んっ」
言われた通り、はぁと大きく口を開けた暁生が自然と身体の力を抜いた時、

 ズリュッ

圧倒的な質感と熱さのものが蕾の中に侵入してきた。




(きつい・・・・・っ)
 指3本で十分慣らし、ローションも滴るほどにそこに塗りこめたというのに、暁生の蕾はぎっちりとペニスの先端を締め付けたまま
奥への侵入を拒んだ。
 ここが一番太い部分なので、これさえ中に入ってしまえば後は押し込んでしまうだけなのだが・・・・・楢崎は上気していた暁生の
顔が一気に白くなったのに気付いて口の中で舌を打つ。
 今の状況では、快感よりも痛みの方が勝っているはずで、楢崎としてももちろん快感だけを感じさせたいと思うのだが、今の状
況ではとても無理だろう。
 「暁生」
 「ふ・・・・・ぐ・・・・・っ」
 「暁生」
 「うぅぅぅ・・・・・っ」
 「・・・・・」
(俺の声が聞こえていないのか)
 暁生は自分の身体の中に侵入してくる異物を受け止めるのに精一杯で、楢崎の声を聞き取ることまでには意識が向いていな
いのかもしれない。このままでは痛みだけが長引くだけだと、楢崎は暁生のペニスに指を絡めた。
 「!」
 ビクッと跳ねた身体と共に、蕾もさらに強く楢崎のペニスを締め付ける。
快感というよりも痛みに近い感覚だったが、もちろん暁生にそんな表情を見せることなく、楢崎はそのまま暁生の萎えたペニスを擦
り始めた。
(・・・・・少し、緩んだか)
 初めて経験する男同士セックスだが、女相手にアナルセックスをしたことがないというほどに清廉潔白な人間ではない。要はその
要領なのだろうと思いながら、一方ではやはり男と女の身体は違うのだという意識もちゃんと持っている。
 男の快感の弱点でもあるペニスを嬲り続ければ、暁生の蕾は徐々に締め付けを緩めてきて、楢崎はそのタイミングを計りながら
少しずつ腰を進めた。
 「い・・・・・た、い・・・・・っ」
 「暁生」
 「痛っ・・・・・あっ、んっ」
 涙と汗と唾液で汚れている顔を苦痛で歪めている暁生を憐れに思う。自分などと出会わなければ、この素直で寂しがりやな
青年は女相手に普通の恋をしたはずだ。
 しかし、もう・・・・・出会ってしまった。
そして、こんな風にペニスで身体の奥深くまで犯そうとしている。手放すことなどとても考えられなくて、楢崎は荒い呼吸を続ける暁
生にすまんと呟いた。




 グッ グッ

 ズリュ グチュ

(はい・・・・・って、る・・・・・よっ)
 少しずつ、少しずつ、楢崎のペニスが自分の身体の奥深くまで押し入ってくるのが分かる。
こんな風にゆっくりと動くことが男にとってどれほど我慢が必要なことか、同じ男の自分も十分分かっていて、暁生は自分の身体
を気遣う楢崎に何度も口の中で謝罪をした。
(ごめんなさい・・・・・ごめんなさい、俺・・・・・)
 これが女ならば、始めから楢崎のペニスを受け入れる場所を持っていて、彼も直ぐに快感を感じることが出来るはずなのに、男
の自分の身体ではなかなか彼を楽しませることが出来ない。
 身体の力を抜かなければと思うのに、全身が緊張して、思うように動けない。
暁生は、ギュッと楢崎の腕を掴んだ。
 「暁、生?」
 額に汗が滲み、真剣な顔で自分を見下ろしている大好きな人。
 「激しく、して」
 「おい」
 「俺、だいじょ、ぶ」
男だから、多少激しくされても壊れることはないのだと、何とか言葉を押し出して伝えた。
そんな自分を苦しそうな表情で見下ろしてきた楢崎は、少しして足を抱え直し、腰をグッと上げられる。
 「すまん」
 「・・・・・」
(謝らなくったっていいのに・・・・・)
大好きな人に余裕無く求められるのは嬉しいのだと、暁生は一気に押し入ってきたペニスの大きさに呻きながらも笑みを浮かべて
いた。




 「激しく、して」
 愛しい者からそんな風に求められて、楢崎は断ることはとても出来なかった。
 「すまん」
形だけの謝罪をして抱え上げた足を大きく開き、一気に根元までペニスを押し込む。ぐっと苦しそうな暁生の声が耳に届いても、
自分の下生えが暁生の滑らかな尻に当たるまで、楢崎は腰を押し進めた。
 「・・・・・っ」
ペニスに愛撫を続けているせいか、中はきついながらも楢崎のペニスを飲み込んでいき、やがて自分達の下半身はこれ以上ない
ほどに密着する。
 「暁生」
 強く目を閉じ、爪が食い入るほどに強く己の腕を掴んでいた暁生に、楢崎は全部入ったと告げた。
 「ほ・・・・・と?」
 「ああ。全部、ちゃんと飲みこんでくれている。偉かったな」
頬を濡らす涙を拭うように指を動かせば、うっすらと目を開いた暁生は恐々と自分の下半身へと視線を向けている。腰が上に引
きずり上げられている体勢なので、自分の蕾に楢崎のペニスが突き刺さっている様子は見えただろう。
 「す・・・・・ごい」
 その感想に、楢崎は思わず笑った。暁生らしいと思ったのだが、その振動で中に収まったペニスが揺れてしまったらしく、内壁を
刺激された暁生が締め付けてきて・・・・・。
 「動くぞ」
 「う・・・・・ん」

 ズリュ グチュ

 ゆっくり、ペニスを半分まで引き抜くと、今度は少し角度を変えて中へ押し入った。
きついほど締め付けてきた暁生の内壁は、時間が経ち、ペニスで刺激するごとに柔らかくうねりだし、少しきつめだが楢崎のペニス
を刺激し始めた。
 「んっ、はっ、はっ」
 暁生の漏らす息の中にも、少しだけ艶めいた色が混じってくる。もちろん、苦しそうな表情の方がまだ強いが、痛みの中にも僅
かな快感を感じてくれているのならば嬉しかった。
 「暁生」
 浅く、深く、ペニスを動かし、やがて楢崎はこみ上げてくる熱に腰を震わせる。本当は、このまま暁生の中でイッてしまいたかった
が、今はコンドームをつけておらず、初めての暁生に中に出すのはやはり辛いだろう。
 「・・・・・っ、暁生っ」
 グチュッとペニスを引き抜いた楢崎は、自分で何度か扱いて暁生の白い腹に精液を掛けた。
トロッと粘ついた白い液が、暁生の薄い腹を汚すのは倒錯的で、楢崎はまだ萎えていないペニスでさらに貫きたい衝動にかられた
が、暁生の身体に負担にならないように今回は一度だと始めから決めていた。
 「・・・・・」
 たった今まで楢崎のペニスを含んでいた蕾は濡れたままヒクヒクと蠢いていたが、楢崎は強引に視線を逸らし、そのまままだイッて
いない暁生のペニスを扱いてやる。
 「あっ、あっ、んっ!」
 その刺激で、暁生は呆気なく精を放った。
暁生の肌を彩っているのは、自分と暁生、2人分の精液。交じり合って、そのまま暁生の身体を濡らして・・・・・その光景を見れ
ば、楢崎は自分の心の中の凶暴な顔に気付いてしまう。
 しかし。
 「な・・・・・ら、さ・・・・・」
濡れた瞳で、
 「う・・・・・れし・・・・・い」
覚束ない声でそう言われたら、これ以上の無理を強いることは出来ず、楢崎は暁生の濡れた前髪をかき上げてやり、よく頑張っ
たなと言った。
 「お、れ、でき、た?」
 「ああ」
 「じゃ・・・・・なら・・・・・さ、は、おれの、もの?」
 「・・・・・っ」
(無意識でこれか)
 こんな可愛い言葉を言われ、楢崎は一瞬目頭が熱くなりかけたが、大人であるプライドを何とか保ち、ああとぎこちなく笑い掛
けた。
 「お前のものだ」
 その言葉で安心したのか、暁生は気を失うようにすとんと眠ってしまう。緊張し過ぎて疲れたのか、それとも身体を酷使し過ぎた
のかは分からないが、楢崎は苦笑してその顔をしばらく見つめた後、簡単に自分の浴衣を直して風呂場へと向かう。
あのまま寝かせたのでは風邪をひく。きちんと身体を拭いてやって、新しい浴衣を着せてやらなければならないだろう。
 「・・・・・」
 襖を開けた楢崎は振り返った。
セックスという生々しい行為をしたばかりだというのに、眠っている暁生の顔は以前と変わりなくあどけなく・・・・・それでも、自分の
中の思いは確かに変わったと感じる。
 「・・・・・放せるか」
 こんなにも自分の中に入り込んできて、お互いの身体を交えて。これでもう、自分は本当に暁生を手放してやることが出来なく
なってしまった。
そんな思いに幸せを感じるが、暁生はどう思っているのだろうか。明日目覚めれば今までの自分達とどう変わるのか、楢崎は怖い
という思いと同時に、楽しみさえも感じていた。