昔日への思慕
24
優しいセックスだった。
ホテルに戻ると、海藤は眠そうな真琴と共に風呂に入った。
湯船に浸かった自分の膝の上に抱くようにして、手ですくった湯をゆっくりと肩にかけてやると、真琴は気持ち良さそうに目を閉じ
で海藤の胸にもたれてくる。
「眠いか?」
「・・・・・ん〜」
「真琴?」
「・・・・・ん〜?」
真琴は少しだけ目を開くと、自分の腹の上に置かれた海藤の手を持ち上げて頬に当てた。
「おれたち・・・・・ふたり?」
「ああ」
「・・・・・そっかあ〜、ふたりきりなんだあ〜」
クスクス笑った真琴は、モゾッと身体の向きを変えると、海藤の腰に跨るように向かい合った。
「たかしさん」
2人きりの約束を酔った真琴は覚えているらしく、嬉しそうに海藤の名前を呼んだ。
「こっちでは、たかしさんのおとーさんもいたでしょー?おなじかいどーだし、おかーさんはなまえでよんでたしー、おれも、ほんとー
はなまえでよびたかったんだよ?」
「ああ、分かってる」
「ほんとー?」
確かに、自分と父親は当然ながら同じ姓だし、真琴としては人前で『海藤』と呼ぶ時に途惑ってしまったのは確かだろう。
母親は昔から父親を名前で呼んでいたし、真琴の本心としては自分も海藤の名前を呼びたいと思ってくれたのだ・・・・・と、思
う。
「真琴、疲れたか?」
「えー?」
「お前を抱きたいんだが」
それまでの、ただ優しく触れていた手が、明確な意図を持って真琴の身体に触れてくる。
真琴は酔いと風呂の熱さで火照った頬を嬉しそうに崩した。
「おれも、したいっておもってた!」
フワフワとした気持ちの良い酔いの余韻は、風呂に入ったことでだいぶ醒めて来てはいた。
しかし、今度は海藤に与えられる愛撫の心地良さに、真琴はさらに身体と気持ちが溶けていく。
「・・・・・んっ」
音をたてて重ねるだけのキスも、お互いの唾液まで交じり合うような激しい口付けも、全てが海藤が相手だと思うだけで幸せ
な気分に浸ってしまう。
既に勃ち上がった細身のペニスからは先走りの液が零れ、海藤はそのぬめりを丁寧にペニス全体に塗りつけて扱いた。
「ふぁっ、あっ、はっ」
「真琴」
「た・・・・・っ」
「真琴」
「たか・・・・・しさ・・・・・っ」
目じりに浮かぶ涙は、快感以上の幸福感からだ。
海藤は濡れた目じりの色っぽいホクロに、そっとキスを落とした。
ギュッと自分の首にしがみ付き、真琴はユラユラと腰を揺らす。
自分が気持ちいい場所を素直に教えてくれ、海藤はその艶やかな姿に笑みを浮かべた。
「力を抜いていろ」
「・・・・・ん・・・・・んあっ!」
溶けきった真琴の尻の蕾に、海藤はいきり立った自分のペニスを挿入させた。
ゆっくりと中の襞を感じるように、そして真琴にどうしても感じさせてしまう最初の苦痛を出来るだけ小さくするように、海藤は何時
も以上に時間をかけて真琴の中に入りきった。
「大丈夫か?」
涙と汗に濡れた頬にキスをしながら海藤が囁くと、真琴はうんうんと頷いて言った。
「い・・・・・よっ」
「真琴・・・・・」
「も・・・・・と、はげしくて、い・・・・・っ」
「・・・・・っ、煽るな、俺を・・・・・っ」
「・・・・・ぐっ」
今までのゆっくりした動きから一変、海藤は真琴の両足を更に大きく開くと、そのままペニスの根元まで深く中に突き刺した。
一瞬、真琴の眉が苦しそうに潜まったが、それ以上の快感が襲ってきたのか、小さく開けられた口からは甘い喘ぎ声が漏れてく
る。
「い・・・・・っ」
「真琴っ」
「た、たかし、さ・・・・・んっ」
「愛してる・・・・・っ」
「!」
ギュウッと、真琴の襞が海藤のペニスに強く絡みついた。
「お、おれも、すきっ」
言葉だけが必要だとは思わないが、耳に聞こえるその言葉には不思議な魔法が掛けられているのだろう。
真琴の快感が高まるのと同時に、海藤の快感も相乗して高まり、2人の動きは次第と激しいものになっていくが、それでもお
互いを思いやる優しいセックスというのには間違いがなかった。
「ふぁっ、あっ、あっ」
「・・・・・っ」
「!!」
やがて、我慢しきれなくなった真琴が先にイき、海藤の腹を熱く濡らした。
その瞬間のきつい締め付けに耐えた海藤は、それから何度も真琴の襞をペニスで刺激し、真琴は再びペニスを勃ち上げてしま
う。
「き、きつ・・・・・いっ」
息をつかせぬたて続けの攻めに真琴は呆気なく2度目の放出をしてしまったが、海藤も再びの強烈な締め付けに今度はもつ
ことは出来ず、
「・・・・・っ」
噛み締めた唇の端から詰めた息を洩らしながら、一番最奥に刺し込んだペニスから欲望を解放させた。
「・・・・・っ」
自分の中が熱く濡れたことで海藤が快感を感じてくれたのだと分かった真琴は、深い安堵と満足の溜め息を吐いた。
「・・・・・かしさ・・・・・」
「そのまま眠っていいぞ」
「・・・・・ん・・・・・」
疲れと充足感でくったりとしていた真琴は、熱いタオルで優しく身体を拭かれているうちにゆっくりと眠りに落ちた。
海藤はそのまま真琴の全身を綺麗に拭いて中の後始末まで終えると、自分は熱いシャワーをさっと浴びる。
「・・・・・」
明日は、この福岡の地から去る。
両親とも別れるが、今までのように次があるかとは考えていない自分に気付いていた。
笑いあったり、理解し合ったりは出来ないかもしれないが、また会おうという気持ちになっている。
(・・・・・真琴のおかげだな)
海藤は苦笑を洩らしながらバスルームを出ると、そのまま真琴の眠っている場所へと向かった。
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