そのままキスをしてベッドに押し倒そうとしたが、それまでキスにうっとりと感じていた尚紀はいきなり胸を押し返してきた。
 「・・・・・ナオ」
(ここまできて俺を拒む気?)
それこそ、性悪女のようだと、佐久間は構わずにシャツのボタンを外した。しかし、そうすると腕の中でますます尚紀は暴れてし
まい、いい加減にしろと佐久間は眉を顰める。
 「ナオ、嫌なの?」
 「ち、違うっ」
 「じゃあ、どうして」
 「シャ、シャワー、身体っ、その、身体洗わせて!」
 「・・・・・あ、ああ、そっか」
 セックス初心者の尚紀は、抱き合う前は体を清めてというバージンの女のような考えを持っているらしい。抱き合ってしまえば、
唾液や汗や精液などで直ぐに汚れてしまうのに。
(それに、汗の匂いもクルんだけどな)
そこまで求めるにはもう少し時間が必要かもしれないと、佐久間は口元に苦笑を浮かべたまま身体を離した。
 「分かった、一緒に入る?」
 「だ、駄目!心臓破れる!」
 「くっ、何、それ」
(やっぱり、ナオは面白い)
たかがセックスでも退屈させないみたいだなと、佐久間はしばらくの間笑いが止まらなかった。




 「あ」
(頭、洗ってもいいのかな)
 こういう時は身体だけを洗うのか、それとも頭も洗ってしまっていいのかと考えたが分かるはずもなく、半分濡れてしまったので
もういいかとシャンプーを借りて頭を洗った。
(これが、佐久間の匂いかあ)
 何時もは本人がつけているコロンや、引っ付いている女の子の香水の香りで佐久間本人の香りなど分からないが、ごくたまに
今感じている匂いをさせていたように思う。それがこのシャンプーの匂いだったのかと思うと、また一つ佐久間のことを知ったような
気がして嬉しくなった。
 「・・・・・でも、勃つのか?」
 頭を洗っている時、自然に下を向いてしまった視線。その先には少々小振りかもしれないペニスがあって・・・・・当然、セックス
をする時にはこのペニスも見られてしまうはずだ。
 キスは女の子と変わらなくても、やはり自分と同じ(外見や使用頻度はともかく)性器を目にして、その気が削がれるということ
は無いだろうか。
 そうなったらなったでホッとするかもしれないが、反面、やはり男同士はと落ち込んでしまいそうだ。
 「・・・・・今更かあ」
それが分かった上で、今ここにいるのだ。

 自分がシャワーを浴び終えると、交代に佐久間がバスルームに入った。
裸か、下着姿か悩んだ挙句、着ていた服を再び着て現れた尚紀に、佐久間はらしいと言って笑っていた。
 「・・・・・やっぱり、これじゃあ変だったか」
(でも、バスタオルを腰に巻いてって・・・・・は、いかにもだしなあ)
 「漫画のように上手くいかないって」
(何しろ、相手は男なんだし)
 「・・・・・・」
 手持ち無沙汰で(緊張し過ぎる気持ちを静めるために)、尚紀は部屋の中を改めて見た。
佐久間らしい、でも、佐久間らしくも無いように感じる部屋。そんな風に思うのは、尚紀自身がまだ佐久間のことをよく知らない
からかもしれないが、
 「女の子、入れたことが無いってさ」
 それが口先だけの嘘でも、そんな風に気遣ってくれることが嬉しいと思っている自分は、もうかなり佐久間に気持ちを傾けてい
るのかもしれない。
(まだ仮なのに・・・・・)
もう、そんな言葉は消えてしまっているような気がした。




 「待たせた」
 「え?」
 腰にバスタオルを巻いた姿でバスルームから出ると、こちらを向いた尚紀の顔が一瞬で赤くなった。
 「なに?」
 「そ、その格好!」
 「だって、この後脱ぐし」
 「そ、それでもっ、一応ワンクッション置くとか!」
 「ごめん」
一秒でも早く素肌で抱き合いたかったからとさすがに言えず、佐久間はそのままベッドにちょこんと腰掛けている尚紀の身体を強
く抱きしめる。
 「これで見えないでしょ」
 「・・・・・バ、バカだろっ」
 どんなに可愛い顔でそんな憎まれ口を言っているのか見てみたい気がするが、今は少しでも尚紀の緊張を解してやった方がい
いだろう。もう少し快感に解けてしまうまではお互いの身体を見るのも見せるのも止めておこうと、佐久間はそのまま尚紀を仰向
けにベッドに押し倒した。
 「ナオ」
 「・・・・・う、うん」
 「好きだよ」
 「・・・・・っ」
 その瞬間、尚紀の手が腕を掴んだ。爪跡が残りそうなほど強い力は尚紀の思いそのままのような気がして、佐久間は少しも
傷みを感じない。

 チュ

軽く、合わせるだけのキスをしてやると、少しだけ唇が開いた。何時もベタベタと甘えてこない尚紀だけに、こんな風にされると、ま
るでもっと深いキスをしてくれと乞われているような気分になってしまう。
(これじゃあ物足りないのか・・・・・欲張り)
 無意識のことだろうが、そんな風に誘われると応えなくてはならない。佐久間は角度を変えた軽いキスを何度か繰り返した後、
ようやく尚紀が待ち望んでいた深いキスをした。
 「んっ」
 「・・・・・っ」

 チュク

 舌を絡め、唾液を交換する濃厚なキス。
仮とはいえ、恋人として付き合いだしてから何度もキスを交わしたが、ここまで濃厚なものは初めてだ。次第に身体から力が抜け
ていく尚紀の様子を見ながら、佐久間はゆっくりと服を脱がし始める。
(・・・・・同じだ)
 首筋に顔をうずめた時、香ってきたシャンプーの香りが当たり前だが自分と同じことが何だかくすぐったく、佐久間はそんな高揚
している自分を誤魔化すように手の動きを大胆にした。
(俺の方が緊張しているなんて、な)




 「ふ・・・・・んぁ」
 耳に舌を入れられ、クチュっという水音がダイレクトに脳に響いてくるような気がする。
尚紀は恥ずかしくてたまらず、ギュッと目を閉じていたが、
 「うわあ!」
いきなり胸元に鈍い痛みを感じてパッと目を開いてしまった。その視界に映ったのは、肌蹴られた胸に伸ばされた佐久間の手。
彼が自分の乳首を摘んでいるのだと分かった時、尚紀の動揺はさらに激しくなってしまう。
 「あ、あのっ、あのっ!」
 「ん?」
 思ったより近い位置で佐久間の声がするが、今は乳首を摘む手の方が気になって仕方が無い。女ではないのにこんな場所に
触れられることに大きな衝撃を感じていた。
 「そ、そこっ」
 「感じる?」
 「か、感じるって、俺、男だし!」
 大きく、柔らかな女の子の胸を揉む。そんな想像をしていた尚紀にとっては、男のペタンコの胸を触っても快感など感じるはず
はないと頭から思っていたので、本当にどうしていいのか分からないほど動揺した。
 「男でも感じると思うけど」
それなのに、佐久間は軽い口調で言うのだ。
 「嘘ぉ!」
 「ホント」
 なぜか楽しそうな声音で返してくる佐久間に、尚紀は本当にそうなのかと思ってしまう。
何もかもが初めての尚紀にとっては、情けないが佐久間の経験に頼ることしか出来ない。彼がそう言うのならばそうなのかもしれ
ない・・・・・実際、自分はこんな風にムズムズとしているのだ。
 「ほら」
 そんな尚紀の耳に、またも楽しそうな佐久間の声が響く。
 「ちゃんと、感じてる」
 「ふうっ!」
いきなりジーパンの上から性器を軽く撫でられ、尚紀は変な声が出てしまった。
(お、俺っ、なにっ?この声〜っ?)




 尚紀が自分の身体の反応にパニックになっている間、佐久間はさっさと尚紀の服を脱がしてしまった。
ジーパンは少し脱がし難かったものの、きついそれは返ってペニスがどれだけ反応しているのかを妙にリアルに感じさせたようで、
尚紀の肌が真っ赤に染まっているのが目に楽しい。
(俺も、だけどな)
 最近は、女とセックスをしても直ぐにこれだけ猛ることはなく、相手からフェラチオをしてもらったり、手で愛撫をしてもらったり、それ
で、徐々に自身の肉欲も高まって来るといった感じだったが、今の自分のペニスは触れられても無いのにもう勃ち上がり掛けてい
る。
 「・・・・・っ」
 下着ごとジーンズを脱がした尚紀のペニスが、プルンと勃ったのが可愛い。
自分とは違う、まだ綺麗な色をした小ぶりのペニスに指を絡めると、自分のペニスもすべらかな足にわざと擦りつけてやった。
 「ふ・・・・・っ」
熱さと、硬さ。
少し濡れたそれが何なのか、尚紀は分かっているだろうか。
 「ナオがちゃんと感じてくれて嬉しいよ」
 「さ、さく・・・・・」
 「違うでしょ」
 こんな色っぽい雰囲気の時に、無粋に名字で呼んで欲しくない。義仁と、甘い声で呼んでもらいたくて、佐久間は快感を追お
うとした尚紀のペニスを強く握り締めた。気持ちがいいのに、痛い。尚紀は涙目になって佐久間を下から見上げてくる。
 「は、はな、し・・・・・っ」
 「じゃあ、俺の名前呼んで」
 「手・・・・・っ」
 「ナ〜オ」
 「よ、よし・・・・・と!」
 震える声は色っぽいというよりも何だか可哀想な感じに聞こえてしまうが、もっともっと快感を深くすればこの声が艶やかなものに
変化するのは間違いが無いはずだ。それは、日頃平凡だと周りから言われている尚紀が、少し快楽を与えただけでこんなにもそ
そる表情になっていることからも分かる。
(早く、もっと感じて欲しい)
 「もう一度」
 いじわるかもしれないが焦らすようにそう言うと、
 「よ、義仁!」
まるで叫ぶような声が返ってきた。色気が無いとふき出したものの、ちゃんと言う通りに口にしてくれたご褒美だと、佐久間は手の
力を少し緩め、ゆっくりと竿を扱き始める。

 クチュクチュ

直ぐに、湿った水音が聞こえ始め、佐久間の手も濡れてきた。
(感じやすいなあ。ナオは身体も素直なんだ)