マコママシリーズ





第一章  懐妊編   6






 真琴は不安そうに駅から出てくる人々の波に目を向けている。約束の時間の電車はもう着いた頃で、そろそろ・・・・・。
 「あ」
人波の中に、特別に浮き出てきた2つの頭。
 「「マコ!!」」
大柄な男が2人駆け寄ってきたかと思うと、両側からギュッと真琴を抱きしめた。
 「久しぶりだな!なかなか帰ってくれなかったから寂しかったぞ!」
 「あの男が帰してくれなかったんだろっ?」
 「に、兄ちゃん達・・・・・」
 「あ〜、久しぶりのマコだ〜」
 「相変わらず可愛いな〜っ!」
 「に、兄ちゃん達ってば、恥ずかしいよ、こんなとこで・・・・・」
口では文句を言いながらも、真琴の目も頬も嬉しそうに緩んでいる。
現われたのは、真琴の兄達、長兄真咲と、次兄真弓だった。



 自分の妊娠を家族に知らせなければならないと思った時、真琴は先ずは兄達に伝えようと思った。
既に海藤との事を知っている兄達ならば・・・・・そう思ったのだが、同性の恋人がいるということと、子供が出来たということは全
然違うかもしれない。
泣かれ、反対されるかも知れないが、とにかくきちんと伝えなければならないだろう。
 「マコ、どこに行く?美味いもんでも食いにいくか?」
 「いや、せっかく会えたんだ、どこか遊びにいくか?」
 「・・・・・あのね、海藤さんがお店を予約してくれてるから」
 「「・・・・・あいつが?」」
 真咲と真弓は顔を見合わせて眉を顰めた。
事後報告という形で知った真琴と海藤の付き合いを、渋々認めたとはいえ今だ納得していない2人は、せっかくの真琴との時
間を海藤に邪魔されることが不服のようだった。
 しかし、今回はちゃんとした報告を2人でしようという海藤の言葉に、真琴は渋る2人を引きずってでも待ち合わせの場所に
連れて行かなければならない。
 「兄ちゃん」
 「・・・・・」
 「兄ちゃん」
 「・・・・・しかたないな」
 「マコがそんなにいうんじゃ・・・・・うわあ!」
 不意に、今まで真琴の肩を抱いていた2人の身体が押し分けられるように離されたかと思うと、真琴の正面にはもう1人の懐
かしい顔が現われた。
 「真ちゃんっ?」
 「マコ!」
 「「真っ?」」
真琴の腰をしっかりと抱きしめたのは、夏から比べると随分と背が伸びた末っ子、真哉だった。



 上の兄達が2人でこそこそと話しているのを聞いた真哉は、その気配から2人が真琴に会いに行くのではないかと推察した。
多分、連れて行ってと真っ向から頼んでも却下されることは目に見えていたので、真哉はこっそりと後をつけて東京まで出てき
たのだ。
 「マコ、久しぶり!どうしてなかなか帰ってくれないんだよ!」
 「ごめんね、真ちゃん」
真琴が昔から末っ子の自分に甘いことを知っているので、行ってしまえばそのまま追い返されるとは思わなかった。
現に、目の前の真琴は少し困った顔をしているが、怒った声は出さない。
真哉は内心ガッツポーズをすると、唖然としている長兄と次兄を見上げた。
 「俺を仲間外れにしないでよ」
 「真」
 「マコ、俺も海藤さんに会う。いいよね?」
真琴が真哉に弱いのと同様に、2人の兄達も少し生意気だが利発で可愛い末っ子が可愛い。
ここまで来た真哉を追い返すことはとても出来ず、3人の兄達はそれぞれ別の意味で溜め息を付いた。



 高級中華料理店の個室で待っていた海藤は、ぞろぞろと姿を現わせた西原兄弟をじっと見つめていたが、その最後に姿を
見せた真哉の姿に僅かに目を見張った。
 「真琴」
 「ごめんなさい、真ちゃんも来ちゃって・・・・・」
 「こんにちは。前は勝手に押しかけたのに色々お世話になって、ありがとうございました」
 「いや」
(相変わらず度胸がいいな)
 堂々と自分に対する真哉は、苦手意識でこちらを見ている2人の兄達よりはよほど肝が太い。
海藤は口元に苦笑を浮かべた。
自分と真琴が恋人同士だということは知っているはずの真哉だが、子供まで出来たという生々しい話を聞いてもこんな態度を
とっていられるだろうか・・・・・?
そうは思っても、多分この気の強い少年はこの場から自分が立ち去るとは思わないだろう。
(・・・・・いずれは知ることか)
海藤は静かに口を開いた。
 「好きなものを注文してくれ」
 「はい」
答えたのは真咲と真弓ではなく、末っ子の真哉だった。



 豪華な料理が次々とテーブルの上に並べられるが、それに手をつけようとする者はいなかった。
西原家の3兄弟は緊張したまま真琴と海藤を見つめ、真琴も少し強張った表情のままで座っている。
 「マコ、俺達に話したいことって何だ?」
 やがて、我慢しきれなくなった真咲が、3人を代表するように言った。
 「う、うん」
真琴はチラッと、隣に座る海藤に視線を向ける。
 「俺が言おう」
 「海藤さん」
 「こういうのは男の役目だろう」
 海藤は不安そうに視線を揺らす真琴に優しい笑みを向けると、目の前の3人に視線を向けて静かに言った。
 「真琴の腹には俺の子がいる」
 「「「え?」」」
声を揃えた驚きの言葉がいっせいに上がる。
多分、直ぐには海藤が言う意味が分からなかったのだろう。
 「腹に?」
 「子供?」
 「真琴と、あんたの?」
 同性同士で付き合う人間がいるということはかろうじて理解出来るとしても、男同士で妊娠など・・・・・子供が出来たなど、
直ぐに理解しろといっても無理というのが本当だろう。
ただ、自分の親代わりでもある菱沼に報告をした時、海藤は真琴の家族に対してもこのことを隠し続けるということはしないで
おこうと思った。
自分とは違い、ごく普通の家庭である真琴の家族。認めてもらえなくても、真琴と子供を日陰の身のままにしておくつもりは無
い。
真琴と子供を自分の籍に入れる為にも、報告だけはきちんとしておくのが真琴の為でもあり・・・・・自分の為でもあった。
 「あ、あの、子って、子供のことですよ・・・・・ね?」
 「ええ」
 「えっと・・・・・マコはこう見えても男ですよ?」
焦ったように言う真咲に、海藤は淡々と続けた。
 「それも分かっている。だが、真琴の腹に俺の子がいるのは本当だ。病院でも証明してくれてる、真琴」
 海藤が声を掛けると、真琴は慌てて鞄の中からエコー写真と、父子手帳、そして診断書を取り出した。
奪うようにそれをとった2人の兄は目を見開くようにしてそれらに視線を這わせる。
 そんな時、真哉が震える声で呟いた。
 「・・・・・ネットで見たことがある」
 「真ちゃん?」
 「最近、男でも妊娠する例が増えたって・・・・・でも、まさか、マコが・・・・・」
 「真ちゃん・・・・・」
 「マコが・・・・・」
真哉は突然バッとイスから立ち上がり、海藤を睨むように見下ろした。
 「あんたっ、ちゃんと避妊しなかったのかっ!」
 「ひ、避妊?」
とても小学生とは思えない真哉の言葉に真琴は目を丸くする。
しかし、海藤は真剣な顔を崩さないまま、真哉の真っ直ぐな目を見返した。





                                   





いよいよ登場しました、西原家3兄弟!
強烈なブラコンの2人の兄と、その上をいく末っ子の真哉君。学校ではきちんと性教育はされているようです。
彼らの許しを得るように頑張ってください、海藤さん(笑)。