竜の王様
第四章 勝機を呼ぶ者
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※ここでの『』の言葉は日本語です
浅緋の頭の中で声が響く。
ウバエ ウバエ ウバエ
ソレハ オマエノ モノダ
誰が言っているのか分からない。
それでも、我慢などする必要はないという声に、浅緋は今まで心の中に押し殺していた感情を一気に爆発させ、組み敷く白い身体
を味わった。
「あさ・・・・・ひっ」
服を引き裂き、目の前に現れた鍛えた、それでもしなやかな背に歯を立てる。その瞬間、ピクッと跳ねるような反応を返してきたこと
に、蒼樹にも快感というものがあるのだと分かった。
どんな時も冷静沈着に、自分の部下にでさえ笑みを向けない、氷の美貌を持つ蒼樹。初めて会った時は、男なのにこんなにも美
しい容姿の者がいるなどとは信じられなかった。
彼の父親のことは広く知られ、周りだけでなく、自らも他人との距離を置く蒼樹に積極的に話しかけ、何とか仲間だと認めてもらう
位置までやってきたのはそれほど昔のことではない。
この綺麗で寂しい人の、誰よりも近くにいたかった。過去を忘れるように紅蓮を妄信する蒼樹に、味方はここにもいるのだと分かって欲
しかった。
それは、あくまでも同じ剣の道を志す同志として・・・・・そう、思っていたが。
「あ・・・・・くっ」
押し殺した声が、官能的に耳に響いてくる。
胸も無い、細い身体を見ても、自分のペニスが猛るのが分かる。
蒼樹にだけ、必要以上に構っていたのは、肉欲を伴った感情があったからだ・・・・・浅緋は今、この目前の身体を支配しようとした時
に気付いた。
ハヤク オレノモノニシナケレバ
この美しい人の硬い殻の奥、どんなに綺麗な心を持っているのか他人に知られてしまえば奪われてしまう。
同志だから、同じ性を持っているからと躊躇する気持ちなど捨ててしまえと頭の中の声は叫んでいて、浅緋はもうその声に逆らう術が
なかった。
「全て・・・・・貰うぞ」
これは、性行為というものだろうか。
「う・・・・・くぅ・・・・・っ」
(ど・・・・・して、浅緋がっ?)
信じられない行為をしているというのに、浅緋の手は落ち着いていて、慎重に自分の身体を這い回った。
何をするのかまだ分からないが、自分を痛めつける気ならば腕力で訴えられた方がよほど分かりやすいのに、こうして体格や力の差を
思い知らされるように床に押し付けられると、どう反応していいのか分からなかった。
「あ、さひ!」
力をぶつければ、この巨漢でも跳ね除けることが出来るかもしれない。
しかし、遠慮容赦なく力をぶつけるにしては、浅緋は蒼樹の領域に深く入り込んでいて、もしもそのせいで傷付いてしまったらと、恐れ
る思いが消えなかった。
反逆者の息子だと、自分を遠巻きに見る者がほとんどの中、皇太子紅蓮を共に支えようと、四天王達は手を差し伸べてくれた。
その中でも、同じ剣の道を究めていた浅緋は、頻繁に自分に声を掛けてくれ、屈託のない笑顔も向けてくれて、傍にいても安心出
来る、数少ない存在となっていたのだ。
(こ、んなっ、こんな、ことでっ!)
いったい、何が起きているのか、蒼樹は今この瞬間も分からない。
ただ、言えることは、浅緋が自分を力で支配しようとしている・・・・・その気配だけは明確に感じ取れて、どうすればいいのかと困惑す
る思いで唇を噛み締めた。
「声を、出してくれ」
「・・・・・っ」
頑なに、浅緋の手を拒んだ。
そんな蒼樹の耳元で言った浅緋は、指先を口の中に入れてくる。
「・・・・・っ」
歯を食いしばってその侵入を阻止しようとしたが、
「!」
もう一方の手が下半身に伸び、まだ萎えたままの自分のペニスが大きな手で包みこまれるように握り締められた瞬間、驚いて開いて
しまった口の中に易々と侵入してきた指先は、戸惑う自分の舌を掴んで弄り始めた。
「ん〜っ、ひゃっ、めっ」
抵抗するように話そうとしても声はまともには発せず、零れた唾液が浅緋の太い指を伝って流れ落ちる。
こみ上げる羞恥のためにその指を噛むことさえ思いつかなかった蒼樹は、
「!」
いきなり口の中から指を引き抜かれ、安堵の溜め息を大きく着いた時、下半身に激しい違和感と痛みを感じて声を上げた。
男を抱いたことはない。
どうすればいいのか、そんな知識さえ持っていなかったが、雄の本能として猛る自分の分身をどこかに収めたいという思いに、蒼樹の
下半身、男の身体の唯一挿入出来る場所へと、蒼樹の唾液で濡れた指をいきなり差し入れた。
「!」
痛みと緊張からか、指先を押し込んだだけで蒼樹の身体は強張り、指の侵入も拒絶されてしまったが、浅緋はペニスを握った手を
何度か動かし、少しだけ力が抜けた隙をついて、一気に指先を根元まで押し込んだ。
「くぁ・・・・・ぅ・・・・・あっ、はっ、はっ」
悲痛な蒼樹の声が耳に届く。可哀想だと思う以上に、今まで見たこともない弱々しい姿に、浅緋の中にもあった加虐心が刺激さ
れ、それと同時に、熱いその中にはやく自分自身を突き入れたいという思いが高まった。
「はっ、はっ、はっ」
「・・・・・っ」
指を引き抜いた浅緋は、蒼樹の姿を見ているだけで勃ち上がっていた自身のペニスを、今自分が指を入れていた場所に押し当て
る。
まだほとんど解れていない、乾いた場所。傷付くかもしれない・・・・・そんな思いが一瞬頭の中を過ぎったが、浅緋の欲情は既に止
めることが出来なかった。
何をされたのか、うつ伏せの状態では目に見えなかった。
ただ、大きく広げられてしまった足と、腰を掴んでいる大きな手の感触、下半身の信じられない場所に感じる熱い激痛が、蒼樹の感
覚に次々と襲いかかってきた。
(こ、れは、なん・・・・・だ?)
下半身の信じられない場所を限界以上に押し広げてくる巨大なものの正体。ドクドクという脈動を直に感じるそれを確認したくて、
蒼樹は震える肘で何とか身体を起こし、自分の下半身に目をやって・・・・・絶句した。
(こ・・・・・れっ!)
痛みに縮こまった自分のペニスの奥に見える、浅緋の下半身。身体に見合う雄々しいペニスが半分以上自分の下半身の奥に消
えているということは、それが自分の身体の中に押し込まれているということではないだろうか。
「ぐ・・・・・っ!」
腹を押し上げてくるものが何なのかが分かった蒼樹は、こみ上げてくる嘔吐感を必死で押さえ、何とか浅緋の身体の下から逃れよ
うと動いたが、既に半分入ってしまっている浅緋のペニスを痛いほど締め付けている自身の肛孔のせいでそれも叶わず、かえって拒絶
しようとしていることを知った浅緋が両手で腰を掴むと、
ズリュッ
「ぐふっ」
一気に、根元までペニスを押し込んできた。
(あ・・・・・さひ、ど・・・・・して・・・・・っ!)
涙で視界が滲むが、泣き声を浅緋には聞かれたくなかった。唇を血が滲むほどに噛み締め、爪の立たない床に必死で指先を伸ばし
ていた聖樹の耳に、思いがけない言葉が聞こえた。
「好きだ・・・・・っ」
「!」
何時もの浅緋とはまるで人が違ったような暴挙。
それなのに、耳に届く言葉は哀願にも似た真摯な響きで、行動と言葉のずれに、蒼樹の中にはどうしてという疑問ばかりが浮かんで
きてしまう。
「好きだ、好きだ、蒼樹!」
「・・・・・っ」
(な、らば、なぜ・・・・・っ、こんな、こ・・・・・と!)
疑問は言葉にはならないまま、蒼樹は身体の中の浅緋のペニスを強く締め付けてしまった。
信じられないほどに熱く、狭い蒼樹の身体の中。
今までの性交では味わったことのない刺激だが、本当に欲しいと思った相手の身体というだけで、浅緋のペニスはさらに猛り、グッと中
へと押し入った。
「ぐ・・・・・っ」
押し殺した、それでも、苦しげだと十二分に分かる蒼樹の声に一瞬動きは止まりそうになってしまうものの、じっとしていても痛いほど
締め付けてくる蒼樹の中をもっと味わいたいという欲求に、徐々に浅緋の腰は突き入れてしまう。
「・・・・・っ」
普段は体温も感じられないほどに冷たい蒼樹の肌には汗が滲み、白い肌は薄赤く上気している。伸ばされた指が何かを掴むよう
に動いているのが目に映った。
自分は何をしているのか・・・・・そう思うと同時に、こみ上げてきたはっきりとした思い。
「好きだ・・・・・っ」
自然と、その言葉が口をついて出た。
その瞬間、蒼樹の背中が揺れ、ペニスを含んでいる中がさらに強く締め付けてくる。
「好きだ、好きだ、蒼樹!」
誰をも受け入れない蒼樹。仕える主君である紅蓮だけを見ている蒼樹。
そんな彼に自分の方を振り向いてもらいたくて、もっと感情をぶつけて欲しくて・・・・・そんな感情に言葉をつけるのだとしたら、それはも
うその言葉しかないように思えた。
「そ、じゅっ!」
「・・・・・っ」
「蒼樹っ、俺は・・・・・っ」
「お、れは、女では、ないっ」
呻くような声が、それでも激しい感情を伴って返ってくる。
「お前、のっ、欲情を、ぶつ・・・・・け、なっ!」
違うと、叫びたかった。こんな行動をとったのは、蒼樹を女にしたいと思っているわけではない。
「そ・・・・・っ」
テニハイラナイノナラ チカラデシハイシロ
「・・・・・っ」
しかし、胸の中に生まれた様々な感情が、その声によって瞬時に打ち消されてしまう。
「手に入らないのなら・・・・・奪うだけだ」
「ぐふっ」
浅緋は止まっていた律動を開始した。
痛みを含んだ蒼樹の声が確かに耳には聞こえてくるが、今はもう、この白い身体を支配することしか頭の中には無く、浅緋は狭い肛
孔が自分のペニスの形に広がり、それを痛々しく飲み込む様を、ただじっと見下ろしていた。
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