屋烏の愛 おくうのあい
10
尻に、ざらついた感触があたった。
「全部、入った」
「・・・・・っ」
圧し掛かるようにしていた綾辻が耳元でささやき、倉橋は自分の中に綾辻のペニスが全て収まったことが分かった。
立ったまま、それも向き合った形での結合はかなり苦しいが、ドクドクと波打つのが分かる中のペニスを直ぐに引き出してくれとは
言えなかった。
「動くわよ」
「ま、待って・・・・・っ」
「待てない」
ズル
収められたペニスが半ばまで引き出され、
グチッ
再び、根元まで押し入れられる。始めはゆっくりだったそれが次第に早くなっていき、倉橋は浅い呼吸を繰り返しながら綾辻の
肩にしがみ付いた。
(こ、わい)
圧迫感と痛みと、奇妙な浮遊感。それを上回る快感に頭の中は真っ白になってしまい、今自分達がしていること・・・・・セッ
クスのことだけしか考えられなくなってしまうのが怖くてたまらなかった。人の熱さと、抱きしめられる心地良さを知ってしまえば、そ
れを手放すことなど想像も出来ない。
「はっ、はっ、かはっ」
グチュグチュと自身の中の綾辻のペニスはまるで凶器で、倉橋はただ呼吸をするのに精一杯だ。
中の中まで犯されている。今この時は背負っている全てのものが落ち、ただの倉橋克己という人間が残って、自分の男に愛さ
れていた。
倉橋の身体の奥深くに精を吐き出した時、そうでなくても疲れが溜まっていたらしい倉橋はすっかり身体の力が抜けてその場
に座り込んでしまった。
多分、自分でもどんな体勢を取っているのか分かっていないと思う。分かっていたら、こんなふうに両足を開いた格好でうな垂
れたペニスも、ジワリと溢れ出てきた自分が中に注いだものも見せるはずが無い。
「そのままでいいから」
綾辻は温めのシャワーを肩から浴びせかけ、そのまま手でペニスも洗ってやる。
「・・・・・っ」
「・・・・・」
先端部分から、竿に掛けて、ゆっくりと先走りや精液を洗い落とすが、手の動きは自然と愛撫に近いものになってしまうのは止
められない。
「あ・・・・・」
「おとなしくして」
さらに、双球の奥の蕾に触れると身体が震えたが、綻んでいたそこに指を差し入れることは容易たっだ。
「んっ」
人差し指を入れ、内壁をぐるりとかき回して、中に自身が吐き出した精液をかき出す。
始めのきついほどの締め付けは無くなったものの、それでも指を締め付けてくる内壁の蠢きに綾辻は自分のペニスが再び力を
持ってきたのが分かった。
一度では全然足りない。
「克己」
綾辻は指を引き抜き、そこにペニスの先端を押し当てた。
「え・・・・・」
ここではもうしないと思っていたのかもしれない、湯あたりのせいで頬を赤くした倉橋は怯えた眼差しを向けてくるが、どうして
も今ここで欲望を満たしたかった。
「悪い」
「ふ・・・・・ぐっ」
腰を引き寄せ、自分の膝の上に持ち上げるようにしてペニスを挿入させる。先ほどの立ったままの体位よりは楽ではないかと
思うものの、硬いタイルの上で何度も身体を揺すられる倉橋の負担はかなりのものかもしれなかった。
それでも、全然満たされない。何度でも何度でも、この身体が自分のものだと、綺麗な心に自分を植えつけるのだと、綾辻は
腰を突きいれながら倉橋の腰も引き寄せる。
向き合っている体勢からか、今度は自分達の繋がっている箇所が良く見えた。倉橋の色白な肌の合間に、チラチラ見える
自身のグロテスクなペニスの色。もう少し腰を引き上げると、ぎっちりとペニスを含んだ蕾が目一杯膨らみ、水とは違う白く粘つ
いた液がその縁から滲み出てくるのさえ分かった。
「はっ、はっ、はっ」
「・・・・・克己、克己っ」
「ふ、ぐ、ふぅっ」
眉間に皺を寄せ、押し殺した喘ぎ声を漏らしていた倉橋が、強く閉じていた目蓋をうっすらと開け・・・・・赤くなってしまった
目元を見せる。
「あ・・・・・や、じ、さ・・・・・っ」
「・・・・・っ」
ズチュズチュとバスルームに響く水音に、さらに欲情を煽られ、
「・・・・・んむっ」
綾辻はそのまま噛み付くように唇を重ねた。
チュク クチュ
息が出来ない。愛しくて、心臓が止まりそうだ。
(・・・・・性悪っ)
ここまで自分を翻弄する倉橋を滅茶苦茶にしてやりたい。そんな激情にかられる自分に、綾辻はそのまま自身も身を委ねた。
「水を持ってくるから」
「・・・・・」
声も出なくなった倉橋は微かに頷くことしか出来なかった。
バスルームで二度も綾辻の精を身の内に受け、自身も何度かイカされてしまった。まるで動物のようなセックスに身体は疲れ
きっていたものの、不思議と頭の中はすっきりと晴れている。
(まさか、欲求不満だったとか・・・・・いや、それは無いな)
思い浮かんでしまった考えを即座に打ち消した倉橋は、少しだけ顔を横にずらした。綾辻が簡単に身体を拭ってくれ、腰の
辺りにシーツを掛けてくれているので、明るい照明の下とはいえ羞恥はそれほど感じていない。
あんなみっともない姿でセックスをしたのだ、今更・・・・・。
「・・・・・え?」
倉橋の視線が一点で止まった。
「・・・・・見えている?」
ベッドに横たわった姿勢のまま、倉橋は目の前の光景の意味を考える。
この部屋に入った時は確かに壁だったと思うのに、今はそれがガラス張りのように透明になって、浴室の中が丸見えになっている
のだ。
(え・・・・・まさ、か?)
考えなくても分かった。この壁は特殊な仕掛けで中が透けて見えるようになっていて、それはまだ部屋に残っていた綾辻には
丸見えで。
そうなると、彼が入ってくる前、自身で後ろを解そうとしていた光景も・・・・・。
「あ」
「・・・・・っ」
不意に聞こえてきた声に慌てて視線を向けると、何も身につけていないままの綾辻がバツが悪そうな顔で立っていた。
「綾辻さん、これ・・・・・」
「ラブホテルじゃよくある仕掛けなのよ。スイッチ入れるとマジックミラーになっててね」
「あのっ、あの・・・・・じゃあ、私が・・・・・」
「克己が準備する姿、凄く可愛かった」
「・・・・・!」
もう、憤死しそうだ。
喉を潤すミネラルウォーターを取って振り返った時、綾辻はようやく自分の視界の中にも透明になって中が見える浴室が映っ
た。倉橋に煽られ、焦ってバスルームに突入したせいか、この仕掛けを切ることを忘れていた。
「あのっ、あの・・・・・じゃあ、私が・・・・・」
「克己が準備する姿、凄く可愛かった」
今更隠しても遅いだろうと正直に言うと、倉橋は顔を真っ赤にしてシーツを被る。
その子供っぽい仕草が可愛くて、綾辻は笑いながらそっとベッドに腰を下ろすと、ペットボトルの水を口に含んで、そのまま強引
に倉橋に口移しする。
「ん・・・・・っ」
もしかしたら拒まれるかもしれないと思ったが、倉橋はそれを飲み込んでくれた。喉が渇いていたのか、それとも綾辻の行動を
許してくれたのかは分からないが、何度も繰り返すうちに綾辻はどんどん口付けを深いものにしていった。
調子に乗っていると後で怒られても構わない。ようやく解禁になったのだ、倉橋が気を失ったとしてもさらに抱き続けたかった。
「はっ、ふ・・・・・くっ」
うつ伏せにした倉橋を背中から犯した。倉橋の綺麗な背中のラインに、何度も何度もキスを落とす。
「・・・・・出てきた」
その白い背中に浮かび上がった龍に、綾辻は汗ばんだ顔を綻ばせた。
「俺の龍だ」
「ち、ちが・・・・・っ」
「俺しか見ないんだ、俺のものだろう」
これを彫ったのがたとえ海藤のためだとしても、海藤が実際にこの龍を見る機会は無いだろう。
だから、これは自分のものだ。今までも、これからも、誰にも譲るつもりはなかった。
グチュ ズリュッ
薄い尻の狭間に行き来するペニス。
うねる内壁はペニスを締め付け、グチュグチュにペニスを愛撫してくれる。一見、責め苛んでいるのは自分の方なのだが、翻弄
されているのも自分だった。
「克己っ」
腰を突きいれながら、何度もその名を呼び、背中の龍にキスを落とすと、それに応えるかのように倉橋は自身も腰を揺すり、
貪欲に綾辻を求めてきた。
「んっ、んっ、ふっ」
こんなふうに、倉橋が積極的に動いてくれるのは、アルコールが入っていない状態ではとても珍しい。
ジュウのことと、海藤の理事就任の件でお互いに目まぐるしいほど忙しかったのは確かだった。綾辻はその間ずっと倉橋に飢え
ていたが、倉橋も同じように自分に飢えてくれていたのだろうか。
「気持ち、いいなっ」
「・・・・・はっ・・・・・はっ」
「克己は?」
「・・・・・・はっ」
「克己は、どう、だっ?」
「・・・・・も、ち・・・・・い・・・・・っ」
苦しい息の中、律儀に答えてくれる倉橋に笑みが零れる。
普段はとてもかっこいいのに、どうしてこんなにも可愛らしく見えてしまうのだろう。
(俺以外に・・・・・見せるな・・・・・っ)
「はっ、はっ」
「・・・・・っ」
(絶対、見せないっ)
倉橋には直接言えない言葉を何度も何度も頭の中で繰り返しながら、綾辻は倉橋の奥の奥まで犯す。
蠢く内壁はますますペニスを締め付け、強烈な快感を与えてくれた。何度も擦っている肛孔は熱くなってはいるものの緩むこと
なく、時折キュッ、キュッと無意識の刺激を断続的に与えてきた。
「・・・・・ふ、くっ・・・・・ぅっ」
倉橋の感じる場所を的確に先端で擦り、突くと、不意に肛孔が強く締まる。震える腰と濡れたシーツでペニスに触れなくても
倉橋が射精したことが分かった。
「・・・・・っ」
そして、その刺激に、綾辻のペニスも射精の時が迫る。
「・・・・・くっ」
一際最奥を突いたと同時に、熱い精液を迸らせる。全てが倉橋の中に染み渡るように射精しながらも綾辻はペニスを動かす
のを止めず、さらには、
「え・・・・・?」
萎える間もなく、再び猛ってきたペニスを中の感触で分かったらしい倉橋が文句を言う前に、
「悪い、止まらない」
口先だけの謝罪をした綾辻は、そのまま何ラウンド目かも分からない律動を開始した。
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