Love Song
第 1 節 Lentissimo
11
居心地が悪いまま、初音はウーロン茶を口にしていた。
最初は珍しく渋い表情をしていた裕人も直ぐに何時もの雰囲気に戻り、今目の前では都筑と顔を突き合わせるように話をして
いる。
その内容は特に初音に隠すようなものでもないらしく、都筑のバンドの為に書き下ろしたという楽曲のことやこれから出すアルバム
のことなど、本来のライターとしてならばとても興味がある話ばかりだ。
しかし、初音は裕人の隣に座って、黙って水割りを飲んでいる隆之のことが気になって仕方がなかった。
ずっと黙っているばかりではなく、裕人が話しかければ答えるし、時折都筑が質問してもそれには口を開く。
ただ、積極的には話さない隆之に、初音はやっぱり自分の存在が邪魔なのではないかと思ってしまった。
「・・・・・あの、広瀬さん」
「・・・・・」
何と返事をする代わりに目線を向けてくる隆之に、初音は次に何を言おうか迷ってしまった。
(あ、そうだ)
しかし、ふと思い出して傍に置いていたカバンを引き寄せると、その中からゴソゴソと少し大きめの手帳を取り出して言った。
「これ、見てください」
「・・・・・写真?」
「この間のプロモの時の写真です」
「・・・・・」
「これ、良く取れていると思いませんか?」
それは、プロモの様子を記録していたカメラマンが試し撮りをしていたインスタントカメラで撮った写真だった。
随分カメラマンを信頼しているのか、隆之の表情は撮られているという意識はまるでないほどに自然だ。ふとした表情のどれもが、
隆之自身も意識していないものばかりだった。
「・・・・・いいなあ」
初音がテーブルの上にばら撒かれていく写真の数々に目を奪われて食い入るように見つめていると、そのあまりの熱心ぶりにカメ
ラマンが内緒だからなと3枚だけ写真をくれた。
外に流出などしないその写真・・・・・それは、初音の大切な宝物になった。
「・・・・・これ」
「はい!」
初音は隆之の方から話し掛けてくれたので、自然とその頬を緩めて大きな声で答える。
そんな初音を見つめながら、隆之はゆっくりと1枚の写真を指先で掴んだ。
「どうしてお前が持ってるんだ?」
「え?」
「これ、試しのポラだよな?」
「・・・・・あ」
その意味を考えた時、初音の頬は真っ赤になってしまった。
(じ、自分で見せてどうするんだよ、俺〜)
都筑はじっと横目で初音と隆之の様子を見ていた。
(こんなに・・・・・親しかったのか?)
職業柄、初音が隆之を取材する事は十分有りえるし、その上で言葉を交わすことなんて普通だろうが・・・・・。
「どうしたの?」
「え?」
「隣、気になるみたいだけど」
1メートルとも離れていない隣の様子を気にしていることに敏い裕人は気付いているようだった。
少しだけ声を落とし、心もち都筑に顔を寄せた裕人は、チラッと隆之と初音に視線を向けながら言った。
「君、彼とどういう関係?」
「・・・・・先輩と後輩ですよ」
「それだけ?」
「男同士ですよ。それ以上何があるというんです」
いくら音楽の才能を尊敬している相手とはいえ、そう深く知り合ってもいない相手に自分の気持ちを言うほど都筑も馬鹿では
ない。
それに、もう過ぐデビューするのは、自分1人ではないのだ。
「お利口さんな答えだね」
「・・・・・それよりも、あっちはどうなんですか?」
「初音ちゃんがタカのファンだって事は君も知ってるんだよね?」
「ええ」
それは、もう暗唱が出来るほどに初音から聞かされてきた。
自分がどんなに【GAZEL】が好きか、その詩に癒されているか。隆之の歌を・・・・・好きでいるか。
熱のこもった初音の言葉を聞いているうちに、自分にもそんな熱い想いを向けてもらいたいと思うようになった・・・・・。
(ただ、行動に出る勇気はなかったがな)
「邪魔しないでよ?」
都筑は顔を上げた。
「邪魔?」
「あの2人」
「男同士ですよ」
「そんなの、表面上の性別だよ。男同士でも愛し合えるし、セックスだって出来るよ」
「・・・・・まるで、経験者みたいなことを言うんですね」
「ふふ、どうかな」
「あ、あのですね、べ、別に取ったわけじゃなくて・・・・・」
隆之は慌てたように顔を真っ赤にして言い訳をする初音をじっと見つめた。
テーブルの上にあるのは、どういった拍子でか少し笑った自分の顔の写真で、何時もの意識的に撮らせている【GAZEL】のタ
カの顔ではない。
少し幼い表情の自分のこの写真を、初音は大事に持っていてくれた。
「ご、ごめんなさい、直ぐに返しますからっ」
「・・・・・いいよ」
「で、でも」
「持ってていい」
先程まで感じていたイライラした気持ちが、たちまちの内に消えていくのが分かる。
初音の気持ちが自分に向けられているという心地良さに、隆之の口元にはうっすらとした笑みが浮かんでいた。
![]()
![]()