磨く牙
23
醜悪な提案に、さすがの伊崎も握り締めた拳が震える思いがした。
自分には他人のセックスを覗く趣味はないし、もちろん自分のそれを見せる趣味も無い。麻生がどういう意図でそんなこと
を言い出したのか、伊崎は見極めようと口を開いた。
「私と楓さんの行為を見て、あなたはそこで自慰でもなさるんですか?」
「ははは、綺麗なものを愛でたいとは誰でも思うことじゃないか?楓君は見ての通り綺麗な少年だし、君だって見目は素
晴らしい。2人の絡みは絶対に売れるな」
「・・・・・撮影するつもりですか?」
「まさか。私はそこまで恥知らずじゃないよ」
今でも十分恥知らずだと言いたいところを押さえ、伊崎は目まぐるしくこれからの自分の行動を考えた。
ただ、何よりも大切なこと・・・・・楓の身の安全を一番に考え、その上で伊崎は自分達にとって一番優位に立てる方法を
瞬時に選ぶ。
(危険だが・・・・・これが一番いいはずだ)
伊崎は楓を見下ろす。
可哀想なほど青褪め、硬直している楓だったが、それでも十分綺麗だ。
「楓さん」
伊崎に肩を叩かれた楓は、ビクッと肩を揺らした。
「よろしいですか?」
「きょ、恭祐、お前・・・・・」
「私以外は絶対に触れさせません」
「でもっ」
「組の為です」
「・・・・・っ」
「話はついたか?」
2人の様子を見ていた麻生は、ゆっくりと立ち上がると入口とは反対の襖を開く。
そこには映画で見たような寝具が用意されてあった。
伊崎に抱き上げられて布団の上に下ろされた楓の頭の中には、どうしてという思いが渦巻いていた。
まさか伊崎が自分との行為を人に見せるとは思わなかったからだ。
(それとも、誰に見せても構わないほど、俺が大事じゃないってこと・・・・・?)
「恭祐・・・・・」
「楓さん」
まるでキスをするように楓の頬に唇を寄せた伊崎は、麻生達に聞こえないような小さな声で耳元に囁いた。
「いいですか?何があっても、目を開けないで下さいね?」
「・・・・・え?」
「何も見なかった、知らなかったと言える様に、絶対に目を閉じていて下さい」
その言葉に、楓は別の不安に襲われる。伊崎が何か、とんでもないことをしでかすのではないかと・・・・・。
揺れる楓の瞳を見ながら、伊崎は更に続けた。
「安心して。誰にも楓さんの肌は見せませんから」
「伊崎、俺は・・・・・」
「黙って」
それ以上楓に何も言わせないように、伊崎は楓に口付けながらその身体を押し倒した。
楓に口付けを与えながら、伊崎は麻生と友平の動向を見ていた。
友平は先程と変わりなく酒を飲み、あまりこちらには関心が無いようだったが、麻生の方は食い入るように楓の姿を目に映
している。
邪な視線に楓を晒すのは我慢が出来ないが、これも作戦のうちだと我慢するしかない。
(麻生は本当に楓さんが欲しかったのか・・・・・)
先程言っていた理由も確かにあるだろうが、麻生の楓に対する関心は先程の言葉以上のものがあるようだ。
「んっ、きょ・・・・・すけ・・・・・っ」
洩れる楓の言葉にも反応し、麻生はまた一歩2人に近付いてくる。
(もっと・・・・・)
もっと近付いて来なければ意味が無い。
「楓・・・・・」
伊崎はもっと楓に声を上げさせる為、楓の弱い首筋に唇を寄せる。
「あっ」
しかし、楓の肌を見せるつもりの無い伊崎の愛撫に焦れてきたのか、麻生が急かすように声を掛けてきた。
「服は脱がさないのか?」
「焦らした方が可愛いんですよ」
「そうかもしれないが・・・・・」
「見たいんですか?」
伊崎は楓のシャツのボタンに手を掛ける。
その拍子に麻生が身を乗り出してきたのを確認した伊崎は、自分の内ポケットに手をやった。
「こんなとこで命を落としたら恥ですね」
「お前っ!」
ハッとしたように麻生が叫ぶ。
そしてその次の瞬間、鈍い音と共に、硝煙の匂いが一瞬のうちに部屋に広がった。
![]()
![]()