正妃の条件



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※ここでの『』の言葉は日本語です






 「ユキさま、おまねき、ありがとうございます」
 「かあさま、ありがとう」
 「あ、そうだった、ユキさまはもうかあさまだった!」
 「いらっしゃい、アセット、シェステ。お兄さん達はもう来てるよ」
 アルティウスとの婚儀がいよいよ一週間後に迫った日、有希は改めてアルティウスの5人の子供達を中庭での昼食に招待し
た。
幼い2人の王女達が現われると、静かだった空気がたちまち鮮やかに賑やかに変化する。
有希は笑いながら2人をイスに座らせると、改めて5人を順番に見つめながら言った。
 「みんなも聞いたと思うんだけど、僕の口から改めて言うね。僕は、みんなのお父さんと結婚しました。家族になったんだよ」
 エディエスに対してはもう伝えてあったが、こうして5人揃った形で改めて報告をする。
すると、エディエスを始め、3人の王子達は有希に向かって片膝を着くと深々と頭を下げた。
 「この度はおめでとうございます。我々は心よりこの婚姻をお祝い申し上げます」
 「「おめでとうございます」」
エディエスの言葉に継ぐように、第二王子レスター、第三王子ファノスが口を揃えて祝辞を述べる。
兄達の姿を見たアセットとシェステもたどたどしく言葉を告げた。
 「おめでとうございます、かあさま」
 「おめでとう、かあさま」
 「ありがとう」
 5人が心から祝ってくれているのが分かり、有希の胸もジンと熱くなった。
しかし、これだけは伝えておかなければと、末の王女のシェステにも分かるよう、優しく噛み砕いた言葉で言った。
 「僕は、みんなも知ってる通り男だし、本当のお母さんにはなれないと思うけど、みんなを大切にしたいし、仲良くなりたいと
思ってる。そして、この国とアルティウス・・・・・お父さんを、一緒に守って欲しいんだ。力を貸してくれる?」
 「もちろんです。私達はユキ様を父上と同様に愛し、守ることを誓います」
一番に答えてくれたエディエスに嬉しそうに笑い返すと、他の子供達も同様に答えてくれた。
 「ありがとう・・・・・」
 覚悟をしていたとはいえ、15歳で5人の子供の保護者の1人(あえて母親とは言わないが)になることは不安で仕方がなく、
たとえ今許してくれたとしても、この先成人に近付くにつれて男同士の夫婦というものに疑問を抱くものが出てくる可能性もあ
る。
しかし、今のこの一言で、有希は頑張ろうと思う気持ちを貰ったような気がした。



 「レスター」
 食事が終わり、一同が世話係に付き添われて戻ろうとした時、有希はレスターを呼び止めた。
 「少し、話してもいい?」
 「はい」
線が細く、一見か弱い雰囲気を持っているレスターだが、最近見せるその目の中にはアルティウスに似た強い意志の光が宿る
ようになっていた。
 「・・・・・お母さんのことだけど・・・・・」
 少し言いにくそうに言葉を押し出した有希に、レスターの方がさっぱりとした口調で続けた。
 「父上から話は聞いております。たとえ我が母であっても、父上と国を裏切るような行為をしては、罰せられてしまうのは仕方
がありません」
 「レスター・・・・・」
 「確かに・・・・・自分の母が罪人になることや、もしかしたら重い処罰を受けるかもしれないということは・・・・・複雑な思いも
致しますが、私もエクテシアの王子、覚悟は出来ております」
 「・・・・・」
 まだ9歳。日本でなら小学生だ。
そんな幼い少年も、王子ならばこの国では大人と同等に扱われるのだろう。
アルティウスはリタの罪と、それに科すべき罰の内容を、レスターに対してきちんと伝えていると聞いたが、レスターはそれを有希
が考えていた以上にきちんと受け止めているようだ。
 「ユキ様、僕のことはご心配なく。それよりも、ご自分の婚儀のことをお考え下さい」
 「・・・・・うん」
 「ユキ様の花嫁姿、きっとお美しいでしょうね。兄上もとても楽しみになさっていますよ」
 「兄上って、エディエス?」
 「はい。最近、兄上はユキ様のことをよく話されていますよ。お美しい容姿ももちろんですが、その人間性が素晴らしいと。も
ちろん、私もそう思います」
 「あ、ありがとう・・・・・」
 有希は複雑な思いを抱きながらも礼を述べる。
子供に、それも少年に、お美しいと言われても素直に頷けるはずがなかった。
(大人びてる・・・・・)



 部屋に戻った有希は、ウンパに複雑な心境を零した。
アルティウスとの結婚に、みんなが賛成してくれたことは嬉しい。
レスターが思ったより逞しく、落ち込んでいなかったことにホッとした。
しかし・・・・・。
 「この国の子供達って、みんなあんな風に大人びてるの?エディエスもレスターも、少し前までと全然違ってる」
 はあ〜と溜め息を零す有希に、ウンパは苦笑しながら言った。
 「みんな、と言うのは違うでしょうね。街にいる王子達と同じ年頃の子は、多くはまだ歳相応ですし。ただ、王子達はやはり
王族として特別な教育を受けていらっしゃるでしょうから、ご成長もお早いのでしょう」
 「・・・・・そういえば、ウンパだって13歳だよね?僕よりずっと大人みたいだし・・・・・やっぱり、この国の子は成長が早いんだ
よ、心も身体も」
 「どうでしょうか」
 穏やかに笑うウンパはとても自分より年下だとは思えない。
 「それよりも、ユキ様、そろそろ婚儀の準備をされていただかないと」
 「準備?何かしないといけない?」
 「婚儀は正確に言えば十日ほど続きますからね。前もって準備をしておかないと、後から用意するというのは難しいですから」
 「・・・・・長いとは言ってたけど・・・・・」
宰相のマクシーからは色々と説明を受けたが、期間のことは頭からすっぽりと抜け落ちていたようだ。
(長いって、てっきり2、3日かと思ってた・・・・・)
もちろん、有希が出ずっぱりというわけではないだろうが、噂の《強星》を見に諸外国から来る使者達への顔見せだけでも相
当な数があるようだ。
 そこまで考えて、有希はふと、ある面影が頭に浮かんだ。
 「ウンパ、バリハンからも・・・・・誰か来る?」
ウンパは少し躊躇ったようだが、直ぐに表情を改めて言った。
 「お見えになるそうです。シエン王子ではないと聞きましたが」
 「・・・・・うん、分かった」
 「・・・・・ユキ様、これはいずれお耳に入ることだと思いますので、私の方からお伝えします。バリハンのシエン王子は、このたび
めでたくご成婚されるとのことです」
 「え?」
 思い掛けないことに、有希は目を丸くした。
 「シエン王子が結婚?」
 「はい。招待状が届いたと聞きました。既に祝いの使者は送られているはずです」
 「・・・・・そうなんだ」