大勢が集まれるサロンに、様々な服を着た様々な人種が集っていた。
 「大体、1対1だから駄目なんだって」
 「うん!ちょっと目を離すと他にスケベっぽい視線を向けるし!」
 「手だって堂々と出してくるしな」
 「せ、せっかくみんな一緒にいるんだから、大勢の方が楽しいし」
 「うん、大勢の方が面白いって」
不思議な世界に迷い込んでしまった少年達が口々に言えば。
 「そうだな、不思議な世界の話も聞きたい」
 「あ、僕も」
 「本当に、不思議な世界」
異世界の王子達はのんびりとした態度をとっている。今回は本当に特別な時間ということで、彼らはそれぞれの伴侶(または恋
人と)楽しんでいるようだった。



 碧香は、昂也や龍巳に対する兄の態度が心配で落ち着かなかったが、どうもこの3人が・・・・・と、いうよりは、兄が2人に歩み
寄る様子は無く、反対に、昂也は紅蓮のことなど全く気にも止めていないように龍巳と楽しそうに話している。
 龍巳のこんな表情は碧香も見たことが無く、やはりこの2人には強い絆があるのだなと感じた。
すると、
 「碧香」
不意に、昂也が碧香の名前を呼んだ。
昂也が碧香の名前を呼び捨てにしたことに紅蓮の眉が不機嫌そうに顰められたが、碧香はもちろん不快な思いなどせず、むしろ
親しみを感じて嬉しく思いながら2人の側へと歩み寄った。
 「トーエンのこと、よろしくな!違う世界だけど、同じ目的でお互い頑張ってるんだからさっ」
 「え、ええ、もちろんです、昂也。昂也、どうか、兄様を・・・・・」
 「ん〜、俺は、まあ、思うとこもあるけど、済んじゃったことをネチネチと恨むことはしたくないんだよな。でも」
昂也が紅蓮を振り返ると、こちらを見ていたらしい紅蓮は反射的に視線を逸らしている。
 「あれだもん」
 「・・・・・はあ」
 「大丈夫だって、碧香。あいつには俺以外にちゃんと仲間がいるみたいだし、時々頼りになる時もある感じがするし。何とかなる
んじゃないかって思ってるからさ」
 こうして昂也の言葉を聞いていると、本当に出来ないことは無い感じがする。
(昂也が選ばれて良かった・・・・・)
きっと、昂也や龍巳が選ばれた事には意味があるとは思うが、碧香はそんな難しいことは関係なく、昂也と龍巳と出会えたことを
嬉しく思う。
そして、兄紅蓮も、昂也との出会いで良い方へと変わって欲しいと思った。
(きっと・・・・・昂也ならやってくれるはず)



 この動く箱から出てしまえば、又しばらくは莉洸と会えなくなってしまう。
間近に洸聖と悠羽の婚儀が迫っており、それには帰国する事は決まっているとは、それまで会えないということはやはり寂しい事に
は変わりなかった。
特に洸聖は稀羅のことを今だに信用し切れていないので、どうしても莉洸に対して戻ってくるようにという趣旨の言葉を言ってしま
う。その兄の繰言に、莉洸は困ったように微笑んだ。
 「ご心配、ありがとうございます、洸聖兄様。でも、僕は本当に稀羅様に大切にして頂いていますから」
 「・・・・・まことか?」
 「はい。ね?」
 そう言って莉洸が稀羅を振り向くと、冷たい稀羅の眼差しが緩んだのが分かった。
 「もちろんだ」
この表情の変化を見れば、誰が見ても稀羅の莉洸に対する気持ちは分かるはずなのだが、兄としては、自分よりも年上の、それ
も男に嫁ぐ弟がどうしても心配だった。

 眉を顰め、むすっと口を引き結んだ洸聖を見て、悠羽は溜め息混じりに笑ってしまった。
(本当に、莉洸様が可愛いんだな)
悠羽も弟がいるので、兄としての気持ちはなんとなく分かる。ただ、洸聖と莉洸とは違い歳の差というものがほとんど無いので、同
じ兄弟としてもその感情に違いはあるだろうと思った。
 「洸聖様は、莉洸様を本当に大切に思ってらっしゃるのですね」
 「弟だ、当たり前だろう」
 「少し妬いてしまいそうです」
 「な・・・・・っ」
 突然の悠羽の言葉に、無防備だった洸聖はカッと顔を赤くした。
 「可愛い、洸聖様」

 「兄上を可愛いと言えるのは、きっと悠羽殿くらいだろうな」
 気難しく、プライドの高い兄を恋愛馬鹿にしてしまった悠羽を見つめながら洸竣が言うと、悠羽はにっと口元を緩めた。
 「洸竣様を可愛らしく変化させるのは黎だけですね」
 「悠羽殿、それは・・・・・」
 「人のことばかりに気を回されていると、幸せはなかなかその手に落ちてきませんよ、洸竣様」
 「・・・・・まいったな」
悠羽の言葉は一々その通りで、洸竣は言い返す言葉も無い。
 「・・・・・」
チラッと見た黎の頬は赤く染まっているが、怒っているということは無さそうで、その反応に洸竣も思わず口が滑ってしまった。
 「黎、どうやったら私の手に落ちてくれる?」
 「・・・・・っ、わ、分かりません!」
 日頃聞いた事がないような大きな声でそう言った黎は、洸竣から大きく視線を逸らして(顔を赤くしたまま)こちらを振り返ってくれ
なくなった。



 どう見ても思い合っている者同志の甘い駆け引きにしか聞こえない会話に、洸莱はふうっと溜め息をつく。
(洸竣兄上は、好きな者を苛めたい性格なんだな)
生真面目な長兄とは違い、色恋事に慣れているくせに、変なところで照れてしまっている洸竣は不器用な人だと思う。
 「好きなら、優しく、大切にすればいいのに」
 「・・・・・誰もが、洸莱様のように真っ直ぐな性格をなさっていませんから」
 「サラン?」
 洸莱がサランの顔を覗き込むと、サランの頬には少しだけ笑みが浮かんでいる。
その笑みの意味が知りたいと思ったが・・・・・今は知らなくてもいいかもしれないとも思った。



 じっと視線を向けられるのは覚悟をしていたものの、やはり居心地がいいものではない。
千里はこの場で唯一着物(それも十二単)を着ている自分の姿を見下ろして、あ〜あとこの立場を恨めしく思っていた。
 「・・・・・やっぱり、変だよな、俺だけこんな格好・・・・・」
 「そんな事ないですよっ、すっごく似合ってるし!ねえ、蒼さん」
有希がそう言うと、蒼も大きく頷いた。
 「そうだよ!変な化粧をゴテゴテしてるわけじゃないんだし、飛ばされた世界が平安時代なら仕方ないんじゃないかな〜、ねえ?
珠生」
有希の言葉に同意を示した蒼が、さらに向かいに座っている珠生へと話を差し向ける。
 「うん、俺も着物って好き。さすがに、十二単は着ないけど」
 「・・・・・」
 「珠生、それって言い方変だって」
 「え?どこが?俺、変な言い方した?」
 「変って・・・・・いうか、ちょっと、ズバッと言い過ぎというか・・・・・」
 「え〜、ねえ、そう聞こえた?」
 聞こえた・・・・・と、言ってもいいのだろうか。
千里はそのまま口を開き掛けたが、本当に分からないというように不思議そうな顔を向けてくる珠生に何と言っていいのだろうかと
思わず考える。
(本当に俺より年上?)
 確か、大学に通っていると聞いた。それなのに、思考は高校に入学したばかりの自分とさほど変わらないようだ。
悪気が無いだけに文句も言えず、千里はどうしようかと目線を泳がせた。



 「美人は何を着ても美人なんだからいいんじゃないか?少し歩きにくそうだが、その服は彼によく似合っていると思うぞ」
 お互いの顔を見合わせていた少年達に声を掛けたのはラディスラスだった。
珍しい黒髪に黒い瞳の人間がこんなにもいるのだ。その誰もが個性の違う美人だと、ラディスラスは目の保養だというように笑って
いたが、他の伴侶達は面白くないようだ。
 「お前、どの様な身分の者かは知らぬが、私の妻に怪しげな目を向けるのは止めてもらおうか。ちさとは帝であるこの私の妻だ、
お前など、本来は目通りも叶わぬ存在であるぞ」
 「つ・・・・・」
 「妻ぁ?」
 「馬鹿!変な言い方するなってば!」
 昂耀帝の言葉に思わず声を上げてしまった珠生、蒼、有希の3人に、千里は違う違うと慌てて言い訳を始めた。
 「それって、彰正の国の習慣でそう言われてるだけで、俺は全っ然、そんな気はないから!」
 「別に、変なことじゃないよな、有希」
 「そ、そうですね、僕達も・・・・・ですし」
 「・・・・・あ、そう、だっけ」
顔を合わせて顔を赤くする3人を見ていたラディスラスは、何かを思いついたように珠生に近付いた。
 「なあ、タマ、お前もどうだ?」
 「どうって?」
 「いっそ、俺の妻にならないか?」



 「・・・・・って!」
 何を言ったのか、小柄な少年に頭を叩かれるラディスラスを見て、アルティウスはざまは無いと鼻で笑った。
先程から有希に対して変な目を向けている男に腹に据えかねていたものが、あの少年のおかげで少しはすっきりとした気分になっ
たのだ。
 「世の中には変わった男もいるものだな、なあシエン王子」
 「まあ、世界は広いですから」
 「・・・・・お前は何時も含んだ物言いをする」
 「それこそ、変わった男なのですよ、私も」
 そろそろ譲位をされるかという噂のシエンは、蒼という伴侶を得てからますます自信に満ちた言動になっている。
(・・・・・これは、私も気を引き締めなければならないな)
隣国で、お互いの伴侶が同じ世界の人間だということで、今のところ両国は友好関係にあるが、何時何かの拍子に敵対関係に
なるかも分からない。
もちろん有希の為に、そして、心底では気に入っている蒼の為にそんなことにはならないようにするが、アルティウスは自国の更なる
繁栄の為にも甘いだけではいられないと決意していた。



(世の中には不可思議なことが多いな・・・・・)
 蒼と同じ世界の人間が、様々な世界に呼ばれているということはシエンにとっても衝撃的だった。
それは、もしかしたらまた、蒼がどこかへ行ってしまう可能性もあるということに気付いたからだ。
(今更ソウを手放すことなど考えられない・・・・・)
 ようやく見付け、手に入れた愛しい相手だ。この手から放すことは絶対に考えられない。
 「・・・・・ソウ」
 「え?何、シエン」
名前を呼ばれ、躊躇い無く自分に向けられる綺麗な黒い瞳。その瞳に映る人間が自分以外に・・・・・考えるだけで胸の中が嫉
妬で焦がれてしまう。
 「・・・・・いえ、楽しかったですか?」
 「うん!久し振りに有希とも会えたし、他の友達も出来たしね!許してくれてありがとう、シエン!」
 「いいえ」
(私がこんなことを考えているというだけ、ソウに対して失礼だな)
お互いの愛情を信じなければと、シエンは蒼に向かって小さく微笑んだ。



 「そろそろ、終わりだなあ」
 「・・・・・うん、寂しいな」
 そろそろ、この不思議な列車の旅も終わりに近付いている。
寂しいと呟いた珠生の言葉に、懐かしい故郷と再び離れなければならない者達の目には寂しさが浮かんでいるものの、その隣に
は支えてくれるそれぞれの世界の愛しい相手がいる。
一部はまだ、その事実を認めていない者もいれば、恋愛感情自体抱いていない者もいるが。
 「あ、最後に写真撮ろうよ、写真!」
 「誰もカメラ持ってないんじゃない?」

 「・・・・・俺、持ってる」

 「!」
 そう切り出したのは龍巳だった。
 「トーエン、でかした!!」
 「よし!写真写真!」
 「でも、持って行けないよ」
 「トーエン、ちゃんと保管してろよっ?また、きっとみんなと会えるはずだからさ!!」





その後、いきなり光ったフラッシュにまたまた騒ぎが起こるのだが・・・・・それはそれぞれの胸に楽しい思い出として息づくものに違い
が無かった。






                                         






これで、異世界の面々の話は終わりです。
次回は社会人部屋のラストへ続きます。