狼と7匹目の子ウサギ
13
キアの身体の中に吐き出した自分の精液をかき出し、汚れてしまったお互いの身体を泉の中で洗い流した。
まだ快感の余韻があるのか、レンが触れるたびにピクピクと動く耳や尻尾。
だが、今のレンにはそれが淫乱な姿だとは思えなかった。
(俺が触っているから感じているんだよな)
「キア、大丈夫か?」
「・・・・・うん」
うっとりと目を閉じていたキアは、ゆっくりと瞼を開いてレンを見つめ・・・・・幸せそうににっこりと笑う。
「幸せ・・・・・」
「ん?」
「レンさんに触ってもらって・・・・・すごく、幸せ」
「キア・・・・・」
交尾をして、快感の余韻で良かったというわけではなく、本当にその行為に、レンに触れてもらったという事実に、心から嬉しいと
思っているのが良く分かり、レンの方が少し恥ずかしくなった。
「よし」
「・・・・・」
まるで子供のように素直にレンの手に身体を委ねるキア。
白い肌を見ていれば再び欲望が頭をもたげそうになるが、今抱かなくてもこれからがあると自分に言い聞かせた。
今までは、一度抱いたらそれきりと言っていた自分の言葉に縛られていたが、自分の本当の想いを自覚すればそれを覆すことな
ど何の躊躇いも無い。
(キアだけは、他の奴らと違うんだ)
「キア」
「・・・・・え?」
「キア・・・・・」
何度も愛しい名前を呼んでみる。
その名前を呼べる相手が出来たことが、素直に・・・・・嬉しかった。
濡れた身体を拭うものが無かったので、そのまま少し風にあたっていたキアとレンは、日が傾き始めた頃ようやく服を着た。
逞しく、見惚れるほどに綺麗なレンの身体が服に隠れてしまうのはとても残念な気分だったが、レンはまたがあると確かに言ってく
れた。
「レンさん」
「何だ?」
これだけは聞きたいと、キアはレンの服を掴んだ。
「僕、良かった?」
「キア?」
「また会いたいって思うくらいは、良かったですか?」
キアにとっては一番大切なこと。
もちろん、レンと身体を合わせる事もずっと望んでいたことだったが、たった一度だけの交尾で次が無いのならば本末転倒だ。
元々同じ相手を何度も抱かないレン。数多くの相手を知っているだけに、今回初めて交尾をしたばかりの自分の身体に満足し
てくれたのかどうか心配でたまらなかった。
(良くなかったら・・・・・次なんてないもん)
レンに抱かれて気持ちよくて、良くて。
ただ快感の波に溺れるしか出来なかった自分。レンに対してしてあげたいことも何も出来なかったことを今更ながらに後悔しなが
らも、それでも次を望んでしまうのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
(レンさん・・・・・呆れてる?)
なかなか答えてくれないレンに、キアは泣きそうになってしまう。
どうしよう・・・・・俯いたキアの頭を、レンが少し強引に抱き寄せた。
「馬鹿」
「レ、レンさん」
「俺はお前を好きだと言った。どうしてそれを信じないんだ」
「し、信じ・・・・・」
「信じてない。良いとか悪いとか、お前に限っては全然関係ないんだ。俺は、お前が嫌だと言っても離す気はないから」
交尾に関してはあれほどに積極的なキアだが、想われるということには信じられないくらいに臆病だ。
あれほど抱きながら好きだと伝えたつもりなのに、その思いは伝わらなかったのか・・・・・そう思うと少し情けないが、まだまだ子供
のキアには、何度も何度も分かるまで伝えなければならない。
「レ、レンさん」
「ほら」
レンはキアの目の前で身体を屈めると、そのまま背中を向けた。
「・・・・・何?」
「歩けないだろう?家までおぶって行く」
「そ、そんなのいい!は、恥ずかしいし、レンさんだって大変だもん!」
「じゃあ、歩いてみろ」
「だ、大丈夫だよ」
口ではそう言ったが、キアはフラッと立ち上がって・・・・・直ぐにその場にペタンと尻餅をついてしまった。レンが思った通り、初めての
交尾でキアの全身は痛みとだるさで持ち主の思うようには動かないようだ。
自分のペニスの大きさを自覚しているレンは、ほら見ろと溜め息をついてもう一度言う。
「俺のものを俺が大事にして何が悪い?キア、その身体はもうお前のものじゃない。俺のものになったんだから、俺が言う通りに
従え」
少し傲慢な言い方になってしまったが、聞き分けの悪い子供にはこのくらい強引な方が良い。
案の定、キアは本当にオズオズとだがレンの背中に身体を寄せた。
「重くないですか?」
「軽い」
「本当?」
「お前は直ぐに俺の言葉を疑うな」
「う、疑ってなんかいないですっ」
冗談ではなく、キアの身体はとても軽い。
柔らかくて、少し、熱い。
背中に感じるこの重さが、自分の愛しい者の重さだった。
日が完全に暮れる前、キアとレンはキアの家に着いた。
「キア!」
「キアッ、どこに行ってたんだよ!」
「心配してたのよ!」
夕方には何時も家に帰っているはずのキアがなかなか戻ってこないことを心配していた兄弟達は、入れ替わり立ち代り家の外に
立って待っていたらしい。
上の2人の兄達は捜しに行ってくれているらしく、残っていた4人の兄姉達は、レンにおぶわれた姿のキアに次々と言葉を掛けて
きた。
「レン、もっと早くキアを帰してよ。ただ話すだけでこんな時間まで引き止めないでくれ」
「そうよ、レン、幾らキアをからかうのが面白いって言っても、この子はまだ子供なんだからちゃんとケジメはつけてくれないと」
「に、兄さん、姉さん」
キアの6人の兄弟達は、キアがレンを好きなことを知っている。
そして、レンがそのキアの気持ちを知りながらも受け入れないことも知っていた。
その理由は、レンに抱かれた兄弟達ならば分かることだったが・・・・・。
(まあ、俺が何時も言っていることだが)
遊びでしか交尾をしない。
一度抱けば、二度は会わない。
その徹底振りを、淫乱な身体でもレンを落とせなかった兄弟達は知っていて、とてもキアには太刀打ち出来ないとでも思っている
のだろう。
だが。
「みんな、ちょっと違うんじゃない?」
不意に、一番下の兄が、ずいっとキアに顔を寄せて・・・・・にやっと笑った。
「交尾したな?」
「!」
(な、何で分かっちゃったの?)
「え?」
「嘘!」
「誰とっ?」
ここまできてもレンとキアという図式が浮かばないのだろうか・・・・・それが少し面白くないのか、レンはワラワラと寄ってきたキアの兄
弟達をギロッと睨んだ。
「俺以外にいるはずが無いだろう」
「えええーーーーー!!??」
いっせいに声を上げる兄弟達に、キアは真っ赤になってレンの背中に顔を埋めた。
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