熱砂の恋
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※ここでの『』の言葉は外国語です
「ユーマ、私を選べ。お前に身も心も溶けるような快楽と愛を注いでやる」
アシュラフの言葉に、悠真は顔だけではなく全身が真っ赤になり、熱くなったような気がした。
(ど、どうしよう・・・・・)
嫌だとはっきり断るのが本当なのかも知れないが、悠真自身誰かにこんな風に熱い思いをぶつけられたのは初めてで、自分がど
うしたらいいのか分からないのが本当だった。
まだ16歳の悠真は、好きとか嫌いとか、強い感情を誰かに向けたことはない。
確かに家族は好きだし、学校の友人達も好きだ。
柔らかな雰囲気の悠真は女の子にも人気があり、好きだと告白されたことも何回かある。
そんな時、嬉しいなとは思うものの、自分も相手に対して何らかのアクションを取るという事はなかった。
「ユーマ」
アシュラフの言葉はストレートだ。
こんなにも官能的な言葉で愛を囁かれたのは初めて、さらにそれが初対面からカッコイイと思っていた相手だけに、無下に断るこ
となど出来ないというか・・・・・。
(・・・・・したくないって・・・・・思ってる?)
「悠真っ」
そんな悠真の躊躇いを感じたのか、父親が厳しい声で名前を呼んだ。
「と・・・・・さ・・・・・」
悠真はそんな父親とアシュラフの顔を交互に見つめることしか出来なかった。
悠真が躊躇っているのが手に取るように分かり、アシュラフは内心ほくそ笑んだ。
拒絶や嫌悪感さえなければ、悠真のような子供を取り込んでしまうことなど容易い事で、一度その身体を抱いてしまえば、その
快楽に悠真の心も身体も溶けるはずだ。
今は懸念を抱いているらしい父親にも、切り札になるものはちゃんとある。
「ミスター、ナガセ」
「・・・・・はい」
強張った表情ながら、それでも律儀に返事を返してくる男に、アシュラフは魅惑的な笑みを向けながら言った。
「ユーマが私の妻となれば、あなたは私の義父上となる。縁戚関係になれば、我が国の原油の発掘権をお任せすることも考
えることが出来るのだが」
「・・・・・っ」
それは、相手にとって今は喉から手が出るほど欲しい確約だろう。
一瞬目を見張った永瀬は口を開きかけたが、直ぐに苦渋の表情になって両手の拳を握り締めた。
その様子を見て、アシュラフは長瀬に好感を持つ。
(子を売るような親ではないようだな)
アシュラフの言葉一つで態度を一変させるようであれば、それこそ有無を言わせず悠真を奪い、永瀬を国外追放にでもするつ
もりだった。
しかし、今の永瀬の態度を見れば、正式な話を進めるのもいいかも知れない。
そして、そんな親に育てられた悠真ならば・・・・・。
「ユーマ」
「は、はいっ」
緊張して声が裏返る悠真を見て笑ったアシュラフは、その身体をいきなり抱き上げた。
「うわっ」
「悠真っ」
「ユーマ、試してみよう」
「た、試す?」
「お前が私の・・・・・男の妻になれるかどうか、お前の身体に聞いてみたい」
それがどういう意味なのか、さすがに悠真も分かったのだろう。
触れる身体が更に熱くなったのが分かった。
(か、身体に、身体に聞くって・・・・・でもっ、俺っ、男だし・・・・・)
セックスというものは、普通男と女がするもののはずだろう。友人から借りた、少しエッチな本で見た事がある。
兄弟が弟しかいないので、そういった性的な知識は友人からのかい摘んだ幼い情報しか持っていないのだ。
「ア、アシュラフ様」
「様はいらぬと言っただろう」
「・・・・・アシュラフ、何度も言うけど、俺は男です」
「それは分かっている」
「だったら・・・・・っ」
「ユーマは知らぬのか?男同士であっても愛し合うことが出来るということを。お前が私を受け入れることが出来れば、妻とい
う立場になることも無理ではないだろう」
「えっ?」
(男同士で、う、受け入れるっ?)
それは今までの悠真の知識の中には無いことだった。
「ユーマの全てを私のものにしたい」
「ちょ、ま・・・・・っ」
『ルトフ、後の始末は出来るな』
『皇子』
『今回の見合いはお前達が全てお膳立てをしたものだ。その中の1人を私が気に入り、妻にしようとしている。何か問題があ
るか?』
困惑するルトフは答えることが出来ない。
確かに、今回の見合いはアシュラフ自身は乗り気でなかったのに、臣下達が強引に推し進めたものだ。
ルトフもその中に悠真が入ることは承知していたが、アシュラフが異国の人間を選ぶとは最初から考えていなかった。
まさか男だとは思わなかったが・・・・・それでも、そのことを知らなかったとは言えるはずもない。
『承知いたしました。全ては皇子のお望みのままに』
ルトフの言葉に満足したアシュラフはそのまま広間を出て行くが、その後を永瀬が必死で追い掛けてきた。
「皇子!」
廊下にいた兵士達がいっせいに剣を構えようとしたので、悠真は父親が切られてしまうと反射的にアシュラフの腕に爪をたててし
まった。
「止めてくださいっ」
「・・・・・分かっている」
悠真の訴えに、アシュラフは目線で兵士達の動きを止めると、そのまま振り返って永瀬に言った。
「・・・・・なんだ」
「ど、どうか・・・・・悠真が少しでも嫌がれば・・・・・怖がったりしたら、どうかその場で許してやって下さいっ」
この場では、もうこれ以上のことを言うことが出来ないのだろう、永瀬は苦しそうに言葉を搾り出した。
悠真も泣きそうになって父親を見ている。
「案ずるな。真にユーマが嫌だということをするつもりはない」
「皇子・・・・・」
「大切な私の花嫁だ。優しく、優しく、大切に扱うことを誓おう」
父親と離された悠真は既に泣きそうになっていたが、その顔にアシュラフは可哀想だと思うよりもゾクゾクするほどの欲情を感じ
ていた。
それでもハレムに入るまではアバヤを取ることが出来ないので、あの赤い唇に触れることも出来ない。
(このような気持ちになったのは初めてか・・・・・)
正式な妻はまだ娶ってはいないが、アシュラフは10歳になった時用意された女を初めて抱いた。
その時はさすがに抱いたというよりも抱かれたという感じではあったが、それから今の歳になるまで、一度だけの遊びを含めれば
何人の女と関係を持ったのかさえ分からない。
それほど遊んでいてもアミールほど目立たなかったのは、未来の国王ということで周りが全て後始末をしてきたからだ。
一番最初の女を抱いた時はさすがに緊張をしたが、それ以降は自らの快感と快楽だけを求めていた気がする。
皇子という立場上、全てがお膳立てをされていたり、向こうから言い寄ってきたりするのがほとんどで、アシュラフ自身が欲しいと
思って手を出したことは・・・・・考えると一度もなかった。
この悠真が初めてなのだ。
「ユーマ」
腕の中の悠真は可哀想なほど震えている。
はっきりと男の口から男である自分を抱くということを言われ、萎縮しない者はいないかもしれないが。
「怖いか?」
「・・・・・」
「怖いか?私が」
「・・・・・あ、あなたのこと、は、怖く・・・・・ないです。でも・・・・・何をされる、か・・・・・」
「抱かれるのが怖いか」
「・・・・・男同士なのに・・・・・」
(最近の日本人は性にオープンになってきたと聞いていたが・・・・・)
まるで誰の手垢も付かないように、大切に籠の中で育てられた乙女のような反応に笑みを誘われるが、これからすることを始め
から怖がられていては、お互いに楽しむことは出来ない。
少しでも頑なな悠真の心を溶かすように、アシュラフは部屋に着くまで言葉で愛撫することにした。
「お前の柔らかな肌に早く口付けしたい」
「・・・・・っ」
「白い肌は、きっと私の刻印をくっきりと残すだろう」
「ア、アシュ・・・・・」
「お前の持っている果実から零れる蜜は、さぞかし甘いものなのだろうな」
「アシュラフッ」
「どうした、ユーマ」
「も、もう、止めてください」
耳元で囁かれる淫らな言葉に、悠真はアシュラフの腕の中で身体をモゾモゾとさせている。
真っ赤な顔と震える身体・・・・・若く素直な身体は、直接的な愛撫ではなく言葉だけでも感じ始めてしまったようだ。
(可愛い・・・・・可愛いな、ユーマ)
自分が感じていることを必死で隠そうとしている悠真が愛らしく、アシュラフは更にその耳元で甘く囁く。
「お前の中は、きっと熱くきつく、私を締め付けてくれるだろう」
「・・・・・」
「女であれば孕むほどに・・・・・お前の中に私の精を注ぎ込もう」
「・・・・・っ」
悠真は小さく呻いて、ますます身体を小さくした。
アシュラフの声はしっとりと艶がある甘い声で、悠真はずっと身体がゾクゾクするのを誤魔化すのに必死だった。
まさか自分が男の声で感じているなどと恥ずかしくて知られたくない。
(み、耳元で話さないでよ・・・・・っ)
本で見た女の水着姿や裸よりも、はるかに官能的な刺激。
「・・・・・」
アバヤを着ていて良かったと思う。
これを付けていなかったら、とっくにアシュラフには悠真のペニスが勃っていることが分かるだろう。
「ユーマ」
(やめて・・・・・っ)
「ユーマ、私を見なさい」
(もうしゃべらないでよ〜っ)
答えない悠真に、アシュラフの笑う気配が感じられる。
その吐息さえくすぐったいように感じたが、悠真はとにかく自分の身体の変化を知られないようにするしか出来なかった。
「・・・・・」
そして・・・・・どのくらい歩いたか、不意にアシュラフが足を止めた。
「あ・・・・・」
恐る恐る視線を向けた悠真の目の前には、かなりの高さがある大きな扉があった。
「・・・・・なに?」
左右には武装した男が1人ずつ立っており、アシュラフを見ながら恭しく頭を下げると、頑丈そうな鍵と押さえ棒を重々しく外して
いく。
(・・・・・まさか・・・・・)
扉は木などではなく、鉄か何かで出来ているようで、重い音を響かせながら左右に開かれた。
「ア、アシュラフ、ここ・・・・・」
「私のハレムだ。お前は名誉ある第一妾妃になる」
「ハレム・・・・・」
(ここが・・・・・?)
「この扉から向こうの敷地内には、男は私しか入れない。今までは中には主はいなかったが、今日からお前が住んでも不自由
が無いようには全て整っているはずだ」
「ま、待ってくださいっ」
「出入口はこの扉だけ。周りは数メートの壁で囲っている。一度足を踏み入れれば・・・・・逃げることなど出来ない」
「待って!」
悠真が叫んでも、アシュラフの足は止まらなかった。
一歩、アシュラフが中に入った途端、扉は無情にも閉められ、鍵を掛ける音が静かに響く。
もうここから出ることが出来ないのか・・・・・悠真は先ほどまで熱くてたまらなかった身体がたちまち冷えていくように感じた。
「こ、怖い・・・・・よ・・・・・」
「案ずるな、ユーマ」
そんな悠真の恐怖と緊張を和らげるように、アシュラフはアバヤから覗く目元にそっと口付けを落とす。
こんなに自分勝手で横暴なことをしているのに、悠真はなぜかアシュラフを嫌いだとは思えなかった。
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アラブ物、第4話です。
次回は、花嫁と決めた悠真にあっちのお勉強をしてもらいます。
あれよあれよという間に、全部アシュラフのものになりそうな悠真。・・・・・優しくしてもらいなさい(笑)。
次で終わるのでしょうか・・・・・。