マコママシリーズ
第一章 懐妊編 7
2人の兄達よりも先に海藤に噛みついた真哉をどうしたらいいのか、真琴は助けを求めるように兄達を見つめた。
それに答えるかのように長兄の真咲が真哉の肩を掴んで無理矢理イスに座らせる。
「真、ちょっと落ち着け」
「兄ちゃん達はいいのっ?マコがこいつの子供を生むっていうの、素直に認めてやるのっ?俺は嫌だ!マコは、俺の、俺達家
族のものなのに!」
「真ちゃん・・・・・」
真哉が混乱するのは分かる。
当の本人である自分も最初は信じられなかったし、今でもやっぱり・・・・・時々不思議に思う。
それでも、海藤との子供が出来たということ自体は嬉しかったし、2人の新しい家族を心から待ち遠しく思っていた。
(でも・・・・・そんなのは俺の勝手な気持ちなのかな・・・・・)
海藤が大切、子供も大切。
それと同じように、自分の兄弟や親も大切だ。
その大切な弟に激しく反対された真琴は、思わず泣きそうになってしまうのをグッと我慢した。泣き落としで認めてもらおうとは
思わないからだ。
「真ちゃん、俺、男で妊娠っていうのはおかしいかもしれないけど・・・・・真ちゃん、恥ずかしいかもしれないけど、この子、いら
ないなんて言わないでよ?ちゃんと、望まれて生まれるんだから・・・・・」
「バカ!マコ!そんなこと思うわけないだろ!」
「し・・・・・」
「俺が嫌なのは、マコが全部そいつのものになっちゃうってことなんだよ!」
海藤は内心安堵の溜め息を付いた。
真哉の攻撃が真琴の腹の子供ではなく、自分の方に向けられていると分かったからだ。
(それにしても、相当なブラコンだな)
真哉の真琴に対する思いは、一歩間違えば恋愛感情にさえなり得るぐらい強いもののようだが、今の真哉はそれに気付い
ていないし、海藤も気付かせるつもりはなかった。
「真、いいからお前は落ち着け。海藤さん、今言ったこと、本当なんですね?」
真琴や海藤がわざわざ自分達を呼び出してまで嘘や冗談を言うはずがないと思った真咲が確認するように訊ねる。
海藤は頷いた。
「本当だ」
「・・・・・うわ〜・・・・・マジかよ・・・・・」
「あ、兄貴」
真弓も呆然としたように真琴を見る。
「確かに俺も、何かで聞いた事がある、男で子供を産んだって話。でも、まさかマコが・・・・・お前がこの人と付き合ってるって
いうのは分かっていても、子供まで出来るって・・・・・」
真咲は困惑したように真琴の腹を見つめた。
「真が言った通り、避妊しなかったのかって言いたいくらいだよ・・・・・」
「兄ちゃん・・・・・」
「お前が、お前とこの人が付き合ってるって事は・・・・・今の時代、こういう事もあり得るのか・・・・・」
しばらく、誰もが口を開かなかった。
湯気をたてていた料理は冷めていったが、これ程美味しそうな食事を前にしても誰もが動こうとはしないままで・・・・・かなり時
間をおいて、真弓が小さな声で言った。
「・・・・・それで、どうするんだ?マコ」
「・・・・・」
「お前・・・・・帰って来いよ、子供連れて。男がこんなに揃ってんだ、子供の1人くらい育てられる甲斐性あるぞ?」
「マコ・・・・・、帰ってきてよ。俺、ちゃんと赤ちゃんの面倒見るからっ」
「マコ、とりあえずうちに帰ろう。親父やお袋や、じいちゃんだってきっと喜んで迎えてくれる。もともと大家族なんだ、1人くらい
増えたって全然大丈夫だ」
3人の兄弟が口々に言うのは真琴を気遣った言葉だ。
これ程に思い合う肉親というものが実際にいるのかと、海藤は客観的に見ていたが・・・・・。
「ありがと、真咲兄、真弓兄、真ちゃん。でもね、俺はみんなと家族だけど、海藤さんとも・・・・・家族になったんだ」
「マコ!」
「お腹の赤ちゃんのお父さんは海藤さんで、俺と、海藤さんと、この子は、もう家族なんだよ?だから、俺はこのまま海藤さん
の傍にいる。2人の、赤ちゃんだから、2人で、そだて・・・・・たい」
「真琴・・・・・」
真琴の頬に、涙が零れた。
それはやがて後から後から零れてきたが、真琴はそれに気付いていないようだった。
海藤が指で拭ってやって初めて、真琴は自分が泣いたことに気付いて慌てて手の甲で拭っている。
愛しくて・・・・・海藤は思わずその肩を抱き寄せてしまった。
「か、海藤さんっ?」
「お前!」
「あ、あんた!」
「マコを離せっ!」
口々に叫ぶ西原家の3兄弟を向けた視線だけで黙らせた海藤は、そのままはっきりと宣言した。
「真琴と子供は、俺の籍に入れる」
「!」
「なっ?」
「俺は真琴と家族になるが、真琴の兄弟であるお前達とも溝は作りたくはない」
(お前達って・・・・・そう言ってる時点で溝作ってるよ!)
真哉は精一杯の威嚇を込めて海藤を睨むが、その表情には少しも躊躇いはなく、誰が何を言おうともその言葉を実行しよ
うとしているのが分かった。
自分達に向かってこう言うのも、多分許しを得ようとしているのではなく、ただ単に決定事項を知らせているつもりなのだろう。
「マコ・・・・・」
「真ちゃん」
(くそ・・・・・っ)
もう、真琴は自分達の家族というだけではなく、目の前のこの男前の、しかしどこか尊大な態度の憎らしい男のものになって
しまったのを真哉は思い知っていた。
いずれ真琴は優しく可愛らしい人と結婚して、子供も生まれて・・・・・そう想像していた真哉の空想は全て無くなってしまい、
真琴は自分自身が子供の母親となってしまった。
「兄ちゃん・・・・・」
真哉は上の兄達を振り返る。
兄達の表情には、既に諦めの色が出ていた。
「・・・・・一度、家に来てください」
真咲が溜め息混じりに言った。
「両親に、ちゃんと挨拶してください。多分・・・・・俺達の両親は暢気で、そのくせ肝が太くて、多分、マコが妊娠したと聞い
てもおめでとうって喜ぶと思いますけど・・・・・」
「分かった」
「・・・・・」
(だからっ、その言い方が偉そうなんだよ!)
「それでいいな、真弓」
「・・・・・仕方ねえよ、子供がいるんじゃ・・・・・そいつは俺達の家族だ」
渋々頷いた真弓を見て頷いた真咲は、まだムッと口を尖らせている真哉に言った。
「真、お前ももう色々分かる年だよな?世間とは少し違うが、マコも、腹の子も、俺達の大事な家族ってことは・・・・・」
「そんなの分かってる!」
真哉は諦めの早い兄達を睨んだ。
「マコの子供を可愛がらないわけないだろ!」
「真ちゃん・・・・・っ」
嬉しそうに泣き笑いの顔になった真琴の隣には、憎いあの男が堂々と座っている。
どう足掻いても、子供が出来たという事実は大きく、きっと両親もこの2人の関係を許すだろうということは想像が出来、結局
真琴はこのまま全部この男のものになってしまうのだろう。
真哉はどうしても、すましたこの男の顔を崩したかった。
「俺っ、条件がある!」
「真っ?」
「赤ちゃんの名前、俺がつける!」
「え?」
「「真!!」」
真琴はまだ濡れている目を丸くし、上の兄達は何を言い出すのだと慌てたように止めようとする。
しかし、1人悠然と座っていた海藤は、その頬に柔らかな笑みを浮かべた。
(う・・・・・反則、その顔)
「分かった、お前に頼もう」
「海藤さん?」
「えーっ?」
「・・・・・!」
嫌がらせで言ったつもりの真哉は、その海藤の答えに内心焦ってしまう。バカを言うなと一笑にふされると思ったのに、何を考え
ているのかと思った。
「海藤さん、いいの?」
さすがに真琴も困惑したように聞いたが、海藤は穏やかな笑みを真哉に向けたまま、優しく真琴に言い聞かせた。
「こんなにもお前を大事にしてくれている子だ。きっと、この子にもいい名前を付けてくれるだろう。頼むぞ、真哉」
「・・・・・っ」
その言葉にかなりのプレッシャーを感じ取り、真哉は目の前のこの男には敵わないと認めざるをえなかった。
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真哉君もよくやりましたが、結局は海藤さんの貫録勝ち(笑)
名付け親の件は、真哉が意地で考えるか、それとも白旗を上げるか、これからの楽しみです。
でも兄ちゃんず、情けないぞ(笑)。