磨く牙



29






 お互いがお互いを好きだと分かって身体を重ねるのは初めてで、楓は妙に恥ずかしい気分になっていた。
多分、こんな場面には慣れているだろう伊崎は、久しぶりに見る優しい目を向けていて、その余裕が少し悔しい楓は強引
に伊崎の身体の上に乗りあがると、そのままパジャマを脱がそうと手を掛けたが・・・・・。
 「・・・・・ドキドキしてるぞ」
 偶然手に触れた伊崎の胸の鼓動は驚くほど早かった。
びっくりして目を見開いた楓に、伊崎は苦笑しながら言った。
 「楓さんを抱けるんですから・・・・・緊張でどうにかなりそうですよ」
 「・・・・・今までもセックスしたことあるじゃん」
 「あの時も嬉しかったですが、今日は特別です。俺が楓さんのものになった特別な日ですから」
 「・・・・・そっか」
 自分の言葉をそんなに大事に考えてくれていることが嬉しくて、楓はその気持ちの高まりのまま伊崎に口付ける。
合わせるだけの可愛らしいキスは、直ぐにお互いを貪りあう大人のキスに変化した。
進入してくる伊崎の舌に懸命に答えようとした楓は、無意識のうちに伊崎の腹に手を置いてしまった。
 「・・・・・っ」
 一瞬だけだが眉を顰めてしまった伊崎に、楓は慌てて起き上がろうとしたが、下から楓を抱きしめている伊崎の腕の拘束
は強さを増してくる。
 「・・・・・んっ、あっ、きょ、きょーすけ・・・・・っ」
逃げようとしているわけではないことを知らせる為に、楓は自分から積極的に伊崎の舌に自分の舌を絡ませた後、ペロッと
伊崎の唇を舐めて言った。
 「恭祐」
 「はい?」
 「き、傷、痛まない?俺、どうしたらいい?」
 楓の不安の原因が分かった伊崎は、苦笑しながら口を開いた。
 「少し痛むだけで、もうほとんど大丈夫なんですが」
 「嘘だっ。弾は貫通してたって聞いたぞっ」
 「なまじ中で止まるより、綺麗に貫通してくれた方が治りは早いんですよ。でも、楓さんがそんなに心配してくれるなら」
ふと、見せられたその顔は、駆け引きに慣れたずるい大人のものだった。
 「今日は全て自分でしてもらいましょうか」



 「んっ、ふぁ、あっ」
 伊崎はベットの上で胡坐をかいたまま、足元で蹲っている楓を楽しそうに見つめていた。
つい先程まで楓が口と手で愛撫をしてくれていた伊崎のペニスは、既に手で支えなくても雄々しく上を向いて勃ち上がって
いて、照明の光の中、唾液と先走りの液でテラテラと濡れ光っている。
 「楓さん、しっかりと解しておいてくださらないと、俺のものは入りませんよ」
 「わ・・・・・かってるっ」
 今頃楓は自分の言ってしまったことに後悔しているだろうが、伊崎の方は楽しくその光景を眺めていた。
全て自分でと言った通り、楓は伊崎のパジャマを脱がせた後自分で服を脱ぎ、半ば勃ち上がっていた伊崎のペニスを完全
に勃起させた。
その後、その伊崎のペニスを受け入れる為に、楓は伊崎を受け入れる場所・・・・・自分の尻の穴を解し始めたのだ。
 「はっ、あっ、あんまっりっ、見る・・・・・なっ」
 伊崎の願い通り、伊崎の方に尻を向け、ベットにうつ伏せになる格好で尻だけ上げた。
伊崎の視界には、尻の穴も、そして何時の間にか勃起してしまったペニスも、恥ずかしい場所は全て見えている。
 「見せてください、楓さん。楓さんはペニスも、そして俺を受け入れてくれるこんな場所まで、とこもかしこも綺麗で可愛い」
 そう言うと、楓が嫌だとは言えなくなってしまうことは分かっていた。
案の定、楓は頬をシーツに埋め、出来るだけ解す作業にだけ意識を向けようとし始めた。
 「んっ、きょーすけ・・・・・」
 「・・・・・」
 「きょーすけ・・・・・っ」
 何度も伊崎の名前を呼びながら、楓は自分の尻の穴を伊崎の為だけに解していく。
楓の白く細い指が、ほんのりと薄桃色に染まった尻の穴の中に入る様は恐ろしく淫らで、伊崎はゴクッと生唾を飲み込んだ。
(俺だけの・・・・・)
 この、誰もが欲しがる素晴らしい身体が自分だけのものだと思うと、伊崎はたまらない感情がこみ上げてきた。
 「!きょ、恭祐っ?」
 「俺もお手伝いしますよ」
正直に言えば、シーツに零れる楓のペニスの先走りさえ勿体無かった。
楓の身体の全ては自分のものだと、伊崎はその一滴さえ大切なものだと、楓の腰をそのまま引き寄せ、尻を自分の目の前
まで引き上げた。
 「へっ、変態!」
 さすがに恥ずかしいのか楓は叫んだが、伊崎の手から逃れようとはしない。
羞恥で全身を桜色に染めていても、もう逃げないのだとその行動で伊崎に伝えてくれる。
そんな楓がいじらしくて愛しい。
 「ほら、楓さん、俺のを・・・・・」
 楓の目の前には、ちょうど伊崎のペニスがある。
伊崎の意図を悟った楓は、躊躇うこともなくそれを口に含んだ。



 「!!」
 丁寧に入口を舐め濡らしていた舌が、不意に中にまで入り込んできた。
ゾワッとした感触に身体を揺らし、楓はギュッと目を閉じる。
痛みを伴わないように、自分の為にしてくれている行為だと分かってはいるが、どうしても恥ずかしさと困惑は抜けきれない。
そして・・・・・。
 「あっ、あんっ、もっ・・・・・」
 もっとと言いそうになる自分を、楓は必死に我慢をしていた。
この行為に快感を感じている自分の身体が自由にならないのがもどかしかった。
 「感じていいんですよ」
 「やっ、やだ!」
 「俺しか見ていない」
 「きょうす・・・・・」
 「もっと、俺を欲しがって・・・・・」
 ずるいと思った。伊崎にそう言われて、今この状態で、楓が嫌だと言えるはずがない。
楓はギュッとシーツを握り締めた。もう、伊崎のペニスに愛撫を加える余裕などなかった。
 「もっと・・・・・もっと、お願い!舐めて、恭祐!」
 「・・・・・ええ、楓さんの望み通りに」
 身体の中で、伊崎の舌と指が楓を翻弄していく。
どのくらい経っただろうか・・・・・、楓の身体から欲情以外の感情がすっかり抜け落ちた時、十分解された伊崎を受け入れ
る場所に、先程までとは違う、熱く濡れた感触がした。
 「力は抜いていなさい」
言葉と同時に衝撃が走った。