竜の王様
第二章 二つめの赤い眼
13
※ここでの『』の言葉は日本語です
腹が減っては戦ができぬ。
別に誰かと戦うつもりは無かったが、このマイペースな男達と対抗するには気力体力共に充実していなければと、昂也はコーゲンが用
意してくれた食事を早速食べ始めた。
起きて間もなく直ぐに食事が出来るのは赤ちゃんぐらいだと思っていたが・・・・・。
(俺って青嵐と同じレベルなのか)
少し落ち込みかけたが、そんな事で食欲が減退するわけではなく、昂也は黙々と具だくさんのスープを飲み、焼き魚を頬張った。
『塩加減ぜつみょーなんだよなあ』
「コーヤ?」
『何で日本人の心を知ってるんだ?』
木の枝に刺した魚をさらにガブッと一口食べた昂也は、自分の隣に座る青嵐を見下ろした。
『美味いか?青嵐』
「んま」
『でも、お前ちゃんと座って食べれるんだ、凄いな』
初めて見た時は、確か四つん這いで這っていた赤ん坊だった。
それから僅か数日、本当の歳も分からないが、ちゃんと椅子に(コーゲンが青嵐用にと背の高い肘掛のある椅子を作ってくれた)座っ
て木のスプーンを起用に操っている。
(1歳にもなってないと思ってたんだけどな)
お腹が落ち着き、青嵐にも食事をさせたと一安心した昂也は、そのままコーゲンに向き直った。
『じゃあ、話を聞かせて』
「・・・・・」
『あっと』
(一々玉に触らないといけないなんて面倒臭いよなあ)
それでも、昂也はコーゲンの手を掴んで一緒に緋玉の上に置いた(スオーは取り合えず無視することにした)。
『で、早速なんだけど、俺はソーギョクを見付けられるかどうか教えて欲しいんだ』
『コーヤ』
『玉の在り処が分からないのは仕方ないけど、俺が見付けることが出来るかどうかは分かるんじゃないの?あ、それか、縁起のいい
方向とかさ』
先程ちらっと聞いた話では、ソーギョクはこの世界の物には反応しないとのことだ。それでも相手のことが見えたり、無くした物を言い
当てることが出来るのなら、何かヒントになるようなことは分かるのではないかと思う。
(こいつが当たるかどうかは疑問だけど)
見た目はともかく、どうも性格がいい加減そうな蘇芳がどこまで力を持っているのか、昂也は大丈夫かという疑わしげな視線を向け
た。
『ん〜、そうだな』
そのコーヤの気持ちが分かるのか、コーゲンは苦笑しながら蘇芳に視線を向けた。
コーヤの言葉に、江幻は内心感心していた。
本来ならコーヤには全く関係ない竜人界の王位争奪争い。コーヤは王家の犠牲になった形で、人間界からこの竜人界に引き込ま
れてしまったのだ。
それでも、彼はその運命を恨むよりも、真っ直ぐに受け止めようとしている。
(確かに・・・・・可愛いな)
蘇芳と同じ思考だと思いたくないが、確かにこれ程に眩しい魂を持つ者を、腕の中で守って愛でたいとも思った。
(だが、コーヤはじっとしていないだろうがな)
守られることを良しとしないコーヤは、誰かの庇護の下じっとしている性格ではないだろう。
それもまたいいなた思い、江幻はそっと緋玉から手を離して蘇芳に言った。
「言ってもいいな?」
江幻のその言葉は予想済みなのか、それともこの展開を以前から視て知っていたのか・・・・・蘇芳は口元に笑みを浮かべる。
「言いくるめることは出来そうにないからな」
「口の上手いお前でも?」
「お前もだろ?」
「・・・・・はは」
自分と蘇芳両方がお手上げならば、今の自分達が持っている情報を全てコーヤに話し、その判断を聞くしかない。
「じゃあ、説明頼む」
「人任せだなあ」
江幻が再び緋玉の上に置かれてあるコーヤの手の平の上に自分の手を置くと、文句を言いながらも蘇芳が自分の手も重ねた。
反対の手は服の胸元の入れられているが、それは自分が持ってきた玉を握っているのだろう。
緋玉に触れながらコーヤと話し、視続ける。それが出来るのも、有能な占術師の蘇芳だからこそだ。
『じゃ、俺が視たものを言おうか』
『頼むぞ』
ここからはと、江幻は自分も全て聞いてはいない蘇芳の話に耳を傾けることにした。
『結果から言えば、コーヤは蒼玉を見付けることは出来る』
『ホントっ?』
『あくまでも、予言になってしまうがな』
スオーの言葉にパッと顔を輝かせた昂也だが、続く言葉にえっと目を見開いた。
予言で出来ると視えたのならば、それは確実な話ではないのだろうか?
『・・・・・出来ないってこともあるのか?』
『予言はあくまでも予言。未来は変わることがある』
『う・・・・・まあ、そういうことも有りうるけど』
(確実な未来っていうのは視えないのか・・・・・)
コーゲンの言葉で期待していただけに、それが《変わる未来》なら意味が無いような気がした。・・・・・いや、少し考え方を変えれば、
変わるかもしれない未来は変わらないかもしれない、と、いうことではないだろうか。
(そうだとしたら、俺が玉を見付ける事も出来る?)
『分かった、それで?』
『ん?不安じゃないのか?』
いきなり気持ちを切り替えたような昂也に、スオーが面白そうな表情で聞いてきた。
『まあ、絶対じゃないと言われたのは面白くないけど、その可能性があるんならそれに賭けたいし。それにさ、まあ、先が分からない
方がちょっと面白いしね』
半分は本音で、半分は強がりだ。
先が見えないのは不安だが、それでも前に進まなければならないとの気持ちの方が大きかった。
(ふふ、こんなに楽しい人間がいるとは思わなかったな)
退屈で単調だと思っていた毎日が、こんなに急激に変化をするとは想像もしていなかった。
王族の為に自分が動くなどしたくは無かったが、コーヤの為に動くのは・・・・・面白いかもしれない。
『それで、続きは?』
『・・・・・お前には5匹の竜が守りつく。1匹は金竜、多分その赤ん坊、青嵐か』
『青嵐が?でも、青嵐はまだ赤ちゃんなんだけど』
『それでも、竜に変化することは出来たんだろう?』
『そ、そっか、青嵐が・・・・・』
『次に、江幻と、俺』
『え?コーゲンと・・・・・あんた?』
『そう』
『コーゲンはいいけど・・・・・あんたも?』
どうやら相当嫌われたのかなと苦笑をこぼした蘇芳だったが、それでも更に残る2匹の竜に付いて説明を続けようとして・・・・・不意
に、自分の水晶に触れている手がカッと熱くなったことに気付いた。
(なんだ?気が揺れてる・・・・・)
それは実際の空気というよりも、触れているコーヤの手から伝わってくるもので、蘇芳からそれほど遅れることも無く同じことに気付いた
江幻も素早く昂也の全身に視線を向けている。
『コーヤ、何か・・・・・』
『・・・・・っ』
その瞬間、コーヤの口から意外な名前が零れ出た。
『うん、アオカ、いいぞ』
『・・・・・』
蘇芳と江幻の視線がその瞬間パッと合う。
(アオカ・・・・・第二王子の碧香のことか?)
スオーと話しながら、昂也は頭の中で微かな声が聞こえてくるのにようやく気付いた。
(この声って・・・・・)
《コーヤ、コーヤ、聞こえますか?》
(アオカ?うん、どうしたんだよ?)
《・・・・・今、よろしければ時間を頂けますか?東苑がコーヤと話がしたいと・・・・・》
(トーエンが?)
珍しいと思うと同時に、昂也はナイスなタイミングだと思った。自分の未来に新しい展開が開こうという時、長年の相棒だった龍巳の
声を聞くのは心強い。
(さすが、トーエン)
『うん、アオカ、いいぞ』
そう答えて直ぐに、アオカの意思と同化する為に目を閉じて意識を集中させる。
そして。
『トーエン?』
《昂也》
『なんだよ、元気かよっ』
少し前に声を聞いたはずなのに、何だかとても懐かしく思ってしまった。やはり、どんなに離れていても龍巳は一番の信頼出来る友
人だと、こんな時にしみじみと思う。
《元気そうな声だな》
『あったりまえ!』
頭の中に響く龍巳の声に元気よく答えた昂也は、そんな自分を意味深な目で見つめているコーゲンとスオーの存在を全く忘れてし
まっていた。
![]()
![]()
![]()