千三つ せんみつ



10







 目の前に綺麗な身体があった。
ヒョロヒョロと身長だけが伸びてしまったような自分の情けない体型とは違う、しなやかな筋肉のついた鋼のような身体だ。
 「これ・・・・・私の」
この綺麗な身体は自分のものだと、倉橋は無邪気に笑いながら手を伸ばした。胸元の飾りに手をやって弄ったが、全くといって手
ごたえが無い。自分は触れられただけで感じてしまうのにと、首を傾げながら自分の乳首を触ってみると、
 「あ・・・・・っ」
 案の定というか、恥ずかしい声が漏れてしまった。
 「やあね、私の楽しみを奪わないでよ」
 「え・・・・・」
(綾辻・・・・・さん?)
楽しそうな笑い声の後、倉橋の指に指が重なり、上から乳首を刺激してくる。直接触れているのは自分の指なのに、綾辻が指
を添えているというだけでまるで他人のもののような気がした。
倉橋は思わず胸を反らすと、そのまま綾辻の指を握り締める。
 「さ・・・・・わって・・・・・」
 「手を放してくれないと動かせないわよ?」
 「だ・・・・・って・・・・・」
 この手を放したくなかった。細く、綺麗なのに、しっかりとした男の指。この手で何度自分を助けてくれたのか分からないくらいで、
倉橋にとっては魔法のような手だった。
抱きしめてくれるだけで、自分の頑なな心も蕩けてしまいそうになる・・・・・倉橋は握っているその手を自分の目の所まで持ち上げ
ると、そのまま味わうように指先を銜えた。



 「・・・・・っ」
 熱い倉橋の口の中に指が入った瞬間、綾辻は一気に自分のペニスが勢いづいたのに気付いた。まさかそのまま射精してしまう
失態は犯さなかったものの、この倉橋の無防備な行動はかなり・・・・・キタ。
普段がストイックなだけに、ギャップが激しいのだ。

 クチュ クチュ

 柔らかな舌が自分の指を舐めている。まるでペニスを愛撫されているような錯覚に陥りそうだが、このまま倉橋のペースに引きづ
られるのは男としての面子が立たないと、綾辻は片手は倉橋に預けたまま、もう片方の手で倉橋のペニスを握りこんだ。
 「んぐっ」
 いきなりの刺激に、一瞬だけ口の中の指に歯が立てられたが、綾辻は構わず倉橋の細身のペニスを擦り始めた。
男としてはそれなりの大きさのペニス。倉橋が、確かに男だという証のそれは、綾辻にとっては愛する場所が一つ多いということでし
かない。
確かに、これがあるからこそ、何時倉橋が女を抱くだろうかという心配も消えずにあるが、一方で倫理観の強い彼が仮にでも恋人
といえるような存在がある時に余所見をするとも思っていなかった。心配されるべきなのは、むしろ自分の方かもしれない。
(目的があれば誰とでも寝るなんて・・・・・克己が知ったら死んじゃいそう)
 遠くない過去、自分は確かにその過ちを犯した。
今考えれば本当にその必要があったのだろうかと思うこともあるが、その時の自分はその方法しかないと思った。
だが、もしも倉橋が同じような行動をしたらと思うと・・・・・それこそ、綾辻は倉橋が寝た相手を殺してしまうかもしれない。手に入
れる前ならばともかく、手に入れてしまった後の倉橋の身体を知るのは自分だけでいいと、そんな我が儘なことを思ってしまう。
 倉橋は、藤永とのことを何も訊ねなかった。
疑念も、口にしなかった。
聞かれれば、平気な顔をして嘘を付くつもりだったが、倉橋は綾辻にその嘘も言わせなかった。
 「克己」
 「・・・・・んっ」
 指先を、倉橋の唾液が伝っている。
綾辻はそれに舌を這わした。
(もう二度と・・・・・裏切ることはしないから)



 腰が揺れる。
(気持ち・・・・・い・・・・・)
大きな手が自分のペニスを擦っているのは気持ちが良かった。
事務的な自慰とは違い、感じる場所を的確に探って行くその指先は本当に魔法の指で、倉橋はそれだけでイキそうになってしま
うのを何とか我慢をしている状態だ。
 「どうして欲しい?」
 耳元で甘く囁く声に、先端を弄って欲しいと懇願した。
直ぐにその願いは叶えられ、先端の敏感な部分が指の腹や爪先で刺激をされる。
 「あ・・・・・」
 「出そう?」
(う・・・・・ん、で、る・・・・・っ)
 コクコクと頷くと、不意にペニスから指先が離れた。
 「あ・・・・・っ」
名残惜しげに漏れた言葉は、次の瞬間嬌声に変わる。ペニスが熱く、湿ったものに包まれたからだ。
上顎のざらざらした部分で先端を擦られ、舌先で浮き出た血管をなぞるように舐められる。甘噛みされる感触が気持ちよくて、
倉橋は素直に愛撫を求めた。
 「も・・・・・っとっ」
 正直に言ったのに、舌の刺激は急に中途半端になってしまい、倉橋は焦れて自分の下半身に顔を埋める男の髪を軽く掴む。
 「お、お願・・・・・」
 「・・・・・」
 「あ・・・・・っ」
その途端、今度はいきなり先端が強く吸われて、耐えることも出来ずにそのまま精を吐き出してしまった。
ピクピクと余韻に震えるペニスから残らず精液を吸われた後、少しだけ開いた唇に濡れた唇が重なってくる。
(苦・・・・・い)
 侵入してきた舌に当然のように舌を絡めると、少し苦くて粘ついた感触があって眉を顰めるが、それでもキスを解こうとは思わな
かった。



(素直過ぎて怖いな)
 綾辻は苦笑を零しながら貪るようにキスを続けていた。
絶対に素面の時には見せないようなその姿を後で見たとしたら、きっと倉橋は憤死するほどの羞恥を感じることだろう。
その様子も見てみたい気もするが、今はまだこの素直な倉橋を堪能したかった。
 「・・・・・」
 キスを解き、綾辻は自分の腰に巻いていたタオルを取った。既に先程からタオルを押し上げるほどに勃ち上がっていたペニスは、
隠すものがなくなって更に勢いを増したように感じる。
 「・・・・・」
 ぼんやりとした倉橋の眼差しがそれを見つめているのを感じた。
倉橋は酷いものではないが近眼で、眼鏡を外せば多少視界が心許無くなる。それでも全く見えないというわけではなく、このペニ
スの先を濡らしているものが何なのか、これ程に近くならば分かるだろう。
 「触る?」
 「・・・・・」
 「ほら」
 倉橋の手を引いて自分のペニスに触れさせると、初めはまるで何かを握り締めるように持っていただけの手は、ぎこちなく上下に
動き始めた。綾辻を感じさせたいと思ってくれたのだろう。
(何時もこんな風に素直だったら嬉しいんだけど・・・・・)
簡単に堕ちてこない倉橋だからこそ、愛おしいと思えるのかもしれない。
 「克己、上手よ」
 「・・・・・」
 「私が感じていること、分かるでしょう?」
 言葉で褒めると、倉橋が顔を上げて綾辻を見つめてきた。
 「ね?」
 「あ・・・・・」
 綾辻のペニスの先端から零れた先走りの液は、たちまち倉橋の手も濡らしていく。男を感じさせているという実感が嬉しいのか、
倉橋の頬には笑みが浮かんで、そのまま手の動きも滑らかになる。
けしてテクニックはない手淫だが、それでも十分綾辻の快感を高めてくれた。
 「・・・・・っ」
 我慢はせず、そのまま綾辻は倉橋の手の中に射精する。
勢いがついて倉橋の頬にまで飛んでしまった自分の精を親指で拭うと、綾辻は倉橋の手を自らの下半身に導いてやった。
自分の精液で濡れた手で、無意識のうちに自慰をしている倉橋を見下ろして、綾辻は背中がぞくっと感じて唇を舐め濡らした。



 綾辻のペニスを愛撫している時から、自分の腰が痺れているのを感じていた。
男を射精させた達成感で安堵した倉橋は、そのまま手を解放されると自然と自分のペニスに手が行ってしまった。
濡れている手は滑りがよく、綾辻に口淫された時と同じように感じてしまう。そのまま身体を横向きにし、少し身を丸めるように手
淫を続けていると、倉橋はつっと背中を撫でられてびくっと反応した。
 「や・・・・・」
 「顔を見せてる」
 「え・・・・・?」
 「お前の龍が」
 「・・・・・っ」
 背中にひっそりと生きている一匹の龍。組の長である海藤にも秘密にして、自分の決意を証明する為に彫った白粉彫り(おし
ろいぼり)。体温が上がった時に初めて浮き出るそれを目に出来るのは誰もいないはずだったが、目の前でからかうように自分を見
下ろしている男は、いとも容易くその秘密を覗き見てしまった。
 いや、そればかりではない。この男は、自分の背中にも同じ手法で龍を彫ったのだ。
二人で一対の龍になる為に・・・・・。
 「お前のこれを見れるのは俺だけだな?」
 「・・・・・あ・・・・・」
 急に、男の顔を見せる綾辻の言葉に、倉橋は声が出ない。
 「克己」
 「い・・・・・ませ・・・・・」
 「ん?」
 「いませ・・・・・ん」
 「そうしてくれ」
嫉妬で相手を殺してしまうと囁く綾辻が本気なのかどうか分からない。それでも、同じ宿命を背負ってくれたこの男の言葉は確か
に重い響きで倉橋の胸に届いた。
 「もっと、気持ちよくなろうな」
 「あっ」
 その言葉と共に身体を俯きにされた倉橋は、双丘を左右に暴かれる感覚に声を上げる。
直ぐに、その奥・・・・・男を受け入れることが出来る唯一の場所に濡れた感触が伝わってきた。



 誘うように揺れる白い腰。
しかし、その顔はソファの革に押し付けられたまま、なかなか綾辻の方を見上げようとはしなかった。
(そろそろ醒めたのか・・・・・)
 綾辻にとってはジュースとしか思えないチューハイを、それも半分だけ飲んでどれ程酔えるのかは分からないが、倉橋は射精をし
て、今また蕾の中に指を差し入れられた衝撃からか、初めよりはかなり意識を取り戻しているように思えた。
 酔って、従順に身体を開いて行く倉橋も可愛いが、羞恥を抱いて身体を硬くして・・・・・それでも受け入れようとしてくれる倉橋
はもっと可愛い。
 綾辻はわざと倉橋の耳元に唇を寄せて言った。
 「そんなに締め付けないでよ」
 「・・・・・っ」
 「まだ、中に入ってるのは私の指なんだから」
 「し、してませ・・・・・っ」
 「嘘ばっかり。ほら、中がキツキツで、私の指が動けないでしょう?」
そう言いながら、綾辻は中に入り込んでいる2本の指をバラバラに動かして内壁を刺激する。入り口は確かにきつくて狭いものの、
中は既に柔らかく蕩けていて、もうペニスを押し込んでもいいような気がした。
 「入れちゃおうかしら」
 「ま、待って、まだ・・・・・っ」
 「え~、どうして?」
 綾辻は指を引き抜いた。
このままでは少し狭いかと、綾辻は倉橋の上半身はソファに預けて膝はラグの上に来るようにすると、自分はその後ろに回って後
ろ向きになった倉橋の背中の龍にキスを落とし、そのまま強く腰を引き寄せた。
 「あっ」
小さな蕾が閉じきらない前に、ペニスの先端を宛がってしまう。
 「大丈夫。いい子に受け入れられるわよ」
 「あ・・・・・ああぅ!」
 「・・・・・っ、ほら」
 一気に先端部分を押し込んでしまうと、途端にぐっと強く絞られるように締め付けられた。
綾辻は手を伸ばすと更に身体に力を入れそうな倉橋の腹を撫で、その手をペニスに移すと、僅かにだが強張った身体が柔らかく
なった気がする。
それを見逃さず、綾辻は一気にペニスを根元まで押し込んだ。



 「はっ、はっ、はっ」
 尻を突き出すという恥ずかしい格好で綾辻のペニスを受け入れた倉橋は、そのまま休む間もなく激しく肛孔を犯されていた。
そう、この荒々しさは、まさしく犯すという言葉が合うと思ってしまう。

 グチュ グチッ グリュ

 何かにしがみ付くようにして俯いたまま身体を揺さぶられていると、うっすらと開いた逆さまの視界の中に自分の身体の中に出入
りしている綾辻のペニスが見えた。
自分の太股を伝って流れ落ちるこの液はいったい何なのだろう。女のように濡れるはずがない自分の肛孔は、綾辻を受け入れる
ようになってから変わってしまったのだろうか。
(ち・・・・・がうっ、私は・・・・・っ)
 「な、にっ、考えてるのっ?」
 「はっ、はっ」
 さすがに少し息が上がった綾辻の声がしたかと思うと、いきなり上半身が持ち上げられ、そのまま軽い衝撃と共に仰向けに倒さ
れてしまった。くすぐったい何かが背中や尻に触れ、それだけでも恥ずかしい位に感じた。
 「うあ・・・・・っ」
身体の中に入り込んでいたままの綾辻のペニスの角度が変わり、その拍子にぐりっと抉られて思わず声を上げてしまう。
 「あ・・・・・」
 「いい顔」
 真正面に、綾辻の顔があった。
汗が滲み、淫蕩な香りをさせても、綾辻は・・・・・いい男だった。
 「み・・・・・な、いで・・・・・っ」
 「どうして?」
男を欲しがっている顔を見られたくなくて顔を背けようとしたが、綾辻はそれを許さないかのようにそのまま唇を重ねてきた。
身体の奥深くに綾辻のペニスが入り込んでいるのと同じように、口の中にも綾辻の舌が我が物顔で自分の舌を弄んでいる。それ
に応えると、蕾が絞まって、更に綾辻のペニスの存在をリアルに伝えてきた。
 「ふ・・・・・っ」
 「・・・・・っ」
 ぐっと、綾辻の腰が深く押し入ってきて、倉橋の背中が何かに擦れる。
(え・・・・・こ、こ・・・・・!)
その時になって倉橋は初めて、自分が淫らに綾辻のペニスを最奥に銜え込んでいるこの場所が、自宅の・・・・・煌々とした明かり
が点いている、自分のマンションのリビングの床、そのラグの上だということに気付いた。






                                     






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