MY SHINING STAR



17








 2日後・・・・・。
 「よお」
 「・・・・・」
 何時ものように上杉から連絡があり、太朗は何時もの公園でじっと待っていた。
そう長い間待つこともなく、公園の入口に見慣れた黄色い車が停まり、背の高い男が姿を現わす。
 「夕飯、大丈夫だろ?」
 「・・・・・うん」
 「よし」
連絡があった時、夕食を奢るから時間を取れと言われたので、太朗は弟にジローの散歩を代わってもらってここに来ていた。
(・・・・・なんで、断らないんだろ)
今までの太朗ならば、上杉との食事よりもジローとの散歩の方を優先するのが当たり前だった。大好きなペットといるとそれだ
けで心が和むし、楽しい時間を過ごせる。
 それが、昨夜上杉からの電話があった時、迷わず弟に散歩の代わりを頼んだ。余りに迷いがなく行動したのであまり考えな
かったが、こうして上杉の顔を見てしまうと、どれだけこの存在が自分の中で大きくなっているのかを改めて思ってしまう。
 「タロ?」
 「あ、うん、何?」
 「・・・・・何が食いたい?」
 「え〜と、俺、油が食べたい!中華にしようよ」
 「中華か」
 「美味しいラーメンと餃子に、チャーハンも付いてたら嬉しいけど」
 「ば〜か、もっといいもん言えよ、フカヒレとか、豚の丸焼きとか」
 「なに、それ」



 太朗の様子が何時もと微妙に違うのを感じても、上杉は態度を変える事も、気遣う言葉をかけるという事もしなかった。
人一倍男らしさに拘っているような太朗にとって、女のように気遣われるのはあまり面白くないことだろうと想像がついているから
だ。
(好きな奴を心配するのは当たり前なんだがな)
その辺のことを説明しても、恋愛初心者の太朗には直ぐに頷けることではないのだろう。
 「よし、じゃあ・・・・・」
 それならば出来るだけ美味しいものでも食べさせようとその背を押そうとした上杉は、ふと視界に入ってきた幾つかの影に眉
を顰めた。
 「なんだあ、こんなとこに車止めやがって」
 夕方の公園には似合わないような柄の悪い男が3人、上杉の車を取り巻いている。
(偶然か・・・・・?)
 本来ならば、1つの会派の会長でもある上杉には何人もの護衛が付いていなくてはならないはずだった。
それを、太朗が怖がるだろうからということと、自分自身の腕っ節に自信があるという理由で、上杉は今まで強引に単独行動
をしてきたのだ。
丸腰のこの状態で、しかも太郎という守らなければならない相手がいるのだ。
胡散臭いこの男達の登場が偶然なのか故意なのか、上杉は見極めようと鋭い観察の目を向けた。
 「邪魔なんだよ!」
 1人が乱暴にドアを蹴った。
その音に、太朗もやっと事態を把握したらしい。
 「ジ、ジローさんっ」
 「タロはここにいろ」
 「えっ?で、でも、3人もいるよ?俺だって・・・・・っ」
 「お前は1人前じゃなくてー0.5人前。マイナスになる奴を連れて行けねえだろうが」
 「・・・・・っ」
きつい言葉だろうが、太朗にはこれぐらいはっきり言わないと分からないだろう。
案の定、青褪めた顔をした太朗は黙って俯いてしまった。
(くそっ、邪魔しやがって・・・・・っ!)
 数少ない太朗との逢瀬を邪魔した男達を簡単には許すつもりはなく、上杉は大股で車の傍に歩み寄りながら言った。
 「おい、きたね〜手でそれに触るな」
 「ああっ?」
男達はいっせいに振り向いた。
 「な、なんだあ?」
 「1人で相手する気か?おっさん」
かなりの長身にしっかりとした体格、見るからに上等そうなブラウンのスーツを隙なく着こなしているその姿はまるで俳優の様だ
が、纏っている圧倒的な威圧感と、威力ある鋭い視線はとても一般人には見えない。
一瞬、男達は上杉の体格と雰囲気に圧倒されたようだったが、3人という人数に無理矢理威勢を取り戻したようだ。
 「金持ってんなら貸してくれよ。まあ、返すつもりはないがな」
 「・・・・・」
(なんだ、素人か)
 この近辺で上杉の顔を知らないことなど有り得ない。
もしかしたらという緊張感はたちまち消え失せたが、上杉は助手席のドアの僅かなヘコミに気付いて口元を歪めた。
 「それは誰だ?」
 「ああ?」
 「50万だな」
 「何言ってんだ?」
 「いや、ケチが付いたそれにはもう乗れねえな。それなら5、6千万はいるなあ」
 「お、おい」
 脅そうと思ってそう言ったのだが、口に出してしまえばそれが最もな考えのように思えた。
これから先も大事な太朗を乗せるのに、こんな男達が付けた傷がある車に、たとえ修理したとしても乗せたくはない。
 「そういうことだ」
 「やろっ!」
 殴りかかってくる男の拳は、上杉から見ればまるでスローモーションのようだ。
軽く身体を反らすだけで避け、容赦ない足蹴りを男の腹に入れる。
たったその一撃だけで、男は腹を抱えて蹲った。
 「なんだ、威勢がいいのは口だけかよ?」
 「・・・・・っ!」
残った2人が飛び掛ってくる。
 「うわあっ!」
 「ぐ・・・・・ぅ!」
 しかし、上杉は一歩も動くことはなく、面白くなさそうな顔になって立っている。
どこから現われたのか、屈強な男達が数人、素早く2人を組み敷いたからだ。
 「やっぱりいたのか、ナラ」
 「こんな雑魚にわざと喧嘩を吹っかけるのは止めてください」
男達の中でも一際身体が大きく、目じりに深い切り傷がある男が言った。
楢崎久司(ならざき ひさし)は羽生会の幹部でありながら、上杉の護衛を一手に取り仕切っている武闘派の組員だ。
本人は幹部という立場を嫌がったが、立場が上の方が何かと都合がいいという理由で、上杉と小田切が強引に昇格させて
しまったのだ。
 「タロと会う時は付いてこなくていいって言ったろーが」
 「・・・・・こういうことがあるから目を離せないんですよ。あなたが弱いとは思っていませんが、立場が立場なんですから」
 今年40歳になる楢崎の言葉を、さすがに上杉も聞き流すということは出来ない。
(あいつめ、これを狙ってんだな・・・・・)
小田切の別な思惑に改めて気付いた上杉はチッと舌打ちをついた。