MY SHINING STAR



31








 昼休み、さすがに寒いので教室で弁当を食べようと言った太朗に、大西は何時ものように屋上で食べようと誘ってきた。
朝から大西の様子がおかしいと感じていた太朗だったが、誘われて嫌とは言えないままに屋上に向かった。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 しかし、大西は一向に話をしようともせずに黙々と弁当を食べ、そんな大西に話しかけることも出来ずに太朗も弁当を口に
運ぶ。
そのせいか、何時もより随分早く食事は終わり、太朗はどうしようかと視線を彷徨わせた。
(昨日勝手に休んだこと、まだ怒ってるのかなあ)
 今まではどんなことでも話してきた太朗の、唐突の空白の時間。心配したという事も確かだろうが、秘密をもたれたという事
に怒りも感じているのだろう。
(でも・・・・・ジローさんとのこと・・・・・話すのはなあ・・・・・)
上杉と付き合っているということが恥ずかしいとは思わない。太朗は本当に上杉が好きだからだ。
ただ・・・・・。
 「タロ」
 不意に、大西が名を呼んだ。
考え事に耽っていた太朗は、ポンッと肩を叩かれてそれに気付いた。
 「な、何?」
 「お前・・・・・あの男と付き合ってんだよな?」
 「あ、あの男?」
思わず声がひっくり返った太朗は、慌てて自分の口を塞いだ。
 「お前、昨日あの男と・・・・・最後までしただろう?」
 「なっ、何で分かったのっ?」



 「なっ、何で分かったのっ?」
 太朗のその言葉が紛れもなく肯定を指した事に、覚悟はしていた大西だったがやはりショックを受けた。
まだまだ子供だと思っていた太朗が、何時も自分の傍にいて無邪気に笑っていた太朗が、あんなオヤジのものにされたと思う
と頭の上まで血が上ってしまう。
(俺のっ、なのに・・・・・っ!)
 大西にとって、セックスというものは空想や二次元のものではなく、実際に自分も経験はあるのでなまじ生々しく想像が出来
た。
会ったことがあるあの男の、同じ男の目から見てもがっしりとした完全な男の身体に、このまだちまっとした太朗が抱かれたのかと
思うと・・・・・悔しくて仕方がない。
 「ひ、仁志、あの、あの、俺・・・・・」
 「俺だって!」
 「え?」
 「俺だって、お前のこと好きなのにっ!」
 「・・・・・はぁ?」
 初めて会った時から、小さくて元気で、そして可愛い太朗をずっと気に入っていた。
最初はただそれだけだと思っていたが・・・・・初めて女の子を抱いた時、興奮の中にも何かが違うと思った。
それは単に緊張したせいかとも思ったが、それが数人続けて同じような感覚に襲われた時、大西は自分が求めているものが
そこにはないとやっと分かった。
そして・・・・・。

 「仁志!」

 自分が異性を知った事も知らずに無邪気に懐いてきた太朗の顔を見た時・・・・・大西は自分が欲しいものが何かが分かっ
たのだ。
それ以来、大西は遊びはするものの、本気の彼女をつくる事はなく、どんな時も自分にとっての一番を太朗にしてきた。
いずれ、もう少し太朗が大人になったら、告白して、手に入れようと・・・・・ずっと待っていたのだ。
それを横からいきなり出てきた男に奪われて、大西の悔しさは言葉に出来ないほどだった。
 「タロ!あんなおっさんやめろ!俺の方が若いし、お前の事だってよく知ってる!」
 「ひ、仁志」
 「あの歳なんだ、何人の女と遊んできたかも分からないぞ!」
 「・・・・・で、でも、仁志だって、今まで付き合っていた子、いるじゃんか」
 「え・・・・・あ、それは・・・・・」
 思い掛けない太朗の反論に、さすがに大西は口ごもってしまった。
自分の右手を使うよりは気持ちがいいし、本気でなくても構わないという相手としか関係を持ってきていないが、それを太朗
に説明しても分かってもらえるとは思えなかった。
 「タロ、俺は・・・・・」
 「俺、ちゃんと誰かを好きになったのなんて初めてだし、それが男だっていうのも初めは信じられなかったけど・・・・・でも、今は
誰に対してだって、ちゃんと好きだって言える。・・・・・仁志のこと、嫌いだって言ってるわけじゃないよ?好きだけど、好きの意
味が違うんだ」
 「タロ・・・・・」
 「・・・・・ごめん、俺はジローさんが好きなんだ。他の人って、考えられない」
 どう言っても、大西にとっては面白くないだろうと思ったのかどうか・・・・・多分、太朗は何の意図もなく正直に言っているのだ
ろう。
そんな素直な太朗の性格は好ましいが、今に限っては恨めしくも感じた。
(・・・・・遅いってことなのか・・・・・?)
 時期を待っていた自分の方が馬鹿だったのかとガックリした大西だったが、ふと思考を切り替えてみた。
今、太朗はあの男のことを好きだと言い、身体の関係まで持ってしまったが、あの男はもう30過ぎに対し、自分達は高校1
年、16歳だ。
これから太朗の身体も心も変わっていくということは十分考えられる。
そうなった時、太朗の一番傍にいるのは、きっと自分のはずだ。



 「仁志?」
 黙り込んでしまった大西を、太朗は心細く見つめた。
上杉と付き合っていることで大西が自分から離れていく事が怖かったが、かといって上杉と別れることも考えられない。
2人共大事だと言う自分はあまりにも子供っぽい考えなのだろうか・・・・・そう不安になった時、不意に顔を上げた大西は苦
笑しながら太朗の髪をクシャッと撫でた。
 「何て顔してんだよ、タロ。お前の言いたいことは分かった」
 「ホントに?」
 一番大事な親友には分かって欲しいと思っていた太朗の顔が安心したように綻ぶ。
しかし・・・・・。
 「俺、待ってるからな」
 「・・・・・え?」
 「お前があいつに飽きるのを待ってることにする」
 「ひと・・・・・んっ」
 いきなり目の前に大西の顔があったかと思うと、太朗は唇にふにっと柔らかい感触を感じた。
それが大西の唇だということに・・・・・キスをしたのだということに気付くまで少し掛かってしまったが、理解した途端、太朗はバッ
と大西から身を引いてギャーッと叫んでしまった。
 「なっ、何するんだよ!」
 「悪くないだろ、俺のキスも。どうだった?」
 「ど、どうって・・・・・卵焼きの味がした・・・・・けど」
 「太朗らしいなあ。ま、そういうことだから」
 「そ、そういうことって、仁志〜」
分かってくれたと思った仁志の言葉に、太朗はどうしていいか分からないような情けない声を上げる。
そんな太朗に、大西はデザートとして持っていたプリンを差し出した。これは太朗の大好物だ。
 「ほら」
自分の事をよく知ってくれている親友の切り替えの良さに途惑いながらも、太朗は差し出されたプリンを受け取る。
 「これからも仲良くしような、タロ」
それがどういった意味か考えるのが怖いような気がして、太郎は黙ったままプリンを頬張った。
甘いプリンの味が口の中に広がるのが嬉しいが、先程の卵味のキスは忘れることは出来ない。
(・・・・・ジローさんに言ったら・・・・・怒られるかなあ・・・・・)
まだまだ、男心が分からない太朗だった。