熱砂の誓約








                                                          
※ここでの『』の言葉は外国語です






                                   ◆



 かなりの衝撃を学校に残し、気がついた時、悠真はアシュラフの運転するフェラーリの助手席に座っていた。
 「ア、アシュラフ、免許・・・・・」
普通に日本で運転してもいいのだろうか・・・・・端正なその横顔をじっと見つめていた悠真は、アシュラフの服装を見て唐突にそ
う思ってしまった。
 「国際運転免許は持っている。問題があればそれなりの人間に処理させる」
 しかし、アシュラフは悠真の懸念をすぐさま打ち消してくれ、次に信号で止まった時には、悠真の左手を手に取り、そっとその手
の甲に唇を押し当てる。
 「お前に怪我をさせるほど、運転技術は無能ではないつもりだ」
 「う、うん」
 悠真から見れば、アシュラフは何もかも完璧な男だ。顔も良くて、頭も良くて、行動力もあって。その彼が大丈夫だというのなら
ばそうだと思えた。
 そして、少し落ち着いた悠真が次に感じたのは嬉しさだった。
会えるのは、早くても数日後。それまでは、しばらくは帰ってこない日本で、両親や友人達と別れを惜しむつもりだったが・・・・・。
(まさか、アシュラフが迎えに来てくれるなんて思ってもみなかった・・・・・)
 普通の高校生の自分とは違い、小国ながらアシュラフは一国の皇太子だ。
いずれは王位に就くアシュラフは今でも様々な対外的な仕事をしていて、その甘いマスクと、明晰な頭脳で、かなりその名を知ら
れているようだった。
 中には、他国のセレブな相手(王女や貴族)からの見合いの話も途切れずにあるようだったが、アシュラフはお前以外は妾妃も
娶るつもりはないと、はっきりと言葉で伝えてくれる。
離れていた間も、甘い言葉を与えてくれるアシュラフに、悠真は不安を覚える暇も無かった。



(薔薇の花束は嘘ではなかったようだな)
 アシュラフの私的な雑務を一切取り仕切っている侍従長のアリー・ハサンが調べてくれた日本の卒業式の伝統の行事は、どう
やら間違ってはいなかったようだ。
 自分の主であるアシュラフの伴侶が日本人だと分かってから、アリーはかなり日本について調べていて、今ではアシュラフの方が
色々と教えられることが多いくらいだった。
 「アシュラフ、どこに行くの?」
 「空港だ」
 「え?」
 「このまま、ガッサーラへ向う」
 「ええっ?」
 何を驚くのかと、アシュラフは不思議に思った。
悠真が高校を卒業したいと言うから、自分はこんなにも長い間悠真を手元に置くのを我慢していたのだ。
それが、今日卒業を迎えるというのならば、今日からもう自分のものになると思ってもおかしくはないだろう。その自分のものを自分
が取りに来て、何が不思議だと思うことがあるだろうか。
 「ま、待って、アシュラフッ。俺、明後日のチケット取ってて・・・・・っ」
 「私のプライベートジェットだ。チケットなど必要ない」
 「で、でもっ、パスポート・・・・・」
 「お前の父親から預かっている。お前は、その身体だけで来ればいい」
 「えーっ?」
 再び、驚いたように声を上げる悠真に、アシュラフは苦笑を浮かべた。
(チケットが1枚無駄になるくらい、構わないだろうに)



 アシュラフの言葉は、悠真にとっては驚くことばかりだった。
卒業式に来てくれたことは確かに嬉しかったし、このままアシュラフとガッサーラ国に行くのかなと思いはしたが、まさか卒業式のこの
帰りに直接とは思わなかった。
 まだ余裕があると思っていた悠真の頭の中ではしなければいけないことや用意しなければならないものが渦巻いて、落ち着きな
く視線を彷徨わせてしまう。
 「ア、アシュラフ、ちょっとだけ家に・・・・・」
 「駄目だ」
 「で、でも、俺制服のまま・・・・・」
 「直ぐに脱ぐんだ、気にするな」
 「ぬ、脱ぐ?」
 「恋人との久し振りの再会で何をするのか、お前も想像はつくだろう、ユーマ」
 意味深な笑みに、悠真の鼓動がトクンと高鳴る。《恋人》という単語が、明らかに何かを想像させてしまうのだ。
(お、俺って・・・・・エッチッ)
 「お、俺・・・・・」
 「何も考えられないように、愛してやるぞ、ユーマ」
その言葉に反論することはとても出来なかった。



                                   ◆



 「んっ」
 覆いかぶさってくるアシュラフの逞しい身体を押し返すことなど出来ず、もちろん、それ以上に抵抗する気もない悠真の手は、必
死でその背中にしがみ付いた。

 クチュ クチュ

 肉厚なアシュラフの舌は思う様悠真の口腔を蹂躙し、その唾液を啜る。
片手を伸ばしてきて、簡単に制服のシャツのボタンを外していく器用な指先を布越しに感じながら、悠真はこんな空の上でアシュ
ラフの腕の中に堕ちてしまった自分をどうコントロールしていいのか分からなかった。



 空港に着いたアシュラフは、いくらするのか悠真には見当もつかないフェラーリをそのまま乗り捨て、悠真の腰を抱いたまま空港の
ロビーに入っていった。
 民族衣装を着ているアシュラフはそれだけでも目立ち、行き交う人々の視線がいったい何事かと横顔に突き刺さるのを感じて、
悠真は顔を上げることも出来なかった。
 どうやら、アシュラフは今朝日本に着いたばかりで、その足でとんぼ返りをすることになっているようだ。燃料を補充し、点検を終え
て、何時でも出発する準備の出来ていたプライベートジェットに乗り込んだ悠真は、ようやくそこで両親に電話することを許された。

 「結婚式には行くから。いる物があったらその時に持っていくぞ」

 アシュラフに逆らうことの出来ない父。しかし、その前提で、悠真がアシュラフを受け入れているということがある。
だから卒業式の後、あんな表情をしたのかとようやく分かった悠真は、とにかく向こうに着いたらまた電話をするからと言って、慌てて
電話を切った。
 それは、アシュラフの手が、意味深に腰に触れてきたからだ。
 「ア、アシュラフッ」
 「ユーマ」
隔離された空間の中、アシュラフはもう遠慮はしないとでもいうように(今までもしていたとは思えないが)唇を重ねてくる。悠真はこ
こがどこなのか、考える余裕がなくなってしまった。



 飛行機の中とは思えない空間。
直ぐに悠真を可愛がるために、マットもクッションも用意させていたアシュラフは、そのまま悠真の身体を押し倒し、あっという間に制
服もシャツも脱がせてしまった。
 「あ・・・・・」
 「・・・・・」
 露になった上半身に、悠真は羞恥を感じたのか隠そうと身を捩るが、アシュラフは自分のものでもあるこの身体を久し振りに堪
能するために腕を掴み、腰を抑えた。
 「ま、待って・・・・・っ」
 「待てない」
 「で、でもっ、人が・・・・・」
 「人払いはしてある。私が呼ぶまで、ここには誰も入ってこない」
 当然だ。ようやく手にすることの出来る身体を他の人間に見せるつもりは無かったし、国に帰るまで我慢するつもりも無かった。
それに・・・・・。
 「ユーマ、私のペニスは入れない」
 「・・・・・え?」
 「結婚式が終わるまで、花嫁は清らかな身体でなくてはならない。古臭い昔からのしきたりだし、他の人間に見せることも無いの
で分かるはずもないが、神に逆らってお前と離れるようなことになっても困るからな」
 その上、悠真は男で、通例とは異なる。
王族の花嫁は処女が好ましいとも言われるが、処女膜の無い男は何時でも抱く時が初めてと同じだ。長い禁欲生活に、アシュ
ラフは当初このしきたりを守るつもりはさらさら無かったのだが・・・・・。

 「神はどこでも見ていらっしゃいますよ」

 若いくせに信心深くそう言うアリーに、アシュラフも結婚式が終わるまで悠真を抱くことはしないと誓った。ただし、その身体を可愛
がることはしてもいいだろうと勝手に考える。
 「安心して、身体の力を抜け」
 「・・・・・」
 最後まではしないと言う言葉に安堵したのか、悠真は少しずつだが身体から強張りを解いていった。
 「ユーマ」
 「アシュラフ・・・・・」
 「愛してる、私の花嫁」
そう言うと、顔を赤くするものの、悠真は嬉しそうな表情になる。
その顔が可愛くて、それ以上にもっと艶やかな表情も見たくなって、アシュラフはそのまま悠真の白い胸元へと顔を埋めた。



 「私のペニスは入れない」

 はっきりとそう言われた時、確かにこんなところで抱かれると困ると思っていた悠真は安堵したものの、心のどこかで残念だと思う
気持ちも確かにあった。
 長い間、離れていて寂しいと思っていたのは悠真も同じで、相手を欲しいと思っているのも・・・・・同じだ。ただ、高校を卒業す
るまでと区切りをつけたのは自分だったし、恥ずかしいということもあって、悠真は自分から言い出せないだけだった。
 「あ・・・・・っ」
 「ユーマ」
 「ふ・・・・・んっ、あっ」
 胸の飾りを舐めながら、アシュラフの手はズボンのファスナーを下ろす。その隙間から潜り込んできた大きな手が、下着ごと自分
のペニスを握りこんだ。
 「!」
他人の手の刺激に、悠真はビクッと身体を震わせ、とっさにアシュラフの手首を押さえてしまう。
 「・・・・・っ」
(お、俺・・・・・っ)
 その手を引き離すことはとても出来ずにいると、まるでアシュラフの手を自分自身でペニスに押し付けている錯覚に陥って、悠真
はどうしようという縋るような眼差しを向けた。
 その視線に、アシュラフはふっと目を細め、そのままペロッと自分の手を押さえている悠真の手を舐めあげる。
ゾワゾワとした感触に、悠真は呆気なく下着の中で精を吐き出してしまった。
 「あ・・・・・」
 吐き出した瞬間は熱かったそれは、じわじわと熱を冷ましていく。粘ついた感触が気持ち悪くて、それと同時にこれぐらいの刺激
で射精してしまったことが恥ずかしくて、悠真は今度こそアシュラフの手をズボンの中から引き出そうとした。
 「駄目だ」
 「は、恥ずかしいよ、待、待って・・・・・っ」
 「こんなにも愛らしいユーマの姿を見ることが出来るとは・・・・・禁欲もたまにはいいかもしれないな」
 「・・・・・!」
ペロッと唇を舐めるアシュラフの表情は、淫蕩な色に変化していた。



                                   ◆



 「・・・・・」
 アシュラフはようやく悠真の身体から離れた。
既に全裸になっていた悠真の身体は、自分の吐き出した精液で淫らに濡れている。
 「・・・・・」
たて続けに快感に追いやった身体は既に疲れきっていて、今アシュラフがそっと腹からペニスに指先を滑らせても、閉じた瞼をピクピ
クと反応させるだけだった。
(少し、苛めてしまったか・・・・・)
 最後までしないと言ったアシュラフに、最後の方では悠真は入れて欲しいと半泣きで誘いをかけてきた。
それは、式までは最後まで手を出さないと決めたアシュラフの決意も揺らいでしまいそうなほど、強烈に魅力的な誘いだった。
(・・・・・我慢出来た自分を褒めてやろう)
 最後まで自分の服は脱がなかったアシュラフだが、最後に悠真を射精させたと同時に自分も下着の中で精を吐き出してしまっ
た。
今から悠真に気付かれないように着替えなければならない。
 「・・・・・」
 全裸の悠真の身体も隠してやらなければならないが、この中は気温は一定に保たれており、風邪をひく心配はないだろう。
それに、薄赤く上気した肌に白い精液が飛び散っている姿は淫靡で・・・・・しばらく眺めていたい気もしていた。きっと、後で悠真
が気付くと拗ねて怒ってしまうだろうが。
 「・・・・・これからはそんな顔も全て見ていられるのだな」
 笑った顔も、怒った顔も、そして、今のような淫蕩な顔も。これからは全て側で見ることが出来る。
そう思ったアシュラフは思わず笑みを浮かべ、先ずは自分が着替えるためにその仕切りのドアを開けて言った。
 「着替えと、タオルを」






                                      






あ、熱い、熱いぞ、アシュラフ(汗)。
飛行機の中のエッチはイカせるだけで、続きは式後になります。