大力の渦流



30







 「あっ、んっ、んっ」
 揺さぶるごとに、真琴の口からは甘やかな声が漏れる。
海藤はその声がもっと高くなる瞬間を聞きたくて、さらに強く腰を突き入れた。
 「まっ!」
 「待てない・・・・・っ」
ずっと、その存在を身体に感じたかった。
しかし、今回の問題が解決するまではその身体に触れることは止めようと、自らに枷を負わせた。期間が二週間だと決め
られていたとはいえ、その間に起こった様々な出来事は海藤の心を渇かせ、さらに真琴への思いを膨らませるという結果
になった。
 昔の自分ならば、もっと強引な手を取っていただろうと思う。
そもそも辞退などせずに堂々とその位置に座り、自分を妨害した相手を完膚なきまでに追い詰めたはずだ。
 「た・・・・・か・・・・・」
 「・・・・・」
 快感に潤んだ目を向けてくる真琴に海藤も微笑み返すと、汗ばんだその細い指を絡ませて握り締める。
 「ああっ!」
海藤は弾みをつけてそのまま真琴の身体を起こした。
 「こ、こわ・・・・・いっ」
 「大丈夫だ」
繋がった部分は解かれないまま、真琴は海藤と向き合った形になってしまっている。自分の体重で最奥にまで海藤のペ
ニスを受け入れている真琴は、無意識なのかギュウッとそこを締め付けてきた。
 「・・・・・っ」
それは海藤のペニスの根元から先端までを絞るように締め付け、さすがにイキそうになるほどの快感をもたらしたが、海藤
はそれでもまだ足りなかった。
もっともっと、この身体を味わいつくしたいと思う。
 「ひゃっ、ふぁっ、あっ」
 海藤は真琴の細い腰を掴んで上下に動かしながら、自らも下から容赦なく突き上げる。
湿った液体の音と、肉体がぶつかる音が寝室に淫らに響いた。



 「ああっ、はうっ、んっ」
(く・・・・・るし・・・・・っ)
 激しいセックスはいまだに慣れない。
身体はもちろん海藤を受け入れることを受け止めているが、気持ち的に怖いという思いと多少の罪悪感は消えることが
ないからだ。
男同士で身体を重ねるということへの罪悪。
海藤へ子供を残せないという罪悪。
そして、何も出来ない自分への・・・・・。
 「真琴」
 揺さぶられながらも自分の思考に埋没しそうだった真琴は、突き上げを止めないままに自分の名を呼ぶ海藤を必死で
見つめた。
 「た、貴士、さ・・・・・っ」
 「俺には、お前が必要だ」
少し息を弾ませた海藤は、縋るように真琴の身体を抱きしめた。
 「一緒に・・・・・生きて欲しいっ」
 「た・・・・・!」
 「一緒に・・・・・っ」
 「う・・・・・ん!」
 少しだけ、海藤が頼りなく見えた。
貪るように自分の身体を抱きながらも、必死で真琴に懇願してくる海藤の姿は、弟の真哉よりも幼く見えて・・・・・愛しく
てたまらなかった。
(俺からは・・・・・絶対、離れない!)
もしも、この先に海藤から別れ話を持ち出されることがあったとしても、真琴は構わないと思った。物理的に2人が別れる
ことがあるにせよ、自分の一生に一度の恋は海藤に捧げる。
 「愛して・・・・・る!」
 思わず漏れる言葉に、海藤の身体が震えた。
それと同時に真琴の中にある海藤のペニスが更に大きく膨らむと、熱い飛沫が最奥に放たれたのを感じた。
 「・・・・・っ」
真琴も、海藤と自分の腹の間にあるペニスから再び精を吐き出す。
(あったかい・・・・・)
しっかりと身体を抱きしめてくれる海藤の腕に、真琴はうっとりと身を任せていた。



 遅まきながら風呂に入った真琴がリビングに現れた時、何時も以上に恥ずかしそうにギクシャクしている様子に、海藤は
思わず笑みを誘われた。
頬だけではなく首筋も赤く染まっているが、それは単に風呂に入ったからだけだということではないだろう。
 「何飲む?」
 「み、水を」
 声も、掠れてしまっている。
その原因に直ぐに思い当たった真琴は、ソファの上で身体を小さくした。
 「どうした」
 「あ、あの・・・・・」
 「ん?」
 「あ、呆れて・・・・・ない、ですか?」
 「・・・・・」
海藤は笑った。
何を心配しているのだろうかと思う。
真琴があれだけ我を忘れてセックスをしていたのは、それだけ自分を求めてくれていたからだ。
愛しい相手に求められて嫌だと思うはずがないし、普段は海藤が焦れることがあるほどに慎ましい真琴には、こういった時
以外にももっと我が儘に、大胆になって欲しいくらいだった。
 「いや、何時も以上に可愛かった」
 「・・・・・っ」
 滅多に言わない海藤のあからさまな惚気の言葉に、真琴は恥ずかしそうに・・・・・しかし、少しホッとしたように小さく笑っ
た。
 「今回はお前には迷惑を掛けたな」
 改めて、海藤はそう言って頭を下げた。
何度言葉で告げても真琴の心に負った傷は簡単には塞がらないだろうが、それでも言葉の包帯を幾重にもその心に巻
いてやりたかった。
 「もう二度と、お前に辛い思いをさせない」
 「海藤さん」
 「・・・・・もう、戻ったんだな」
 「え?」
 「名前、普段でも呼んでくれて構わないのに」
 「あ、あれは・・・・・まだ、名前で言うのは恥ずかしいし・・・・・」
 海藤は真琴の隣に座った。
その身体の重みで真琴の身体が少し海藤の方へと傾き、海藤はそのままパジャマに包まれた温かな肩を抱き寄せる。
素直にその手に従った真琴の髪を、海藤は何度も優しく撫でた。
 「早く、慣れてくれ」
 「・・・・・はい」
 「・・・・・」
 「・・・・・あ、さっきの話」
 「ん?」
 真琴は思い出したかのように海藤を振り向くと、そのまま・・・・・少し掠れた声のままはっきりと言った。
 「俺、大丈夫ですから」
 「真琴?」
 「もしも、この先泣くようなことがあっても、俺が海藤さんを嫌いになることはないし、ずっと、傍にいますから」
 「真琴・・・・・」
 「2人で一緒に、生きていきましょう」
真琴は笑っていた。
散々快感で泣かせたせいで目元を赤く腫らしていたが、真琴の目は真っ直ぐに海藤を見つめながら笑っている。
その真摯な眼差しに海藤は一瞬魅入られたように見つめ返し・・・・・そして、自分も笑った。見せ掛けではなく、本当に
笑うことが出来たと思う。
 「そうだな、2人で」
 「はい」
目を見交わして笑い合うと、2人は触れるだけのキスを交わした。