10
女に不自由しない佐久間は、特に男を抱きたいと思ったことはない。
それでも誘われることは度々あって、実は一度だけ、慣れていると言ってきた男とセックスをした。
それで分かったことは、抱くのなら柔らかい身体がいいということだ。いくら少女のような容貌をしていたとしても、抱きしめる腕に
は骨ばった身体は隠しようがないし、何よりも尻の穴に突っ込むのだ。
今までの相手は慣れているだけに、少し解せば女の膣のように柔らかく解けた。そこが自分のペニスを入れることが出来るほど
広がるということを知っただけでもいい体験だったかもしれない。
(いや、避妊をしなくても、妊娠することがないのもいいけど)
さすがに尻の穴に生でペニスを入れたくはなく、ちゃんとゴムをしたが、破れることを気にしなくてもいいし、女に細工をされるとい
う心配もないのが気楽だった。
遊びだと前もってちゃんと言ってやっているのに、一度寝たからといって彼女面をする女には呆れるしかない。
さらには、最終手段をと考えたらしい相手が、ゴムに穴を開けていたということもあった。その時は女の態度があまりにも不審過ぎ
て白状させたが、それを聞いた時は怖いというよりも嫌悪しか抱かなかった。
それ以降、避妊具は自分で用意している。今回も、ちゃんと手の届く所にゴムはあったが・・・・・。
「ねえ、ナオ」
「・・・・・んぁっ」
フッと乳首に息を吹きかけると、組み敷いた身体がビクッと震えるのが分かる。
まだこれくらいの軽いタッチでこれだけ感じるなど、どれ程感度がいいのかと笑ってしまった。
「ナオは、初めてだよね、セックス」
「・・・・・っ」
改めて言葉で聞かなくても、触れた瞬間の反応で十分分かる。それでも意地悪く、答えが出るまでじっと顔を見つめていると、
赤くなった顔で尚紀が睨んできた。
「・・・・・悪い、かよっ」
「悪くないよ、全然。でも、それなら心配ないね」
「え・・・・・?」
何がと聞き返そうとする唇をキスで塞ぎ、佐久間は半勃ちになったペニスにさらに愛撫を加えた。
先走りの液で、佐久間の指先は雫が滴り落ちてしまうほど濡れて来る。
(直ぐにでも、イってしまいそうだな)
もう、僅かな刺激を与えれば射精してしまいそうなほどにプルプルと震えているそれを手で感じ、佐久間はわざと手の動きを止
めた。
「あ・・・・・っ」
「・・・・・」
どうしてという眼差しが佐久間を貫く。頬を上気させ、瞳を潤ませ、濡れた唇を僅かに開いて佐久間を見上げる様子は、これ
がどこにでもいる普通の男子大学生だとは誰も思わないだろう。
この尚紀の姿を見ることが出来るのは自分しかいない。そんな独占欲が湧き上り、佐久間は自身のペニスにもさらに熱が集
まるのが分かった。
(・・・・・生でしたいなあ)
セックスが初めてなら、わざわざゴムを着ける必要もない。病気の心配はないし、何より尚紀は恋人だ。本当に裸と裸で抱き合
うのが普通だろう。
「好きだよ、ナオ」
「・・・・・っ」
今までも、誰彼ともなく告げてきた言葉。セックスを気持ちよくするための前戯の一つだという意識しかなかったが、そう言うたび
に尚紀が赤くなるのを見ると少しは意味があるような気がする。
「ナオは?俺のこと、好き?」
人に嫌われた覚えはない。妬まれたことは数え切れないほどあったが、それも自分が気にしなければどうでもいい人間達のもの
だ。
ただ、尚紀の口から否定する言葉は聞きたくない。
「ねえ、ナオ」
半分強請るように、佐久間は尚紀の耳たぶを口に含んだ。
クチュ
「・・・・・っ」
耳を舐められる水音が生々しく響く。
身体を引きたいのにベッドに押し倒されている状態ではどうにも出来なくて、首を竦めるだけの抵抗をするしかなかった尚紀に、
佐久間はさらに囁いてきた。
「ナ〜オ」
「ふ・・・・・ぅっ」
(さ、佐久間の、こ、と・・・・・っ?)
嫌いだったら、今ここにいるはずがないだろと文句を言いたくても、背中を駆けあがって来る快感を押し殺すのに精一杯で、な
かなか言葉が出ない。
「・・・・・嫌いなの?」
それには、首を横に振った。嫌いじゃない、それだけは確かだ。
だが、このままでは佐久間は尚紀に決定的な快感を与えないまま、焦らしに焦らすような気がする。そんな風になってしまったら、
かえって頭の中がグチャグチャになって、変なことまで口走ってしまいそうだ。
「・・・・・っ」
言葉にならない気持ちをどう佐久間に伝えればいいのか。
そう考えた尚紀は無意識のうちに腕を伸ばして佐久間の首を抱き寄せると、
「ナ・・・・・」
さらに自分の名前を呼ぼうとしたその口を、ぶつかるような勢いのキスで塞いだ。
ピチャ
テクニックも、雰囲気も何もないキスだったが、佐久間が一瞬固まってしまったようにすべての動きを止めたのが分かった。
しかし、直ぐに佐久間は尚紀の唇を舌で割って入ると、縮こまっていた尚紀のそれに絡めてくる。
呼吸さえままならない勢いに、尚紀はその胸を押し返そうとしたが、それを抵抗と思ったのか佐久間はますます強く抱きこんでき
た。
それだけではない、ペニスを握ったまま止まっていた手が、今度は少し乱暴に上下し始めた。自身も持っている男の性器に触
れることを嫌だとは思わないのだろうか、きっと、佐久間のあの綺麗な手は、自分のペニスから滲み出る先走りの液で汚れてい
るはずだ。
「んんっ」
(で、出る、よっ)
自慰しかしてこなかった尚紀にとって、他人の手の刺激というのはとても強烈だった。自分の意図しない所を掠り、ここだという
ポイントをかわされる。
情けなく声を上げそうになるのが嫌で、何度か首を横に振って佐久間のキスから逃れると、尚紀はいったん手を離して欲しいと
佐久間の腕を掴んだ。
「何?ねだってるの?」
「ち、ちが・・・・・っ」
「直ぐイカせてあげるから」
そう言ったかと思うと、佐久間は強引に手を動かし続け、
グチュッ
「ひぃっ!」
そのまま、先走りの液が染み出している先端部分を親指で擦られた瞬間、尚紀は佐久間の肩にギュッと爪を立てたまま射精し
てしまった。
「あぁ・・・・・ぁ・・・・・」
熱い塊がビュクビュクとペニスの先端から吐き出されるのが分かる。
頭の中が真っ白になって、息が出来なくて。そんな時、尚紀の目の前に長い指が翳された。
「ほら」
「・・・・・」
「この白いの、全部ナオの出したものだよ?」
綺麗に笑った佐久間は、そのまま汚れた指先を口に含んでしまう。止めてと言いたいのに、射精したばかりの弛緩した身体は
なかなか思い通りに動いてくれなかったし、目の前で見せ付けられる光景があまりにも卑猥すぎて目を逸らせなかった。
「少し、苦いな」
「あ・・・・・」
当たり前だと思う。あんなものを口にするなんてどうかしていると思うのに・・・・・。
「ねえ、ナオ。ナオも、俺の、舐めてみない?」
そんな悪魔の囁きを、即座に拒否することはとても出来なかった。
ベッドヘッドに背中を預け、そのまま胡坐を組む。
勃ち上がった自分のペニスを見るのは滑稽だったが、それ以上に佐久間は早く尚紀の唇を汚してしまいたかった。
「ほら、ナオ」
なかなか起き上がろうとしない尚紀の腕を掴んで上半身を起こすと、自分の足の間に座らせた。
微妙に視線を逸らしているのが笑えるが、その視界の端にはこの凶器ともいえる自身のペニスは映っているだろう。
「舐めて」
「・・・・・」
尚紀はゆっくり首を横に振った。
「ナオ」
「で、出来ない、よっ」
セックス自体初めての尚紀。それも、ゲイでない尚紀にいきなりペニスを舐めろと言ってもハードルが高すぎるかもしれないが、こ
れまで数え切れないほどの女にやってもらった行為を尚紀にしてもらったらどんな気持ちになるか、どうしても試してみたかった。
「咥えなくていいから」
「・・・・・さ、さく、まっ」
「あ〜、義仁でしょ?ペナルティ、ちゃんと払って」
「・・・・・」
「ナオ」
まだ丸みが残っている頬に手をあてて何度か撫でると、尚紀が唇を噛み締めるのが分かった。多分、心の中で様々な葛藤が
あるのだろう。
「・・・・・・」
そして、どのくらい待っただろうか。ずっと萎えないままでいた佐久間のペニスに尚紀の指先がおずおずと触れてくる。
「・・・・・っ」
(じょーだん・・・・・)
尚紀の指先が触れただけで、一気に射精感が高まった。童貞を捨てた時よりも顕著な反応に自分自身が意外に思って笑っ
てしまう。
(魔法の手を持ってるのかな、ナオは)
「舌、出して」
「・・・・・」
唇から、少しだけ赤い舌が覗いた。
「ん、それで舐めて」
目の前のグロテスクなもの。もしもこれが食べ物ならば絶対に自分の皿には載せないと断言できる。
(ち、違うか)
頭の中がパニックで、つい変なことを考えてしまったようだ。
(は、初めてのエッチで、いきなりこんなこと、するのか?)
自分には経験がないので絶対に違うとはいえないのが弱い所だ。何より、さっき佐久間は手についた尚紀の精液を舐めた。
けして舐めてくれと言った覚えはないものの、それでもしてもらったことは返さなければ・・・・・そんな焦りのような思いだけで、尚紀
は何とか目の前のペニスを握った。
「舌、出して」
嬉しそうに笑う佐久間を見て、少しだけ舌を出してみる。
「ん、それで舐めて」
「・・・・・っ」
(く、口調、軽いんだけどっ)
それとも、セックスには口の愛撫は普通の行為なのだろうか。
どうしようとじっと佐久間のペニスを見つめていると、心なしか手の平に感じる脈動が大きくなってきたような気がする。いや、確か
に手を押し返すペニスは大きくなってきていた。
(い、急がないと・・・・・っ)
早くしないと、今以上に大きくなったペニスを相手にしなければならない。それならば早い方がいいと、尚紀はギュッと目を閉じ
て、思い切ってペロッとそれを舐めてみた。
「・・・・・」
「どう?」
「・・・・・変な、味」
それでも、風呂に入ったばかりのせいか、最悪に想像していた味よりは我慢できる程度の気がする。
「ほら、休まないでよ」
笑いながら佐久間はその先の行為を強請ってくる。命令し慣れたその様子に、なぜか尚紀はホッと諦めの息をついた。
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