MY SHINING STAR











 そして、土曜日がやってきた。
 「仁志、ホントに会う気?」
 「当たり前だろ」
大西はふんっと胸をはって言った。
太朗が上杉に伝えた場所は、何時も会っている公園。
高校生の自分達と、ヤクザの会長である上杉の共通の場所など考え付かず、結局は今の2人の共通の場所である公園
でいいかと思ったのだ。
 「・・・・・」
 太朗はチラッと大西の横顔に視線を向ける。
(冗談かなあって思いたかったんだけど・・・・・)
 上杉には連絡したものの、太朗は大西が直前でキャンセルするだろうと思っていた。
やはり、ヤクザと聞くと誰もが二の足を踏むだろうし、その上初対面は険悪な雰囲気だったので、わざわざ会おうとする大西の
気持ちが分からなかった。
 しかし今、こうして揃って約束の公園にいるという状況は、自分にとっていいのか悪いのか、太朗はグルグル考えて・・・・・唐
突に考えるのを止めてしまった。
(ま、何とかなるよな)
 一回会わせれば大西も満足するだろうと気分を切り替えると、太朗の意識は大西の隣の存在に向けられた。
 「久し振り、勘助(かんすけ)。相変わらずいい面構えだよなあ」
にっこり笑い掛けながら太朗が抱き上げたのは、大西の愛犬、フレンチブルドッグの勘助だ。
白毛に黒いブチの勘助は今年14歳になるおばあちゃん犬だが、今だに足腰は丈夫で、朝晩の散歩も欠かさないというくらい
の元気な犬だ。
 太朗の犬のジローとも仲良しで、休みの時は犬同伴でよく遊びに行くくらいだった。
 「うわ、あはは、やめろって〜」
愛嬌のある顔を間近にして見つめていると、勘助はペロペロと太朗の顔を舐めてくる。
よく遊んでやる太朗は、勘助にとって大好きな友達なのだ。
 「うはは、はは、・・・・・あ」
 ふと、視界の端に何かが映って、太朗の視線がそちらに動く。
それにつられたように大西も同じ方向に視線を向けた。
 「来たな」
 「う、うん」
 いかにもな黒塗りの車の後部座席から降りてきたのは、見惚れるほどに整った容姿の男。
男は掛けていた黒いサングラスを外し、まるで映画俳優のように片手を上げて笑った。
 「タロ」



(相変わらず可愛いな)
 きょとんと目を丸くして視線を向けてくる太朗を満足げに見つめた上杉は、その隣で自分を睨むように見つめてくる大西に向
かってニヤッと笑ってみせる。
きっと、人の悪い、胡散臭い人間だとでも思っているのだろう。
(・・・・・犬同伴か)
 太朗の抱いている見慣れない犬は、多分あの子供の飼い犬なのだろう。
動物に弱い太朗の気性を十分察知しているらしい。
 「ジローさん!」
 その犬を地面に下ろした太朗が、一直線に上杉に向かって走ってくる。
上杉は太朗に向かっては柔らかな笑みを向け、そのままその細い身体を抱きしめようとしたのだが・・・・・。
 「何だよ!そのサングラス!胡散臭過ぎるって!」
 「・・・・・」
猫のような大きな目をキッと吊り上げて言う太朗に、内心楽しく思いながらも表情は眉を顰めて上杉は言った。
 「おいおい、会うなり小言か?」
 「だって、そう言いたくなるんだって!せっかくジローさんがいい人だって仁志に教えたいのに、そんなんじゃ悪い印象になっちゃう
だろ!」
 「そうか?」
 「そう!」
 「・・・・・」
(俺ってマゾか?)
 歳の差とか立場の違いとかは関係なく、こうして自分を叱ってくれる太朗の存在が嬉しかった。
上杉自身自分が納得のいかないことに口を出されるのは面白くはないが、太朗が注意してくるのは些細な、しかし上杉のこ
とを考えてのことばかりで、そこまで考えてもらって嫌だと思うはずがないだろう。
会う早々、太朗の意識が自分に向けられたことに満足し、上杉はわざといかにもな格好をしてきたことが正解だったとほくそ笑
んだ。
 「タロ!」
 放っておかれた形になってしまった大西に名を呼ばれ、太朗はやっと今の状態に気付いたようだった。
 「あ、ごめん、仁志」
 「まったく、思い付いたら一直線だな、お前は」
 犬のリードを引きながら近付いてきた大西が、これ見よがしに太朗の髪をワシャワシャと撫で回す。
その親密な様子に、上杉の眉間に本物の皺が寄った。
 「タロ、紹介してくれ」
 「う、うん。仁志、この人が犬友達の上杉滋郎さん。ジローさん、こいつが大西仁志。中学からの友達なんだ。そして、この
子は勘助。でも、メスなんだよ」
犬の紹介まですると、太朗は上杉と大西の顔を交互に見た。
 「・・・・・で、どう?」
 太朗にしてみれば、大西が上杉に会いたいと言った意味も、上杉がそれを了承した意味もよくは分かっていないのだろう。
どうしようと困惑している様子が手に取るように分かった。
そんな中、最初に口を開いたのは、この中で一番最年長の上杉だ。
 「どうだ?間近で見て気が済んだのか?」
 「・・・・・タロからあなたの職業を聞きました」
 「職業・・・・・まあ、仕事っちゃ仕事か」
 「あなたのような人と、普通の高校生であるタロが付き合うのはあまりいいとは思わないんですけど」
 「・・・・・お前、モテルだろ?」
 「は?」
 「もう、女知ってるか?」
 「!」
 「ジ、ジローさん!」
 「タッパもあるし、面だって悪くない。俺に突っかかる度胸だってあるしな。女が放っておかないだろ」
 「・・・・・あなたに関係ないでしょう」
 「大有りだな。女に不自由なさそうな奴が、わざわざオトモダチの交友関係にまで口を出すほど閑なのかってな」
鈍い太朗とは違い、大西は正しく上杉の言葉の意味に気付いたらしい。
険しい表情になった大西に、上杉は不遜な笑みを向けた。