正妃の条件



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※ここでの『』の言葉は日本語です






 目が覚めた時、隣で眠る有希を見つけて、アルティウスは一瞬息をのんだ。
 「・・・・・ああ、そうか・・・・・」
(私の妃になったのだな・・・・・)
アルティウスにとっては気の遠くなるほど長い時間が掛かってしまったが、それだけ待ったからこそ、有希の方からも求められて結
ばれた。
無理矢理身体を支配した時とは比べ物にならないほどの快感を感じることも出来た。
 「ユキ・・・・・」
 疲れてしまったのだろう、有希はアルティウスが頬に触れても目を覚まさない。
起こすつもりも無く、アルティウスは静かに寝台から出ると、落ちていた寝巻きを肩に羽織って私室を出た。
 「王」
 廊下には、何人もの臣下達が跪いていた。
ほとんど全裸といってもいいアルティウスの姿に驚くことも無く、むしろ感極まったように深々と頭を下げて祝辞を述べた。
 「おめでとうございます、アルティウス様」
 「《強星》を娶った偉大なる王よ」
 「我々は王と王妃に、永久の忠誠を誓います」
 「・・・・・ああ」
 本来、王が正妃を娶る時は、その行為が間違いなく行われたかの確認が行われる。きちんと王の精液を受け止めることが
出来たかと閨の行為を監視するのだ。
 しかし、アルティウスはそれを拒否した。
既に子がいて、受胎の確認など必要ないし、第一有希は男だ。
しかし、最大の理由は、自分以外の誰にも有希の肌を見せたくない・・・・・その独占欲だった。
 「王、早速正式な婚儀の時期をお決めになりませんと」
 宰相のマクシーの言葉に頷きながらも、アルティウスは厳しい目をベルークに向けた。
 「リタの居所は判明したか?」
 「申し訳ありません、今だ・・・・・。ただし、国境の外に出たという報告は無いので、国内に潜んでいるものと思われます」
 「・・・・・力を貸している者がいるな」
 「多分。それも、相当な実力者だと思われます」
 「あ奴は必ずユキに何か仕掛けてくるはずだ。何としても捕らえて、必ずその罪を償わせねばならぬ」
有希を抱いたその幸せな気分をずっと持続させる為には、リタという悪の因子は取り除かなければならない。
(逃がしはせぬ・・・・・っ)



 「お目覚めですか、ユキ様」
 「・・・・・え?」
 何度か瞬きを繰り返した有希は、遠くから聞こえてきた気遣うような声にやっと目を開いた。
顔に当たる日差しは既に暑いくらいだ。
(こ・・・・・こ・・・・・?)
 「ユキ様、お体はいかがですか?」
優しい声の主を捜すと、入口近くにウンパが控えていた。
 「・・・・・ウンパ?」
自分の部屋ではない装飾に一瞬途惑ったが、次の瞬間、
 「!!!」
 有希は昨夜のことを思い出し、掛けていた布を頭から被ってしまった。
(ぼ、僕、アル、アルティウスと・・・・・!!)
カーッと盛り上がった感情が醒めてしまうと、自分から誘うようなことをしてしまったことが死ぬほど恥ずかしい。
おまけに、その翌朝というあからさまな状態をウンパに見られたことも、だ。
ギュッと布を握り締めて身体を丸めようとしたが、
 「・・・・・いたあ・・・・・っ」
 鋭い痛みが下半身を襲った。
 「ユキ様っ?」
 「いた・・・・・いた・・・・・い・・・・・」
身体中がギシギシと痛み、下半身の、昨夜アルティウスを受け止めたあの場所は、ズキズキと熱を持っているように疼いてい
る。
呻く有希に駈け寄ったウンパは、直ぐに手に持っていた物を差し出した。
 「これをお飲み下さい。ディーガ様の煎じた熱冷ましです」
 「・・・・・」
 「ユキ様、顔を出して、これを飲んで下さい」
 「・・・・・あっち見てて・・・・・僕を、見ないでくれる?」
 「承知しました」
 ウンパの身じろぎの気配を感じて、そっと目だけを出して覗けば、有希の言った通り向こうを向いて立っている。
有希は痛む身体に顔を歪めながらも手を伸ばし、ウンパが用意してくれていた薬を口にした。少し苦いが、これで少しでも良
くなればと我慢する。
(・・・・・どうしよう・・・・・)
 しっかりと布を身体に巻きつけているのは、その下に何も身につけていない裸だからだ。ベタついた感じは無いものの、何も身
に着けていないとは思わなかった。
(アルティウス・・・・・服を着せてくれたら良かったのに・・・・・)
 有希が昨夜着ていたはずの寝巻きは、寝台から少し離れた床にクシャクシャになって落ちたままだ。簡単に手を伸ばすこと
も出来ず、たとえ拾えたとしても1人で着る事は出来ないだろう。
有希は観念してウンパに言った。
 「・・・・・ごめん、ウンパ・・・・・手伝って」
 「そちらを向いてよろしいのですか?」
 「・・・・・うん」
 「失礼します」
 振り向いたウンパの手には新しい寝巻きが用意されていた。
全てを知られていると思うと居たたまれないが、ウンパは出来るだけ事務的に身支度を手伝ってくれた。
そして、有希が辛うじてまともな格好になって寝台の端にヨロヨロと腰掛けると、ウンパは有希の足元に跪き、改まった口調で
祝辞を述べた。
 「この度はおめでとうございます、ユキ様。アルティウス様の正妃になられたことを、心よりお祝い申し上げます」
 「ウ、ウンパ・・・・・」
 「どうか、末永く王と添い遂げて頂きます様、深くお願い致します」
 それは、エクテシアの国民を代表しての言葉なのかもしれない。
たった一夜で、有希は自分の両肩に限りなく重い責任が圧し掛かったように感じた。
(・・・・・だけど・・・・・)
それでも、アルティウスと共にこの国を支えて、ずっと一緒にいようと決意したのだ。それは元の世界に帰れないから仕方がなく
というのではなく、自分が望んで・・・・・決めたことだった。
 「・・・・・ありがと、ウンパ。僕、頑張るよ」
有希は作り物ではない笑顔を浮かべて、はっきりと頷いた。








                                        
                              









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