海藤貴士会長、32歳お誕生日編です。
リクエストをくれた方々、ありがとうございます。
甘々な2人の甘い生活をご覧下さい。後編です。
お祝い編
「・・・・・」
玄関の鍵を開けた海藤は、漂ってくる匂いに直ぐ気付いた。
(・・・・・カレー?)
真琴が料理を作るはずがなく、誰か来客があるのかとも思ったが、海藤に何も伝えないということはないはずだ。
「おかえりなさい!」
インターホンで海藤の帰宅を知っていた真琴が、満面の笑みで駈け寄って来て言った。
「お誕生日、おめでとうございます!」
「・・・・・誕生日?」
「9月25日、今日、誕生日でしょう?」
まさか間違ったかというように不安そうに眉を下げた真琴に、海藤はやっと気付いたかのように頷いた。
「・・・・・いや、そうだ」
「よかったあ〜、間違えたかと思っちゃった」
ホッとしたように溜め息をつく真琴を、海藤は改めて見下ろした。
普段マンションにいる時には着けた事のないはずのピンク色のエプロン姿が妙に色っぽく映ったが、それと同時に海藤はそっ
と真琴の両手を掴んだ。
「な、何ですか?」
「怪我はしてないな」
自分よりも小さな手には包丁の切り傷などはない。
「大丈夫です。ちゃんと綾辻さんが監督してくれてましたから」
「綾辻が?・・・・・ああ、そういうことか」
海藤はやっと分かったという風に頷いた。
今日の午後からの会議に、綾辻が欠席すると伝えてきたのは倉橋だった。
普段いい加減な風を装いながら、きちんと会議には出ていた綾辻の欠席を不思議には思ったし、何時もならば毒舌で綾
辻を糾弾する倉橋がそれを認めているのにも違和感を抱いてはいた。
(確かに、会議よりも大事な用か)
「あ、早く見て下さい」
真琴はそのまま海藤の手を握るとキッチンに引っ張っていく。
まるで子供が始めて作ったものを親に自慢するような無邪気さに、海藤の頬には自然と笑みが浮かんだ。
「・・・・・これ、お前が作ったのか?」
「ちょっと・・・・・っていうか、だいぶ不恰好になっちゃったけど」
ブルーのランチョンマットの上に、綺麗にセッティングされた食卓。
確かに真琴が自分で言ったように、サラダのキャベツは1センチあるものも混ざっているし、トマトは中身がはみ出してしまっ
ている。
湯気を立てているカレーの中の野菜は、どれもこれでもかというほど大きいし、米は少し柔らかいのかベタッと皿にくっついて
いる感じだ。
「味見したから食べれると思うんですけど・・・・・」
心配そうに言う真琴の頭を軽く撫でた海藤はそのままイスに座る。
「はい」
用意よく濡れたお絞りを差し出す真琴に、笑いながら礼を言った。
「・・・・・」
一さじカレーを口に含んだ海藤の口元をじっと見つめ、真琴はその感想を待った。
「旨い」
「ほ、ホントですか?」
「ああ。こんなに旨いカレーは初めて食ったな。これからはカレーはお前に任せようか」
「任せてください!次はもっと上手に作りますから!・・・・・あ、あれもっ」
カレーの出来に安心して、真琴は冷蔵庫の中のものをやっと思い出した。
慌てて立ち上がって冷蔵庫を開け、真琴は中からケーキの箱を取り出すと、テーブルの中央に小さなフルーツケーキを置き、
その真ん中にロウソクを1本たてた。
「小さいから、1本だけで我慢してくださいね」
そう言いながら、綾辻に借りたライターで火を点け、部屋の電気を消した。
「ハピバースデー、トゥーユー」
定番の誕生日の歌を、1人手を叩きながら歌う真琴を、海藤はじっと見つめている。
しかし、真琴は決めたもう1つのプレゼントのことで頭がいっぱいで、海藤のその視線に気付かなかった。
「ハピバスデーディヤ・・・・・た、貴士〜、ハピバスデートゥーユー」
「・・・・・」
「ほ、ほら、吹き消してください」
「・・・・・」
1本だけのロウソクは、海藤が軽く吹いただけで消えてしまった。
真琴はパチパチと手を叩き、もう一度改めて言った。
「誕生日おめでとうございます、た、貴士さん」
「真琴」
「こ、このケーキ、あんまり甘くなくて美味しいって評判なんですよ?きっと、た、貴士さんも食べれると思いますよ?」
何度も詰まりながらも海藤の名を言う真琴。
「真琴」
感嘆の響きが海藤の口から漏れた。
「真琴」
海藤は愛しいその名を呼んだ。
「か・・・・・た、貴士さん?」
胸が痛くなるような愛しい存在が、この世に、いや、自分に現われるとは思っていなかった。
眼鏡を外し、片手で顔を覆った海藤に、真琴は慌てて傍に駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「・・・・・良かった」
「え?」
「お前を見つけて・・・・・良かった」
それは素直な海藤の気持ちだった。
金に不自由したことは無く、女も嫌というほど向こうから寄ってきた。
好きな時に好きなように手を出していた自分の手が、真琴と出会った時からは時折消せないほど汚れているような気がし
て、時々真琴に触れるのが怖いと思う時があった。
綺麗な真琴を汚い自分の手が触れることに、自分自身で嫌悪を抱いてしまうからだ。
しかし、そんな時に限って、真琴は自分から海藤に近付いてきてくれた。小さな手が、汚い自分の手をしっかりと握ってく
れるのを、海藤はこの上も無く幸せだと思っていた。
(それ以上があるとはな・・・・・)
料理を作ってくれたことが嬉しい。
名前を呼んでくれたことが嬉しい。
そして、それ以上に、海藤の生まれた日を祝ってくれようとする真琴の気持ちが嬉しかった。
「たか・・・・・うわっ」
不意に、海藤は傍に立つ真琴の身体を抱きしめた。
「あ、あの?」
「真琴」
「は、はい?」
「真琴」
「はい?」
その名を呼ぶことを許されたことが嬉しい。
「初めてだ、こんな風に祝ってもらうのは」
「え?」
「お前は、何時もこんな風に祝ってもらうのか?」
「俺のうち、家族多いから、何時もケーキとか取り合って。じいちゃんや父さんまで参戦してくるんですよ」
「楽しそうだ」
「今度、か、貴士さん、うちに来てください。母さんは美形好きだから絶対喜ぶと思うし、父さんやじいちゃんだってきっと歓
迎しますよ」
「・・・・・そうだな」
「俺の大切な人なんだから、みんなきっと喜んでくれます」
「真琴・・・・・」
(これ以上俺を浮かれさすな・・・・・)
嬉しくて息が止まりそうだ。
海藤はカレーの匂いがする真琴の身体を更に強く抱きしめる。
「・・・・・貴士さん?」
「・・・・・」
「貴士さん、お誕生日おめでとうございます」
「・・・・・ああ」
「また来年も・・・・・これからもずっと、お祝いしましょうね」
「ずっと?」
「今度はみんなも呼んで、めいいっぱい楽しくしましょう?」
「・・・・・ああ」
倉橋や綾辻を呼べは、真琴もきっと楽しいだろう。
そんな風に考えられるようになった自分が不思議で、嬉しい。
「ね、カレー食べましょう?隠し味当てたら、ケーキもう1つサービスしますよ」
「それは・・・・・遠慮したいな」
海藤はやっと真琴の身体を離した。
真琴は照れ臭そうに笑いながら、ケーキを冷蔵庫にしまうと向かいの席に座る。
「じゃあ、改めて、お誕生日おめでとうございます。末永く、これからもよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて言う真琴に、海藤も笑いながら言った。
「こちらこそ、末永くよろしく」
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お誕生日おめでとう、海藤さん。
このままでも十分幸せだとは思いますが、腐女子はここで満足はされないでしょうね。
出来ないわよ〜って言う方、ムフフ編もよければご覧下さい。