MY SHINING STAR











 あくまでも自分に対する反抗心を失わない大西に、上杉は内心感心していた。
大体、相手がヤクザだと聞いた段階で、係わり合いになりたくないというのが普通の感情だろう。
(それほどタロに入れ込んでるってわけか)
中学時代からの仲だと言っていたが、この数年間鈍感な太朗相手によく我慢したものだ。
太朗に手を出した時のあの反応から、2人の間には性的な関係は何も無かったということが読み取れるし、多分大西は率先
して太朗を世俗の情報から隔離してきたのだろう。
(そうじゃなきゃ、あんな天然は作れないって)
高校一年生・・・・・この年頃にしては太朗が不思議なほど性的なことを知らないのは、まさにこの大西の責任といっていいか
もしれない。
(良くも悪くも、太朗にとっては影響大ってとこか)
 上杉の挑発を真正面から捉えた大西は、一度チラッと太朗に視線を向けてから言った。
 「あなたが思ってるよりは大人だと思いますよ」
 「ん?何時頃だ?」
 「・・・・・中2の冬休み」
馬鹿正直に答えたのは本当だろう。確かに想像していたよりは早い経験時期だったので、上杉は感心したように言った。
 「へえ、まあ、早い方じゃないか?」
 「さあ・・・・・人の事まで知りませんから」
 「仁志?なあ、何の話してるんだよ?」
 仲間外れの様に感じたのか、太朗は大西の服を掴んでじれったそうに聞いてくる。
どうしてその手が自分に伸びてこないのか、上杉は面白くない思いでそれを見た。
 「タロにはまだ関係ないことだって」
 「何だよ、それ!ジローさんと仁志は通じてるんだろっ?同い年の俺が分からないってヘンじゃん!」
 「・・・・・」
(気付かない方が変なんだよ)
 「タロ、いいからお前は大人しくしてろ。俺は今この人と話があるんだから」
 「仁志!」
 太朗の感情の高ぶりが伝染したのか、犬の勘助が落ち着かないようにクルクルと回り始めた。



(何なんだよ!ジローさんを紹介したのは俺なのに、どうして仁志が分かったようなこと言うんだっ?)
 太朗は悔しそうに仁志を睨む。その気持ちの中に、僅かながらも仁志に対する嫉妬が含まれていることに本人は気付いて
いなかった。
 「こんなんじゃ、俺がいなくってもいいよなっ!」
 「タロ」
宥めるような上杉の声までカチンと気に障った。
 「ジローさんも仁志と話したいんだろ!俺、お邪魔虫みたいだし、帰る!」
 「待てって」
 グイッと腕を引っ張られ、太朗の身体は軽々と上杉の腕の中に納まった。
 「タロ!」
慌てて太朗を引き戻そうとする大西を一瞥し、上杉はギュッと太朗を抱きしめたまま言った。
 「悪いがな、これ以上タロに誤解されちゃたまらないし、はっきり口で言わせて貰うぞ」
 「ジローさ・・・・・」
 「こいつは俺のもんだ。今後一切こいつに手出しはやめてもらおうか」
 「!」
 「なっ?」
(ひ、仁志に何言ってるんだっ?)



 元々大西と会おうと思ったのは、この一言を伝える為だった。
まさか子供相手に自分が負けるとはとても思わないが、それでも高校という限られた空間には手が出せないので、そこでもし
も・・・・・という可能性が無くもない。
その為にも自分という存在を知らしめておくのも悪くはないと思ったが、子供は案外男に近いほど成長しているようだ。
 「タロ!この人の言ったこと、本当かっ?」
 「え?ええ?」
 「お前、まさか本当に・・・・・」
 先程までの機嫌の悪さが一転、太朗は目を泳がせてどうしようかと口篭っている。
そんな態度は返って上杉の言葉に真実味を持たせた。
 「俺が・・・・・俺がずっと守ってきたのに・・・・・っ」
 「ひ、仁志?」
 「何の為に手を出さなかったと思うんだよ!」
 「あ、あの・・・・・」
 「それは単にお前が怖かったからだろ?タロに気持ちを伝えて拒絶される可能性を考えて、一番安全な親友の座に胡坐を
かいていた。俺はごめんだな、そういうの。欲しけりゃ口に出して言うし、拒絶されても意地でも奪う」
 「そんなのっ、誰でも出来るわけないだろっ」
 「その時点で、お前は負けだな」
そう言い捨てると、上杉は腕の中で固まってしまっている太朗を抱き直し、にやっと人の悪い笑みを浮かべた。
 「ここではっきりさせておいてやる」
 「ジ・・・・・んんむっ」
抵抗する間も与えず、上杉は太朗に唇を重ねた。
軽い・・・・・そんなものではなく、しっかりと舌を絡み合わせるディープなものだ。
 「ふうう・・・・・っ」
いや、太朗が舌を絡ませるといった行為が出来るはずが無く、上杉のキスを受け止めるだけで精一杯で、すぐ側で大西が呆
然とその行為を見ていることにも全く頭が回っていなかった。
 そんな太朗の初々しい反応が可愛くて、上杉はわざと大西に見せ付けるようにキスの角度を変えていく。
ぽってりとした小さな唇を舐め、強引に舌をねじ込んで可愛い声を上げさせる。
上向いた顎にまで飲み込めない唾液が滴り落ちた時、太朗の身体は完全に力が抜け落ちて、上杉のなすがままに翻弄さ
れていた。
 「・・・・・ぁん」
 どのくらい経ったのか、満足した上杉は最後にもう一度強く舌を吸ってからようやく唇を離した。
くったりと自分の胸に頬を預ける太朗の髪を優しく撫でながら、その視線を大西に向ける。
(ん?)
 呆然と立ち尽くすだけだった大西の目には、更なる強い敵対心が溢れていた。
 「諦めませんよ」
 「・・・・・」
 「そんなキス、俺だってタロにしてやれる」
 「おい」
 「あんたの思い通りになるもんかっ」
(・・・・・おいおい)
思い掛けない大西のライバル宣言に、さすがの上杉もはあ〜と溜め息を付いてしまった。
(失敗したか・・・・・)
太朗の友人だけあって、大西も一筋縄ではいかない子供だった。