peril point












 江坂がマンションに戻ったのは、既に日付も変わってしまった時刻だった。
先ずはそのままリビングに向かった江坂は、テレビを付けっぱなしにして眠っている静の姿を見付けた。既にパジャマには着替えてい
るので、風呂には入ったのだろう。
 「静さん」
 「・・・・・」
 声を掛けても、静はなかなか目を覚まさない。
江坂は髪に手をやって、濡れていないことを確かめると、そのまま静を抱き上げて寝室へと向かった。



 江坂が帰ってくるまで待っていようと思っていた静だったが、思った以上に神経が疲れていたのかそのまま眠りに落ちてしまってい
た。
自分が眠っているという自覚も無い中、不意に柔らかなものが頬に触れてくる。
 「ん・・・・・」
 怖いとは思わなかった。今自分がいる場所は、この世の中で一番安心出来る場所のはずで、自分に害をなす者などいるはず
がないということを静は本能で知っていたからだ。
 「・・・・・あ・・・・・」
 やがて、その何かは首筋から胸元へと移っていく。
思わずあげてしまった自分の声で目を覚ました静は、自分の身体の上に乗っている存在に一瞬身体を硬直させた。
(え・・・・・?)
 しかし、直ぐにその横顔が目に入り、静の身体は柔らかく解ける。
そして、その相手に対して、始めに言わなければならない言葉を口にした。
 「お帰りなさい・・・・・江坂さん」
 「・・・・・ただいま、静さん」
 静が目覚めたことを知った江坂は、そう言いながら胸元から顔を上げた。髪が少し濡れていて、自分と同じ石鹸の香りを身にま
とっている江坂は、既に風呂に入ってここにいるのだろう。
リビングにいたはずの自分をベッドまで連れてきてくれたのも江坂しかおらず、静はそこまでされていながら全く目覚めなかった自分
が恥ずかしくなってしまった。
 「俺、待ってようと思ったのに・・・・・」
 「今日は色々あって疲れているから仕方がありません。本当はこのままあなたを眠らせてあげるのが大人だとは思いますが・・・・・
すみません、静さん、どうしても今あなたを抱きたい」
 江坂の真っ直ぐな言葉に、静の身体は一瞬で高揚した。
もちろん、望まれることが嫌であるはずも無く、静の方もあんなことがあったせいか、自分が江坂の腕の中にいるのだということを確
かに感じたいと思った。
 「・・・・・」
 言葉で返すのは恥ずかしく、静はそのまま下から江坂の首に手を回し、自分の方へと引き寄せて唇を合わせる。自分から江坂
の口の中に舌を入れると、江坂は当然のように舌を絡めてきた。



 性急だとは思ったが、江坂は静のパジャマの下を下着ごと剥ぎ取ると、そのままペニスを口に含んだ。
 「ああっ!」
まだ小さいままの静のペニスは、歯で扱き、舌で絡めて刺激すれば、それは素直に感じて勃ち上がってきた。
さらに江坂は愛撫を緩めずに、先端から滲み出てくる先走りの液を吸い、先端部分を舌先で刺激すると、細い腰は震えて快感
の高さを知らせてくる。
 「え、えさっ、江坂さ・・・・・っ」
 静の気持ちがまだ追いついていないことは分かっていたが、江坂は少しでも早く静と繋がりたかった。その為には、一度静をイカ
せて、身体を開かせなければならない。
 「・・・・・」
 「あっ、あっ、あっ」
 掴んでいる内股が引き攣り、抑えきれない声が漏れてくる。江坂は口からペニスを解放するとそのまま手で扱き、爪先で先端
を引っ掻いた。
 「!!」
その瞬間、静の腰が跳ね、江坂の手のひらと胸に精液が飛び散った。



 江坂が強引に事を進めているとは感じていたが、静はそれを嫌だとは思わなかった。
確かに自分だけが高められ、イカされるということに羞恥は感じるものの、それ以上に求められているという嬉しさの方が増してあ
るのだ。
 「はぁ、はぁ、はぁ」
 射精したばかりで荒く呼吸を繰り返す静をそのままうつ伏せにした江坂は、濡れている手で後孔を解し始める。
身体から力が抜けた静のそこは、精液で濡れた手を少しきつそうにだが受け入れた。
 「静さん」
 「・・・・・りょ・・・・・じ、さ・・・・・」
 「・・・・・っ」
名前を呼ぶと、自分の身体の中に入り込んでいる江坂の指がグッと内壁を引っ掻いて、その衝撃に静は思わず指を締め付けて
しまう。
 「すみません、もう・・・・・っ」
 「う、んっ」
小さな声で入れてくださいとねだった静の、パジャマの上着が捲れてしまった背中に、暖かな感触と吐息を感じた次の瞬間、
 「う・・・・・ぐっ!!」
まだ十分解れていない蕾に、灼熱の熱棒がねじ込まれた。



 「・・・・・っ!!」
 「・・・・・っ」
 まだ十分に解けきっていないことは分かっていたが、江坂は滾っていた自分のペニスを静の後孔に押し込んだ。
悲鳴に近い声を上げた静は身体に力が入ってしまったのか、江坂のペニスは先端部分の半分も入りきらないところで止まってし
まっている。
搾り取られるようにキリキリとした痛みを感じるが、多分それ以上に静は痛みを感じているはずだ。
引くことも、考えた。しかし・・・・・。
 「静・・・・・」
 「い・・・・・からっ」
 痛みも受け入れるという静の言葉に、江坂は片手で華奢な腰を掴み、もう一方の手で肩を押さえつけて腰を高く上げる格好
を取らせると、そのまま強引にペニスの全てを蕾の中に押し入れた。

 「・・・・・っつ」
(切れては・・・・・いない、な)
 初めてではないせいか、それとも静の気持ちが江坂を受け入れているせいか、蕾は何とか切れることは無かったが、痛々しいほ
どに皺が開ききって、大きな江坂のペニスを銜え込んでいる。
江坂はそのまま動かず、しばらくじっとして静の痛みが小さくなるのを待った。
 「・・・・・だ、じょぶ・・・・・」
 「静」
 「うごい、て・・・・・」
 「愛してるよ、静」
 「う・・・・・ん、俺、も・・・・・」
 腰を高く上げた格好で江坂のペニスを受け入れている静は、頬をシーツに押し付けたまま江坂に笑みを向けた。
顔は少し蒼白だったが、表情はとても嬉しそうだ。痛みに耐え、こんな女のような格好で自分を受け入れているというのに、静の
表情は・・・・・。
 「静」
 「す、き・・・・・っ」
江坂は緩やかに腰を動かし始めた。



 「あっ、んっ、はっ!」
 後から貫かれた格好で江坂と同時に二度目の精を吐き出した静は、今は正面から抱き合う格好に変わっていた。
楽なのはどちらかというよりも、こうしてお互いの顔が見える格好で抱き合える方が嬉しくて、静はまだ腕にパジャマの上着を纏わ
りつかせたまま、江坂の肩に爪が食い込むほど強くしがみ付く。
 「はっ、あっ!」
 「・・・・・静・・・・・」
 「ん・・・・・凌二、さ・・・・・」
 顔を見合わせて、笑みながら唇を合わせた。
舌を絡め、唾液を交換し、濡れた唇を江坂に舐められて、くすぐったくて笑った。
下半身では艶かしい水音と肉体がぶつかり合う音が響いているというのに、こうしてキスだけで感じている自分がおかしかった。

 グチュ グチュ

 狭く、熱い内壁が、江坂のペニスをもっともっとと蠢いて貪っている。抱かれているのは確かに自分の方なのに、まるで自分の方
が江坂を食らっているようで、静はそれならばもっと江坂を欲しいと思った。
 「あ、や、あ・・・・んあ・・・・・っ」
 「・・・・・っ」
江坂の動きが早くなる。
静は置いていかれないようにと必死で追い掛け、
 「!!」
 自分の中の、もっとも感じる場所をペニスの先端で抉られた瞬間に精を吐き出し、それから間もなく、静の身体を江坂の腕が
強く抱きしめた瞬間、最奥の中に勢い良く熱い精が浴びせかけられた。

 お互いが精を吐き出しても、しばらくはどちらも抱き合った手を解こうとは思わなかった。
しかし、静は助かったという安堵感と、江坂に抱かれた充足感からか、次第に意識が眠りへと引き込まれていってしまう。
 「いいですよ、このまま眠りなさい」
 「で・・・・・も・・・・・」
 「後始末はしておきます。これは抱いた私の特権ですから」
耳障りの良い江坂の声が、次第に遠く聞こえてくる。幸せで幸せで・・・・・静は笑ったまま、ゆっくりと眠りの海に落ちていった。







 「・・・・・」
 江坂は何度も静の髪を撫で、やがて完全に眠りに落ちたことを確認すると、身を起こしてベッドヘッドに手を伸ばした。
江坂の手に握られていたのは携帯電話だ。ずっと通話中になっていたはずのそれに耳を当てると、向こうから男の嗚咽が聞こえて
きた。
 「分かったな?」
 「・・・・・っ」
 「静は永遠にお前のものにならない」
 さっきまで静に聞かせていた甘く情熱的な声とは正反対の、凍りつくような冷たい声音でそう言った江坂は、相手の反応など全
く意に返さずにそのまま通話を切った。

 身の程知らずにも静の愛を欲した森下への罰は、肉体的なものや経済的なものでは全く意味が無いだろうということは分かっ
ていた。
それならばと、江坂は森下が一番ショックを受けるだろうことをしてやることにした。

 静が江坂を求める声、セックスの最中の声を聞かせる。

 森下が一番ショックな事、それは静が江坂のものだということを突きつけられることだ。もちろん、静とのセックスを実際に見せるつ
もりはないが、同然の事・・・・・最中の声を聞かせるだけでも、森下の精神は痛めつける事が出来るだろうと思った。
 静に覚らせないように隠していたので、細部の物音は聞こえなかっただろうが、静が江坂を求める声、2人が互いを愛していると
言った声などは聞こえていたはずだ。

 聞かせたいことは聞かせた。
江坂がする事はこれで全て終わりだ。後の始末は全て優秀な部下がするだろう。
息子の馬鹿な行動を止める事が出来なかった森下の親の会社は、既に橘が株を買い占めている。たいして旨味のないその株
は、横から流して胡散臭いと言われているファンドに行く仕組みだ。
 そこから後は自分が何もしなくても、会社は時間を置くことも無く傾くだろう。
 「・・・・・馬鹿な奴」
身のほども知らないまま、江坂の大切な人間に手を出した奴が馬鹿なのだ。
 「・・・・・」
 江坂は携帯をそのまま床に投げ捨てると、シーツを剥いでそれに静の身体を包んでバスルームへと連れて行く。
本当は身体を拭うだけにした方が目が覚めないだろうが、やはりさっぱりと身体の奥に吐き出した精液も全てかき出してやった方
がいいだろう。
それに。
 「・・・・・静」
 意識が無くても、身体を綺麗にする江坂の指に感じている静を見ているのは楽しい。
江坂は頬に笑みを浮かべたまま、全く力の入っていない静の身体を強く抱きしめた。



 身体が熱くなって、その後優しく抱きしめられて。
夢の中でも江坂に大切に愛された静は、不意にぽっかり目を開いた。
 「・・・・・ぁ・・・・・」
 声が嗄れている原因をゆるゆると思い出した静は恥ずかしくなって身を捩ろうとしたが、何かに強く身体を拘束されているので動
くことが出来なかった。
(・・・・・江坂さん?)
綺麗になったシーツの中で、身体は何も身に纏っていなかったが、少しも寒いと思わなかったのは江坂の腕に抱きしめられていた
からだ。
 珍しく、静が身じろぎしても目を覚まさない様子の江坂をじっと見つめていた静は、少しだけ動かす事の出来る手を伸ばして江
坂の頬に触れてみた。起こすつもりは無く、もちろん起こしたくなかったが、この存在が夢ではないと確かめたかったのだ。
 「・・・・・」
(ちゃんと、いる)
自分を抱きしめてくれるこの手は夢ではないと、静は思わずふにゃっと頬を緩め、もう一度江坂の胸へと顔を埋めるようにして、再
びゆっくりと目を閉じた。



(静・・・・・)
 まるで、子猫のように自分の胸に顔を埋めてくる静の髪がくすぐったい。
江坂は小さな苦笑を漏らすと、静の身体を抱き直して・・・・・もう一度目を閉じた。






                                            







一応事件は解決。次で最終回です。