恋愛の正三角形
中編
物心付いた頃から、可愛いと顔を褒められていたことは覚えている。
人形のようだとか、天使のようだとか、様々な褒め言葉の後に必ず、
「こんなにも可愛い顔が鏡のように2つあるなんていいわね〜」
そう、言われた。
自分達でも生意気だとは思うが、相手が悪気が無いというのは分かっていた。
ただ、顔を見合わせるたびにそれぞれが思ったのだ。
どちらが鏡で、どちらが本体なのだろうか、と。
歳を取るに連れて、可愛いという褒め言葉はカッコイイという言葉に変わり、纏わり付くのは頭を撫でてくれていたおば
さん達から、もっと若い女達へと変わっていった。
その手もセクシャルな意味を含むようになり、自慢ではないが異性に不自由したという覚えはない。
中学2年生の時にほとんど前後して女を知り、それぞれ経験を積んできたが、2人の飢えや無常感は消え去ることは
無かった。
それは、相手をした女達が自分達を間違えたからというわけではない。
兄としたから弟と、双子ならセックスも似るのかと迫ってきた女のせいでもない。
ただ、顔を見るたびに、
「いいなあ、こんな綺麗な顔が2つもあるなんて」
何度も繰り返されるその言葉に、ジワジワと自分の存在感の虚しさを感じていた。
同じ顔なら、2人もいる必要は無いんじゃないか、1つの身体で十分じゃないかとさえ思っていたのだ。
そんな双子の彼らの唯一といってもいい心のオアシスは、隣に住む歳の離れた幼馴染だった。
10歳も離れていれば話題も遊びも全く共通点はなかったが、無条件の信頼と愛情というものを家族以外で初めて向
けられた2人にとっては、その幼馴染はかけがえの無い存在になっていた。
どうしてこんなにも感情を揺さぶられてしまうのか、それは双子にも分からなかった。
この幼馴染はよく自分達の事を間違えていたし、完璧に見分けていたというわけではない。
しかし、何かしてやった後は必ず、
「ありがとう、れんちゃん。れんちゃんがいてよかったあ」
と、言ってくれ、
「やっぱりそうちゃんはたよりになるな!」
と、必ず自分達の名前を言って、全開の笑みを向けてくれた。
その幼馴染がまだ年端もいかない少年だという事は分かっている。
自分達も同じ男で、本来ならば親愛の情はあっても、それ以外のものは感じる方がおかしいと。
しかし、自分達の部屋に遊びに来て、無防備に眠ってしまったその唇にキスしたいとか。
すんなりと伸びたよく日焼けした足に触れたいとか。
なにより、自分のものにしたいという欲求が大きくなってしまった時、双子にとっての禁忌というものは何もなくなった。
歳の差とか、性別とか、一々気にしていたら、兄に、弟に取られてしまう。
それこそ、自分という存在を真っ直ぐに見つめてくれる存在が、顔が同じとはいえ自分ではない相手に取られてしまう。
「大輝、僕と壮、どっちが好き?」
「どっちも好き!」
「駄目だよ!どっちか選ばないと駄目!」
「だって、れんちゃんとそうちゃん、どっちもおんなじ顔なんだもん!どっちが好きなんてわかんないよ!」
「ずるいなあ、ダイは」
「・・・・・大輝はまだ子供だから仕方ないか・・・・・。ねえ、大輝、大輝がもう少し大人になったら・・・・・そうだな、大輝
が 16歳になったら、僕達のうちのどちらが好きかちゃんと決めてよ?」
「うん!いいよ!」
幼馴染・・・・・大輝にとってはたわいのない約束だったかも知れないが、双子・・・・・廉と壮にとっては目に見えた叶え
なければならない目標となった。
それまではわざと見分けが付かないように髪形も服装もそっくりにしていたが、大輝に意識してもらう為に自分達の個性を
出すようになってきた。
廉は女避けの為に眼鏡をし、服もノーブルな感じにしたが、返ってクールで近寄りがたい雰囲気がいいと更に女が寄って
来る結果になり。
壮は髪の色を抜いて、ピアスも開け、服装はラフなものに変えたが、それがワイルドで色気があると、見当はずれなアプロ
ーチを掛けてくる女が増えた。
それでも、双子は以前のような飢餓感や虚無感を感じることは無い。
小さな幼馴染が16歳になった時、必ずどちらかが必要だと選ばれるからだ。
それは同じ顔をしていても、けして相手ではない。それこそ、自分でなければならないのだ。
可愛い幼馴染は、自分達が想像した以上に可愛らしく、素直に成長していった。
子供のような狡さはあるものの、変わらず自分達を慕ってくれている。
早生まれの彼の誕生日は3月31日、一週間後だ。
祝いの為と、旅行に連れ出す約束もしている。
いよいよ、自分達のうちのどちらかを選んでもらう日が来たのだ。
「れ、廉ちゃん」
泣きそうな目で自分をじっと見つめてくる大輝を可哀想には思うものの、それ以上にもっと泣かせてやりたいと思ってしま
う自分に気付いた廉は、目の前の弟をちらっと見つめた。
昔から、自分は相談相手、弟は遊び相手と、大輝の中では彼なりに自分達の役割分担が決められていて、大輝は壮
に遊びに負けたりからかわれたりすると、必ず廉に泣きついてきた。
そんな大輝を宥めながらも、廉は自分の方こそ大輝を泣かせたいと内心思っていたのだ。
反対に、壮は泣かせた後に必ずしまったというような後悔した顔をしていて・・・・・。
(苛めっ子体質なのは私の方かもしれないな)
昔は、自分と同じ顔の弟はまるで鏡のようなものだと思っていた。人格はあるのだろうが、それはもう1人の自分のような
ものだと思い込んでいた。
今では双子の弟としてそれなりの愛情は抱いているし、多分自分の事を理解してくれる唯一の相手だという事も分かっ
ている。
それでも、大輝を譲ることだけは、どうしても出来なかった。
「大輝、選べないのなら、選べるようにしてやろう」
ゆっくりと指を動かし、廉が既に裸に剥かれていた大輝の胸元を意図的に触れると、瑞々しい身体がまるで飛び跳ね
るように反らされる。
他人の手など触れたことも無いまっさらな身体の反応に、廉は唇の端を上げながら優しく言った。
「大輝、早く選ばないと、お前は2人を相手にしなければならなくなるぞ?」
(何を考えてるんだ、廉は・・・・・)
壮は少し眉を顰めるようにして双子の兄、廉を見た。
普段あまり感情を表に出さない兄が、かなり激しい性格の持ち主だという事は双子だからこそよく知っている。
そんな兄が、たとえ冗談でも大輝に2人を相手にさせると言うとは思わなかった。
幼い頃から、壮は兄が嫌いだった。
自分と同じ顔も、澄ました顔で何でもこなしてしまう兄が目障りだった。
壮も、自分が兄に劣っているとは思っていなかったが、何時もほとんど同レベルになってしまう兄が煩わしかったのだ。
それは、大輝という最愛の幼馴染に関してもそうだ。
自分の外見だけで寄ってくる女達。別に自分でなくて兄であったとしても、何の不都合も感じないであろう女達とは違っ
て、その個々を見てくれる幼い幼馴染を欲しいと思うようになったのは何時頃からだろうか・・・・・。
それは弟が欲しいという肉親に対するような愛情ではなく、その身体を征服したいと思う肉欲を伴った想いだ。
男同士とか、年齢差などは全く壁にはならなかったが、双子の兄である廉も自分と同じような思いを抱いていると知っ
た時、壮はさすがにこれは双子だからなのかと思ってしまった。
もちろん兄に譲ろうとは思わなかったが、まだ幼い幼馴染は恋や愛など全く分からなかった。
もう少しだけ育つのを待ってから選んでもらおう・・・・・そう提案してきた兄に、壮は渋々ながらも頷くしかなく、待って待っ
て待って・・・・・やっと、この日が来た。
(廉なんかに譲れない・・・・・っ)
心ももちろんだが、その身体も欲しい。
壮は廉に出遅れないように、いきなりパジャマの上から大輝の性器を掴んだ。
「ひゃっ!」
いきなりの衝撃に、大輝の視線は壮の方へ向けられた。
「な、何するんだよっ、壮ちゃん!」
「お前が廉ばっかり見てるからだろ」
「そ、そんなの、理由にならないよ!」
「・・・・・生意気だぞ、ダイ」
生きがいい大輝の反応が楽しく、壮は笑いながらもやんわりと手を動かして大輝のペニスを服越しに刺激する。
チラッと廉に視線を向けると、廉が内心面白くないと思っているのが良く分かった。
「廉、先に動いたのはお前の方だぜ」
「・・・・・いきなりそこへ行くか?」
「早い者勝ち」
ふふんと笑うと、廉はしばらく黙っていたが・・・・・やがて身を乗り出すと再び大輝の唇を奪い、そのまま手を小さな乳首に
はしらせた。
「んっ、んぐっ」
今度は大輝も必死で抵抗しているのが分かるが、胸を触っている廉の手と、ペニスを刺激している自分の手の動きの
せいで、その抵抗はかなり弱々しい感じだ。
しかも。
(廉のキスに感じてるのか?)
先ほどまでは徐々に固くなってきた大輝のペニスは、廉がキスをしてからいきなり力を持った。
自分の手ではなく廉のキスに感じていると思うと面白くなく、さらに大輝の視線がキスをしている目の前にいる廉に向けら
れているのも悔しくて、壮はそのまま身体をずらすと一気に下着ごと大輝のパジャマを下ろした。
「ん〜っ!!」
自分と比べればまだまだ子供の大輝のペニスがフルフルと勃ち上がっているのが、明るい照明の下にはっきりと見て取れ
た。
(・・・・・いきなり過ぎだ、馬鹿)
壮の行動に眉を顰める廉だったが、それでも大輝へのキスは止めなかった。
「ん〜っ、んっ、ん〜っ!」
大輝に特別な友人が出来ないように、小学生からずっと監視という名目で見守り続けた日々。
明るく子供らしい大輝は同性にも異性にも人気があったが、深い付き合いになる前にことごとく阻止していった。
中には自分達に近付く為に大輝を利用しようとする馬鹿な女もいたが、そんな女には徹底的に報復をした。
そんな風に守ってきたせいか、大輝はこの年頃にしては子供で、性に関しても淡白なはずだ。
男に触れられて嫌悪で萎えるわけではなく、初めて感じる強烈な刺激に身体はどんどん貪欲に快感を拾おうとしている。
身体は快感を欲しがっているのに。
気持ちはそれを怖がって。
そんな大輝が助けを求めるのは、結局・・・・・。
「た、すけ・・・・・、廉ちゃ・・・・・壮ちゃ・・・・・ん・・・・・」
自分の名前だけでないというのが面白くはないが、子供の大輝にとってはこれが一杯一杯なのかも知れない。
「大輝」
唇を離した廉は、ペロッとその唇を舐め上げながら囁く。
「まだ、選べないのか?」
「・・・・・だ、だって・・・・・っ」
「それなら、どちらが大輝を気持ちよくさせたかで決めるか?」
「・・・・・?」
言葉の意味が分からないのか、大輝は目に一杯の涙を溜めながら縋るような視線を向けてきた。
「私達も、随分待ったんだ。もう、お前が欲しくて欲しくてたまらない。だから、お前が選べないなら・・・・・このままどちら
の手も止めないぞ?」
「廉?」
廉の言葉に、大輝のペニスを刺激していた壮が声を上げた。
「お前はどうする?私はこれ以上待てないんだ。お前と2人で大輝を共有するなんてしたくないが、私達2人が大輝
のものになるのは・・・・・仕方ない」
「・・・・・同じことじゃないのか?」
「今日を逃せば、大輝は私達から逃げるかも知れない。お前、私達以外の人間が大輝を手に入れるのを見ていられ
るのか?」
「出来るわけないだろっ」
廉がもう待てないと思っているように、壮ももう待てなかった。
昔なら身体の飢えは生理的に何とも思っていない女相手でも解消は出来たが、今はもう・・・・・この飢餓感は他の人
間では埋められない。
高校生になってから大輝の世界もどんどん広がっていき、交友関係も自分達では把握出来ないほどに膨らんできた。
ついこの間も、学校の帰りの大輝が、大輝よりも大柄な友人に肩を抱かれてはしゃいでいた場面を見た。
多分、ふざけていただけなのだろうが、小柄な大輝と比べれば、高校生の男は既に身体付きも大人に近付いてきて、
性欲も・・・・・。
そう考えた時、壮はもう待てないと思った。
自分にとっての同性というハードルは低かったのと同じように、他にも恋愛でもただの欲情の対象でも、同性をその範疇
にする者がいないとも限らない。
暢気に自分か兄か、待っている時間など無いのだ。
「分かった」
赤の他人に渡すくらいなら、双子の兄弟相手にほんの少しだけ分けてやる方がまだましだ。
壮はペニスを握ったまま、顔を上げて大輝を見た。
「ダイ、そういう事だ」
「そ、壮ちゃ・・・・・」
「黙って2人分可愛がられろ」
双子にとって、昔から大切なのはその幼い幼馴染だけだった。
彼が生まれてくる10年間はまるで人形のように毎日をただ無意味に過ごしていた。
鮮やかな色がつき始めたのは、その少年が自分達の前に現われた時・・・・・小さな小さな両手がそれぞれに差し出さ
れた時、双子は自分達を必要としてくれる手をやっと見つけたのだ。
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3Pもの中編です。
この双子はけして仲がいいわけではないのですが、お互いの飢餓感も焦燥もお互いにしか分かり合えません。
大人の男2人分の熱烈な愛情を受け入れる大輝は大変でしょうが。
次は怒涛の(?)3人でのムフフ編です。