マコママシリーズ
第一章 懐妊編 9
家族に告白をした安心感からか、真琴の体調や精神面はすっかり安定した。
全く目立たなかった腹も、少しづつだが膨らんできて、何時も履いているジーパンではウエストがきつくなってくる。
しかし、男用のマタニティーは当然売っておらず、女物は恥ずかしくてとても着れないので、少し大きめのオーバーオールという姿
が今の真琴の定番になっていた。
「大丈夫ですか?」
「平気ですよ」
大学には、きちんと事情を話して休学ということにした。大学としても初めてのことで途惑ったらしいが、まさか男で妊娠をした
から退学扱いにするということはとても出来なかったらしかった。
バイトの方も、産み月になる5月を前に、来月4月に入れば休むことになっている。
今でもかなり時間的にも仕事的にも優遇されているので、本当は辞めた方が迷惑にならないかとも思ったが、店長以下皆辞
めることは無いと止めてくれたので、真琴は素直に甘えることにした。
「まだ、少し寒いですね」
「直ぐに春が来ますよ」
「そうですねえ」
真琴は立ち止まって、まだ裸のままの街路樹を見つめた。
今日は久し振りに外食をすることになり(真琴の食欲も戻ったので)、倉橋がマンションまで迎えに来てくれたのだが、最近嬉し
いことだが大事にされ過ぎて車移動が多かったので、運動不足の解消の為にも、真琴は待ち合わせの店の少し手前から歩く
ことにした。
もちろん、真琴を1人歩きさせるわけもなく、倉橋も共に歩くことになってしまった。
真琴は申し訳なくなって取りやめようとしたが、
「母体には適度な運動も必要です」
と、冷静な顔で言われ、そうなのかも知れないと妙に納得したのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・あの」
「はい?」
上等なスーツにコートを羽織った倉橋は見るからに高級な男だったが、隣を歩く真琴はオーバーオールにダッフルコート、そして
スニーカーと、どう見ても普通の学生だ。
それに、膨らんできた腹は既に目立つようになっていて、幾ら顔が可愛らしくても女には見えない真琴の腹だけが膨らんだ異様
な風体に、擦れ違う者は驚いたように、そして次の瞬間には好奇の視線を向けてくるのだ。
真琴自身は自分の事であるし、海藤との子供を誇らしく思っているので気にしないように出来るが、隣を歩く倉橋は勝手に相
手だと誤解されては申し訳がないと思った。
「少し、離れて歩きませんか?」
「・・・・・」
倉橋は立ち止まって真琴を見下ろしたが、ちらりと周りに視線を向けるとその意味が分かったかのように、皮肉な笑みを頬に
浮かべて言った。
「気にすることはありません」
「で、でも」
「むしろ、社長には申し訳がないですが、あなたの相手だと勘違いされるのは光栄ですよ」
そう言いながら、倉橋はワザと周りに見せ付けるかのように真琴の腰をそっと支えるように手を回した。
途端に周りがざわめいたような気配がするが、倉橋は少しも気にすることは無い。
「私にとって大切なのは、社長とあなたと、あなたのお腹の子です。見も知らない人間の感情など、一々気にすることはありま
せん。どうせ我々の生活には少しも関係がないんですから」
辛辣な言葉を吐きながらも、倉橋の歩みはゆっくりだ。
真琴に負担の無いよう、細心の気遣いをしてくれているのだろう。
真琴は嬉しくなって、腰に回った倉橋の手を外させてしっかりと腕組をした。
「真琴さん?」
「俺も、倉橋さんの相手だと思われてるの、光栄ですから」
倉橋は笑った。
「社長には申し訳ありませんが」
「内緒です」
笑いながら歩く2人には、もう好奇の瀬線を向けてくる周りの人間の姿は目に映っていない。
堂々と腕を組んで歩きながら、真琴は大切にされている心地良さに浸っていた。
「あ」
ゆっくりとした速度で15分ほど歩いただろうか。
あと通りを抜ければ店だという所までやって来た真琴は、向こうから歩いてくる人物を見て足を止めた。
「心配されたんでしょう」
真琴だけを見ながら歩いていた海藤は、腕を組んでいる真琴と倉橋の姿を見て少し目を見張ったが、その口元には穏やかな
笑みを浮かべている。
倉橋がそっと腕を解くと、真琴は足早に海藤に向かって歩いた。
「走るな、転ぶぞ」
「大丈夫」
「・・・・・」
倉橋以上に過保護な未来の父親は、真琴よりも足を早めるとそっとその身体を両腕の中に閉じ込めた。
「無理をするな、大切な身体だ」
「はい」
「本当に分かっているのか?お前に怪我をさせたくないんだ。もちろん、子供も」
「・・・・・はい」
街中だとは分かっていたが、真琴はどうしても海藤に抱きつきたくなって、思い切って両腕を広い背中に回した。
子供のことを思ってくれている以上に、真琴自身を想ってくれている海藤の気持ちが嬉しくてたまらなかったのだ。
しかし・・・・・。
「あ・・・・・」
「ん?」
「お腹がつっかえてる・・・・・」
それまではピタッと隙間無く抱きつくことが出来たが、今の真琴の身体では少しだけ隙間が開いてしまう。
嬉しくて楽しい悩みを口にする真琴の髪をクシャッと撫でると、海藤は笑いながら言った。
「3人だからな」
「・・・・・そっか」
(3人だからか・・・・・)
今までは2人だったが、もう3人になっているのだ。
真琴はコートの上からも膨らんでいることが分かる腹をゆっくりと撫で擦った。
「まーこちゃん!」
「あ、綾辻さんっ」
「丁度事務所に寄ったら、今からマコちゃんとご飯食べるって言うでしょう?無理矢理社長についてきちゃった」
「まあ、大勢の方がお前も楽しいだろう」
「はい!」
確かに海藤との2人の食事も楽しいが、そこに倉橋や綾辻が同席すればもっと楽しいだろう。
真琴は思わずにっこりと笑ったが、ふと視線を感じて辺りを見た。
(わ・・・・・みんな見てる・・・・・)
海藤に、倉橋に、綾辻。
3人ともに長身でスマートで、身にまとっているものも一目で高級だということが分かる。三者三様の美貌の主は、たとえ職業を
知ったとしても女の方から近付いて来るだろう。
それ程魅力ある3人に囲まれて、真琴は申し訳ないやら嬉しいやらで、困ったような笑顔になっていた。
「どうした?」
そんな真琴の顔を覗き込みながら、海藤自身も笑みを浮かべたまま聞いてくる。
「なんか、嬉しいなって思って」
「嬉しい?」
「3人と一緒なのが、凄く嬉しくて」
「そうか」
「私もですよ」
「両手に花で、私も嬉しいわ」
「・・・・・っ」
綾辻の言葉に倉橋は容赦ない蹴りを脛に入れ、声もないままその場に蹲る綾辻を見て真琴は笑った。
最近、笑ってばかりだと思う。きっと目じりや口元には皺が出来たかもしれないが、それは幸福の標だ。
「社長、真琴さん、煩い人は放っておいて行きましょう」
「克己、冷たい〜」
「綾辻さん、早く」
海藤の腕に縋ったまま、真琴は綾辻の名前を呼ぶ。
すると、今まで蹲っていたのは演技なのか、綾辻はぱっと起き上がって倉橋の肩を強引に抱き寄せた。
「さあ、行きましょう!」
「離してくださいっ」
賑やかな言葉を交わしながら、4人はそれぞれが楽しそうに笑って(若干1人は引き攣った顔をしているが)、周りの視線などま
るで眼中もなく歩き始めた。
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今回は、仲良し姉妹(?)がモエどころです(笑)。
さて、そろそろ出産時期が近付いてきました。
次回か・・・・・その次くらいに、2人の赤ちゃんが誕生すると思います。
ああ、早く見たいなあ(笑)。