SUPER BOY
11
「あ〜ん」
「ほら」
ラグの上で胡坐をかいた上杉の膝の上にのり、大きく口を開けた太朗に、まるで親鳥のように上杉はスプーンを運んでやる。
「んぐ、・・・・・ん〜、やっぱり網のメロンはおいしー」
普段は猫のように丸く大きな目が、今はメロンの美味しさに本当に感激しているのか細められていた。
その表情があまりに子供っぽく、上杉は思わず笑ってしまう。
「そうか?」
「あ、ジローさんはバツだから食べじゃ駄目だろ!はい、あ〜ん」
「ジローさん、無茶し過ぎ!罰として俺が帰るまで奴隷に決定!」
昨夜、久し振りの逢瀬という事に加え、久世への対抗心もあった上杉は太朗がもうやめてと言ってもなかなかその身体を離
さなかった。
少しずつセックスに、いや、上杉の身体に慣れてきた太朗だけに、直ぐに気を失うこともなかったので、上杉は思う存分かなり長
くその身体を貪ってしまった。
最後は気を失うようにして意識を飛ばしてしまった太朗をようやく解放した上杉は、その身体をバスルームまで運び、何回吐き
出したかも分からない精液を太朗の蕾からかき出してやった。
そこまで面倒を見てやるのはこの太朗の他にはいないのだが、ついさっき目覚めた太朗は上杉に散々文句を言った上、喉が
渇いたと我儘を言い、小田切が用意してくれていたメロンを切ってやると、そのまま上杉の膝に乗り上げて口を開いた。
セックスまでしている相手の膝に無邪気に座る太朗を見ていると、改めてまだ子供だなと思ってしまった。
「網のメロンって何だ?」
「ジローさん知らない?メロンにはこんな網の奴と、つるっとしたのがあるんだよ。もちろん網のやつの方が高くて美味しいんだけ
ど滅多に食べれないっていうか・・・・・うちは貰った時しか食べられない」
「へえ」
「ジローさんはどうせこの網の奴しか食べたことないんだろ」
「俺は別にこだわりはないがな。果物の名前なんかそんなに区別つかねーし」
「じゃあ、果物の中では何が好き?」
「俺か?まあ、強いて言うならスイカ」
「スイカは果物じゃなくって野菜の仲間だよ?」
「そうなのか?」
太朗を膝に座らせたまま、時折口にスプーンを運んでやりながらくだらない話をする。
つい先程までの淫らな雰囲気を無意識の内に一変させる太朗に、上杉は苦笑を浮かべながらも楽しく付き合った。
「じゃーな!」
仮装パーティーから数日後。
太朗は下駄箱で何時ものように友人の大西と別れて駐輪場に向かった。
そこには上杉から贈って貰ったお気に入りの自転車がちゃんと太朗を待ってくれている。
「帰りもよろしくー!」
そうやって一声掛けるとペダルも軽くなるような気がして、太朗は何時ものように颯爽と校門を駆け抜けていく・・・・・はずだっ
たが。
「おい」
「うわあ!!」
校門を出て直ぐに声を掛けられると同時に人影が視界に入り、太朗は慌ててブレーキを握る。
それでも自転車は少し前にずれてその人物に当たりそうになったが、伸ばされた手がハンドル部分を掴まえてしっかりとその勢い
を止めてくれた。
太朗はは〜と溜め息をついた。
悪いのは急に飛び出してきた相手だと思うが、人対自転車では自転車の方が悪いと思われるのは仕方がない。
とにかく謝ろうと顔を上げた太朗は、その顔を見た瞬間あっと叫んだ。
「シロ!」
「・・・・・いきなりそう呼ぶのか」
「あ、ご、ごめんなさい!俺、ついその名前で覚えちゃってたからっ!」
目の前にいたのは、仮装パーティーで会った久世だった。
あの時は結婚式の花婿のような白いスーツ姿だったが、今日は黒のような、濃い緑のような、落ち着いた色のスーツを着ている。
先日の印象がパッと華やかだっただけに、今日の装いはどこか地味な感じがしてしまった。
「おい」
何時までも黙って見つめている太朗を不審に思ったのか、久世は怪訝そうに声を掛けてくる。
太朗は慌ててこんにちはと頭を下げた。
「きょ、今日は白い服じゃないんですね!その濃い葉っぱみたいな色も似合わないことはないですけどっ」
「・・・・・オリーブグリーンだ」
「あ、えと、そんな名前なんですか。でも、俺もっと明るい色の方が似合うんじゃないかなって思いますよ?前の時の白はちょっ
と派手だけど」
「・・・・・」
「?」
まじまじと見つめられ、太朗は途惑ってしまった。
(俺、何か変な事言ったっけ・・・・・?)
上杉の知り合いらしいし、名前が犬っぽいので、年上だと分かっていてもつい普通の口調で話してしまっている。
それでもちゃんと敬語を使ってるはずなのにと思っていると、側に止まっている車からもう1人の人物が出てきた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは!」
厳つい顔の、それでも優しく笑う湯浅を見て、太朗の笑顔は完全に全開になった。
(とーちゃんに良く似てる〜)
「今帰りですよね」
「はい!あ、この辺に用があったんですか?偶然ですね、俺ここの高校に通ってるんです」
「・・・・・」
「ええ、ついこの近所に用があったんですが、丁度あなたを見掛けまして」
「へえ〜、すっごい奇遇!」
つい2、3日前に会った人物に、偶然会うこともあるのだなと太朗は笑った。
(小学生か、こいつは)
少し考えれば、何かおかしいという事は気がつくはずだ。
仮にこの辺りに用があったとしても、わざわざ車を(しかもアウディだ)高校の近くで止めることはないだろう。
さらに、偶然止めていたとしても、偶然太朗の帰宅時間に、偶然見つけて、偶然前に立ちはだかって止めることが出来ると本
当に思っているのだろうか。
「よろしかったら送っていきますが」
湯浅の言葉に、太朗は慌てて首を横に振っている。
「俺、自転車がありますから!」
「置いていけばいいだろ」
せっかく車で送ってやると言っているのに、この子供は自転車で帰ることを選ぶのかと久世は不思議に思った。
「これ、人からの貰い物だから、ちゃんと家にもって帰りたいんです」
「車に興味はないのか?」
「車?・・・・・あ、あれ、あと一個丸があったら五輪マークみたい!」
「ご・・・・・」
久世は呆気に取られ、湯浅は我慢出来ないというようにふき出した。
見掛けとは反対に何時も柔らかい気配を持っている湯浅だが、こんな風に人前で笑み崩れる姿は久世も初めて見る。
「苑江さん、この近くに喫茶店があるんですよ。喉が渇いたので寄ろうかと思うんですが、私みたいな男と2人だと若が気の毒
で・・・・・どうか少し付き合ってくれませんか?」
「若?」
聞き慣れないのか、太朗は久世と湯浅を交互に見ながら聞いた。
「若って、シロ・・・・・さんのことですか?」
「ええ。私にとっては親、上司の息子さんなので」
「・・・・・」
きっと、今時古臭いとバカにするだろうと思ったが、太朗の反応はここでも違うものだった。
「カッコイイ!昔の武士みたいですね!」
「・・・・・そうか?」
「俺なんかタロって、いっつも犬みたいにしか呼ばれないから、そんなカッコイイ呼び名なんて羨ましいですよ!あ、シロっていう
名前もカッコいいけど!」
資料では、家で犬や猫などたくさんのペットを飼っているという動物好きらしい。
犬の名のように・・・・・と、思うのは多少面白くないものの、それでも自分の名前が褒められるのは悪い気はしないので、久世の
唇には自然と笑みが浮かんでいた。
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