MY SHINING STAR
30
「タロ!お前昨日どうしたんだよ!」
「あ、仁志、はよー」
翌朝、今だ腰には鈍い痛みは残っているものの、太朗は何とか学校に行った。
母親は続けてのズル休み(理由が理由なので)は許さなかったし、太朗自身も学校は大好きなのでただ身体がダルイくらい
で休むつもりはなかった。
「タロ」
「あ、ごめんな、急に休んじゃって」
「それはいいけど、お前病気かなんか・・・・・」
「あ、いや、えっと・・・・・」
太朗は口篭ってしまった。
(ジローさんと・・・・・え、えっちいことしてたなんて・・・・・言えるわけないし・・・・・)
嘘は嫌いな太朗でも、まさか大西に昨日の上杉とのことを話せるわけがなかった。
今まで何でも話してきた悪友にでも、男とセックスしたということを言った時・・・・・その後の反応を想像すると少し怖いのだ。
(いずれは話さなきゃだけど・・・・・今は内緒にしといた方がいいよな)
「ちょ、ちょっと、サボりたかっただけ?」
「・・・・・」
「身体はだいじょーぶ!」
「・・・・・」
じっと太朗を見下ろす大西は何も言葉を返してくれない。
気まずくなった太朗は、さっさと教室に入っていった。
「お、タロ!どうしたんだよ、昨日休んじゃってさ!」
「どっか悪かったのか?」
「出てきていいのかよ?」
クラスのマスコット・・・・・というか、オモチャである太朗の人気は高く、昨日1日休んだだけでもクラスの火が消えたような感じ
だったので、登校してきた太朗はたちまちクラスメイトに囲まれてもみくちゃにされている。
そんな太朗を見つめている大西の眉間には、深い皺が刻まれていた。
朝から機嫌のいい上杉を、小田切は呆れたように見つめていた。
今日は連絡するまでもなく早く事務所に出てきて、小田切に急かされるまでもなく仕事を始めた。
そのスピードも何時も以上だったし、なによりずっと緩んでいる頬が、上杉の身に起こった幸運を周囲に嫌と言うほど知らせて
いた。
「いい加減にしたらどうです?」
「ああ?」
昼過ぎ。
昨日騒がせたお詫びだと、事務所にいる組員達にポケットマネーで鮨を奢ってやった上杉は、自身も上鮨を摘みながら小田
切の顔を見上げた。
「だらしなさ過ぎです」
「・・・・・そうか?」
自覚が無いのか、上杉は照れた風もなく聞き返してくる。
小田切は向かいのソファに座ると、目の前の浮かれた上司を睨みつけた。
「ご機嫌がいいのは構いませんが、そう緩んだ顔でいられると威厳がなさ過ぎです。そうでなくても、何時も下の者と一緒に
つるんで騒いでるのに・・・・・」
「当たり前だろーが。あいつらは俺の為に命張ってくれてんだぞ?やつらにとっちゃ俺は親だし、俺にとっては可愛い子だ。そ
の子にたまにはうまいもんを食わせてもバチは当たらねえよ」
「・・・・・もっと、可愛い子供がいるでしょう」
「あれは別格」
たちまち笑みを浮かべる上杉に、小田切は溜め息を付くしかなかった。
「うまくいって良かったですね」
「おう。タロの母親にも許可は貰ったしな」
「・・・・・言ったんですか」
「嘘ついたって直ぐバレルだけだし、第一タロには嘘をつかせたくないからな」
「・・・・・」
確かに、あの素直な子供にこれ程の大きな事実を嘘で誤魔化すことなど出来ないだろうし、第一させたくはないだろう。
ひねくれていると自覚を持っている小田切自身でさえそうだ。
(だからと言って、親にまで言うなんて・・・・・大物というか、馬鹿というか・・・・・)
「なんか・・・・・私の想像以上に、あなたって凄い人ですね」
「褒めるなよ」
「褒めてるつもりはないんですが・・・・・」
これ以上言っても、多分今の上杉の耳には届かないだろう。
小田切は諦めて、自分の分の特上鮨を摘んだ。
(それにしても、まだ16だったか・・・・・犯罪だな)
何時も違法スレスレのことをしている割には、小田切は妙なところで常識人だった。
浮かれている・・・・・小田切にそう指摘されるまでもなく、上杉は十分に自覚していた。
ずっと欲しいと思っていたものをやっと手に入れて、嬉しくない人間なんていないと思う。
(それに、母親からも許可を貰ったしな)
「門限は前の約束通り。後・・・・・まあ、付き合ってるんなら仕方ないことかもしれないけど、一応太朗は未成年なんだか
らセックスはほどほどにね」
昨夜の帰り際、玄関先で太朗の父親のことで散々上杉を脅かした後に重ねて言った太朗の母佐緒里の言葉に、上杉
は約束をするというように頷いた。
やっと手にした太朗を暇さえあれば抱きたいとは思っているが、20そこそこの若い頃とは違い、今の自分は焦れる楽しさという
ものも知っている。
その分、溜め込んだ情熱を受け止める太朗は大変かもしれないが、そこは頑張ってもらうしかない。
(面白い女だよなあ)
その後、太朗が先に玄関を出た時、佐緒里は上杉にだけ聞こえるようにこうも言った。
「一度、病院で検査してくださいね。それと、遊ぶ時は必ずゴムを付けて」
「おい」
「タロ1人であなたが満足するとは思えないから。上手に隠して、知られないように」
普通の親なら、浮気をするなというところだろうが、佐緒里は浮気をするならば太郎に知られないようにとだけ言った。
病院の検査というのも、上杉の心配というよりも、太朗の身体の為だろう。
浮気は咎めないようなことを言っておいて、多分上杉が浮気をすれば、佐緒里は問答無用で太朗を奪い返しに来るだろう。
母親の真の強さというものを、上杉はその言葉の中から感じ取った。
「・・・・・明日、病院に行くからな」
「どこか悪いんですか?」
「いや、絶好調」
太朗を知ってからは女を抱いていないし、それ以前も遊びは必ずゴムを付けてきた。
しかし、念の為ちゃんと検査をしておこうと思った。既に一度生で太朗を抱いてしまったが、きちんとした許しを自分自身も欲
しいと思う。
(またしばらくお預けだな)
無自覚に、可愛く誘惑してくる太朗をどうかわすか、上杉は既にそれを楽しみに変える事にした。
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