風呂上りの和沙は、これからどうしたらいいのかと途方にくれた様な顔をしていた。
沢渡が準備をしてやっていたバスローブではなく、持参した白と緑のストライプのパジャマを着ているのが微笑ましい。
(確かに、バスローブはちょっと・・・・・な)
 ソファから立ち上がった沢渡がゆっくりと近付いていくと、和沙は身体の横に垂らしていた両手の拳を強く握り締める仕草
を見せる。
まさか殴られることは無いだろうなと思いながら、沢渡は和沙の前に立つと、まだ湿っている髪にそっと指先を絡めた。
 「よく乾かしてから来ればいいのに」
 「で、でも、早く沢渡さんと交代しなくちゃって・・・・・」
 「心遣いは嬉しいけど、和沙に風邪をひかれたら困るよ」
 「・・・・・すみません」
 「謝らなくていいから。ほら、おいで」
 沢渡は和沙の腕を掴んでそのままバスルームに向かうと、脱衣所にあったドライヤーを手渡した。
 「俺が出るまでに乾かしておくように」
 「・・・・・はい」
素直に頷いた和沙に、沢渡は笑って頷いた。



 烏の行水でもないが、長湯というわけでもない。
それでも沢渡は湯船に浸かったまま、どうするかなと考えていた。
このまま身体がふやけてしまうまで湯に入っているわけにもいかないが、かといって、もう出て行ってもいいのだろうか・・・・・と、
迷ってしまう。
 和沙にとって、自分が風呂から出るということは、すぐさまセックスに結びついているだろう。沢渡自身はそれ程性急に事を
運ぶことはしないつもりだが、もうしばらくだけ和沙には心を静める猶予を与えた方がいいのかもしれない。
 「・・・・・難しいな」
 相手が純粋で、無知だからこそ、難しい。
それでも・・・・・。



(何時、だろう・・・・・)
 沢渡がバスルームに消えてもうそろそろ20分だ。
自分を基準にして考えてしまうが、男の風呂というのは大体何分くらいなのだろうか?
 「・・・・・」
沢渡に言われた通り髪を乾かし、そのままテレビもつけずにリビングのソファに座っていると、時間が過ぎるのがとてもゆっくりに
思えてしまう。
かといって、部屋に行っていれば、まるで待ちかねているように思われるかもしれないと、和沙はそのどちらにも身の置き所が
無かった。

 「あっ」
 それから、5分、経っただろうか・・・・・。
リビングに沢渡が入ってきた。彼もバスローブではなくパジャマを着ていて、髪もまだ少し濡れている。
 「和沙」
 「・・・・・っ」
名前を呼ばれ、和沙は一瞬身体を硬くしたが、直ぐにギクシャクとソファから立ち上がって沢渡の方へと歩き始めた。
 「・・・・・」
 自分では出来るだけ普通に歩いているつもりだったが、その歩みはみっともないほどぎこちない。
沢渡にそんな姿を見られるのは恥ずかしくてたまらなかったが、それでも和沙は時間を掛けて沢渡の前へと立った。
 「嫌?」
 「・・・・・」
和沙は首を横に振ったが、沢渡はその返答を許してくれなかった。
 「言葉で、ちゃんと応えてくれ、和沙」
 「・・・・・い、嫌じゃ、ない、です」
 「今から抱くぞ?」
 「・・・・・はい」
 嫌じゃないし、ちゃんとその覚悟も出来ている。ただ、少しだけ自分の勇気が足りないだけなのだ。
同意の上だと沢渡に分かってもらうにはどうすればいいのか・・・・・和沙は必死で考え、やがて、
 「和・・・・・」
手を伸ばして沢渡のパジャマを引っ張る和沙に腰を屈めてくれた沢渡の唇に、和沙は思い切って下から唇を寄せた。勢い
あまってそれは沢渡の頬にずれてしまったが、和沙の気持ちはそれで沢渡にも分かってもらえたらしく、沢渡は一瞬泣きそう
なほどに顔を歪めた後、軽々と和沙の身体を抱き上げてくれた。



 沢渡はそのまま真っ直ぐに寝室に向かうと、ベッドに和沙の身体を下ろした。
枕元のスイッチに手をやって明かりをつけようとしたが、和沙の顔を一瞬見て、その光量はかなり落としたものにする。
 「さ・・・・・っ」
何かを言おうとする和沙の唇を、衝動のままに塞いでしまった。拙い和沙のそれとは違い、経験のある沢渡のキスは舌を絡
めあう濃厚なキスだ。
慣れない和沙は直ぐに息をあげ、沢渡の唇から逃れようとするが、それを許さないかのようにしっかりと顎を掴むと、更に口腔
内を貪っていく。唇の端から流れ落ちる唾液を舌で舐め取り、またキスをして・・・・・それを和沙の身体からすっかりと力が抜
け落ちるまで続けた。
 「・・・・・んぁっ」
 しばらくして、ようやくキスを解いた沢渡は、間近から和沙の顔を見下ろす。
 「嫌だった?」
 「・・・・・やら、ない」
先程言葉で答えてくれと言った沢渡の願い通り、和沙はまだ痺れている舌の感覚が取り戻せないような呂律が回らない言
葉で答えてくれた。
 素直な和沙に沢渡は笑い、そのまま指先をパジャマのボタンに移す。一つ一つ、ボタンを外すごとに和沙の顔を見ていた
が、残り数個になるとそれも止めた。
焦らす余裕など自分には無いのだ。
 「・・・・・っ」
 「あ!」
 一気にパジャマの前を開けば、真っ白な和沙の裸身が薄明かりの中に浮かび上がった。
出来れば煌々とした明かりの下でゆっくりとその身体を見たかったが、初めての今日、これ以上和沙のハードルを上げること
は出来ないだろうし、今のままでも十分に肌の美しさは分かった。
 「さ、沢渡さ・・・・・」
 和沙の腰に腕を回し、上半身を少しだけ持ち上げてパジャマを脱がせる。
身体は硬くしているが抵抗はしない和沙。それでも、何かを訴えるように沢渡の名を呼んでくる。
 「・・・・・和沙」
 「・・・・・」
止めてくれと言われたとしても、今更無理だった。
薄いパジャマの生地を押し上げている自分のペニスは、もう和沙の中に収めることしか考えられない。
ただ、強引にして泣かせることも嫌だと思う気持ちがあって、沢渡は一度顔を上げてはあと溜め息を付くと、改めて和沙の
頬に唇を寄せて言った。
 「悪い・・・・・ゆっくりするから」



 風呂から上がったばかりの沢渡の指先は冷たくないはずなのに、和沙は肌にそれが触れただけでビクッと身体を震わせて
しまう。
指先は、ゆっくりと和沙の顔の輪郭を撫で、首筋に移って・・・・・胸元へと降りてきた。
 「そ、そこっ」
 「ん?」
 「ぼ、僕・・・・・む、胸、無い・・・・・」
 幾ら服を着た姿が華奢であっても、胸や下半身に触れられれば女の子ではないと直ぐに分かってしまう。
男を抱いていると改めて思った沢渡が嫌な思いをしないだろうか・・・・・和沙はそう思って思わず声を上げたのだ。
 一瞬、沢渡は和沙のその言葉に動きを止めたが、直ぐにくっと笑みを零す息が肌に当たる。
くすぐったくて身を捩る和沙に、沢渡は笑いを含んだような声で言った。
 「分かってるよ、和沙が男の子だってことは」
 「あ・・・・・」
 「ほら、ここに、これもちゃんと付いている」
 「!」
パジャマ越しに下半身に触れてきた沢渡の手。その手が和沙のペニスをそっと撫でると、背中がゾクゾクとしてきた。
(や、やだ、俺・・・・・っ)
 「・・・・・勃った?」
 囁かれて、恥ずかしくてギュッと目を閉じる。
服の上から触れられただけで反応してしまった自分の身体を隠してしまいたい。
 「・・・・・ごめん、意地悪だったな」
しかし、そう言いながら涙が滲んだ目元におちてくる唇の優しさに、和沙は逃げたいと思う気持ちを振り切るように沢渡の背
中に手を回した。



 「・・・・・っ」
 背中にしがみ付いてくる和沙の爪が痛い。
沢渡は僅かに眉を顰めたが、これから自分が和沙に与えるだろう苦痛を考えれば生易しいものだった。
 怖がらせないように、ゆっくりと。
自分では慎重に手を動かしているつもりだが、羞恥と恐怖が抜けきれない和沙の為に、沢渡は少しだけからかうように言っ
てみただけだった。それが更に和沙の羞恥を煽ったのには失敗したと思ったが、縋ってくる和沙の気持ちを嬉しく思って、沢
渡はそのまま唇を胸元に寄せた。
 「・・・・・ぁっ」
 和沙は女の身体とは違う自分の身体を後ろめたく思っているようだが、それは全く違う。
沢渡はちゃんと和沙を男として見ているし、その身体を抱くつもりなのだ。それに、誰にも触れられたことの無い和沙の身体
は快感に素直だし、インドア派の彼の肌は白く艶やかだ。
 誰に見せたとしても恥ずかしくない身体。もちろん、沢渡は和沙の身体を他の誰にも見せるつもりは無いが。

 ピチャ

平らな胸の、本当に少しだけ出ている突起を舐めてみる。
続いて、それを口に含んでみた。本当に小さな乳首は舌で絡め取ることも出来ないが、沢渡は熱心に舌を動かし、唇で
挟んで刺激を与え続けた。
すると、僅かだがそれがプッツリと立ち上がってきたことを舌で確かめる。
(感じているのか・・・・・)
 沢渡は立ち上がってきた乳首から顔を上げると、今度は反対側へと唇を寄せた。そして、立ち上がった方の乳首は指先
で摘み、更なる愛撫を加えていく。
 「あっ」
思わずといったように声を漏らした和沙は、直ぐに唇を噛み締めて声を出すのを我慢する仕草を見せたが、沢渡はその唇
に空いている手の指を触れさせ、乳首から少しだけ口を離して言った。
 「声を殺すな、和沙」
 「で、でもっ」
 「感じているかどうか、ちゃんと知らせてくれ」
そう言うと、沢渡は再び愛らしいそれを唇で挟んだ。