磨く牙










 「あっ、はっ、あうっ!」
たくましい伊崎のペニスに貫かれながら、楓は涙を流して喘いでいた。
初めてのセックス、それも同じ男に抱かれて、簡単に快感だけを得ることは出来ない。時折微かな快感を感じる場所はあ
るが痛みはそれ以上だった。
しかし、楓は伊崎に止めて欲しくはなかった。
 「きょ、恭祐っ」
 「楓さん・・・・・」
 「もっ、もっと、強くて、いっ、いいからっ」
 「・・・・・っ」
 伊崎のペニスが狭い楓の内壁を激しく擦った。
激しい振動に楓の身体は浮き上がり、結合部分から伊崎の精液と楓の精液と血が交じり合ってシーツに滴り落ちていく。
 「ふっ、はっ、あっ、あ!」
急に伊崎の動きが早くなった。ついていけない楓はかろうじて息をしているだけだ。そして・・・・・。
 「!」
 ぎゅっと抱きしめられるのと同時に、楓は身体の中に熱い飛沫を感じた。
(こ・・・・・れ、恭祐の・・・・・)
まるでマーキングのように、伊崎は自分のペニスで楓の身体の中に精液を塗りこめて行く。射精の瞬間よりも生々しい感じ
がして、楓は伊崎の肩にしがみついてギュッと目を閉じた。
(本当に・・・・・セックスしたんだ・・・・・)
 自分の全てが伊崎のものになったのと同時に、伊崎も自分のものになったのだ。
徹とのジャレ合いなどとうに記憶から消え去っている。
(誰にも渡すもんか・・・・・っ)
そう思いながら、楓はまるで気を失うようにストンと眠りに落ちた。



 「・・・・・ちゃん」
 「・・・・・」
 「坊ちゃん」
 その声は、次第に大きく聞こえてくる。
 「坊ちゃん、学校に遅れます」
 「が・・・・・こ、う?」
 無意識に繰り返した楓は、急にバッと起き上がった。
 「痛!」
その衝撃が下半身を痺れさせる。
だるさと、痛みと、疲労が混ざり合って、楓は一瞬呼吸が止まったような錯覚さえおこした。
 「坊ちゃん?」
 「入るな!」
 聞こえていたのは、楓が望んだ相手のものではなかった。
自分の身体を見られたくなくてとっさに言ったが、改めて見下ろした自分の身体はきちんとパジャマを着ている。
ベタついた感じもなく、寝ていたシーツさえ清潔で、楓はあの行為は夢だったのかとさえ思ってしまった。
 「・・・・・」
(あった!)
 恐る恐るそのままパジャマを脱ぐと、白い自分の肌には無数の歯形や赤い痣が散らばっていて、楓はあれが夢ではなかっ
たのだと確信した。
これは確実に伊崎が刻み込んだ愛撫の痕だ。
自然と、楓の頬は緩んでしまう。
(やっぱり、恭祐の一番は俺なんだ)
 あれ程激しく抱いたのは、それ程強い思いからなのだろう。
全ては元通り・・・・それ以上に伊崎を独占出来ると確信した楓は、痛む身体を騙しながら着替えると、はやる思いのまま
ドアを開けて部屋を出た。
 「・・・・・誰だ?お前」
 そこには見知らぬ男が立っていた。30歳前後の、細身の男だ。一重の切れ長の目は鋭く、いかにもただ者ではない雰
囲気だった。
 「今日から坊ちゃんのお世話をさせて頂きます、津山です」
 「俺の・・・・・世話?」
伊崎の不在が意味を持ってくる。
 「伊崎はどうした」
 「若頭は既に事務所につめています」
 「なんだと・・・・・!」
現実は何も変わっていないのだと楓は思い知った。