MY SHINING STAR



28








 「う・・・・・股がグワグワする・・・・・」
 「・・・・・」
 「お尻も・・・・・ズンズン・・・・・」
 「・・・・・」
 「頭も・・・・・」
 「ターロ」
 太朗の言う、黄色い車に乗り込んでからずっとブツブツと文句を言い続ける太朗に、上杉はもう降参だからと声を掛けた。
 「心配すんなって。お袋さんには俺がちゃんと話をつける」
 「・・・・・そんなこと心配してない」
助手席にそのまま座るのは腰も尻も痛いからと、太朗はシートを限界まで倒して横向きに寝転がっていた。
この格好が一番楽なのだと言うが、下からじとっと睨まれる上杉の心臓には悪い体勢だ。
 「・・・・・俺が自分で行ったんだ・・・・・ジローさんのせいになんて出来ないって」
 高揚していた身体の熱が下がって直ぐに、太朗は母親に連絡をした。
既に学校からは無断欠席の理由を問う電話が入っていたらしい。ピンと来ていた母の佐緒里は上手い具合に対応をしてく
れたらしいが、今どこにいるのと聞く声は妙に平坦だった。
自分が出ると言った上杉を制して、太朗は正直に言った。

 「ジローさんと、一緒」
 『学校サボってまで会う理由があったの?』
 「・・・・・うん」
 『とにかく、帰ってきなさい。もちろん、上杉さんも一緒に』

 自分が怒られるのは覚悟している。
どんな理由があれ、勝手に学校をサボって・・・・・した事というのは年上の男とのセックスだ。
ただ、太朗にとってはそれはとても意味のあることだったので後悔はしていないが、一緒に母と向き合う上杉が何と言われるか
が不安で仕方がなかった。
(怒ってるよ、母ちゃん・・・・・どうしよう・・・・・)
まだまだとても母親に対抗するだけの度胸がない太朗は、どうしようかとずっと考えていた



 「お帰り、太朗」
 「・・・・・ただいま」
 「どうも」
 「いらっしゃい、上杉さん」
 玄関先まで出迎えてくれた太朗の母佐緒里の意味深な笑顔に、さすがの上杉も一瞬だがたじろいでしまった。
上杉でさえそうなので、太朗はといえば・・・・・可哀想なくらい身体を硬くしている。
 「タロ」
 その腰を支えようと伸ばしかけた上杉の手を、
 「そこ、イチャつかない」
と、一言で止めた佐緒里は、スリッパを用意しながら言った。
 「どうぞ。今日も七之助さん遅いのよ。だから、ゆっくり話せるわ」
時刻は午後7時半を少し過ぎているくらいだ。
どの位長い話になるのか、上杉にも見当がつかなかった。



 静まり返った茶の間には、太朗、上杉、佐緒里の3人が、黙り込んだまま座っていた。
お茶も出さないという、普段の母親ならば考えられない対応に、太朗は子供ながらに母親が相当怒っているのだということを
肌で感じる。
(・・・・・叩きもしないなんて・・・・・余計怖いよ)
 苑江家では、悪いことをした子供にはゲンコツを落とすというのが常で、太朗も今まで犬の散歩をサボったり、道草をして遅
くなったりした時にゴンッと大きな一発を落とされていた。
しかし、今日の母親は黙ったまま目の前に座っている。
返ってそれが怖かった。
 「・・・・・太朗、今日学校をサボった理由、母さんに言える?」
 やがて、母親は静かに聞いてきた。
一瞬息をのんだ太朗だったが、母親を誤魔化すことはしなかった。
 「・・・・・ジローさんとこに、行きました」
 「何の用で?」
 「どうしても、会って話がしたかったから・・・・・」
 「話って何なの?」
次々と言葉を返してくる母親にギュッと唇を噛み締めた太朗は、不意にポンポンと背中を叩かれて視線を向けた。
 「佐緒里さん、タロを休ませてくれないか。身体が本調子じゃないんだ」
 「・・・・・っ」
 「ジローさん!」
何を言うのかと、太朗は慌てて上杉の口を塞ごうとした。



 わざと、こんな聞き方をしているのではないというのは分かる。佐緒里が言っているのは親として当然知っておきたい情報な
のだろう。
それでも、だんだん萎れる様に元気を無くしていく太朗を見ていると、上杉は口を挟まずにはいられなかった。
責められるのは大人の自分の方なのだ。
 「いいから、タロは黙ってろ」
 「上杉さん、太朗の身体が本調子じゃないって言うのは・・・・・」
 「抱いた。言っておくが、今日が初めてだ」
 「・・・・・ぬけぬけと・・・・・っ」
 「!!」
 「悪いが、俺の方が我慢出来なかった。親からすれば俺みたいな男に息子を傷物にされたと思うかも知れないが、タロは少
しも汚れたり傷付いたりなんかしてないぜ。前も、今も、こいつは真っ白で綺麗だ」
 「・・・・・」
 太朗がじっと自分を見ているのを感じる。
勝手なことばかり言うなと怒鳴られるかと思ったが、太朗は自分から上杉の腕を掴んできた。
 「母ちゃん、俺、ジローさんが好きなんだ」
 「太朗」
 「男同士で変だって思うかもしれないけど、男なら誰でも好きってわけじゃないよ。ジローさんしか、好きじゃない」
 「タロ・・・・・」
 「自分が責任取れるようになるまで、変なことしちゃいけないって言われてたけど、でも、ごめん、俺・・・・・」
 「・・・・・このまま許さないって言ったらどうするの?家族捨てて、その男に付いて行くつもり?」
 「そ、それは・・・・・」
 太朗にとっては究極の選択だ。
そんな選択を太朗にさせたくなかった上杉は、迷う太朗の代わりに自分が答えた。
 「俺がこいつをもらって帰る」
 「ジ・・・・・」
 「でも、そんなことをしたらタロは俺を許さないって分かるからな。俺も、あんたを嫌いじゃないし・・・・・まあ、俺には似合わな
いかも知れないが、坊主にしてでも頭を下げて認めさせてみせる」
 「・・・・・その自信はどこからくるのかしら」
 「タロが俺に惚れてるってとこだな」
 「何言ってんだよ!!」
思わずというふうに太朗は上杉に言い返すが、それを遮るほどに大きな声で笑う人間がいた。
 「か、母ちゃん?」
 「いー度胸してんじゃない、上杉さん」
佐緒里は更にクスクスと笑い続けたが、やがてはあ〜と深い溜め息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
 「母ちゃんっ?」
 「お茶にしよっか。母さん、笑い過ぎて喉が渇いちゃった」