MY SHINING STAR











 翌日、登校して教室に入るなり、太朗は案の定大西に捕まった。
 「説明してもらおうか、タロ」
 「・・・・・はい」
昨日の様子から、大西が太朗の説明では全く納得していないだろうということは感じていたし、太朗自身も今の自分の気持
ちのモヤモヤを誰かに聞いてもらいたいと思っていたので、昼休み、弁当を持って大西と一緒に屋上に来た。
 「それで?あいつは何者だ?」
 太朗が大好きな甘い卵焼きを口に入れようとした瞬間、大西はブスッとした口調で聞いてくる。
しばらくモゴモゴと口を動かしていた太朗は、コクッとそれを飲み込んでから口を開いた。
 「ジローさんは会長さんなんだよ」
 「会長?」
 「羽生会ってとこなんだけど。で、どうして知り合ったかっていうと・・・・・」
 太朗は出来るだけ詳しく、上杉と知り合った出来事を話した。
さすがに一緒に風呂に入ったことやキスされたこと、更にはもっと・・・・・そんなことはさすがに大西にも言えず、その辺は何とか
誤魔化した。
しかし、大西の驚きは、大前提のこと・・・・・上杉の職業を聞いた時に爆発した。
 「ヤクザ〜っ?」
 「うん」
 「うんって、お前!何かされなかったかっ?」
 「へ?」
 「へじゃない!何でそんなに暢気にしてられるんだよ!相手はヤクザだぞっ?何時、何をしでかすかわかったもんじゃない!」
 「お、落ち着けって」
 「お前は少し慌てろ!」
 「は、はい」
(・・・・・言、言わない方が良かったかな・・・・・)
 太朗の中では、上杉の職業はさほど大きな問題ではなかった。
さすがに一番最初に聞いた時は驚いたし、大丈夫だろうかとも思ったが、付き合っている内にその杞憂はたちまちの内に消え
去った。
確かに上杉は多少俺様な所があって、何時も強引に太朗を連れ回しているが、太朗に向かって暴力をふるったり、恫喝め
いた言葉を言ったことはなかった。
それに、太朗の飼い犬のジローやトメ、拾った捨て犬の大福(だいふく)もとても可愛がってくれる。
動物好きに悪い人はいないと信じている太朗にとっては、既に上杉は『いい人』のくくりに入っているのだ。
 「仁志・・・・・」
 「・・・・・ったく」
 激しく舌打ちをする大西に、太朗はビクッと身体を揺らす。
何時も笑って太朗をからかう大西の、何時もとは違う様子が怖かった。
(な、なんでこんなに怒ってんだろ・・・・・)
 「タロ」
 「う・・・・・はい」
 「お前の頭の中では、もうあいつはいい人って事になってんだな?」
 「う、うん」
 「・・・・・よし、一回俺を会わせろ」
 「え?」
 思い掛けない大西の言葉に、太朗は戸惑ったように首を傾げた。
 「仁志・・・・・ジローさんのこと、気に入らないんだろ?なんでわざわざ会うんだよ?」
 「・・・・・お前には分からないだろうなあ」
子供扱いのような言葉の響きにカチンとくるが、実際大西が遥かに自分よりも大人だと分かっている太朗は反論することも出
来ず、渋々頷いて言った。
 「でも、ジローさんが駄目だって言ったら駄目だからな?」
 「分かってる。でも、絶対会うと思うぞ」
 「どうして?」
 「・・・・・自分で考えろ」
そう言ったきり弁当を食べることに集中し始めた大西に、置いていかれた気がした太朗はむうと口を尖らせた。



 携帯を切った後、上機嫌に笑みを浮かべる上杉に、小田切が新たな書類を差し出しながら言った。
 「愛しい太朗君のご用件は?」
 「友達に会って欲しいんだと」
 「友達?」
退屈な会食の後、車に乗った瞬間に掛かってきた太朗からの電話。
高校に入学してから買ってもらったという携帯には、家と家族の携帯番号、そして、仲のいい数人の番号しか載っていなかっ
たようで、上杉と小田切がそれぞれ番号を教えた時、やっと10個を越えたと喜んでいた。
 「突然、ですか?」
 「昨日、タロを迎えに行った時会った。ガキのくせに俺を睨んでいた胆の太い奴だ」
 「それは・・・・・」
 途端に小田切の唇の端が上がったのを上杉は見逃さなかった。
(また何考えてるんだか・・・・・)
こういう楽しそうな話には目が無い小田切を知っているので、上杉はさりげなく牽制するように言う。
 「相手は高1のガキだからな。変な小細工しようとするなよ」
 「失礼ですね。私が何時そんなことをしました?」
 「毎度のことだろう」
 「・・・・・あなたの派手な女遊びを止めさせた貴重な存在ですからね。絶対に手放さないように用心するだけですよ」
 「派手なって・・・・・」
 確かに、上杉の私生活は褒められたものではなかった。
特定の相手を作るのは面倒だと、ほとんど日替わりのように抱く女は変わった。それは水商売の女だったり、人妻だったり、学
生だったり・・・・・。
好みの顔であればほとんど節操なく喰ってきたといってもいいだろう。
 ただし、それでも色に溺れるといったわけではなく、適当に性欲処理をしていただけだったが、なまじモテて何時も回りに女が
群がっているといった雰囲気なので、どうしても遊び人と思われがちだった。
(タロと会ってからは品行方正な生活してるだろってーの)
 自分でも驚くほど15歳の少年に嵌ってる。
その為に空いてる時間だけでなく、無理矢理にでも時間を作ってその子供に会いに行っている。
真面目になったと褒められるのは分かるが、今更昔の悪行を暴き立てて欲しくはなかった。
 「今度の土曜の昼、空けといてくれ」
 「私も同席して・・・・・」
 「却下」
 「なぜです?」
 「お前、絶対向こうの味方するつもりだろ?だから駄目」
 「・・・・・つまらない」
この男が出てきたら、かなり話がややこしくなるはずだ。
上杉は絶対に駄目だと念押しすると、数日後に会える太朗の面影を思って目を閉じた。