大力の渦流
29
真琴は海藤に飢えていた。
毎日会って、言葉も交わしていたというのに、触れ合うことが極端に少なくなっていた最近のことを思うと、恥ずかしいと思
うのだが海藤に触れていたかった。
本当ならばせめてシャワーを浴びて・・・・・と思うのに、今は一刻でも早く海藤と繋がりたいと思った。
だから、食事の後、海藤がそのまま真琴の身体を抱き上げても。
寝室に向かって、ベッドに下ろされても。
真琴は自ら海藤に協力するように身体を動かして服を脱がされてしまった。
「積極的だな」
目を細め、からかうように言う海藤の身体も、密着している部分がすでに反応していることが分かる。
真琴は一瞬身体を硬直させたが、直ぐに手を動かして海藤のベルトを外そうとした。
「真琴」
「お、俺だけ裸なんて・・・・・」
「分かってる、少し待ってくれ」
海藤は真琴の頬にキスをすると、ベッドから離れて自ら服を脱ぎ始めた。
真琴の夕食の準備をする時に、すでに上着とネクタイは取った姿だったが、ワイシャツのボタンをゆっくり外し、するっと脱
ぎ捨てたその身体は、
(いつ見ても・・・・・綺麗な身体・・・・・)
そう、思わずにはいられないほど、海藤の身体は真琴が憧れる大人の男の身体だった。
こっそりと綾辻が教えてくれたことがあったが、海藤もまだ若い頃はかなり喧嘩もしたし、組関係の出入りにも先頭を切っ
ていたらしいが、綺麗でしなやかなその身体には昔を彷彿とさせる僅かな怪我さえも見当たらない。
ヤクザといえばイコールのように想像してしまう刺青もない、見惚れるほどの綺麗な身体だった。
「・・・・・」
真琴の視線に気付いたのか、海藤がふと視線を合わせて・・・・・笑った。
愛しいと思う想いそのままの優しい笑みに、真琴も泣きそうな表情になりながらも笑みを返した。
「あ・・・・・っ」
暖かい真琴の肌に触れ、その甘い唇を味わって、海藤はようやく自分の飢えを自覚した。
触れるだけのキスなどではとても補いきれない熱い想い。
「んっ」
今回、無傷でこうしていられるとは想像していなかった。大なり小なり、自分が傷を負うことは覚悟していた。
ただ、相手が自分ではなく真琴に対して執拗に手を出してきたのには正直参ってしまったし、海老原にも傷を負わせるこ
とになった。
守るものが出来てから、それを傷付けられることを恐れる気持ちが生まれた。
ただそれと同時に、守るものの為に戦うことがどれほど自分にとって大きな力となるのかを、今回は思い知った気がする。
「真琴・・・・・」
「か・・・・・」
閉じられていた真琴のまぶたがゆっくりと開かれた。
すでに涙で潤んでいるその目は、海藤の姿を捉えて嬉しそうに細められる。
「一緒に・・・・・いて」
「真琴」
「お願・・・・・い・・・・・一緒に、いてくださ・・・・・っ!」
海藤は全てを言わせないまま真琴の唇を自分のそれで塞いだ。これ以上真琴の言葉を聴けば、壊しそうなほどに抱いて
しまいそうだからだ。
「ひっ」
耳たぶを噛み、尖った小さな乳首を指で摘むと、些細なその刺激だけで真琴のほっそりとしたペニスがゆるゆると立ち
上がってくる。
女には入れたことがない、初々しい色をした綺麗なペニスを、海藤は躊躇いなく口に含んだ。
「!、だ、駄目!」
風呂に入っていないことを気にしているのか真琴は腰を引こうとするが、そんなことは今更だった。
たとえ真琴が泥だらけでも、血で汚れていたとしても、その身体を抱くことに躊躇いはないし、身体の隅々に口付けするこ
とが出来る。
「逃げるな、真琴」
海藤はしっかりと真琴の腰を掴んだまま顔を上げた。
今の自分の顔は、いったいどんな顔をしているのだろうか・・・・・海藤はそう思いながらゆっくりと口を開いた。
「早く、お前に入らせてくれ」
「早く、お前に入らせてくれ」
「・・・・・!」
普段でも低く響く声は耳にくすぐったいのに、今の声は反則だと思う。
艶やかで、滴るような欲情を秘めた官能的な声に、真琴は耳だけでなく、背中から下半身に向かってざわりとした感覚に
襲われた。
(お、俺・・・・・っ)
刺激されたわけでもないのに、精を吐き出してしまった自分が信じられない。
「・・・・・」
「力を抜け」
海藤はそのまま、自分の手のひらに出された真琴の精液をそのまま舐め取り、残ったぬめりを持つ手で真琴の尻に触れ
た。
するっとその指が狭間をなぞり、ぐっと蕾を刺激してくる。
そして、その指はそれほど時間を置くこともなく、真琴の蕾の中にもぐり込んだ。
「ひゃっ、あっ」
ゆっくりと解すように撫でられると、抑えなければならないと思いながらも声が漏れてしまう。
それでも身体は既に快感を追い始めていて、真琴は無意識のうちに身体の力を抜こうと浅い息を繰り返した。
羞恥心が消えたわけではないが、早く繋がりたいと思うのは自分も一緒だ。
「た、貴士さ・・・・・っ、も・・・・・!」
「・・・・・」
「も・・・・・い、からっ!」
急かすように言うと、ずるっと身体の中心を貫いていた指が引き抜かれた。
実際に何本入っていたのかとか、もう海藤のペニスを受け入れられるほど解れているのかとか、気持ちが高まっている真
琴には関係なかった。
早く熱い、あの大きなペニスで貫いて欲しかった。
痛くても、海藤が生きて自分を抱いてくれているのだと早く感じたかった。
「貴士さんっ!」
何時もなら恥ずかしくて言えない愛しい名前を、意識が飛んでいたからという言い訳をすれば言うことが出来る。
同じ男に抱かれる複雑な思いを凌駕出来るのは、ただ海藤を好きだという思いでだけだ。
この男は自分のものだと、他にはやらないという強い思いが、普通ならば絶対に受け入れることが出来ないこの行為を自
らが望むようにまでにさせる。
「・・・・・はぐ・・・・・っ」
海藤のペニスの先端が蕾にめり込んできた。
ギギッと音がしそうなほどに痛みを感じるのは、心が乾いているほどにはまだ身体の準備が出来ていないということだろう。
「・・・・・」
真琴が顔をしかめたのに気付いたのか、海藤が一瞬動きを止めた。
それがじれったくて、真琴は海藤の首をグイッと抱き寄せる。
「い、いからっ」
「真琴」
「早く、早くっ」
「・・・・・」
真琴の望みは、海藤の望みでもあった。
海藤はそのまま汗で濡れた真琴の前髪をかき上げてくれると、唇を重ねてくる。
「!」
そして、その体勢のまま一気にペニスを根元まで挿入させた。
「・・・・・っ!」
あげるはずだった悲鳴は、海藤のキスで抑えられてしまった。
真琴は痛みを誤魔化すように海藤にしがみつき、意識をキスの方へ向けようとする。
「ふ・・・・・っ、んっ、んんっ」
焼けるような痛みと、痺れるような感覚。それでも、海藤と一つになれたという喜びの方が大きくて、真琴は痛みとは別
の涙を流してしまった。
「・・・・・」
「・・・・・っ」
海藤は真琴が落ち着くまでじっとしてくれていた。
海藤自身飢えていることが分かるように、これまでになく容量を増したペニスがドクドクと自分の中で脈打っているのが中
の襞に伝わってくる。
それでも、興奮している真琴が快感を拾えるようになるまで、海藤は甘やかなキスを解くことなく続けてくれた。
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