真哉君の真夏の冒険




                                                                    
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 「マコ、本当にここ?」
 「うん、真ちゃん中華好きだよね?」
 「好きだけど・・・・・」
 真哉はグルッと周りを見回した。
(ちょっと、レベルが違うんじゃないか?)
真哉のイメージする中華屋は、ラーメンや餃子、チャーハンがメインのところか、バーミヤンぐらいだ。
 入口からして高級という言葉が合っていた店の中は更に豪華で、1つ1つの部屋が個室になっていた。
その中でも真哉達が案内されたのはVIP用というのか、内装もテーブルもイスも、何もかもが高そうで、真哉はこんな部屋をいきな
り予約出来てしまうという相手にますます敵意を燃やした。
(きっとマコのことも何かで脅しているんだ・・・・・っ)
 真琴が金や容姿で人を選ぶことがないと知っている真哉は、相手がどんな策で真琴を縛り付けているのか、ポヤンとした真琴は
きっと相手の正体も知らないはずだと、真琴を引きずってでも家に連れて帰る覚悟をしていた。
 その時、軽くドアがノックされて開いた。
開けたのは、先程出迎えに出て行った倉橋だ。
 「到着されました」
 「・・・・・」
(いよいよだっ)
 じっと入口を見つめていた真哉の目に映ったのは、テレビで見るような端正な容姿の男だった。



 「海藤貴士さんっていうんだよ。会社の社長さんで、部屋を間借りしてるんだ。海藤さん、俺の弟の真哉です」
 海藤の目から見ても、真哉はとても小学生とは思えないほど大人びていた。
身長も高い方だろうし、まだ顔には丸みは残っているものの、その目はかなり強い意志を秘めている。
 「・・・・・初めまして、兄がお世話になっています」
 きちんとイスから立ち上がって挨拶をする真哉を、海藤はじっと見つめる。
普通ならば怯んでもおかしくないその視線に、まだ小学生の真哉は真っ直ぐに前を向いていた。
 「・・・・・似てないな」
 「お兄・・・・・、兄達と弟は母に似てるんです。俺は父さん似でポヤッとしてて」
 「マコはそこがいいんだから!何か言って来る奴は無視すればいいんだよ」
 「うん、そうだね」
久し振りの再会に、真琴は本当に嬉しそうににっこりと笑い、真哉も照れ臭そうな笑みを返している。
(ここの兄弟は、本当にブラコンだな)
 以前会った真琴の兄達も相当なものだったが、この弟もそれに負けていない。
(度胸もいいようだ)
小学生と舐めていたら足をすくわれるかもしれないと、海藤は子供相手という気持ちを改めた。



 食事中、真琴は真哉が家の人間には内緒でやって来た事を兄らしく叱ったが、既に日も暮れているし、結局弟に甘い真琴に
真哉は粘って今夜のお泊りをゲットした。
 「マコ、上がったよ」
 「あ、パジャマどうだった?何だよ、あんまり余ってないなあ〜。ホントおっきくなったんだねえ〜」
しみじみと呟く真琴に苦笑を返すと、真哉はチラッと視線を流した。
 この部屋の主はさすがにスーツから着替え、今は大きなソファに座って何冊もの新聞に目を通している。
(・・・・・カッコ付け過ぎ)
そして、グルッと部屋の中を見渡した。
(それに、すご過ぎ・・・・・)
 食事の場所で驚いていた真哉は、2人の暮らすマンションの中に足を踏み入れた時、全く自分とは別世界だと唖然とするしかな
かった。
1フロアに2軒しかない部屋は1つ1つの間取りが大きく、玄関さえ真哉の部屋がスッポリと入りきってしまうような広さだ。
リビングも何十畳(つい畳で計算してしまう)あるか分からないし、置いてある家具もいちいち高そうだった。
おまけにそれらは成金っぽい下品さはなく、嫌味なほどシックで落ち着いた雰囲気だ。
 まるでモデルルームのように生活感のない綺麗な部屋なのだが、そこここで少しずつ人の気配が感じられる。
きっとそれは目の前の男のものというより、真琴の影響なのだろう。
 「海藤さん、お風呂どうぞ」
 「お前が先に入れ」
 「え、でも・・・・・」
 「今日は弟と一緒に寝るんだろう?明日には帰るんだし、早く入って話でもしろ」
 「え〜と、じゃあ、お言葉に甘えて。真ちゃん、ちょっと待っててね」
 「うん」
 リビングから出て行った真琴が、バスルームに入る気配を感じると、それまでニコニコしていた真哉が真っ直ぐに海藤に視線を向け
た。
 「聞きたいことがあるんですが」



 マンションに戻ってから、ずっともの言いたげな真哉の視線に気付いていた海藤は、真琴を風呂にやってその切っ掛けをつくってやっ
た。
 「聞きたいことがあるんですが」
案の定、真哉は直ぐに切り出してきた。
海藤は新聞を下ろし、その眼差しを真哉に向ける。
(よく見れば・・・・・似てるか)
 真琴とは全然タイプが違う、硬質な雰囲気を持っている真哉だったが、やはり兄弟なので目元はよく似ていた。
すっと切れ長の目は強い意思を持ち、いかにも勝気そうな口元はキュッと引き締められている。
将来は体育会系のゴツイ上の兄達や、ポヤンと柔らかい真琴とも違う、かなりいい男になりそうな素材だった。
 「何だ?」
 「あなた、何の仕事をしてるんですか?マコは会社の社長さんだって言っていたけど」
 「どうしてそんなことが聞きたい?」
 「今時そんなに儲けている職種って何なのか知りたくて」
 無邪気を装った質問だが、嘘は許さないぞと目は笑っていない。
 「経営コンサルタントだ。ホームページもあるし、後は自分で調べたらいい」
突き放すほどではないが、海藤は親切に何もかも説明してやるつもりもない。
真哉の方もそれに納得したのか、海藤の仕事についてはそれ以上聞いてはこなかった。
 「もう一ついいですか」
 「・・・・・」
 「あなたとマコの関係です」
 「・・・・・どういう意味だ?」
 「父は、マコはバイト先で知り合った親切な人に部屋を借りていると言ってました。でも、この間こっちに来た上の兄達は・・・・・」

 「マコもなあ〜、もっと普通の奴と恋愛すればいいのに」
 「もう、一緒に暮してるんじゃ、なかなか引き離せないって」

 「兄達は、マコが恋人と暮らしているようなことを言ってました。でも、ここにいるのはあなたですよね?まさか、後から女の人が帰って
くるんですか?」
 海藤は思わず苦笑を漏らした。
(末恐ろしい子供だ)
洞察力も度胸も、上の兄達と全く引けを取らない真哉に、その場しのぎの嘘は通らないだろう。
真琴からの口止めもなかったという大儀名分で、海藤は口を開いた。
 「建前が聞きたいか?それとも・・・・・」
 「本当のことが聞きたいです」
 「・・・・・お前の想像している通りだ」
 「・・・・・マコと付き合ってるの・・・・・あなたなんですか?」
 「そうだ」