MY SHINING STAR



22








 「ジローさんのエロエロ魔人!スケベジジイーーー!!」

 太朗が叫んだ瞬間、その場が凍り付いてしまった。
言われた当人の上杉は呆気に取られて動きを止め、何時も冷静なはずの小田切も目を見張って太朗を見つめた。
そんな2人の目の前で、叫んだ当の本人の太朗は、目じりにたちまち涙を溢れさせる。
しかし、泣くのはプライドが許さないのか、顔を真っ赤にして歯をくいしばり、ギッと上杉を睨んで更に続けた。
 「俺の相手するのが嫌ならそう言えよ!お、俺だって、何時までもただ待ってるだけなんか嫌だし、嫌われてる相手を好きな
んてきついしっ」
 「タ・・・・・」
 「でも!ちゃんと聞くまでは、俺っ、俺・・・・・ジローさんに、く、くっつい、って・・・・・う〜・・・・・」
 言っている間に自分の感情が高まってしまったのか、太朗はギュッと目を閉じると、そのまま踵を返して事務所から飛び出し
て行った。



 「・・・・・タロ・・・・・」
 上杉はただ呆然とその名を呟いた。
今、怒ったように叫んだ太朗の言葉の中に、自分が長い間待っていた言葉があったからだ。

 「嫌われている相手を好きなんてきついしっ」

確かに・・・・・太朗はそう言った。
あんな風に涙を堪えながら、真っ直ぐな視線を向けて言った言葉・・・・・それが単に友人としての好きだというわけではないと
いうことはさすがに分かる。
(タロが、俺を・・・・・)
 ジワジワと胸に湧き上がってくる喜びに浸っていた時、上杉はガンッと激しい衝撃を後頭部に受けた。
 「・・・・・って!」
 「何感傷に浸ってるんですか!早く追いかけないと!」
 「あ、そうか!」
 「・・・・・」
慌てて部屋を出て行く上杉の後ろ姿を見送りながら、小田切は深い溜め息をついた。
(全く、こんな組事務所で痴話喧嘩なんて・・・・・それも、あんな幼稚な・・・・・)
 「お、小田切幹部、会長は、本当にあんなガキと・・・・・」
 「口を慎め。未来の姐さんになるかもしれないんだぞ」
 「!!」
 小田切の言葉に衝撃を受けた組員達は声無き叫び声を上げる。
それを全く眼中にしない小田切は、乱れた自分の服を冷静に直していた。



(俺、俺、何言っちゃったんだよ〜〜〜!!)
 感情が赴くまま叫んだが、少し時間をおくと何とも言えず恥ずかしくなった。
とにかく、一刻も早くこの場から立ち去ってしまいたいと思って小走りにロビーを通り抜けようとしたのだが、

 ガンッツ
激しい衝撃を額と鼻に感じて、太朗はそのまま後ろにひっくり返ってしまった。
 「いったあ〜〜!」
 「タロッ、大丈夫か?」
 直ぐに追いついてきた上杉に抱き起こされ、逃げようとした相手に助けられた太朗は情けなくなって、今度こそポロッと涙を流
してしまった。



 太朗が玄関の硝子に顔から突っ込んだ瞬間を見た上杉は、内心プッと噴き出してしまった。
(どんな時にもはずさねえな、タロは)
尻餅をついた太朗を後ろから抱き起こしてやると、額と鼻が真っ赤になってしまっている。
恥ずかしさからなのか、痛さからなのか、ポロッと頬に涙を落としてしまった太朗に、上杉は苦笑を零してしまった。
 「・・・・・悪かった、タロ」
 赤い鼻にチュッとキスをすると、涙で潤んだ目を向けてくる。
 「あ、謝る・・・・・って、じゃ、じゃあ、お、小田切さ・・・・・好き、なのか?」
 「まさか!」
(世界中にあいつと2人きりだとしてもありえない!)
 「違うって。謝ったのは、なかなか連絡出来なかった事と、今タロを泣かせたことに対してだ」
 「・・・・・泣いてない」
 「・・・・・そうだな、それは鼻水か」
 「・・・・・」
こんなに身体が密着して、本来ならば色っぽい雰囲気になっても可笑しくないのに、どうしてだか太朗相手だとほのぼのしてし
まう。
それでも、今まで柄にも無く待っていた上杉にとってこれは好機だ。
 「・・・・・タロ、俺の家に来るか?」
 「・・・・・ジローさんの?」
 「お前の誤解をちゃんと解きたいし、俺の本当の気持ちも伝えたい。・・・・・嫌か?」



 「嫌か?」

 真剣な表情でそう言われ、太朗は一瞬言葉に詰まった。
(ど・・・・・なるんだろ・・・・・?)
上杉の言う通り、彼の部屋までついて行って・・・・・それから自分がどうなるのか、タロは全く想像がつかなかった。
ただ、まだ身体は覚えていた。
自分を組み敷き、身体中にキスをしてきたあの上杉の行動を。
(・・・・・また、あんなこと、するのかな・・・・・)
恥ずかしくて、怖くて・・・・・それでも、上杉を嫌いにはなれなかった。
本来男同士では行わないだろうあの行為を再びされてしまうかも知れない・・・・・まるで直感のように、そのことが太朗の頭の
中を過ぎった。
 「タロ」
 「・・・・・うん、行く」
 それでも、太朗は躊躇わなかった。
 「ジローさんとこ、行く」
 「よし」
その瞬間、上杉が浮かべたのは、まるで子供のような満開の笑顔。
そんな上杉の顔を見ると、太朗までも口元に笑みを浮かべてしまう。
 「・・・・・そこは公共の玄関ですよ。バカップルはさっさとどこかへ行ってください」
 「!」
 突然後ろから声を掛けられ、太朗はビクッと身体を揺らして振り向く。
そこには先程とは違い、何時ものようにきっちりとスーツを着込んだ小田切が、呆れた表情を浮かべて立っていた。
 「お、小田切さん・・・・・」
 「太朗君、そこの腰抜けさんにきちんと話をしてもらってください。言っておきますが、この人は私の趣味とはかけ離れています
から、妙な誤解は早く解いてくださいね」
 「は、はい・・・・・」
にっこり笑みを浮かべた小田切の迫力に、太朗は思わず上杉の腕にギュッとしがみ付きながら慌てて頷いた。