STEP UP !



34








 ペニスを擦られ、内壁を抉られ。
太朗はハッハッと、呼吸もままならないままに上杉に揺さぶられていた。
 「ちょっ、まっ、待って、よっ」
 抱き合うことが嫌なわけではなく、もちろん逃げるつもりなどないので、もう少しゆっくりとして欲しいのだが、上杉は懇願する太
朗の顔を上から見下ろしながら、情けないなと口元を緩ませる。
 「男だろ、タロ」
 「そっ、い、意味っ、分かんな・・・・・っ」
 男でも、こんな風に追い立てられてしまえば我を忘れてしまうのは当たり前だし、自分は上杉よりも年下で、手馴れている彼と
は経験値が違い過ぎるのだ。
(なん、か、やだっ)
 上杉がモテるだろうことは想像が出来るし、彼の仕事柄夜の世界の知り合いもきっと多いだろう。しかし、太朗は顔の見えな
い相手よりも、先日会った上杉の元妻の面影をポンッと思い出してしまった。
知らない相手には妬きもちも焼けないが、はっきりと顔を見てしまい、また、上杉がちゃんと籍を入れたくらいに本気に愛した相手
のことを考えてしまうと、太朗の心の中にムズムズとしたものが湧き上がってくる。
負けたくない・・・・・それが、一番近い感情かもしれない。
(お、俺だって、ジローさんを満足させてやるんだからなっ!)
 「・・・・・っ」
 太朗は上杉の肩にしがみ付き、逞しい腰に細い足を絡めて、意識的にペニスを含んでいる箇所にグッと力を込めてみた。
 「・・・・・っ」
上杉の男らしい眉根が寄り、息を詰める気配がする。
太朗は目元に涙を浮かべたまま、へへっと笑い掛けた。
 「き、もち、いー?」




 「き、もち、いー?」
 馬鹿という言葉は口の中に吐き出した。
何時からこんなことが出来るようになったのか分からないが、太朗は身体の中から上杉を刺激してくる。
蠢く内壁が意識的にペニスに纏わりつき、きつさと柔らかさを交互に与えてきた。女の中のように突き当たる場所がなく、さらにさ
らに奥に引きずり込まれそうになる感覚・・・・・気持ちいいと、情けないが降参してしまいそうだ。
 「あ、あ、気持ちいいな」
 「・・・・・一、番?」
 「・・・・・タロ?」
 「・・・・・あー、ご、めん」
 言ってから、失敗したかのように目を逸らしてしまった太朗の顔を片手で引き寄せて目を合わせると、上杉は淫らに密着してい
る下半身とは裏腹の、ごく軽いキスをその唇に落とした。
 「お前には嘘はつけないから正直に言うが、確かにセックスの上手い女と比べたらお前はまだまだだな」
 「・・・・・」
その言葉に、太朗の顔がくしゃっと歪む。泣くのを我慢しているようなその表情が何時も以上に子供っぽく見え、上杉はだがなと
言葉を続けた。
 「そんなセックス、ただ楽しむためだけだろ」
 「・・・・・」
 「お前と知り合ってからは、他の人間は抱いていない。それだけでも分からないか?技巧なんて関係ない、お前とやることが一
番気持ちいいんだよ」
 「・・・・・ほんと、か?」
 「それは、俺のこれを目一杯含んでいるお前が一番分かるだろ」
そう言うと、上杉は激しく腰を突き入れた。




(大人は、嘘吐きだ、しっ、ホントのことなん、て、わかんない、けどっ)
 それでも、上杉の言葉は全て真実なのではないかと思えるほどには、太朗は上杉のことを愛している。
 「あっ、んっ、んっ」
逞しいペニスで内壁の隅々を突かれ、掻き回され、太朗はその激しさに翻弄されながらも懸命についていくしかなかった。
上杉が太朗とのセックスが一番気持ちがいいと言ってくれたのと同じように、太朗にとっても上杉とのセックスはとても気持ちがい
い。
 他の人間と経験をしていなくても、そのことははっきりと分かる。それは、上杉の言葉の通り・・・・・。
(俺だっ、てっ、ジローさん、だから!)
 「タロ・・・・・ッ」
 「あっ、はっ、やっ」
 「タ、ロッ!」
 「んんっ」
甘苦しい感覚が、どんどんとせり上がってきて、自分の中を激しく行き来する上杉のペニスがさらに大きくなっていくのをダイレクト
に感じた。
 「もっ、もう・・・・・っ」
 「あ、あっ」
 汗で、しがみ付いている手が滑りそうになって思わず爪をたてると、その瞬間、
 「・・・・・っ」
ズンッと無遠慮に最奥を突いたペニスの刺激に太朗は精を吐き出してしまい、そのまま内壁が強く上杉のペニスを締め付け、そ
の刺激に上杉も中で射精する。
 「あ、あつ・・・・・っ」
 うわ言のように言う言葉を自分が言った自覚は無かったが、その瞬間に身体の中で小さくなるはずの上杉のペニスはさらに大き
くなったように感じた。
 「悪い・・・・・まだ、終わらねえからっ」
 「え・・・・・えっ?」
 身体の中に上杉の吐き出した精液が入ったままの状態で、先程よりも硬く、大きくなったペニスがさらに無遠慮に動き始める。
止めて欲しいと言いたいのに、もっと欲しいという気持ちもあって、太朗はただこの波に置いていかれないように、上杉に強くしが
み付いていた。








 「はぁ、はぁ、はぁ」
 浅い深呼吸を繰り返しながら、太朗がベッドにうつ伏せになっている。
 「まだ2回しかしてねえぞ」
 「そ、その、2回、がっ、長いんだよっ」
かすれた声でそう言われても、上杉は肩をすくめるしか出来なかった。
本当ならこのまま抜かずに後数回は中に射精したかったが、今夜はこのまま泊まるということだし、明日も早く帰さなくてもいいと
いう状況なので、少しインターバルをおいてやろうと、ようやくその身体を腕の中から解放する。
 「何か飲むか?」
 「う・・・・・ん」
 眠そうな声に、上杉は笑いながら髪をクシャッとかき回した。
 「おい、寝るなよ、まだするんだからな」
 「え・・・・・まだ?」
 「当たり前だろ。俺が戻ってくるまでに寝てたら、そのまま抜かずの3発は覚悟しろよ」
 「ちょ・・・・・っ」
上杉の勝手な言葉にさすがに文句を言ってきた太朗の言葉を背に聞きながら、上杉はそのまま寝室から出た。
ペットボトルの水は残っていたが、冷たいものを用意してやりたかったし、グチャグチャに濡れてしまっている下半身を簡単に拭って
やろうと思う。
 「・・・・・」
 上杉は裸身に、腰だけバスタオルをした姿のままリビングに向かい、そのままキッチンに向かおうとしたが・・・・・ふと、壁掛けの時
計に視線を向けた。

 「・・・・・午後9時と、寝る前、必ず電話をさせろ。一応、悪い遊びをしていないかどうか、親として確認する義務があるからな」

 その針が指す時刻を見て、忘れていた苑江の言葉を思い出した。
(・・・・・9時過ぎてるが・・・・・)
約束の時刻から15分ほど過ぎている。上杉は一瞬考え、口元に人の悪い笑みを浮かべた。
 「きちんと連絡してやらないとな」
 相手がどんな思いで太朗からの連絡を待っているのか分からないでもないが、現実は現実として認めなければならないことだ。
それに、きちんとこういう関係なのだと分からせておけば、この先の外泊も意外に上手くいくのではないだろうか。
 「・・・・・」
 太朗の鞄はソファの上に置かれたままだ。
上杉はそれを開けると、無造作に放り込まれていた携帯を取り出した。恋人とはいえ、他人の携帯を勝手に弄る趣味はなく、
どうせなら太朗の反応を見ながらの方が楽しいと思い、上杉はそのまま新しいペットボトルも取ると、足取りも軽く寝室へと戻っ
ていった。




 「ほら」
 目の前のシーツの上に置かれたものに、太朗はうとうとしかけた眼差しを向けた。
 「・・・・・けー、たい?」
 「オヤジに連絡しないといけないんじゃねえか?」
 「・・・・・あ」
上杉の言葉がじわじわと頭に届いた太朗は、ようやくゆっくり上半身を起こした。
久し振りだというのに上杉は全く容赦をしてくれなくて、痛みはほとんどないものの、身体は疲れきっている。それでも、父に連絡
をという言葉には無意識のうちに反応してしまった。
 「父ちゃん・・・・・」
 「そうだ」
 「・・・・・」
(こんな、状態で・・・・・?)
 いくら向こうには自分の姿は見えないとしても、たった今セックスをしたばかりの姿でというのは、やはり戸惑ってしまう。
全身は上杉の唾液や自分の吐き出してしまった精液で汚れているし、身体の中には吐き出された精液がまだ残っていて、
(・・・・・っ、も、漏れて、るしっ)
動いた拍子に、尻からそれが漏れてきている感触もある。大きな上杉のペニスを直前まで含んでいたそこが、まだ完全には閉じ
きっていないのだろうかと想像すると、顔が燃えるように熱くなった。
 「ターロ」
 「・・・・・」
 今、父と上手く話せる自信はない。
それでも、このまま連絡をしなかったら、させなかったであろう上杉を父が悪く思うかもしれない。
(・・・・・おやすみだけ言って、電話切ろ)
最大限の譲歩がそれだと思ってしまった太朗は、携帯を手に取り、一瞬ベッドの傍に立つ上杉を見て・・・・・その後、諦めたよう
に携帯を開く。
 「・・・・・」
(何て、言ってくるだろ・・・・・)
耳に鳴り響くコール音に、太朗は次第に緊張感が高まってきた。