息がつまる。
自分の身体の中心に、何かが突き刺さっているという感覚は怖くて、痛みもあるものの、どこかウズウズと湧き上がる感覚もあり、
郁は助けを求めるように日高を見上げた。
 「ひ、ひだ・・・・・っ」
 「・・・・・っ、やっぱり、最初はきついな」
 真上にある日高の眉間には皺が寄り、額には汗が浮かんでいた。
(そ・・・・・だよ、な。あんな狭いとこに、あんなの・・・・・)
自分の爪先さえ入らなかった狭いあそこに、あんなにも大きな日高のペニスが入り込もうとしているのだ。一度で入らないのも無理
はないと思え、郁は何度も何度も深呼吸を繰り返した。
本では、攻め側が受け側に、身体の力を抜くためには深呼吸をしろと言っている場面が数多くあるからだ。
(は・・・・・じめての、ば、い、どうしても身体に力が入るって・・・・・っ)
 どうしても違和感のある場所に意識が集中してしまうのは仕方が無い。それを逸らすための方法は、なんと書いてあっただろうか
と考え・・・・・。
 「・・・・・」
 郁は、そろそろと手を動かし、自分のペニスを握り締めた。
 「かお、る?」
突然の行動に、日高は少し驚いたようだ。珍しいその表情に、もしかしたら初めて見たかもしれないと、郁は僅かに笑った。
 「こ・・・・・れ、いじる、と、身体の力、抜ける・・・・・って」
 「・・・・・ああ、そうだったな」
日高も、直ぐに頭の中の知識を探ったのか郁の言葉に頷き、その手の上に自分の手を重ねる。
 「あ・・・・・」
 「される方が、気持ちいいだろう?」

 クニュッ

少し強くペニスの先端を擦られ、郁の腰が震えてしまう。
しかし、その拍子に身体の力が上手く抜け、日高はぐっとさらに腰を進め、先端の一番太い部分が何とか全て入り込んだ。



(・・・・・入ったか)
 ようやく最大の難関を突破したような気分になり、日高はらしくもなく吐息をはいた。
当然だが、ボーイズラブのドラマCDの録りは1日掛かりで、場合によっては半日、絡みのシーンをずっとやっている時がある。
もちろん芝居なので実際に身体が疲れることはなかったが、本来の男同士のセックスはかなり疲れるもののようだ。
(当然かもしれないな、どちらも初心者なら)
 女相手にチェリーを卒業した時の方がよっぽど気楽だったと思わなくもないが、これだけ苦労しても郁が抱きたかった。
 「日高、さ・・・・・」
自分の名を呼ぶ、甘い、この声が聞きたかった。
 「一番太い部分は入った」
 「か、カリの部分、ですね?じゃ・・・・・、今から、竿の・・・・・」
 セックスという単語を言うだけで照れてしまう郁も、セリフで言い慣れた言葉は自然と口をついて出てくるようだ。我に返った時に
言わせてみたいなと内心思いながら、日高は汗ばんだ郁の前髪をかき上げてやった。
 「ああ、ゆっくり入れるからな」
 動くのは少しずつ、少しずつだ。気は急くものの郁の身体に傷は付けたくはないと、日高は大きく左右に開いた足の間、自分の
ペニスが突き刺さっている部分に視線を向けた。
慎ましやかに閉じられていたはずのそこは、今自分のペニスの形に大きく広げられようとしている。
 「う・・・・・」
 「郁、歯を食いしばるな、力が入ってしまう」
 「は・・・・・い・・・・・うぅ・・・・・っ」
 自身の零した先走りの液で濡れている郁のペニスを必要以上に擦って愛撫を加え、もう片方の手はしっかりと郁の足を持って
広げた。
 「あっ、ん・・・・・ぁぁぁっ」
 悲鳴のような声。痛みなのかそれとも嬌声なのか、日高はその耳でしっかりと声の震えを聞き取りながら、慎重に腰を進めてい
く。
 「んあ・・・・・っ」
 「・・・・・っ」
 突き入れるごとに、絡み取り、絞るように締め付けてくる熱い内壁。それを強引に押し開いていくのは、女の膣に入れるよりもさ
らに征服欲を刺激してきた。
同じ性を持つ相手を抱く自分と、受け入れる郁。両方の気持ちが高まらなければ、きっと最奥にまで行き着けない気がする。
 「郁・・・・・っ」
懇願するように耳元で名前を呼ぶと、ヒクッと中が顫動(せんどう)した。



 ザワ

 双球から尻に掛けて、チクチクとした痛みを感じた。
(な・・・・・に?これ)
視線を下に向けることが出来ない郁は不安に思ったが、その正体は日高が教えてくれた。
 「入った」
 「え?」
 「根元まで、全部」
 そう言った後、グッと突き入れられて、郁はひっと声を上げてしまう。
熱さと、痛みと、圧迫感。我慢できなくは無いものの、それもギリギリの線で踏ん張っていたが、気持ちが限界になる前に、何とか
日高の全てを受け入れることが出来たようだ。
(ほんと・・・・・に、入ったんだ・・・・・)
 あんなに大きなペニスが、自分のあそこに入りきってしまったというのはとても信じられないが、尻に感じるこの感触が日高の下半
身の叢の感触で、あそこも限界一杯広げられている感覚はしているので、その言葉が嘘ではないと分かる。
 日高は、郁の呼吸が落ち着くまでは、そのまま動かないでいてくれたようだが、もちろんこのままでは日高がイクことが出来ないの
ではないかと思った郁は、日高の腕を掴んで言った。
 「い、です」
 「ん?」
 「う、動い、て」
 「・・・・・大丈夫か?」
 「だ、だって、擦らないと、イ、イケない、でしょ?」
 「・・・・・」
(ち、違った?)
 複雑そうな表情で自分を見下ろしてくる日高の顔を見て、郁は自分が言ったことが間違いなのかと焦ってしまった。
それでも、本の中の攻め達は、内壁でペニスを擦られることが気持ちがいいと書いてあったし、受ける側も、痛みは快感に変わっ
ていくとあった。
 まだ息苦しさは治まらないが、日高が動けば自分の方の感覚も変わるかもしれない・・・・・郁はそう思う。
 「・・・・・っ」
(そ、そうか、俺からも動かなきゃ・・・・・っ)
そろそろと、腰を揺すってみた。
それでも、乗馬をするように激しく前後左右に動かすことは、まだこれが初体験の自分にはとても無理のようだ。



 身体を揺らめかせ始めた郁。もちろんその動きはごく僅かなものでしかなかったが、
 「・・・・・っ」
締め付けられ、顫動する内壁に包まれているだけでもイッテしまいそうな日高にとっては、それはかなりの刺激になった。
(まだ、痛むだろうに・・・・・っ)
解しや滑りが十分かどうかは自信が無かったし、ここで女を抱くように激しく動いていいのか不安にも思っていたが、郁はそんな自
分の躊躇いや情けなさのさらに上にいこうとしている。
(男らしいな、郁)
 気遣っていては何時まで経っても終わらない。
日高はそう思い直すと、僅かに揺れている細い腰をしっかりと掴み、
 「え?」
 「付いて来いよ」
淫猥な笑みを頬に浮かべて、いきなり自分の腰に郁の腰を叩きつけるように引き寄せた。
 「はぐっ!」
 急に激しく動き始めたことに、郁の表情には戸惑いと恐れのような色が浮かんでいたが、理性を手放そうと決めた日高はそれに
構わなかった。
もちろん、傷付けることは絶対にしたくないが、これでも何十人もの男達を抱いて(もちろん、声の上だけだが)きたのだ、絶対に感
じさせることは出来ると思う。
 「はっ、あっ、うっ、くぅ・・・・・あ!」
 「郁、郁、俺に合わせろっ」
 「だ、だ・・・・・って!」
 「ほら、こっちも可愛がってやるぞっ」
 腰から片手を離した日高は、その手で萎えかけた郁のペニスを掴み、擦りあげた。男ならばここを刺激されればいやでも感じて
しまう。案の定、郁のペニスは呆気なく力を取り戻し、それに合わせるかのように中も柔らかく蕩け始めた。
 「・・・・・くっ」
中をかき回すペニスが溶けてしまいそうなほどに気持ちがいい。
気を抜けば呆気なく射精してしまいそうになるのを奥歯を噛み締めて耐え、自分にこんな情けない思いをさせた郁を、さらに苛め
ようと内壁を付きまくる。
 「ひゃあっ!あっ!あっ!」
 ペニスの裏側の場所にあった前立腺を上手く見つけることが出来たようで、そこを先端のカリの部分で押すように刺激すると、郁
は呆気なく射精してしまった。
 「やっ、やだあっ!」
 勢いの良い精が自分の腹に当たり、それがトロリと下半身に滴り、2人の結合部分へと流れていく。その光景は卑猥で、日高
はペロッと唇を舐めて笑った。



 「気持ちっ、いいよう、だなっ」
 「ま、待・・・・・っ」
 息が、出来なかった。
前立腺を刺激され、指で引っかかれるのとはまた違う刺激に呆気なく射精してしまうと、少し息を整えさせて欲しいと頼む。
しかし、日高は意地悪く笑って、見下ろしてくるのだ。
 「今度は、ペニスは弄らないぞっ」
 「ひ、ひだっ、かっ」
 「アナルの刺激だけでイクことは、何て言う?ほらっ、郁っ」
 「お・・・・・しり?」
(前を、弄られない、で、後ろ、だけ・・・・・?)
 どこかで聞いたことがあるはずだ。それに答えれば、日高が少しは休ませてくれるかもしれないと思い、郁は身体を揺さぶられな
がら必死で記憶を辿っていく。
(後ろ、だけっ、後ろ・・・・・っ、あ!)
 「と、ところ、てんっ?」
 「そうだっ、お前、これはどういう意味だってっ、俺に聞いてきただろ?」
・・・・・確かに、いきなり出てきた食べ物の名前に、その意味が分からなくて日高に聞いたことがあった。
押せば、出る。あまりにも即物的な例えだが、なるほどと、その時はまるで意味の分からない漢字を、教師から聞いたような気分
だった。
 その現象を、たった今自分が本当に経験したとは・・・・・とても信じられない。
 「あぁ!」
郁の戸惑いが分かっているだろうに、日高は動きを止めようとしてくれなかった。もう・・・・・自分がどうなってしまうのか、郁は考える
ことを放棄してしまった。



 グチャグチャに濡れた下半身。結合し、摩擦を繰り返すその場所からは、卑猥な水音と肉体のぶつかり合う音が寝室の中に響
いた。
シーツには染みが出来、身体には汗も浮かぶが、こんなにも気持ちがいいセックスは日高にとっても初めてのような気がする。
(相手が、郁だから、か)
 声を商売にしている自分が、一声聞いただけでその声の主に会いたいと切望してしまった。
実際に会えば、思った以上に綺麗な容姿と、大人しい外見に似合わない反発心が妙にツボに嵌って、一人の女では満足しな
いと豪語していた自分が、呆気なくこの青年の足元にひれ伏してしまった。
 ボーイズラブという特殊なジャンルの仕事を一緒にしていたせいか、男同士の恋愛というものも思った以上にすんなりと受け入
れてくれ・・・・・いや、これは相手が自分だったから・・・・・そう思いたい。
 「郁・・・・・っ」
 「・・・・・っ」
 名前を呼べば、必死に腕にしがみ付いてくる。その仕草が、可愛くて可愛くて仕方が無い。
 「・・・・・出すぞっ」
 「・・・・・んんっ!」
さらにピッチをあげ、ペニスを出し入れした日高は、その最奥に到達したと同時に射精する。
 「・・・・・っ」
 まるで、自慰を覚えたての子供のように、長い長い射精をしながら、もちろん日高は腰の動きを止めようとはしなかった。
中で吐き出してしまった精液は、このままペニスで内壁の隅々まで擦りこみ、郁の身体の中に自分の存在を刻み込まなければ
気がすまない。
 「お、お腹、いっぱ・・・・・っ」
 「馬鹿だな、郁」
 一度射精したせいか、日高は余裕を取り戻していた。しかし、それとは反比例するように、郁への飢えはさらに増したような気
がする。
もっと、もっと、この身体を貪らなければ気がすまない。
 「俺が、一度で終わるわけが無いだろう?」
 「え・・・・・」
 「お前の中で、ほら、前よりももってデカクなってる」
 「・・・・・っ」
 郁の顔が真っ赤になり、ペニスを締め付けている内壁の動きがさらに強くなる。
 「・・・・・んっ」
 「なんだ、いやらしいな、郁。俺のをさっきよりも強く締め付けている。もっと欲しいんだろう?」
 郁の感じる低音で囁けば、内壁はますます蠢きを複雑に、激しくしていく。
その快感に日高もうっとりと目を細めると、閉じることが出来ない郁の赤い唇をねっとりと舌で舐めあげてから・・・・・言った。
 「お前の中が俺の形を覚えるまで、今日はずっと抱き続けるからな」